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水上真理がライフスタイルをコラムする「Make smile」vol.7 水上真理流、漫画・アニメのススメ③愛

2019.6.28
コラム
アニメ/ゲーム

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水を含む紫陽花が美しく感じる季節、いかがお過ごしですか?雨の日が多いため、気が滅入ってしまうなんて声も耳にします。そんな季節だからこそ、室内で心を潤わしてみませんか?「漫画・アニメのススメ」第3弾のテーマは「愛」です。

「愛」には様々な形があります。男女の愛、家族愛、友情から生まれる愛、動物に対して芽生える感情でもあります。最初に紹介したいの作品は、人間が最初に感じる愛、「家族愛」をテーマにした作品「赤ちゃんと僕」です。1991年から1997年まで「花とゆめ」に掲載されていました。アニメ化もされています。

主人公、榎木拓也(えのきたくや)は小学5年生の男の子。一生懸命で生真面目かつ、非常に家族思いな性格です。2か月前に突然の交通事故で母親を亡くした拓也は、父の晴美(はるみ)と2歳の弟、実(みのる)との3人暮らしが始まります。仕事で忙しい父の代わりに、拓也は実の面倒を見ることになるのです。

拓也は、自分でもまだ母親の死を受け入れきれないまま、明確なコミュニケーションが図れない実に戸惑いながらも、仕事で忙しい父に代わって、兄として、母代わりとして、弟を守っていくことを決めるのです。しかし、拓也は、友達はみんな自由に遊んだり習い事をしたりできるのに、なぜ僕だけこんな窮屈でツライ思いをしなくちゃいけないんだろう。自分の生活が実に支配されていくのではないかという葛藤を抱えることになります。

ある日、実は保育園で母親に甘える友達をぶってしまいます。実が友達に暴力をふるったことで亡くなった母親を悪く言われ、拓也は悔しくて思わず実に当たってしまうのです。実は2歳です。自分の気持ちをうまく伝えることができません。泣くことしかできない実に拓也は苛立ちを感じてしまいます。でも拓也は気付くのです。実はさみしいのだと。拓也にはある母親に甘えた記憶が、実にはあまりにも少ないのです。母親の「死」さえ理解できていないのです。

実が拓也に見捨てられないように、必死で足にしがみつく姿は、切なく胸をうちます。赤ちゃんだって必死なんです。自分の失敗を自分なりに取り戻そうとして。実はお兄ちゃんが大好きです。お兄ちゃんが抱えている葛藤なんてわからないのです。しかし、そんな実も拓也とお父さんの愛情で少しづつ成長していきます。そして、拓也は実をかわいいと感じるようになっていきます。

父、晴美の葛藤も描かれています。晴美は両親も交通事故で亡くしてしまっているため、頼れる人がいないのです。愛する妻を突然亡くしてしまっても、泣いてる暇などなく、仕事をしながら、家事をこなし、まだ幼い子供二人を育てていかなければならないのです。

連載を呼んでいた当時10代だった私は、拓也の目線で物語を見ていました。子供思いで、かっこいい父、晴美に恋心を感じたりもしていました。気が付いたら、晴美の年齢も超えてしまっていました。「愛する人の死」という辛さも理解できるようになりました。そして、33歳という年齢が当時の自分が思っていたほど大人ではないこと。それでも親という立場は、大人でいなくてはならないこと。その大変さが分かるようになりました。でもきっと、それを乗り越えられるのは子供への愛、そして、亡き妻への愛があるからなんだと思います。

物語は母、由加子が亡くなったところから始まります。由加子がどんな女性だったのかは、物語の中で少しづつ描かれていきます。拓也と実をすごく愛していたこと、そして晴美との出逢い、どんなふうに結婚したのか、読み進むにつれてわかっていくのです。由加子は亡くなってしまっても、家族の心の中にしっかり生きているのです。「愛」は離れていても人を支えることができる。そして、由加子が生きてる間に沢山注いだ拓也への愛情が、実を育てていくのです。

この作品の素晴らしいところは、家族愛だけでなく、いじめ、三角関係、性の悩み、うつ病、育児ノイローゼ、生と死についてもきちんと描かれている所です。「愛があれば大丈夫」なんて言ってしまうのは簡単ですが、悩みというものはきれいごとでは解決できず、人を苦しめるものです。しかし、この作品は、家族だけでは乗り越えられない悩みも、様々な人が、様々な形の愛で支えて救っている。その愛の描き方が素敵だなと思うのです。単行本も文庫本も発売されています。ぜひ読んでみてくださいね。

「愛」とは教育の中にもあるものだと思います。そこに愛があることは、後になって気づくことが多かったりするわけですが・・・。その教育をテーマに書かれた作品の中でおすすめしたいのが、「暗殺教室」です。「週刊少年ジャンプ」にて2012年から2016年まで連載されていた作品です。アニメ化もされています。私は、実写版の映画がテレビ放送されたのをきっかけに、この世界にはまっていったのですが、とにかく、とても面白かった。そして、涙が止まらなくなった。

「担任の先生を暗殺しなければ、地球が滅ぼされてしまう。」地球の未来は1クラスの中学生たちに委ねられるのです。進学校の成績、素行不良者を集めた3年E組に。担任になったのは、異形な姿をした謎の生物です。マッハ20で空を飛び、月の7割を破壊してしまった「殺せんせー」と生徒たちの戦いの日々が始まります。

生徒たちは暗殺の方法を考え、実行していくにつれて、殺せんせーから様々なことを学んでいくのです。落ちこぼれと呼ばれ、人を信頼することも諦めていた生徒たちが、たくましく成長し、また、絆を紡いでいくのです。世間に貼られるレッテルの恐ろしさも感じます。勉強ができないから人として劣っているとか、社会に溶け込めないから、認められないとか、人の才能はそんなことではきっと測れないのです。殺せんせーが命をかけて向き合い、生徒の心の闇に触れ、解き放して個々の特性を引き出して行く、これこそが愛だなと思いました。

学生時代を描く作品は、はじめから終わりが決まっています。ずっと続く青春じゃなくて、限られた時間で愛をもって導き、成長させていく先生という存在。どんな先生に出逢うかでその後の人生は大きく変わっていく。親ではない他人に自分はどう見られ、認められているのか、そして、大人とはどういう存在なのか、それを身近に感じるのが「先生」だと思うのです。

私は先生にはとても恵まれていたと思います。私はとても生意気で、頑固で手のかかる生徒だったと思うのですが、個性を尊重し、寄り添い、導いてくれる先生がいてくれました。先生が大好きだったから、勉強も楽しかったし、自分の個性の出し方も学ぶことができました。先生方には本当に感謝しています。

最近のドラマでは、「3年A組ー今から皆さんは、人質です」や「俺のスカートどこいった?」などセンセーショナルな内容の学園ドラマが放送されました。どちらもとても面白かったし、感動しました。もちろん、ドラマの中の話で、実際にはこんな先生はいないのかもしれません。だけど、人の胸を打つ。こんな先生に出逢いたかったと思う。それこそが真実なのだと思います。勉強だけなら塾でいいんです。ではなぜ、学校が必要なのか?それは、社会の中で、自分の個性や価値観はどのような意味を持つのかを知るための場所だから。そんな場所だからこそ、自分とちゃんと向き合ってくれる存在が必要なのだと思います。

「暗殺教室」殺し合いの中にある教育と愛の形。ぜひ、感じてみてください。

続いては「本当の愛とは・・・?」と考えさせられた作品。天使と悪魔のオムニバス集。講談社から発売された「君の白い羽根DX」と「君の黒い羽根DX」です。それぞれ、ⅠとⅡがあります。単行本は絶版になってしまっているのですが、中古品など、ネットに出ておりますので、興味のある方にはぜひ読んでいただきたい作品です。全ての作品を読みたい方はDX版のⅠとⅡ、そして通常版の「君の白い羽Ⅱ」を読んでくださいね。

亡くなった善人の魂を天国に連れていく天使を描いた作品が「君の白い羽根」、亡くなった悪人や自殺者の魂を地獄に連れていく悪魔を描いた作品が「君の黒い羽根」。この作品に出逢ったのは2001年頃なのですが、とても衝撃的で、なんとも切なく、ずっと心に残っていた作品です。不思議なのは、詳しいストーリーではなく、天使と悪魔の命がけの愛情という部分が強く残っていたこと。このコラムに書きたいと思い、もう1度改めて読んでみました。

とにかく泣きました。なんかこう、胸をえぐられるような感覚。そして純粋に誰かを愛するということの尊さ。こんなセリフがあります。

「どんなときも全力で大事にしなきゃならないものがあるのに、生きてると気づかない。

死なないと気づかない。

君が死んで泣く人のために、君はなにをしてあげられる?」

自分が死んで泣く人こそ、自分が大切にしなければならない人だし、死んでしまったら泣く相手なら全力で大事にしなくてはいけないのに、そんな当たり前のことを考えることなんてなくて。実行するのはもっと難しい。どうしてもみんな明日があるのが当たり前だから。

この作品の好きな所は、悪魔の中にある愛情を描いている所。悪魔は基本的に魂を地獄に導く存在だから、人を誘惑して魂を汚そうとするのが仕事なんです。でも、自分の誘惑に打ち勝つ美しい魂に出逢い、その魂を救いたいと思ってしまう。自分の命をかけて。これって人間も同じだと思うんです。悪そうに見える人にも「愛」はあって、愛があるからこそ、本物の愛に触れるとそれを守らなければならなくなる。そして、自分を変えてしまう、命をかけれるほどの愛に出逢えるなんて幸せなことだと思ってしまうんです。

今回ご紹介した作品全て、「死」に関係する作品でした。「死」に近づくと人はより近くに「愛」を感じることができるのかもしれません。「死」に近づくというということは、余計なことが剥がれ落ちていくことだと思うんです。自分にとって本当に必要なものだけが残っていく。そして、本当に必要なものだけを求めるようになる。

「明日死ぬとしたら、今日は何をしますか?」

時には「死」を感じることが自分の中にある「愛」に気づく近道になるのかもしれません。