2ndワンマンライブ・渋谷WWW公演にみたキタニタツヤの本質と全貌
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キタニタツヤ『No H(e)aven for Her』 2019.5.31 渋谷WWW
キタニタツヤ『No H(e)aven for Her』
2019.5.31 渋谷WWW
かねてからソングライティングセンスや歌手力、佇まいやベースプレイにて名を挙げてきたキタニタツヤ。その本質や全貌が伺え、今後への高いポテンシャルを確信した一夜であった。
キタニタツヤはシンガーソングライターでありクリエーター。これまで別名義でのボカロPとしても活躍していた。楽曲提供も行っており、自身の活動と並行してきたそれらは、いずれも高い評価を得てきた。またプレイヤーとしても定評があり、今話題のヨルシカではベースを担当し、sajou no hanaはメンバーとしてベース兼、作詞 / 作曲 / 編曲も担当。
キタニタツヤ『No H(e)aven for Her』 2019.5.31 渋谷WWW
そんな彼がこの度2回目のワンマンライブを敢行した。場所は渋谷WWW。
キタニタツヤ『No H(e)aven for Her』 2019.5.31 渋谷WWW
開演前の場内の真正面。ステージ後方には彼のシンボルでもある「一つ眼」が、時々する瞬きも含め超満場と共にキタニの登場を待っていた。
SEが流れ出し発光するステージに、ドラムの佐藤ユウスケ、秋好ゆうきが順に登場。少し間を置きキタニも現れる。定位置につきハンドマイクスタイルで、ギター、ドラムの楽器陣にベースを交えたトラックと共に「きっとこの命に意味は無かった」を歌い始める。バックスクリーンに流れ出す映像。低く存在感のある彼の歌声が響き渡る。絶望感の中、終始会場に救いの手を差し伸べてくるかのような歌が、ラストフレーズの<こうして僕は 僕は やっと幸福の在り処を見つけたんだ>へと行き着かせる。
キタニタツヤ『No H(e)aven for Her』 2019.5.31 渋谷WWW
「キタニタツヤです。今日はよろしく」と軽く挨拶。「芥の部屋は錆色に沈む」からはベースを手にボーカル&ベーススタイルでライブを進めてゆく。秋好の空間性のあるスモールクローン系のエフェクトをかましたギターリフと、キタニの歪んだベースがスリリングさを生み出していった同曲。そのスリリングさを抜けて出会う、佐藤による4つ打ちのダンサブルさが解放感を場内へと育んでいく。「落下ウサギと寡黙な傍観者の手記」に入るとライブはさらに深部へ。まるでリード楽器のような運指のキタニのベースがメロディ楽器の役割を果たしていく。逆にその上を泳ぐようにギターを乗せていく秋好。どの曲もそうだがキタニの歌謡性を擁したメロディと歌はこれらのサウンドとの好相性を見せてくれる。
キタニタツヤ『No H(e)aven for Her』 2019.5.31 渋谷WWW
「前回のワンマンは曲数が少ないと意見があったので、今日は普段やらない曲もやります」と入った「記憶の水槽」は一転してミディアムでメローなナンバー。歌同様、ちょっとした幸福感を有した、まるで水槽の中をたゆたうようにゆらゆらとした心地良さが満場に広がっていく。「改めてやってみるといい曲」と、同曲を終えたキタニの一言。私もそれに一票投じた。
また、印象的なエレピのイントロから入った最新発表曲(本人は「準新曲」と紹介(笑))の「Sad Girl」では、ガラリと雰囲気も変わる。グリッチ音も交えたアダルト性や深夜感、アーバンなメローさが場内に満ちていく。ここではキタニもトリッキーなラップを交え彼の多才さを味わうことが出来た。対して今度はダークに一変。「夜がこわれる」では、ダークサイケ感と共に彼らのオルタナやグランジ性な面も楽しめた。ここではキタニのポエトリーリーディングでのアジテートも見どころであった。また、「過ち」が、佐藤のマスロック的なドラムアプローチと白玉の多いベース、秋好の泳ぐギターと共に、再び居場所を求めて場内に手を伸ばすと、佐藤のハイハットとキタニの歌から入った「波に名前をつけること、僕らの呼吸に終わりがあること。」の8ビートがここではない何処かへと場内を連れ出していく。同曲の2番に入るとキタニのベース運指も増加。ドライブ感を楽曲に寄与していく。合わせて同曲の景色感を帯びた歌詞と後半の転調にはグッときた。
キタニタツヤ『No H(e)aven for Her』 2019.5.31 渋谷WWW
キタニタツヤ『No H(e)aven for Her』 2019.5.31 渋谷WWW
若干の幕間。メンバーをステージに残したまま、青白く浮かび上がるステージの中、インタールード的に「Yomi」が流れる。そこを抜け現れたのは「君が夜の海に還るまで」であった。バックスクリーンには同曲のリリックと8mm的な映像が。スライドを活かしたベースと雅やかな旋律ながらその強度は高いメロディと歌声が、いつか海へと還っていく予感を場内に溢れさせる。同時に場内も交えた歌声がアンセム化していく様を見た。
後半戦の狼煙をあげたのは「それでも僕らの呼吸は止まない」であった。パラレルで幾何学的なポストロック混じりのサウンドの上を、佐藤の生み出す分かりやすい16ビートのダンサブルさが場内を惹き込んでいく。ここでの佐藤はドラムのタムとフロアタムを腕をあえてクロスさせて叩く芸当も魅せてくれた。途中、<神は何も与えちゃくれない>と声を荒げ歌うキタニ。それらを抜けて突如現れる上昇感のカウンター具合がたまらない。
キタニタツヤ『No H(e)aven for Her』 2019.5.31 渋谷WWW
ここからはハンドマイクの曲が続いた。メロディではなくビートに乗せて歌うが如く放たれた「夢遊病者は此岸にて」では、広がるアーバン性と孤独なロンリー感漂う中、解けない呪いを今ここで終わらせてしまおうかの問いに会場も無言で応答していく。ハネるタイプの楽曲は続く。リバース音の中、次曲の「悪魔の踊り方」が現れると、サビの部分は会場に任され、場内全員で大合唱。対して「輪郭」では、ゆっくり沈殿していく雰囲気が味わえ、本編最後は感情たっぷり込めて「I DO NOT LOVE YOU.」が贈られた。誰か僕の苦しみを救って欲しいと歌われたその先で、ステージが神々しく徐々に発光していく。光に包まれていくステージ。途端、突然放り出されるようにライブは終演。白昼夢から一気に現実へと引き戻された。
キタニタツヤ『No H(e)aven for Her』 2019.5.31 渋谷WWW
「めっちゃ楽しいし気持ちいい!!」とは再びステージに現れたキタニの第一声。続けて、9月に7曲入りのミニアルバム『Seven Girls' H(e)aven』の発売の予定と、10月4日には自主企画イベントをodol他3マンにて、この日の会場の上であるWWWXにて、さらにキャパを上げて行われることが告げられる。
アンコールは2曲。これからとこれまでの2極面が放たれた。まずは今秋発売予定のミニアルバムからひと足早く「クラブ・アンリアリティ」が披露される。トロピカルでバレアリック要素もあり、ディスコティックな同曲に合わせてミラーボールもムーディに回り出す。現実から抜け出そう、サイケな夢を見ようと誘う同曲がワンナイトな刹那感を広げていく。また、同曲では後半にはみんなでハミングできる箇所も用意されており、今後ライブで会場と共に育んでいく様に想いを馳せさせた。そしてラストはストレートでロカビリーライクなロックンロールナンバー「初夏、殺意は街を浸す病のように」がゴール目指して場内と共に駆け抜けていく様を見た。
キタニタツヤ『No H(e)aven for Her』 2019.5.31 渋谷WWW
ライブは終わった。個人的には「キタニタツヤとバックバンド」というよりかは、「キタニタツヤ」というバンドのようにも映った。こだわっているかのような、トライアングルな姿勢からもそれは多分に伺えた。
ロック然とした出自から発しつつも、徐々にヒップホップやアーバン性のあるブラックミュージック方面への今後の傾倒のポテンシャルも伺え、ますますキタニタツヤという人間や今後の彼が興味深くなった一夜でもあった、この日。いい意味で彼は、これまでも聴き手や待っている人たちを裏切り続け、納得させ、シンパ化させてきた。今後もそれは続いて行くことだろう。次のニューミニアルバムや自主企画では、どんな驚きや意外性、革新性や、「でもやっぱり彼らしい!!」との納得さを味合わせてくれるのだろう? 気が早いが私の興味は、すでにこの秋の彼の動きへと移っている。
文=池田スカオ和宏 撮影=西槇太一
セットリスト
2019.5.31 渋谷WWW
1. きっとこの命に意味は無かった
2. 芥の部屋は錆色に沈む
3. 落下ウサギと寡黙な傍観者の手記
4. 記憶の水槽
5. Sad Girl
6. 夜がこわれる
7. 過ち
8. 波に名前をつけること、僕らの呼吸に終わりがあること。
9. 君が夜の海に還るまで
10. それでも僕らの呼吸は止まない
11. 夢遊病者は此岸にて
12. 悪魔の踊り方
13. 輪郭
14. I DO NOT LOVE YOU.
[ENCORE]
15. クラブ・アンリアリティ
16. 初夏、殺意は街を浸す病のように
ライブ情報
渋谷WWW X
キタニタツヤ / odol / +1ACT.
ADV ¥3,500