成河、千葉哲也、章平の三人で挑む“ゲーム”のような会話劇 舞台『BLUE/ORANGE』稽古場レポート

2019.3.25
レポート
舞台

撮影:岡 千里

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出演者三人による濃密な会話劇、舞台『BLUE/ORANGE』が、2019年3月29日(金)から4月28日(日)まで、東京・DDD青山クロスシアターにて上演される。

イギリスの劇作家、Joe Penhallによるこの戯曲は、イギリス社会の様々な問題が浮き彫りにされた傑作で、2000年に初演されて以来、大きな反響を呼んでいる。2010年の日本初演時は、演出も手掛けた千葉哲也が研修医のブルース役、中嶋しゅうがブルースの上司にあたる医師のロバート役、成河が境界性人格障害と診断された患者の青年・クリス役を演じ、100席弱の小空間で、俳優三人の熱演が繰り広げられた。成河はこの作品などでの演技が高く評価され、第18回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞した。

その初演から9年の時が経ち、その間、残念ながらロバート役を演じた中嶋が2017年にこの世を去った。今回の再演では、そのロバート役を千葉が、そして千葉が演じていたブルース役を成河が、そして成河が演じていたクリス役を、今回新たにこの座組に加わる章平が演じる。9年の歳月の流れと重みを感じさせる、新たなキャスティングだ。演出は今回も千葉が務める。初演よりは大きな劇場での公演になるが、それでも客席数は200弱と決して多くはない。初演同様、前後二方向からステージを挟む対面式客席で、俳優の姿は360度丸見えとなり、臨場感溢れる舞台になることは間違いない。
この作品の稽古が始まってから数週間が経った某日、稽古場を取材した。

撮影:岡 千里

稽古の前に、まずは簡単なミーティングが行われた。そこでの千葉の第一声は「とても疲れています」と、冗談交じりの様子ではあったが、稽古開始から数週間、そして本番まであと少し、と稽古の折り返し地点に差し掛かったということで、本音でもあったのだろう。その疲れを吹っ切るかのように、成河が「やりましょう! 僕は、演劇しかやることないんですから!」と明るく言い放ち、それを受けて千葉も「俺たちには演劇しかない、人生に失望した奴らが演劇をやっている!」と笑顔でおどけていた。

撮影:岡 千里

撮影:岡 千里

この日の稽古は第三幕から。千葉が「検証しながらいきましょう」と言った通り、シーンを細かく切りながら、動きや演技、セリフの確認などを集中的に、丁寧に詰めていった。演出と出演を兼ねている千葉は自分の役に代役を立て、基本的には演出席から全体を見ており、時には自身が演じてみながら確認作業を重ねていた。
演出家が出演も兼ねるケースはしばしば見受けられるが、とにかく大変な作業なのだろう、という漠然とした印象しか抱いていなかった。しかし今回、この稽古場で千葉の姿を見て、もちろん大変ではあるのだが、演出家としての“客観的”な視点と、出演者としての“主観的”な視点、その両方を持てることにより、相互作用を及ぼして広い視野で作品を理解できているのではないか、と思った。

撮影:岡 千里

まじめで実直な研修医ブルースを演じる成河は、今にも崩れ落ちそうなギリギリのところで踏みとどまっている不安定さを内包した瞳が印象的だ。ロバート医師を演じる千葉からは狡猾さがにじみ出ており、ブルースとの対比がくっきりと浮かび上がる。章平は、若いみずみずしさの中にも落ち着きを見せ、ブルースとロバートの狭間を行き来するクリスという難しい役に挑んでいた。その時々で表情や雰囲気がくるくると変わり、本番の舞台でも目が離せない存在となりそうだ。

会話劇ならではの一対一での言葉の応酬、感情の応酬が緊張関係の中で行われるが、テンポのよい演出のおかげで、まるで美しい音楽を聴いているような心地良さがある。そして随所に笑いが散りばめられているので、観客側も緊張しっぱなしではなく、心をふっと緩めることができる。

撮影:岡 千里

決して簡単な戯曲ではない。ともすれば答えが見えてこない不安感、閉塞感が終始つきまとうかもしれない。しかし、「俺達には演劇しかない」と言いながら、楽しんで作品と向き合っているこの三人ならば、作品の魅力を最大限に引き出して観客に見せてくれるはずだ。千葉はもちろん、成河章平も積極的にアイディアを出し合っていて、自分たちが面白いと思うものを作りたい、という気持ちが強く伝わってきた。本番までまだまだここから、よりよい芝居になるように練り上げていく作業が続くことだろう。千葉は演出の際、しばしば「ゲーム」という言葉を使っていた。本番はほぼ1か月という長丁場の公演だが、毎回まるでゲームのような新鮮さのある、三人の緊迫した演技バトルが見られることを期待したい。

取材・文=久田絢子

公演情報

舞台『BLUE/ORANGE』

■日程:2019年3月29日(金)~4月28日(日)
■会場:DDD青山クロスシアター
 
■作:Joe Penhall
■翻訳:小川絵梨子
■演出:千葉哲也
■出演:成河、千葉哲也、章平
 
料金:7,800円(全席指定・税込) ※未就学児入場不可
 
■主催・製作:シーエイティプロデュース
■予約・問合せ スペース 03-3234-9999
■公式サイト:https://www.stagegate.jp/
  • イープラス
  • 千葉哲也
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