岡田将生「『ハムレット』の経験を生かしたい」 『ブラッケン・ムーア~荒地の亡霊~』に挑む意気込み
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岡田将生
イギリス人演出家サイモン・ゴドウィンのもと、『ハムレット』のタイトルロールに扮して熱演を見せたばかりの岡田将生が、次いで挑む舞台は『ブラッケン・ムーア~荒地の亡霊~』。イギリス人劇作家アレクシ・ケイ・キャンベルの戯曲で、上村聡史が演出を手がける。岡田に本作への意気込みを聞いた。
――『ハムレット』の公演が終わってすぐに『ブラッケン・ムーア』のお稽古に入られます。
初めて舞台を経験したときから、ライブ感とか、お客様と時間を共有できること、伝えたいこと、伝えきれなかったこと、そういったさまざまなことを勉強させていただき、舞台をやりたいという気持ちがとても強くなってきていました。だいたい一年に一本くらいのペースでやらせてもらってきたんですが、自分の中で100点が出ることは一回もなくて。大千穐楽を迎えたときに後悔している自分がいるんです。充実感とかやりきった感はすごくあるんですが、演出家が求めていることや、演者たちみんなで創り上げてきたものが正確に伝わることって難しいんだなと、毎回終わるたびに思います。そのたびに、舞台をまたやりたい、また板の上に立ちたいと思うことが多くなって。『ハムレット』が終わったときもやはりそういう感じだったんです。一年経つとその感覚が薄れてしまったりするんですが、今回は間をおかずに舞台をやらせていただけて、『ハムレット』の感覚を忘れず、生かせるうちにできるのがうれしいことだなと思っています。
岡田将生
――作品の魅力についてはいかがですか。
脚本が本当におもしろいんです。会話劇なんですが、最初、ホラーなのかなと思って。以前、二人芝居『ウーマン・イン・ブラック』でホラーをやらせていただいて、正直、なるべくホラーは遠慮したいな……という気持ちがあったんです。ところが、全然違う作品で。人間の愚かさや、想像力が扱われていて、無限の可能性を感じる作品でした。
上村さんの演出作品は『炎 アンサンディ』と『大人のけんかが終わるまで』を観させて頂いて、すごく緻密にお芝居を演出されている印象がありました。なので、脚本を読んだときと、実際に芝居をしたときとでは全然違うものになっていくだろうなと思います。それから、届けたいものや伝えたいこと、自分が脚本を読んで思ったことを、割とストレートに届けられる作品になるんだろうなと。僕自身、すごく考えさせられる物語なんです。今回演じるテレンスは22歳で、ちょっと……(笑)というところもありますが、こんなベテランの方々とご一緒できる機会もなかなかないので、やりたい気持ちがすごく強くありました。
――テレンスは台本上「尋常でないほどハンサム、そしてカリスマ性がある」とされる青年です。
台本を読んだとき、そこに丸、つけました(笑)。テレンス役はいろいろ演じ方があると思っていて、僕は、ある意味二役かなとも思っています。そこは上村さんとも話し合って決めていきたいと思います。僕が何をやっても先輩方が受け止めてくださるだろうなという思いもあるので。
テレンスはすごく頭がよくて、探究心があって、益岡徹さん演じるハロルドとは真逆な人間です。だからこそ、その対立関係がおもしろいなと感じます。若さゆえの言葉の率直さもありますし。頭のいい人っていろいろな言葉を並べるじゃないですか。僕自身はシンプルに伝えたいタイプなんですが、そういう役を演じるからには役のことをもっともっと知りたいですし、今回の稽古中にいろいろな発見があるだろうなと思います。会話を楽しめる芝居かなとも思います。
シアタークリエで演じるのは初めてですが、伝えやすい距離感の劇場でもありますし、すごく楽しみですね。あの空間に自分が立つことを想像しながら台本を読みました。上村さんの演出がどうなるか今の段階ではまだわかりませんが、きっとすごく緻密に作られるだろうし、話し合いをする時間が芝居に生きてくるんだろうなと思うので、いろいろお話ししながら作っていけたらいいなと思います。
岡田将生
――共演者の方々の印象はいかがですか。
皆さん本当に舞台の経験が豊富な方という印象です。例えば、エリザベス役を演じる木村多江さんは、立っている姿だけでもその役柄に見えますし、演じられたらすごく素敵だろうなと思います。僕は今回の作品が6本目の舞台なので、経験は皆さんに及ばないです……。だからこそ、技術など盗めるところは盗みたいですし、いろいろ教えていただきたいなと思っています。今回、少人数の舞台で、人物同士の関係性が非常におもしろいので、胸をかりる気持ちで皆さんとやらせていただけたらと思っています。僕がエドガーの霊に取り憑かれた後、皆さんがどういうお芝居をされるのか非常に楽しみですし、僕がその取り憑かれた様をどう演じるのか、皆さんも楽しみにしてくださっていたらいいなと。アイディアを出し合っていい作品にしていきたいです。
――上村さんの印象はいかがですか。
まだしっかりとはお話はできていないんですが、すごく笑顔が素敵で、その笑顔の奥にはこわいものが見えるような(笑)。僕ももちろんアイディアを出していきたいですが、基本的には、演出家が求めているものを一生懸命やりたいので、上村さんに言われたこと、そしてキャストの方々の芝居を真摯に受け止めていきたいなと思っています。
『ハムレット』でイギリスの演出家の方と一緒に仕事をしましたが、今回は言葉の壁はないので、自分の意見もしっかり言おうと思います。温かい空気の中でこの舞台を作っていけたらと。そうしたら、お客様にもそういった空気を感じて帰っていただけるかなと思うんです。サスペンスではありますが、決して怖い話、ホラーではないので、その奥にある真実をしっかりと届けるということを忘れずにやりたいです。
岡田将生
――テレンスは作中、霊に取り憑かれる経験をします。
相島一之さん演じるジェフリーの、「でもたぶん俺が言いたいのは、ときにはこういう普通じゃないことが起きるってこと、経験や知識をはるかに超えたできごとが、そうなると人生が新しいもの、無限の可能性を秘めたものに思えてくる。まるではじめて目を開けて、果てしない希望を見たかのように。」というセリフが好きなんです。今見ているものははたして確かなのか、確かじゃないのか。人間は、いろいろな可能性があるのに、すべてのものを決めつけているところがある。やっていないことをやることによって新しいことが生まれるわけで。いろいろ挑戦しなきゃいけないし、したほうがいい。例えば、僕が今回、子供の様を演じなくちゃいけないのも、うまく演じないといけないですよね。その様が狂って見えるのか、ちゃんと言葉として伝えられるのか、いろいろ難しいポイントがあって……同時に、すごくやりがいがあるんですけどね。
――岡田さんご自身は、霊体験をされたことは?
霊体験ですか(笑)。不可解なことはもちろんありますけど。北海道でロケしているとき、ある方が僕の部屋に来るって言ったんですけど、僕、寝てしまったんですね。起きたらちょうどノックがあって、開けたら誰もいなくて。聞き間違えかなと思ったらまたノックされて、隠れてたんだと思って開けたらやはり誰もいなくて。そこから、自分の部屋の中で、足音がすごく聴こえるようになってしまって。割と信じてる方なのかな。
岡田将生
――『ハムレット』の公演中、蜷川幸雄さんの霊が見に来られたりは(笑)?
僕は来ていたと思います。初日の朝にお墓参りにも行きました。うん、見ていてくれたと思います。信じる心も必要ですし、その人次第だと思うので。劇場には幽霊がいるってよく言いますしね。
――まさに『ウーマン・イン・ブラック』の世界ですね。
そうだ、あのときもあった。袖に誰もいないのに話しかけられたりとか。
――『ハムレット』にも亡き父の霊が出てきて、しかも、ハムレット自身、どこか演じているようなところがありますよね。やはり霊の話が出てくる『ウーマン・イン・ブラック』も、演じることで恐怖体験を再現していくという趣向が凝らされていました。そして今回の『ブラッケン・ムーア』も、霊の話があり、しかも、俳優がそれぞれの役を演じているということを明らかにする仕掛けが冒頭等で凝らされていて、作品に共通点がありますね。
僕がそういう作品が好きなんでしょうね、多分(笑)。人間ってすごく多面性をもっていて、そういうものをお芝居で見せたいと思いますし、自分でも、いろんな可能性があるなと感じていたりします。一つに絞らず、いろいろできることに芝居の楽しさを感じているのかもしれないですね。カーテンコールになると普段の自分、素に戻っていることがありますが(笑)。お芝居しているその時間がすごく好きなんだと思います。
ハムレットを演じる前にこの台本を読んだ印象と、演じた後で読んだ印象とでは全然違うんです。経験したことは何も無駄なことってなくて、一つずつ丁寧にやることで自分の視界も広がっていくし、考えも深くなっていく。テレンス役もこれまでの経験とつながっているなと感じますし、『ハムレット』直後に稽古して本番を迎えるということはすごくいい経験だと思います。
岡田将生
――『ハムレット』を演じて得たものとは?
『ハムレット』は、今まで演じたものの中でも大変なお芝居でした。そのぶん、様々なことを経験できましたが、二度とああいう役はできないな、と思うこともあります。やろうと思う覚悟が大変というか(笑)。今のこの年齢でできたのがよかったですね。舞台をすごくよく知ることができたし、舞台の無限の可能性も知ることができました。
お芝居はやっぱり会話によって成り立っていて、一つでも歯車がずれてしまうと何も伝わらない。『ハムレット』でも、自分一人の感情だけで動くと舞台が壊れてしまいそうになる瞬間があって、それを引き戻してくださったキャストの皆さんの温かさを感じました。いいカンパニーにしたいなと思いましたし、座長としてどう舞台に立っていられるか、稽古の時間にどれだけ没頭できるかも含め、本当にいい経験をさせていただきました。それが自信につながっている……わけではなく、次もゼロからの気持ちでやるつもりです。でも、あの時間は、僕にとって本当に大切な時間になりました。いろいろな言葉もいただき、賛否両論もありましたし、そして、それを受け止める人間力が必要だということもわかりました。30歳手前でいい作品に出会えたなと思います。
――今回の公演中に30歳のお誕生日を迎えられます。
うれしいですね。舞台だと攻めている役をやらせていただける機会がすごく多いんです。30代はますますいろいろなものを捨てて果敢にチャレンジしていきたいですね。20代で様々な役に関われた経験を出していきたいです。台本を読んだときに僕が感じたものを、舞台を観て下さった方と共有できた瞬間がすごく嬉しいんです。いろいろな感じ方があると思うんですが、その100のうち一つでも共有できると、よかったなと思います。もちろん、全部が全部そうはならないですけれども、自分の感性を大事に、これからも素直にやっていきたいです。それから、これまで見せたことのない部分を引き出しとしてたくさん持っていたいなと思うんです。記憶に残る作品、役柄をやっていきたいです。『ブラッケン・ムーア』は、皆さんの心に深く突き刺さるセリフ、物語がある作品なので、その後シアタークリエに来るたびに思い出していただけるような、すばらしい舞台をお届けしたいです。
岡田将生
岡田将生
取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=鈴木久美子
ヘアメイク:三宅 茜
スタイリスト:大石裕介
衣装協力:
コート…HENRIK VIBSKOV
シャツ&ショーツ…HAUD
シューズ…Paraboot
ソックス…スタイリスト私物
公演情報
翻訳:広田敦郎
演出:上村聡史