MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第十二回ゲストは原田郁子(クラムボン) 人生はいつだって告白の連続だ
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MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第十二回目のゲストはクラムボンの原田郁子。2017年11月7日、恵比寿LIQUIDROOM。アフロはステージの上でこんなことを叫んだ。「あの日、雷5656会館でスタッフの女性に渡したCDがメンバーの手に届かなかったとしても、今日という日は訪れたと思います。必ず訪れたと思います。なんでかって、俺は、俺たちは諦めない男だから。人生はいつだって告白の連続だ」この“告白”という言葉は、遡ること6年前にアフロがクラムボンのライブを観に行って、会場のスタッフに「俺も音楽をやっていまして、メンバーにこのCDを渡してほしい」と頼んだところ、それが本当にメンバーの元に届き、そこからクラムボンの楽曲「Scene 3」に参加することになった経緯がある。そんな音楽でガッシリと握手を交わしあった、MOROHAとクラムボン。両者はお互いのことをどう見ているのか、そして最後はアフロも知らなかった原田郁子の苦悩と葛藤を垣間見た。
●面倒くさい女みたいなんですよね、俺●
原田:こうやって会うのはいつぶりだろう?
アフロ:ACIDMANの『Bowline』じゃないですか?
原田:ああ、そうだ。そもそもクラムボンとアフロくんが出会ったのって……。
アフロ:俺は最初、『ドコガイイデスカツアー2011』を松本までラッパーの先輩と観に行ったんですよ。「便箋歌」のタイミングで俺がつい歌っちゃって。そしたら先輩は温厚な人なんですけど、すっごい怒り出して。
原田:アハハハハ、あがたの森でやった時だ。それが2011年のツアーで。その後、浅草の雷5656会館に来てくれたのはいつだっけ?
クラムボン・マネージャー:2013年の『ドコガイイデスカツアー2013』じゃないですかね。
アフロ:そっか、もう6年前ですね。きっかけは5656会館の受付の人に「俺らのCDを渡して下さい」と言ったら、どこの馬の骨かも分からないのにちゃんとメンバーの皆さんに届けてくださったんですよね。翌月、ミトさんが連載している雑誌でMOROHAのことを書いてくれて。その後に下北沢へフライヤーを配りに行ったら、下北沢440の看板に勝井(祐二)さん、ミトさんの名前を見つけたんです。リハ中だったけど、俺がズケズケ中へ入って行ってミトさんに「俺らのこと書いてくださって、ありがとうございます」と言ったら「一緒に曲作ろうよ!」って。
原田:ええ!
アフロ:割と「曲を作ろう」は社交辞令が多いというか。気持ちがあって言ってくださるけど中々実現しないことが多い中、本当に「こういうことがしたいんだけど」と、言ってくださったんですよ。
原田:その時は上京していたんですか。
アフロ:そうですね。
原田:松本に観に来てくれた時は?
アフロ:それは(長野を)出たばっかりの頃ですね。まだサラリーマンをやってました。
原田:そうなんだ!
アフロ:郁子さんは働かれたことあるんですか? バイトとか?
原田:そんなにしてないんですけど、上京してから音楽の専門学校に通ってて、その学校が斡旋してるバイトをしてました。月島の体育館よりデッカい屋台村で、焼き鳥や焼きそばとかいろんなお店がぐるっと並んでて、お客さんたちは好きなものを注文して、真ん中のビアガーデンみたいな所で呑んだり食べたりしている。そこにステージがあって、手品師とか演歌歌手の方とか日に何度か出番があるんですけど、私はクラスメイトとローテーションで、PAと照明をやってました。
アフロ:やっぱり音楽関係の求人が出てるんですね。
原田:卒業したあとはずっと本屋でバイトしてました。
アフロ:ああ、ピッタリですね! 大きい本屋ですか?
原田:その頃、渋谷・Bunkamuraの地下に丸善(書店)という本屋があって、いわゆる町の本屋さんというよりは、画集とか写真集とか、Bunkamuraの催しに合わせた本をいっぱい扱ってるところで。「こんな所で働けたら楽しそうだな」と思って、「すいません、バイトの募集はしてないですか?」と聞いたの。その時は募集してなかったんだけど、「募集することがあったら連絡ください」って電話番号を置いていったら、ある日電話がかかってきました。
アフロ:へえ!
原田:そこの店長さんには今でも感謝しているんです。その頃の自分は本当に世間知らずで、めちゃくちゃだったんですよね……。すぐ遅刻しちゃうし、髪の毛も今みたいな感じでいろんな色が入ってて、バンドをやっているからシフトもきっちり入れないし、とにかく全然真面目じゃなかった。だけど何故か面白がってくれて、音楽やっていることも応援してくれて、「本気で音楽がやりたいなら、音楽以外の芸術のこともいろいろ知っておいたほうが良いよ」って。店長の一存で雇ってもらえたような感じです。よく怒られましたけど。
アフロ:遅刻で怒られたんですか。
原田:うーん、遅刻もそうだし、お客さんにタメ口だったり。よっぽど酷かったんだなぁ、きっと(笑)。「原田さん、ちょっと」って裏に呼ばれて、細かく注意されました。今思うと、ほとんど躾。
原田:そのお店で楽しかったのは、店内で好きなBGMをかけさせてもらえたんです。いっぱいCDを持って行って、時間帯によってかける曲を変えたり、他のスタッフの人同士で貸し借りをしたり。売っている本も汚さなければ、借りて帰っても良かったでの、いろんなこと教わりました。
アフロ:俺は漫画喫茶で長いこと働いてて。夜中に客が来ないと、ずっと漫画を読んでいたんですよね。
原田:店員さんも読んでいいの?
アフロ:そうっす。だけど良くなかったのは、音楽雑誌が入ってくるんですよ。同世代のバンドが載っているのを見て「うわぁ……」となって。客が汚した部屋を片付けながら、ため息をついて「俺も2万字インタビューされてぇな……」とボヤいてた。
原田:そっかぁ。(原田が自宅から持ってきたアフロの著書『俺のがヤバい』を机の上に置いて)この本にも、その頃の話?が随所に出てきてたよね。
アフロ:うわぁ、そうっすね。
原田:面白くて寝る前にちょっとずつ読みました。エピソードというか、こんなことがあって、っていう時の出来事の描写が面白いんですよね。「ちんちんビーーーム」のやつとか(笑)、その場の状況が手に取るようにわかって、笑ってしまった。
アフロ:この本が褒められるのは、MOROHAが褒められるよりも嬉しいっす。これに関しては全部俺の手柄なんで。
原田:アハハハハ! いつもは二分の一だもんね。
アフロ:だけど俺のところに「アフロさん、UKさんはインストのアルバムをいつ出すんですか?」みたいな話をする人もいて。しかも悪気がない感じなんですよね。
原田:え?嫌なの!? UKくんがソロアルバムを作るとなったら、聴きたくないですか?
アフロ:俺の知らない曲でインスト集を出したとしたら、意地でも歌詞を当てるでしょうね。それが発表されないとしても絶対にやる。
原田:えええ!なんだろう、その感情は。
アフロ:面倒くさい女みたいなんですよね、俺。
原田:それはこの本の中でも感じたかも。
アフロ・原田:ハハハハハ!
アフロ:UKに関しては、俺が音楽をやっているたった1つの根拠みたいなところがあって。たまに「俺が音楽をやっていると言って良いのだろうか?」と思う時があるんですよ。俺って一番ダサい言葉を使うと「MOROHAのガッツ担当」みたいなところあるじゃないですか。それで良いんですけど、ガッツって音楽ではないじゃないですか。
原田:アハハハハ! 面白い。
アフロ:UKがギターを弾いて、俺が自分のガッツを乗せたことによって、今こうして郁子さんとお話しが出来ているわけで。ものすごい面倒くさいと思われても、そこを譲ってしまったら俺の中で何かが崩れ落ちてしまうというか。
●クラムボンと一緒にやった「革命」を聴かせたら「安心した」という声が多かった●
原田:話が変わるけど、MOROHAのイベント『怒濤』に出させてもらって、最後に「革命」をご一緒させてもらったじゃないですか。あの曲をやろうってなったのは確かミトくんのアイデアだったと思うんだけど、私としては、ミトくんと大ちゃんがリズム隊で入って、自分はそれを観ていよう、というくらいのつもりだったんです。いつもMOROHAは2人きりで演っているから、聖域というか、容易に入ってはいけない感じがあったんですよね。
アフロ:あれはめちゃくちゃ評判良くて。嬉しかったのはユニバーサルのスタッフに、クラムボンと一緒にやった「革命」を聴かせたら「安心した」という声が多かったんです。というのは、MOROHAの音楽にこういう広げ方があるなら、この先いろんな形態で魅せていくことができると。俺の中では大好きなクラムボンとやった最高の状態のものが、一緒に仕事する人たちにも伝えられたのはすごく良かったなと思ってて。またやりたいっすね。(徳澤)青弦さんも入ってもらったら、また面白い。
原田:そうですね!
アフロ:そういえば、青弦さんは付き合い長いですか?
原田:最初に会ったのがなんだったのか思い出せないんだけど……、クラムボンだけじゃなくて、ミトくんはミトくんのソロや別現場で、私も先日キチムで一緒にライブやらせてもらったり、いろんな形でご一緒させてもらってる。
アフロ:ちなみに同世代のバンドは誰がいるんですか?
原田:くるりとか、ナンバーガールとか、同じ年代なのかな。ギターの(田渕)ひさ子ちゃんは、同い年で同じ高校だった。
アフロ:そうなんですか!
原田:だけど3年間同じ学校に通っていたのに出会えなかったです(笑)。
アフロ:すれ違ってるかもしれないけど。
原田:うん。私は毎日遅刻ばっかりしてて、ひさ子ちゃんのクラスの前を変な時間に通ったりしていたんだけど、学校にあんまり興味なかったから、全然見えてなかった。もし、あの時に会えていたら……。
アフロ:どうだったんでしょうね。バンドをやっていたらすごいですね。
原田:ね!どうだったんだろうね。その辺りのことは、以前CINRAでひさ子ちゃんと対談させてもらった時に二人で話してて、よかったらどこかで読んでみてください。
アフロ:マジッすか。探してみます。
原田:東京に出ようと思ったは、音楽をめちゃくちゃやりたかったから。その時は本気でジャズのピアニストになりたかったんです。ピアノを演奏ながら音楽の中で会話するようなことをやりたかったんだけど、地元には一回りもふた回りも歳上の凄腕なおじさん達しかいないと思ってた。当時はインターネットもないし、同年代で一緒に音楽をやりたいと思う人に会いたくて、それで東京へ行こうと思って。
●話を聞くと、やっぱり3人は楽器を通じて会話している●
アフロ:学校へ入って、すぐにクラムボンを結成したんですか。
原田:ミトくん、大ちゃんは同じクラスメイトだったけど、3人とも今みたいに人と喋れなかったんです。まず相手の目が見れないし、私は博多弁が抜けてないし、顔つきもきっと今と違うと思う。「ウィース!」とか「今度一緒にやろうよ!」みたいな感じでは全然なかった。
アフロ:誰が開口一番、口火を切ったんですか。
原田:えっと、そこはジャズ・ポピュラー科っていうクラスだったんだけど、特に教えることもないと言えばないんですよね。一応、歴史的なこととか理論的な授業はあるけど、あとはひたすら己で楽器を触って自分のやりたい音楽を見つけていくしかない。だから 人前で” ライブをする “ っていうことが授業だったんです。クラスには管楽器をやりたい人もいれば、ドラムをやりたい人もいて。全部の楽器がまぜこぜだったから、やりたいことがある人がその都度メンバーを集めてバンドを組む感じでした。で、ある時、大ちゃんに声をかけた。
アフロ:なんで大助さんに声をかけたんですか。
原田:ドラムがめちゃくちゃ上手かった。もう圧倒的に。同じクラスにいろんなタイプのドラムの人がいたんだけど、大ちゃんは本当にしなやかで、どんなジャンルの曲でも叩けたし、大きい音も小さい音も出せるし「すでにプロなのかな?」って思うぐらい。聞いたら札幌時代も引っ張りだこで、いくつもバンドを掛け持ちしてたって。私たちの学校でも同じような状況だった。ある日、大ちゃんが1人でいるところを見つけて、「どうしてもやりたい曲があるんだけど、良かったら一緒にやらない?」って誘ったんです。
アフロ:そうなんですね。ミトさんはどこから?
原田:まず、2人で音をあわせたの。本当は歌いながら左手でベースラインを弾きたかったんだけど、いまひとつ上手くできなくて「あれ? 想像している感じにならない」と思った。そのことを大ちゃんに話したら「ベースの人を入れた方が良いんじゃない」と言われて、ベースの人と考えた時に2人の中でミトくんしか浮かばなかった。後から知ったんだけど、ミトくんは小学生の頃からベースをやっていて、家族全員が音楽家で、だからその時点で他の人より楽器歴も長いし、勘も良くて上手かった。
アフロ:ミトさんの人柄は知っていたんですか?
原田:いやいやいや、誰の人柄も知らなかったです。自分のことに必死で(笑)。 各々の演奏してる姿とか出してる音をこっそり見て「この人はこういう人なのかな」って想像するくらい。
アフロ:話を聞くと、やっぱり3人は楽器を通じて会話しているというか。自分の内側を言葉にするのが得意じゃなくて、でも楽器を鳴らし合うことで意思疎通が図れて。それをお客さんにも分かってもらおうとしているのが「こんなに人って自分のことを分かってもらおうとするんだな」って。それに比べて俺がやっていることは、なんて野暮なんだろうと思うんですよね。
原田:えええ!?(笑)。
アフロ:そこにすごく高尚なものを感じるんです。言葉じゃないもので思いを交わそうとするのが、自分のやってないことだからこそ「カッコイイなぁ」って。
原田:言葉かぁ……今日はその話も聞いてみたいと思ってた。MOROHAってどういう順番で曲を作っているの?
アフロ:出来事で作るのが一番よくて。そもそも俺とUKの関係は高校から始まっているんですね。
原田:そうなんだ。
アフロ:MOROHAの結成も音楽をやりたかったわけじゃなくて、UKと何かやれたら良かったんですよね。何か自分たちがやれたぞ!と思えるものをしたかった。それで、たまたま俺が趣味でやっていたラップとUKはギターがあったから、「お互いに出来ることをやろうぜ」と始まったのがMOROHAなんです。曲を作る時も出来事を話して「こんな思いがあるよね、俺たち」って。
原田:まず喋るんですか?
アフロ:「こんなことがあってさ」とか「こんなことを感じたんだよね」と話して曲を作るのがベースですね。
原田:そういう話を聞きながら、UKくんがギターを弾くんですか? 「こういう感じ?」って。
アフロ:だんだんそれ以外のパターンも出来てきたんですよ。だけどベースは出来事を話して曲にしますね。
●3人3様の歪さがクラムボンなのかもって●
原田:こういう音楽やりたいねって理想があってというより、UKくんと何かやりてえ、っていうところから生まれてるんだ、MOROHAは。
アフロ:そうですね。
原田:思い出したんですけど、アフロくんの本に「息子への手紙」という話があって。「最初は誰か好きな人を真似するけど、へたっぴだから真似できない。だけど、それがいつかオリジナルになっていく」というようなことを書いてたじゃないですか。それは私もそうで、とにかくジャズが全然弾けなかった。好きで好きで憧れていたけど、あんな風に真似することもできなかったんですよね。「自分にはできない……」って挫折感を味わって、そのうちだんだんピアノを弾きながら歌うことになって、人前ではカラオケぐらいしか歌ったことなかったのに。だから本を読みながら「わぁ、一緒だ」と思ったんですよね。
アフロ:上手にできる人はたくさんいて、そいつらのことを羨ましいと思ったけど。結局その人みたいになりたいと思っている内は、その人になれない。そういうのは歌にしろ、ラップにしろありますよね。
原田:そっか。クラムボンの編成はギターがいないんですけど、ジャズでいうピアノトリオと同じ発想なんですよね。で、ジャズができなくて、歌もののポップス?日本語で曲をつくるようになっていくんですけど。「3人しかいない」っていうは最初からずっとそうで。鳴らしたい音に向かって3人が全力でやって、それでも手が足りないんですよね。その「ずっと足りてない」っていうところが面白さでもあるのかなぁって。MOROHAのライブを観てても思うんです。もう徹底的に2人で演りきるじゃないですか。UKくんがコード出して、ビート出して、サウンドの全てを担っていて、そこにアフロくんの尋常じゃないガッツが乗っかってきて。
アフロ:アハハハハ、担当ですからね。
原田:最初は会場の隅のお客さんがざわざわしていても、気づけばそこにいる人たち全員を巻き込んでいく。私はいつも、その空気が変わっていく様を観ているのが好きなんです。ものすごく集中していって、密度が濃くなっていく。でも、たった2人だよなって驚く。完全に人力で2人だけでやってるMOROHAのサウンドは発明だと思う。
アフロ:手数が足りないって話しですけど、人を増やす話になったことはなかったんですか?
原田:サポートの方を入れてツアーをまわったことはあるんですけど、基本ずっと3人ですね。大ちゃんが北海道、ミトくんは東京、私は九州出身だから、あと四国のギタリストが入ってくれたら列島横断できるねって冗談で言ったりしてました(笑)。でも、もう仕方がないっていうか、3人3様の歪さがクラムボンなのかもって。
アフロ:列島横断の話ですけど、地方へ行って未だにテンション上がったりします? ライブ以外に名物を見たりとか。
原田:メンバーもスタッフも食べること呑むことが大好きだから、その土地の美味しいもん食べて地酒を飲んで、ほとんどそれがすべてというくらい(笑)。
アフロ:確かに郁子さんは飲んでるイメージありますね。
原田:ほんと? 武道館(2015年に開催した『tour triology』)の打ち上げはすごかったね!
アフロ:あれは走馬灯に出ますね! 永積さん(ハナレグミ)が「アフロ、ラップしろよ」と言ってきて。俺も酒を飲んで気が大きくなってるから「ラップするなら歌ってくださいよ」と言ったら永積さんが「家族の風景」を歌って、そこにBOSEさんがラップしてくれて。俺も滅多にやらない何年かぶりのフリースタイルをしたっていう。
原田:覚えてます。武道館のステージ上で、アフロくん何て言ったんだっけ。
アフロ:「次は自力で立ちます」って。
原田:そうだ、そうだ!演奏が終わって拍手の中ハケようとして、最後にマイクに向かって一言残していったんだ。あの生意気さがね、たまらんね(笑)。
アフロ:褒めてくれた人と「他人の武道館であんなこと言っちゃダメだよ」とマジなトーンで怒る人がいました。だけど、ああいう時に言えなかったら、後悔して夜に寝れなかったりするんですよね。言って後悔することもあるけど、勇気が出なかった反省が一番したくないんです。ただ俺は、頭に血が上ってやっちゃうんじゃなくて。冷静にその反省をしたくないがために突っ込んじゃって迷惑をかけちゃうことがあります。
原田:言葉にするっていう勇気がすごい。
●吐きながらデモを聴いて、泣きながら歌詞を書こうとしてた●
アフロ:有言実行派ですか? 不言実行派ですか?
原田:うーん、クラムボンは有言実行だと思います。特にミトくんは、言ったことを何年かかっても必ず形にする。だから、アフロくんに対して「曲を作ろうよ」と言ったのも社交辞令じゃないんだよね。そうやっていつか言ったことを時間はかかっても実現させていく。ナシだと思われていたことをアリにしていったり、そういうバンドだと思う。だけど私個人はどうだろう。まず「こういうことがしたい」って有言出来ない。
アフロ:ずっと温めておくんですか。
原田:うん。
アフロ:やりたくないことに対しては線引きがあるんですか。
原田:気づくのに時間がかかるかな。例えば、デビュー当時はインタビューされるってことに全然慣れてなくて。プロモーションの時期は朝から同じ部屋にいて次々インタビュアーの方がいらしてって一日に何本もやるんですけど、全然思ってることが話せなくて、だんだん血の気が引いていく。帰り道いつも落ち込んでました。でも、得意じゃなんだって気づくのに何年もかかって、自覚する前に体調が崩れて、「あー、これは何か変えないとヤバイぞ」って。
アフロ:やってみて分かるんですね。
原田:「Scene3」を一緒にやった頃が個人的に一番きつい時で。全く言葉が出てこなくなった。今、思うと言葉が出てこないというよりも感情がなくなってた。でもそれに気づかないで毎年アルバムつくってツアーしてって走り続けてて。バンドは結成20周年を迎えるっていうことでアニバーサリーな年にアルバムを作って大きなホールでツアーを周って初の武道館ライブをやろう!ってぐんぐん盛り上がっていく時期で、でも自分だけどんどん沈んでいくような、そんな相反する状態だった。ミトくんから新曲のデモが届いて何度も聴くんだけど、何にもわからないっていうか、本当に何にも出来なくなっちゃった。
アフロ:(感慨深そうに)はい。
原田:自分はその曲をもちろん演奏するし、歌うし、さらに歌詞を書く任務があるんだけど、恐ろしいというか、そこに入っていけない。動き続けてる体と自分の心がバラバラになってたんだと思う。
アフロ:その状況を2人は共有しているんですか?
原田:いや、言えなかったですね。
アフロ:どうやって脱出したんですか。
原田:だから本当に時間がかかってしまった。……自分がこれまで感じてきたことが地層みたいに何層もあるとしたら、それに全部蓋をして抑え込んでいたようなところがあったのかな。
アフロ:その状況を歌詞にしようと思わなかったですか。
原田:のちに「yet」という曲になるんですけど、自分の状況があって、それでも苦しいからなんとか脱したいってもがいてる姿を書き込むことができたのは、根気強くミトくんが「だったらさ、今のその状況を書いてみたら」と言ってくれたから。初めてのことでしたね。あれが何だったのか、自分でもまだ名前が付けられないんですけど。
アフロ:それでも、その間にライブはやっているんですよね。
原田:そうですね、死ぬ気で。ライブをやると目の前にお客さんたちがいてくれて、大丈夫かもと思うんですけど、やっぱりギリギリではありましたね。本当にひどい時は、吐きながらデモを聴いて、泣きながら歌詞を書こうとしてて……。
原田:でも、そういうことじゃないよなって自分でも分かってるんですよ。そんなものが聴きたいわけじゃないって。
アフロ:ライブをすることで、抱えていたことが無くなったりしないですか。
原田:そうですね。とてつもないエネルギーがやってきますよね。
●さっきまで夢で会っていた人は全然知らない人で●
アフロ:ライブの開けている感じと、創作の開けている感じは別ものなんですか。
原田:自分は別人というくらい? 違いますね。
アフロ:俺はライブが終わった後、テンションが上がって「自分は天才だ!」って思うんです。で、寝る前は思いついたことを書けるようにメモ帳を置いているんですけど、それでワァー!っと思いついたことを書いて、次の日に見たらしょうもなかったりするんです。
原田:アハハハハ!
アフロ:それで忘れられないのが「やる時はやれよ! 男だろ!」と書いてあって。こんなにダサいことを何で閃いた!みたいな感じで書いたんだろうと。夢を見ているのと一緒ですよね。それが名言だとされる世界にトリップしているんですよ。
原田:良いフレーズがどんどんハマっていく瞬間ってあるよね。宝石を掘り当てたみたいな気がして、一人で「すげー」ってなる時が(笑)。
アフロ:そうそう! しょうもないことも思いつくんですけど、その勢いで本当に良いフレーズに辿り着いたりもして。
原田:私、起きたら見た夢をメモってる。
アフロ:夢日記をつけていると「どっちが現実か分からなくなる」って聞きますね。
原田:その状態が気持ちいい。だって、さっきまで夢で会っていた人は全然知らない人で、全然知らない町で、だけどどんな表情でどんなことを思ったかははっきりしてて。だから、忘れちゃう前にメモる。全然歌詞に活かされないけど(笑)。
アフロ:そっかぁ、ライブの夢はよく見ますね。絶対に歌詞が飛んじゃってる。
原田:めちゃくちゃ慌てるよね。
アフロ:もう、しどろもどろ。何にも出てこなくなってワー!って。この間もワー!ってなったんですけど、それは夢じゃなかったんですよ(笑)。
原田:アハハハハ! ラップは言葉数が多いから記憶力がね。……尊敬します。
アフロ:それは記憶力じゃないですよ。「お」の口にしたら「おはようございます」って何も考えずに出てくるじゃないですか。頭で言ってるんじゃなくて、唇が動きを覚えているかどうかと。
原田:へえ!
アフロ:だから歌は“唇のダンス”です。
原田:……今「名言を言った」みたいな顔したよね?!
アフロ:めっちゃ良いこと言ったじゃないですか!
取材・文=真貝聡 撮影=高田梓
イベント情報
ニューアルバム『MOROHA Ⅳ』
2019.04.30 [Tue] ミナミアメリカ村 BIGCAT
ACT アルカラ / MOROHA
TIME 開場 : 17:15/ 開演 : 18:00
TICKET 前売り 4000円 当日 4500円 各D代600円
イベント情報
■出演
GODIEGO、Cornelius、クラムボン、ハナレグミ、ペトロールズ、never young beach6組。