河合雪之丞×篠井英介が艶やかに火花散らす 六月花形新派公演『夜の蝶』開幕コメント&ゲネプロレポート
六月花形新派公演「夜の蝶」ゲネプロ
6月6日(木)より28日(金)にかけて、三越劇場で上演される劇団新派の「六月花形新派公演『夜の蝶』」。昭和32年に発表された、川口松太郎の同名小説が原作となっている。
物語の舞台は、高度経済成長期に向け勢いづく昭和30年代の日本。夜の銀座で新しい時代を逞しく生き抜く女たちの人間模様を描きだす。
出演は、劇団新派の河合雪之丞、喜多村緑郎、瀬戸摩純、さらに篠井英介と山村紅葉がゲスト出演する。開幕に向けて、雪之丞と篠井からコメントが寄せられた。あわせて5日に行われたゲネプロ(通し稽古)の模様をレポートする。
河合雪之丞 コメント
いよいよ初日を迎えることになりました。お稽古の初日のときからみんなで一生懸命つくりあげてきたお芝居です。この新しい『夜の蝶』を、銀座の夜の世界をここ三越劇場で存分にお楽しみいただきたいです。女方同士の戦いも皆様お楽しみに劇場へ足をお運びください!
河合雪之丞(「リスボン」のマダム、葉子役)
篠井英介 コメント
お芝居は生ものですから、俳優も、スタッフも、そしてお客様も一緒につくりあげていくものですので、いよいよ初日を迎えることが怖いような楽しみなような気持ちでおります。無事に勤められることを祈るばかりです!
篠井英介(京都から東京進出するお菊役)
新派の女方VS現代演劇の女方
初演は、花柳章太郎が女方で葉子を、初代水谷八重子がお菊を演じた。その後、当代水谷八重子が葉子を、歌舞伎俳優の坂東玉三郎が女方でお菊を演じた。今回は、新派の女方・河合雪之丞が葉子役、現代演劇の女方・篠井英介がお菊役を勤める。
三越劇場のステージにあつらえられた、高級クラブの店内。店の外には、懐かしいフォントの看板や、レトロなネオンサインがみえる。ここは銀座でナンバー・ワンの高級クラブ「リスボン」。ホステスのお景(瀬戸摩純)によれば、マダムの葉子(河合雪之丞)が不機嫌だという。なぜなら銀座中が、新たに開店するバー「お菊」の話題で持ちきりだからだ。
お菊(篠井英介)は、京都の舞妓あがり。強力な後ろ盾を得て、銀座に京都風の高級クラブを出店する。内装もスタッフも京都風という凝った趣向に、葉子はお客さんをとられてしまうのでは、と戦々恐々としているのだ。さらに葉子とお菊には、深い因縁もあるという。
さらにお菊の東京進出をサポートしたのが、大物政治家の白沢一郎(喜多村緑郎)という事実が、葉子をなおさらヤキモキさせた。なぜなら白沢は、リスボンの客でもあり、惚れっぽい葉子が一際思いを寄せる相手でもあるからだ。
艶っぽくも、凛とした葉子。はんなりとした物腰にしなやかな強さをもつ篠井のお菊。物語が進むにつれて、男相手だろうと一歩も引かない強さの裏に、各々が大切にするものの存在がみえてくる。
振り返ってみれば、お菊と葉子が罵りあい声を荒げるようなことはなかった。労いの言葉さえかけあっていた。にもかかわらず、2人の間には火花が散って見えていたのは面白い。
バトルの緊張を和らげてくれるのが、マダムを支えるホステスたち。時代の高揚感を象徴するような華やかさと賑やかさ。中でもお菊の妹分のお春(山村紅葉)の存在は、持ち前の愛嬌と頼りがいで、観るものの心の拠り所となっていた。
高度経済成長期、昭和の銀座の夜の物語
クラブには政治家や文人、財界人が集まる。会話の端々には、新幹線開通、東京五輪、アラブでの石油開発などのキーワードが登場し、昭和30年代の高度経済成長期であることをうかがわせる。
言うまでもなく、この時代に戦っていたのは女だけではない。男たちもまた、利権や覇権を争い、時に色恋に翻弄されながら、笑顔の下で熾烈な戦いを繰り広げていた。
本作では三越劇場としては珍しく、回り舞台で場面が変わる。「リスボン」と「お菊」が表裏一体となったセットで物語は進むが、場面をつなぐ祇園小唄や、登場のたびに変わるマダムたちの衣装も見逃せない。
女と女の戦いと絆
女同士のバトルであり、女方同士の演技のバトルでもある『夜の蝶』。時には、陰湿とも思える攻撃を仕掛けもしていたが、鬱々とした空気にはならず、カラっとした気分にさせられた。これは「葉子もお菊も女方」というキャスティングの効果かもしれない。女優同士でやろうとしたら、きっとどこかに生々しさが残るはず。
一流クラブのマダムとしての商才と強さを持ち、身のこなしは柔らかく言葉つきには品のある葉子とお菊。男が惚れ、女性が憧れる存在だ。観ているうちに、双方の喜怒哀楽に寄り添い、2人を応援し2人の幸せを心から願っていた。
「六月花形新派公演『夜の蝶』」は、6月6日(木)より28日(金)までの上演。映画版とはテイストの異なるエンディングを、ぜひ三越劇場の客席で見届けてほしい。
公演情報
■脚色・演出 : 成瀬芳一
■会場:三越劇場