androp 10年間の歩みと“いま”が交差し混ざり合った、『daily』ツアーファイナル
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androp 撮影=笹原清明
one-man live tour 2019 "daily" 2019.6.22 代官山UNIT
今年はデビュー10周年ということで、様々な企画を行なっているandrop。1月には彼らの初作品である『anew』、2月には初のフルアルバム『relight』の再現ライブを開催し、3月にimage worldの3周年記念ライブを行なった後、4人はワンマンツアー『one-man live tour 2019 "daily"』をスタートさせた。全6公演となった今回のツアーは、昨年12月に発表され、アニバーサリーイヤーの開幕を告げる立ち位置でもあったアルバム『daily』を掲げたもの。ツアーファイナルは6月22日(土)、代官山UNITで行なわれたのだが、アニバーサリー・イヤーではありながらも、決してこれまでの歩みを振り返る内容ではなく、現在の自分たちのモードをしっかりと提示するものとなった。
androp 撮影=笹原清明
場内がゆっくり暗転すると、静謐なエレクトロサウンドが流れる中、青い照明に包まれたステージに内澤崇仁(Vo/Gt)、佐藤拓也(Gt)、前田恭介(Ba)、伊藤彬彦(Dr)の4人と、この日のサポートキーボードを務める森谷優里が登場。凄まじい勢いで照明が明滅を繰り返すと、ライブは「Blue Nude」で幕をあけた。R&Bフレーバーのあるミディアムナンバーを、内澤はギターを弾かずマイクスタンドを握りしめながら歌を届け、前田はサビでシンセベースに切り替えたりと心地よい低音を響かせる。ゆったりと、それでいて身体が自然と動くサウンドにオーディエンス達が身を委ね始めると、続く「For you」では、浮遊感たっぷりのシンセ音と佐藤のギターが絡み合い、そのまま「MirrorDance」へ。オーディエンスもクラップとシンガロングで参加し、ともに曲を奏でると、間髪開けずに「Saturday Night Apollo」になだれ込む。ミラーボールが回る中、伊藤の跳ね上がるドラムをはじめ、メンバー全員の鳴らしている音がどれも本当に気持ちよく、凄まじい恍惚感であり、極上という言葉がふさわしい空気がフロアに広がっていた。
androp 撮影=笹原清明
今年2月に発表されたシングル「Koi」のインタビューで、楽曲を制作する際に「勢いだけではできないもの」にしたかったということを話していた4人。それは、タイアップの内容を加味したものでありながらも、確実にいまのandropが目指しているサウンドでもあった。それは、同じく先のインタビューで話していた「BPMがあまり速くなくても、気持ちよく楽しめるようなもの」だ。この日のセットリストは、まさにそういった楽曲が並ぶ形になっていたのだが、それをより良いものとして響かせる4人の演奏が素晴らしかった。前田と伊藤が生み出す、タメを効かせた盤石のグルーヴといい、ときに柔らかかったり、ときに力強かったりと、ニュアンスがはっきりと伝わってくる佐藤のギターといい、楽器隊が放つ一音一音が、とにかく生々しい。そして、そのアンサンブルの上で内澤が丁寧に紡いでいく美しいメロディー、彼の歌声が心地よく身体の中に入ってくる。それは、10周年という時間の中で様々なものを積み上げてきたいまだからこそ、手に入れることができたものだろう。ちなみに、ツアーファイナルの会場である代官山UNITは、彼らが初めてワンマンライブを行なった場所でもある。そんな「結成当初にはできなかったことを今やる、しかも思い入れのあるライブハウスで」というシチュエーションは、10周年というタイミングにもふさわしいものだった。
androp 撮影=笹原清明
そして、いまの彼らが鳴らすアンサンブルによって、過去曲もまた新たな輝きを放っていた。メロウな「Proust」や、流麗な鍵盤から幕をあけた「Radio」といった今のグルーヴ感が映える楽曲はもちろん、「Youth」や「Nam(a)e」といった初期の楽曲も、また違う手触りのものとしてこちらに響いてくる。なかでもステージ後方から照らされるまばゆい光を背負いながら高鳴らされた「Singer」は、その生々しい音から、そこに込められたメッセージだけでなく、その言葉が持つ温度までもが、じんわりと伝わってくる感覚があった。そして、4人は「Hikari」を披露。内澤は「自分たちの音楽は、聴いてくれる人に寄り添うようなものであってほしい」ということをよく話していて、この日のMCでもそのことをオーディエンスに伝えていたのだが、4人の演奏によってこの日届けられたどの曲も、まるで人と寄り添ったときに感じられるような柔らかな温もりに満ち溢れていた。
androp 撮影=笹原清明
そんな感動的な演奏の後、「自由に音楽を楽しんでいってください」という一言から「SOS!」へ。昨年のツアーでも披露されていた横ノリ全開の形にアレンジされたバージョンで、伊藤がレイドバック気味に刻むビートの上で、間奏では前田のベースから森谷のキーボードにソロを繋げれば、落ちサビでは内澤がオーディエンスに「Say!」と声を求め、アウトロでは佐藤がダイナミックにギターを轟かせる。フロアを包みこむ高揚感に、続く「Prism」の煌めくサウンドで多幸感を加えると、高まりきった熱は「Voice」「Yeah! Yeah! Yeah!」のアンセム2連発で大爆発。特大のシンガロングが巻き起こった。
曲を終えると、開口一番「すごく楽しい」と内澤。メンバー全員が今回のツアーにかなり手応えを感じていたようで、演奏はもちろんのこと、(かなりゆるめな)MCからも、いまこの瞬間を楽しんでいる様子がありありと伝わってきた。「Koi」で本編をドラマティックに締めくくり、アンコールで再びステージに姿を現した彼らだったが、このまま終わってしまうことがよほど名残惜しかったのか、「さみしいな」「ライブハウスっていいですよね」と、なかなか曲に行かずに話を続ける。そんな微笑ましい場面もありつつ、今の思いをしっかりと詰め込んだ「Home」を熱の入った演奏で届けて、この日を締め括った……と思ったのだが、後ろ髪を引かれるように三度ステージに! 急遽、ダブルアンコールとして「Hana」を披露したところから見ても、彼らはこのツアーで多くのものを感じ取ってきたのだろう。
androp 撮影=笹原清明
大充実のツアーを終えたandropだが、彼らのアニバーサリーイヤーはまだまだ続く。9月には東名阪ワンマンツアー『one-man live tour 2019 “angstrom 1.0 pm”』を開催することを発表しており、2010年に行なわれた“angstrom 0.1 pm”から始まり、ついに“1.0”に到達するというところに感慨深く感じるリスナーも多いはず。そして、2020年1月11、12日には東京・人見記念講堂にて『androp -10th. Anniversary live-』を行なうことになっている。2デイズホールワンマンについて、「10周年を総括して、ここから自分たちはこのモードでいくというものを見せる」と、この日のMCで佐藤が話していたが、そこでどんな姿を届けてくれるか期待しつつ、祝福の1年を楽しみたい。
取材・文=山口哲生 撮影=笹原清明
androp 撮影=笹原清明