ウソツキ 3人体制初のエイプリルフール・ワンマンにみた変化とエモーション
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ウソツキ 撮影=山野浩司
USOTSUKA NIGHT HOME 2019.4.1 渋谷WWW X
今年で6回目となるウソツキ恒例のエイプリルフール・ワンマンライブが渋谷WWW Xで行なわれた。“恒例の”という言葉には、普通なら自ずと安定感とか安心感といった意味合いが伴うものだ。いつものエイプリルフールのように、今年も安定感のある演奏でウソツキらしい“楽しい”ライブを見せてくれるだろうと、何事もなければ自分もそう思って観に行ったはずだった。だが、今年はどういうライブを彼らが見せるのか、始まるまで読めなかった。なぜならウソツキはこれまでの4人バンドではなくなっていたからだ。
ウソツキは2013年夏から竹田昌和(Vo/Gt)、林山拓斗(Dr)、藤井浩太(Ba) 吉田健二(Gt)の4人で活動を続けてきた。が、今年1月にギターの吉田が脱退。自分の道を歩いていくための決断だった。発表は突然のことだったので、とても驚いた。「正直俺も驚いている。恐らくみんなと一緒」と、オフィシャルサイトに載ったコメントで竹田はそう書いていたので、本当に急なことだったのだろう。
ウソツキ 撮影=山野浩司
吉田のギターは創造性に満ちていた。「新木場発、銀河鉄道」の汽笛を模したあの始まりのギター音が象徴的だが、彼はギターで擬音を鳴らしたり、ユニークなフレーズを用いたりして曲を膨らませていた。それが竹田の個性ある詞曲と合わさることで、ほかのどこにもないウソツキの楽曲というものができていたわけだ。
吉田が脱退してウソツキは3人となったが、バンドは動きを止めなかった。いい曲だらけの傑作3rdアルバム『Diamond』を昨年秋に出し、「名もなき感情」のMVが記録的な再生回数となって広まっているタイミングでもあるゆえ、止める理由などどこにもなかった。先のコメントで竹田は「俺らはウソツキの音楽をまだまだ突き詰めて行きます」と書き、林山は「ウソツキは止まることなく活動して行きます! 今僕らは3人で曲を作っています。絶対にこれからのウソツキが今までで1番格好良いウソツキにします!」と書き、藤井は「これからも確実にいい音楽を3人で作っていきます。ウソツキは成長し続けていきますので、変わらぬ応援をしてください」と書いていた。その意志を持って彼らはライブを続け、ギターはほかのバンドからサポートで入ってもらうという体制をとった。
2月のライブでまずエドガー・サリヴァンのはるかが2日間、ギターを弾いた。3月にあった6本のライブはココロオークションのテンメイがギターを弾いた。そして、2019年初にして吉田脱退後初のワンマンとなるこの日――4月1日の『USOTSUKA NIGHT HOME』は、再びエドガー・サリヴァンのはるかがサポートを務めた。2月に2本一緒にやっているとはいえ、長尺ライブはこの日が初めて。ウソツキの3人もサポートのはるかも、そりゃあ並々ならぬ意気込みで臨んだことだろう。
ウソツキ 撮影=山野浩司
照明効果で星空が広がったように見えるなか、メンバーがひとりひとりステージに出てきて中央でピースサインをするなどし、4人が揃うと、金髪のはるかがお馴染みの汽笛の音をギターで鳴らして曲が始まった。「新木場発、銀河鉄道」だ。聴き慣れたはずのイントロではあるのだが、音の感触はやはり違う。やや歪みがある。竹田は笑顔で歌っていた。以前はよくハットかキャップをかぶってステージに立っていた竹田だったが、そういえば最近はあまりかぶらない。この日はジャケットに蝶ネクタイで、途中「司会者っぽい」と自分でもつっこんでいたが、確かにそんな感じでどことなくコミカル。カッコよく見せるのがむしろ恥ずかしいというのが最近のモードなのかもしれない。
そういえばウソツキのエイプリルフール・ワンマンといえば、例えば昨年ならバッドボーイズに扮した4人のシルエットがまずスクリーンに映し出されるなど、いつも必ず趣向を凝らした演出で始まったものだったが、今年は極めてシンプルな開幕だった。衣装も含め、今回は特に驚きの演出を施したりせず、あくまでも曲と演奏で勝負したいといった気持ちがあったのかもしれない。ただステージ上には「新木場発、銀河鉄道」のMVに出てくる小物や、「名もなき感情」のMVで使われていたパーテーションがあるなど、熱心なファンであれば「あ!」と気が付く思い出の何かがさりげなく置かれたりはしていたけれど。
ウソツキ 撮影=山野浩司
「新木場発、銀河鉄道」で始まり、「過去から届いた光の手紙」「ボーイミーツガール」と疾走感のある以前の代表曲を続け、その時点でもうこれまでのライブの音との変化が強く感じ取れた。ギタリストがひとり代わっただけでこんなにも音の感触が変わるのか。それは当然のことではあるのだが、実際に聴くとなるとなかなかの驚きがある。パワー・ポップ的という言い方が合っているかどうかわからないが、なにしろ以前とは異なる硬質なロックの音の鳴り方だ。
ウソツキ 撮影=山野浩司
「今日はよろしくお願いします。ウソツキです。最高の1日にしましょう」「子供の頃に帰ったように、楽しんで帰ってください」。竹田がこのワンマンにかける意気込みを観客に伝える。が、ライブが始まってしばらくの間、観客たちはいつもよりもおとなしかった。それは新しいウソツキに対して構えてしまっていたところがあったのかもしれないし、探るような感覚もあったのかもしれないし、もしかすると音の変化に戸惑いを感じていた人もいたかもしれない。「ちょっと緊張してますか?」と竹田は観客たちに問いかけてもいたので、みんなのほうがむしろカタくなっているようであることを彼らも感じていたのだろう。
ウソツキ 撮影=山野浩司
それをほぐそうという思いもあってか、竹田は「この日をどんなに待ち望んでいたか。みなさん、我が家にようこそ! ここはマイホームなんですけど、無限大なので。宇宙にもダンスホールにもなるので、みなさん踊って帰ってください!」と話した上で、「夏の亡霊」へ。そして「ここはダンスホールです!」と言うと、早くもウソツキ流のディスコナンバー「コンプレクスにキスをして」を演奏。竹田がハンドマイクで動きながら歌い、藤井もステップを踏みながら弾くと、さっきまで静かだった観客たちもようやくカラダを揺らして自分を開放し始めた。その曲が終わると「渋谷のみなさん、まだまだこんなものじゃないですよね?」と竹田。それに応える観客たちの声はそれでもまだ小さい。と、竹田は「こんなものじゃないですよねって聞いてんだー!」と叫び、やっと大きな声が返ってきたことを確かめると、そのまま曲は「ネガチブ」へ。曲の後半では藤井が渾身のベースソロを長く弾き、それが徐々にメタル的な早弾きになっていったりも。観客の拍手に対し、「もっとほしいな」と言って藤井のソロはさらに熱が入り、会場の温度もそこでグッとあがったものだった。
ウソツキ 撮影=山野浩司
熱気をキープしたまま続けて放った「水の中からソラ見てる」は、以前のライブでのそれとは大きく変わって、パワー・ポップどころかハードロックにも近い音の厚みとアレンジで演奏された。藤井と林山のぶっといリズム。藤井が前に出ると、はるかも前に出てメタルのギタリストよろしく早弾きを披露。途中、『ROCK IN DISNEY』でカヴァーした「アンダー・ザ・シー」(リトル・マーメイド)を挿んで、再び「水の中からソラ見てる」に戻るという展開を見せ、ここはこの日のライブのひとつのハイライトとも言えるものになった。ソロも含めて存分に弾ききった充実感から「あ~、気持ちよかった」と言葉にする藤井。彼のなかでは、自分自身を開放してとことんライブを楽しめばいいのだという気持ちが、以前より大きくなってもいるのだろう、きっと。
ウソツキ 撮影=山野浩司
改めての自己紹介などがあったあと、ここで竹田とはるかがステージ上のソファに座り、ミディアムスローの「超ひも理論」をじっくりと。思いを込めた竹田の熱唱が胸をうつ。林山のハーモニーもいい。それからもう1曲スローの「ハッピーエンドは来なくていい」。そして「恋学者」と、「一生分の愛を込めて歌います」と竹田が言って歌われた「一生分のラブレター」へと続き、観客たちはみな手を挙げて右左に振っていた。
ウソツキ 撮影=山野浩司
「あ~、今、最高です。このライブをみんなで作れて嬉しいです。ホントにありがとう」。竹田のその言葉に続き、キャッチーなリフから次の曲「口内戦争」が始まる。赤い色の照明によってそこは1960年代のゴーゴークラブのようになり、竹田はタンバリンを叩きながらハンドマイクで動いて歌い、間奏ではるかが色気のあるギターを弾くと彼はそのままギターを高く挙げた。そして畳みかけるようにファンキーな「恋はハードモード」へ。間奏で竹田もギターを持つと、背中に回して弾くなどし、さらにはるかとふたり両端に分かれてギターバトル的な展開にも発展した。また、次の「惑星TOKYO」はといえば、エレクトロな音でクールに始まった録音ブツとは大きく異なり、林山のドラムを中心にしたパワフルなサウンドでのっけから熱く激しくドライブしていくものに。その変化は鮮烈だった。ギターが代わってその部分のサウンドが変わるのは当然だが、ウソツキはそれをむしろ好機と捉え、バンドサウンドの成り立ち方・出し方を根本的に見つめ直し、このライブに臨んだのだ。と、そのことがこの曲で一層ハッキリした。
ウソツキ 撮影=山野浩司
それからバンドは、今もMVの再生回数を伸ばし続けている「名もなき感情」、続いて「偽善者」と、新作『Diamond』のなかでも竹田のソングライティングの個性と魅力が強く表れていた2曲を演奏し、竹田が「ありがとう」という言葉を何度も繰り返し伝えた上で本編を終えた。アンコールでは「懐かしい曲やります」と竹田が言って、「ピースする」が演奏された。かつてのライブでは必ず終盤で演奏されていた曲だが、そういえば久しぶりだ。それだけウソツキに重要な曲が増えたということだが、曲の終わりに観客全員が手を挙げてピースするその景色はやはり壮観で感動的。竹田も「久々にやって、みんなピースしてくれるから、今すごい嬉しかったんですよ。もう泣きそうで。ずっと泣きそうなんですけど」と、抑えきれない感情をギリギリでどうにか抑えているようだった。
ウソツキ 撮影=山野浩司
また、このタイミングでなんと新曲も初披露された。「0時2分(仮)」と題されたそれは“もしも”という仮定の言葉で進んでいくもので、竹田のファルセットがとてもエモーショナルだった。そして最後の最後は、『Diamond』のなかの最重要曲と言ってもいい「ラブソングは無力だ」。“きみ”……つまりそこにいる漠然とした“みんな”ではなく、それはひとりひとりの心に確実に届くような歌だった。
こうして6回目のエイプリルフール・ワンマンが終わった。振り返れば吉田健二のギターには彼の好きだったブルーズの成分が濃く出るところがあって、それもこのバンドの魅力のひとつに感じられたが、はるかのサポートによって成り立ったこの日のライブはよりパワー・ポップ寄りだったりややオルタナティブ・ロック寄りだったりのサウンドが鳴らされ、それがとても新鮮だったし、ウソツキの音の可能性を広げているようにも感じられた。今後、ウソツキがどのような形態で活動を続けていくのかはまだわからないが、今回のライブであのような力強いサウンドが鳴らされたことは3人にとっても大きな刺激になっただろうし、得たものがすごく大きかったことと思う。
ウソツキ 撮影=山野浩司
林山は体を絞り、よりタフになったドラミングでバンドを支えていた(アンコール時に「事件です。ウソツキ始めて5年目にして、ついにグッズTが着れるようになりました」と話していた)。藤井は気持ちを開放して、これまでで一番と言っていいくらい楽しそう&嬉しそうにベースを弾いていたのが印象的だった。こうしてライブで思う存分弾けるのが何より幸せだと感じているだろうことが観ていてよくわかった。竹田はMCにまるで落ち着きがなく、考えるより先に思いが口からこぼれ出ているようだったが、それがむしろエモかった。彼は何度も何度も「ありがとう」を繰り返していた。1月をもってバンドが3人になり、そこからウソツキはどうしていくのか、どのような音でどう進めていくべきなのか、もっと突き詰めれば自分はこれからどういう立場で音楽を続けていくのか、ということまでも彼は考えたに違いないが、このライブで歌いながら何かがつかめた感覚、あるいはいろんなことを肯定できた感覚があったんじゃないだろうか。だから何度も繰り返した「ありがとう」には、観客へのありがとうと、ウソツキというバンドへのありがとうと、サポートしてくれたはるか(及びテンメイ)へのありがとうと、音楽ありがとうの気持ちが全部グチャッと混ざっていたのかもしれない。
アンコール時に彼らの口から発表されたが、ウソツキは6月から8月まで3ヵ月連続でワンマンライブ『USOTSUKA NIGHT STORIES』を開催する。それぞれにコンセプトがあり、タイトルの通り物語があるわけだが、そこでウソツキはどんな音で何を見せてくれるのか、今からとても楽しみだ。変わらないところはそのままに、変われるところは思い切って変えながら、ウソツキはもっと面白くなって続いていく。
取材・文=内本順一 撮影=山野浩司
セットリスト
1. 新木場発、銀河鉄道
2. 過去から届いた光の手紙
3. ボーイミーツガール
4. 夏の亡霊
5. コンプレクスにキスをして
6. ネガチブ
7. 水の中からソラ見てる(+アンダー・ザ・シー)
8. 超ひも理論
9. ハッピーエンドは来なくていい
10. 恋学者
11. 一生分のラブレター
12. 口内戦争
13. 恋はハードモード
14. 惑星TOKYO
15. 名もなき感情
16. 偽善者
[ENCORE]
17. ピースする
18. 0時2分(仮)
19. ラブソングは無力だ
ライブ情報
2019.6.22(土)下北沢MOSAiC
OPEN17:30 START18:00
オールスタンディング 前売り¥3,500
~USOTSUKA NIGHT STORIES #2 cosmo~
2019.7.20(土)青山月見ル君想フ
OPEN17:30 START18:00
オールスタンディング 前売り¥3,500
~USOTSUKA NIGHT STORIES #3 party~
2019.8.21(水)渋谷Mt RAINER HALL PLEASURE PLEASURE
OPEN18:30 START19:00
全席指定前売り ¥3,800