フジファブリック・大阪城ホールへと続く平成最後の全国ツアーの『LIVE TOUR 2019 “FEVERMAN”』最終日をレポート
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フジファブリック
フジファブリック『LIVE TOUR 2019 “FEVERMAN”』2019.4.19(FRI)Zepp Osaka Bayside
アルバム『F』を携えた平成最後の全国ツアーの最終日は、山内総一郎(Vo&Gt)の地元である大阪。サポートの玉田豊夢(Dr)を含め加藤慎一(Ba)、金澤ダイスケ(Key)の4人全員が真っ白な衣装を身にまとって登場。アルバムの1曲目でもあった「Walk On The Way」が冒頭に聞こえ、ゆっくりと温まっていくのかと思いきや、「SUPER!!」「Sugar!!」と坂道を駆け上がるように一気に沸点を目指す。以前、アルバム「STAND!!」取材の折りに山内が「「SUPER!!」で《トキメキをもっとちょうだい》と歌っているのは、その頃の自分が枯渇していたんでしょうね」と言っていたけれど、この日の《トキメキをもっとちょうだい》は、それこそビックリマークをいくつも付けて、今この瞬間に感じている胸のすくようなトキメキを分かち合おうと歌っているように聞こえた。
今年の4月14日にデビュー15周年を迎えたこと、今回のツアーではその15年間に発表した10枚のアルバム全部の中から選んだ曲を演奏したいと話し、「夜明けのBEAT」に続いては、「15周年の全部、自分たちのすべてを詰め込んだ」という最新アルバム『F』より、視界がクリアになるような疾走感が爽快な「High&High」、音頭とディスコとキング・クリムゾンにサイケデリックも融合したような「LETS GET IT ON」と続く。「前進リバティ」を終えた後、山内がギターでビートルズの「Here Comes The Sun」の一節を奏でる。
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「フジファブリックにはエレクトリックにガツンとやる曲など色々ありますが、次はアコースティックナンバーを」と1stアルバムから「花」を。歌い終えると「志村正彦―!」と呼びかけ、さらに現在の3人体制になって最初にリリースしたアルバム『STAR』から「Drop」もアコースティックで披露。「心配なんか何もない」「遮るものは何もない」と歌う「破顔」は、バンド自身も聴き手も解き放つような力強さ。それに応えるようにステージに向かってたくさんの手が伸びる。
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「恋するパスタ」を歌い終えた後、歌詞のフレーズに引っ掛けたのか、「僕は幸せです!」と山内が言い、その後にも「冗談で言っているんじゃなくて」と何度も「幸せだ」と噛みしめるように口にしていた。メンバー紹介を兼ねて「平成で一番エキサイティングだったこと」について順にそれぞれが語り、最後に山内が「ずっと続けられていることが一番うれしい。みんなに出会ったのが本当に嬉しい」と両腕を広げた。その言葉は、会場に集まった人やファンの人ももちろん含まれるのだけれど、あの瞬間は自身の両側に立つ加藤と金澤そして志村に向けられていたように思う。続く「Feverman」ではツイッターでも動画が公開されていた、特別講師・加藤のダンス指導がはじめに行われた。沖縄民謡を思わせる優美な手の動きに、大地の鼓動のようなロック音楽と祭り囃子が混ざり合い見事にフジファブリック色に染め上げた妙なる楽曲。大人も子供も関係なく、日本人のDNAに直接響いてくる曲なんじゃないだろうか。
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本編最後は「東京」そして「手紙」。「東京」ではゆっくりとミラーボールが回り、山内はハンドマイクでステージ前方まで向かう。間奏でメンバー紹介に続いて山内が「15年分の愛と感謝を持ってきました!」と、これまでの楽曲や歌詞の一節をつなげたラップを披露。最後には「輝く大阪に響かせよう」と会場に呼びかけ「フジファブリック!」「みんながフジファブリック!」とのコール&レスポンスを。山内が故郷の茨木市を想い書き綴った「手紙」では、「離れた街でも大事な友を見つけたよ」と歌われている。最後で「踊り続けよう友よ 華やぐ大阪」と聴こえた時の歓喜は、言葉で言い表すのがちょっと難しい。
アンコールを求める拍手が手拍子に変わってそこに「総一郎!」という呼びかけが加わり、現れた山内は「呼び捨てされるの初めてちゃうかな」と笑い、「嬉しい」と。志村のことも含め、ツアーのたびに自分の故郷である大阪へフジファブリックを連れてくることができた喜びが大きいと語り、半年後に迫った大阪城ホールでの単独公演『IN MY TOWN』は、高校生の頃からの夢だったと語った。生まれ育った街などが撮影されている「手紙」のミュージックビデオのショートバージョンがこの夜に公開されることや、15年間の楽曲からファン投票で選んだ曲を収めるプレイリストアルバム『FAB LIST』を制作、リリースすることなどのお知らせに続いて、「桜の季節」「若者のすべて」を演奏。
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夏目漱石の美文のような「桜の季節」の歌詞世界をまっすぐに、誠実に伝える山内の歌声を聴きながら、記憶の奥にある、あえてピントをずらしたような志村の独特の歌いぶりが一瞬思い出される。全身を耳にして、立ち尽くしたまま「若者のすべて」を聴き入る人もいる。この日の演奏はこれまでに聴いたどの「若者のすべて」よりも断然強く大きく、美しかった。バンドのフロントマンだった志村正彦の逝去から10年。フジファブリックと彼らを愛するリスナーは、志村正彦という存在を忘れないとともに、彼を失った事実を生涯共有し続けていて、それは目に見えない絆のようなものでもあると思っている。ただ、この日のライブでそれ以上に強く感じたのは、志村正彦という人は永遠に歌い継がれる素晴らしい楽曲を、フジファブリックというバンドの黎明期に遺していったのだということ。それらも含め彼らの音楽がバンドとリスナーの過去と現在、未来を強く結びつけているのだということを、改めて喜びをもって頼もしく感じた。本編最後の曲「手紙」を歌う前に山内が「フジファブリックは20周年、30周年、50周年とやっていくので」と、ごく当たり前のことのように語っていた言葉が改めて胸に響く。
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最後に新曲「オーバーライト」を歌うにあたり、「シンガロング系なんだけど、みんな大丈夫?」と山内みずからコーラスの歌唱指導を。“ハイ歌って”と言われなくとも山内に続いて歌い出すのが、大阪のファン。「最後に大声出していって」という声に応えるように、フロアも2階も大きな声でツアーのファイナルを盛り上げた。記念撮影を終えると、「次は『IN MY TOWN』でお会いしましょう!」との言葉を残し、場内に鳴り響く「Feverman」に乗って4人はステージを後にした。
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どんな未来も明るく塗り替えるような「オーバーライト」の余韻を楽しみつつ、光を握りしめて進む時も、陰を抱いている時も、雨を踏み鳴らして歩く道も、その傍らで彼らの音楽が鳴っていたらどんなに素晴らしいだろうと考える。この日集まったお客さんの中には、平成の最後に観たライブがフジファブリックという人もいるだろう。なんとも素敵な贈り物であり、去り行く時代への忘れられない置き土産でもある。半年後、10月20日(日)の大阪城ホール『IN MY TOWN』では、全国から集まってくる人たちと、これまでの日々をたくさんの想いとともに振り返りつつ、未来へつながっていくバンドの15周年を祝い合いたい。
取材・文=梶原有紀子 撮影=渡邉一生