市川猿之助『スーパー歌舞伎Ⅱヤマトタケル』会見レポート 360度回転劇場で次世代への橋渡しと自身の活躍を
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2020年夏、四代目市川猿之助(以下、猿之助)演出・主演『スーパー歌舞伎Ⅱ ヤマトタケル』が、IHIステージアラウンド東京で上演される。スーパーバイザーに三代目市川猿之助(以下、猿翁)を迎え、主人公のヤマトタケルを猿之助と中村隼人が交互出演で勤める。脚本・演出には、劇作家の横内謙介も名前を連ねる。
6月20日、同劇場で記者発表が行われ、猿之助の他、TBSホールディングスの佐々木卓社長、松竹の迫本淳一社長、そして松竹の安孫子正副社長・演劇本部長が登壇した。さらに第2部「プレゼンショー」として、ステージアラウンドの照明、映像演出、音響と劇場の回転を盛り込んだステージングを披露した。以下、第1部の会見のコメントと、第2部のプレゼンショーの模様をレポートする。
客席を背に立つ市川猿之助
2020年夏、日本文化の魅力を世界へ
会場は、オリンピック・パラリンピック選手村からほど近い、IHIステージアラウンド東京。360度回転劇場は、客席のまわりをドーナツ状の舞台が囲む構造となっており、客席が回転することで360度が舞台となる劇場だ。このような劇場は、世界にも、アムステルダムと東京の2つにしかないという。
スマートグラスによる『字幕サービス』は日本語と英語に対応。空中に字幕が浮いてみえるのだそう。
はじめに佐々木氏が、「東京オリンピック、パラリンピックの開幕まであと400日です。開幕すれば世界の目が日本にむきます。TBSは日本の素晴らしい芸術を世界に向けて発信したいと考えていました。この素晴らしいタイミングで、この素晴らしい劇場で、『スーパー歌舞伎Ⅱ ヤマトタケル』。神がかったタイミングで実現する、奇跡的なプロジェクトです」と挨拶を述べ、この企画が同社にとっても念願であったことを強調した。関係各所への感謝とともに「総力をあげて取り組みたい」と意気込みを語った。
左右に開く壁がスクリーンとなる。左右にみえる定式幕は投影されたもの。中央から幕が開くのは新鮮!
迫本氏は、歌舞伎と松竹の歴史に触れつつ「33年前、猿翁さんが歌舞伎のエンターテインメント性を見直し、"傾(かぶ)く"の精神に足をつけ、当時としては画期的なスペクタクル、まったく新しい歌舞伎を立ち上げた。その第1作目である『ヤマトタケル』は、スーパー歌舞伎の原点です。猿之助さんが四代目を襲名されて以降も、猿翁さんの精神を引き継ぎ、さらに発展させています」と紹介した。
安孫子氏は、歌舞伎の興行が苦しかった昭和40~50年代をふり返り、そんな時代に猿翁が立ち上げたのが、スーパー歌舞伎だったと語る。猿翁は「従来の歌舞伎の古典は素晴らしい。しかしこれで歌舞伎が終わってはいけない。現代目線で新しく作り上げていかなくては」と考え、「ストーリーの分かりやすさ」「スピーディーな展開」「スペクタクル」を掲げた新作を創出し、成功をおさめたという。
今の時代を生きる人に伝わる言葉でという目線から、台詞を口語で上演したのも、『スーパー歌舞伎』が元祖。
「当代の猿之助さんは、先代の猿之助さん(猿翁)から薫陶を受け『スーパー歌舞伎』の全てをご存じです。それを原点に、さらに新しい歌舞伎作りをしようと『スーパー歌舞伎Ⅱ』を上演し、いよいよ『ヤマトタケル』。国内外の方々に成果を示していきたい」とも語った。
歌舞伎の歴史に新たな1ページを
猿之助は、来年夏に開催される東京オリンピックが、世界の方々に「日本文化の持つ力を知っていただくよい機会」であるとし、そのタイミングに「ここで歌舞伎を上演できるのは、役者として嬉しい限り。その演目におじが創造した『ヤマトタケル』は歌舞伎の歴史においても記念碑的な作品です。歌舞伎の歴史、日本文化の歴史に新たな1ページを加えられるよう、この作品を創っていきたい」と力を込めつつも、「しかし」と言葉を区切る猿之助。
「歌舞伎役者は身ひとつの肉体しかもっておりません。できることは限られます。歌舞伎という文化形態も、できることは限られています。それがTBSさんと出会うことで、不可能だったことが可能になる。人と人との出会いにより、できなかったことが実現できていく。この気持ちを大切に、来年の夏に向けて準備をしていきたい。これが歌舞伎なのかというものを創っていきたい」「『ヤマトタケル』は、日本の神話の物語です。画期的な芝居になるのではないでしょうか」
初演の映像とともに、三代目猿之助の功績も紹介された。
司会者のアナウンスを合図に、客席が実際に30度回転すると、猿之助は「説明をされていなければ、僕らが動いているのかと思いますね。客席が動いているということですよね?」と身を乗り出していた。
劇場を活かし、視覚・体感を重要視して
質疑応答では、本作で挑戦したいことを問われた猿之助。
「スーパー歌舞伎の特徴的な演出の1つ、宙乗りです。歌舞伎では舞台に対し縦方向に、花道の上を飛びます。この会場では客席の頭上を飛んでみたい」と答え、宙乗りのルートをイメージするように、目線を上げた。
360度回転劇場ならではの"むずかしさ"についての質問も上がった。
「歌舞伎は江戸時代に始まった芸能。外国の方が観ることを想定して作られていなかった。今回は作る段階から世界の人を意識し、分かりやすくどなたでも楽しめるように」「劇場を研究しフルに使い、視覚的、そして体感を重要視して作っていきたい」
真摯なコメントの合間には、「出演者には高齢の方もいらっしゃる。劇場が回ると場所が分からなくなり、楽屋に帰れなくなる人も出るのでは」「私は天邪鬼なもので、上演中は一切回転させず、休憩中だけぐるぐる回すというのもありか」など、しばしばジョークをはさみ、場を盛り上げていた。
『ヤマトタケル』に抱く思いを、猿之助は次のように語った。
「小学5年生か6年生の頃、はじめて『ヤマトタケル』を観た時の衝撃が、今でも忘れられません。それまでに見たこともない歌舞伎でした。目の前で繰り広げられることに驚き、子どもが観ても面白く、ワクワク、キラキラとした興奮がありました。その気持ちは『ヤマトタケル』とともにずっとあり、襲名披露でも『ぜひ』とやらせていただきました。神話の世界からとった物語であり、宙乗り、早替りなど大スペクタクルを盛り込みやすい作品でもあります」
澤瀉屋を象徴する演目の1つであり、2012年の四代目襲名披露興行で上演した本作を、アラウンドシアターでの演目に選んだことからも、本公演にかける猿之助の意気込みを感じる。
アラウンドシアター、圧巻のステージング
第2部は、ニューヨーク、バンコクの歌舞伎ファンとの交流、スーパー歌舞伎を紹介するVTRがあり、その後、猿之助を迎えるプレゼンショーが始まった。
客席を囲む壁はスクリーンとなり、和楽器の音とともに映像演出が始まった。水に落ちた墨が「令和」の文字をかたどると、デジタル世界に一転。時間を巻き戻すように、平成、昭和、大正と元号を遡り、舞台が動き出す(実際に動いているのは客席の方)。高音質かつ爆音のEDMも相まって、時空を超えるような疾走感。回転の後、スクリーンの向こうから登場したのは、自在に浮遊するような三角の集合体だった。
ステージ上で三角形は重なり合い、時に飛翔する鳥のように、時に天にかかる虹のように変形と変色を続ける。
雲海のように広がったスモークの果てから猿之助が登場すると、会場は一気に大きな拍手に沸いた。約3分のプレゼンショーだが、「ここで歌舞伎を」と想像すると早くも鳥肌がたつ。この模様は、公式サイト(こちらから)の動画でみることができるが、目の前に広がる映像と音に包まれながら、シームレスに展開していくステージの面白さは、ぜひ劇場で体験してほしい。
第2部では、VTRで佐々木蔵之介と中村隼人も登場。
佐々木は、2007年のNHK大河ドラマ『風林火山』で猿之助(当時亀治郎)と出会い、『スーパー歌舞伎Ⅱ 空ヲ刻ム者 若き仏師の物語』にも出演を果たした仲。「IHIステージアラウンド東京という新しい劇場で、さらにスーパーな歌舞伎を拝見できるのでは。それをやってくれる猿之助さんであり、澤瀉屋であると思っています」と期待を込めたメッセージをよせた。
Wキャストとなった中村隼人は、南座で上演中の新作歌舞伎『NARUTO -ナルト-』の、うちはサスケ役の衣装で登場。同劇場では劇団新感線の公演を観ていたことから、『ヤマトタケル』上演決定を知った時は、観客目線で「どういう風になるのだろう」と思っていたのだそう。
「(自身の出演に)信じられない気持ちとともに喜びをかみしめています。私にとりましても大きな挑戦であり試練」「父(錦之助)も勤めたヤマトタケルのお役、本当にありがたい」とコメントした。
猿之助の強い希望により実現した交互出演。
「歌舞伎は伝統芸。人から人へ伝わってきました。『ヤマトタケル』も(スーパー歌舞伎)セカンドとして受け継がれていく。次の世代への橋渡しをしつつ自分も活躍し、それらを同時進行で皆さまにおみせできればと思います」
隼人については、「よい先輩に囲まれ、恵まれた環境で育ち、いま売り出し中。おそらくスターになるであろう1人」と紹介し、「舞台にフレッシュなエネルギーが吹き込まれるだろう」と期待を寄せた。隼人がヤマトタケルを演じる日には、猿之助が別の役で出演する等「お互い役を入れ替えながらの出演」となる可能性もあるという。
2020年夏の上演に向け、さらなる情報の公開を楽しみに待ちたい。
フォトセッション準備の合間に、ステージを見上げていた。
※澤瀉屋の「瀉」の右上は、正しくはわかんむり。
公演情報
■場所:IHIステージアラウンド東京
■脚本・演出:横内謙介
■演出:市川猿之助
■スーパーバイザー:市川猿翁
■出演:市川猿之助、中村隼人(交互出演)ほか