Nothing’s Carved In Stone、「Beginning」を掲げ立った2年ぶりの野音で新たな一歩を記す
Nothing’s Carved In Stone 撮影=西槇太一
Live at 野音 2019 ~Tour Beginning~ 2019.6.22 日比谷公園野外大音楽堂
Nothing’s Carved In Stone(以下NCIS)は、ライブを観るたび印象が変わるおもしろいバンドだ。もっとも、NCISはNCIS。バンドのスピリットや彼らが奏でる音楽性がころころと変わるわけではない。
じゃあ、何の印象が変わるのかと言うと、それはバンドの見せ方だ。その時々のモードがあるのか、超絶テクを持った4人のプレイヤーがバチバチとやりあう高性能ロック・マシーンと化した彼らが、その次に観たときには思いの外いなたい魅力を持っていて、ちょっとびっくりさせられたこともあった。
Nothing’s Carved In Stone 撮影=TAKAHIRO TAKINAMI
Nothing’s Carved In Stone 撮影=TAKAHIRO TAKINAMI
昨年は、村松拓(Vo/Gt)がギターを持たない場面がぐっと増え、ステージを自由に動きながら、ダンサブルなサウンドをアピールすることが多かったというのが個人的な印象だが、所属事務所を離れるとともに自主レーベルであるSilver Sun Recordsを立ち上げ、新たなキャリアを追求し始めてからは、村松が再びギターを持ち、今一度、ロック・バンドとしての自分たちの原点に立ち返ろうとしているようにも見える。そして、この日、2年ぶりに日比谷野外大音楽堂のステージに立ったNCISは、さらに新しいバンドの姿を印象づけたのだった。
Nothing’s Carved In Stone 撮影=TAKAHIRO TAKINAMI
朝から降っていた雨は本番直前に止み、大きな拍手と歓声がバンドを迎える中、ライブは今回のツアー・タイトルにもなっている最新シングル「Beginning」でスタート。新機軸を取り入れながらタイトなアンサンブルを追求したアレンジで、バンドの新たなスタートをアピールするロック・ナンバーをお見舞いされた客席がそこからどんなふうに盛り上がっていったかは、序盤の4曲が終わったとき、村松が思わず言った「出来上がってんな!オレら、もうやること何もないんじゃないか(笑)」という言葉からもわかっていただけるだろう。
Nothing’s Carved In Stone 撮影=西槇太一
Nothing’s Carved In Stone 撮影=西槇太一
「すげえ楽しみにしてきました。すげえ大切な友だちや彼女に会うみたいなテンションだよ。最後までついてこい。よろしく!」
村松がそんな挨拶でも客席を沸かせながら、この日、バンドが2時間にわたって演奏したのは、「Beginning」のカップリングとしてダンサブルに生まれ変わった「Bog」をはじめ、90年代以降のロックの粋を集めたとも言える、アンセミックで、オルタナティヴで、ときにダンサブル、ときにプログレッシヴなところもある新旧の代表曲の数々だった。バンドは現在、絶賛ツアー中なので、演奏した曲のタイトルは控えさせていただくが、この日のライブが改めて物語っていたのは、歌と思いっきりぶつかりながらリフを奏でる生形真一(Gt)、ベースという概念を超えたところでベースを唸らせる日向秀和(Ba)、そして変幻自在のリズムでバンドの屋台骨を支える大喜多崇規(Dr)によるアクロバチックな演奏と、「ボーカルにやさしくない(笑)」と不敵に笑う村松が取っ組み合いながら、誰ひとりとして一歩も譲らない高性能ロック・マシーンとしてのNCISの姿だった。
Nothing’s Carved In Stone 撮影=TAKAHIRO TAKINAMI
Nothing’s Carved In Stone 撮影=TAKAHIRO TAKINAMI
前述したとおり、今一度、ロック・バンドとしての自分たちの原点に立ち返ろうとしているという意味で、「Tour Beginning」というタイトルが相応しい熱演だったと思うが、それでもなお、この日のNCISが新しいと思えたのは、彼らがいつも以上に自分たちの思いを露にしたからだった。その役を担ったのは、主にMCを担当する村松だったが、「素の自分でいたい。最近、みんなの前にいるのが楽だ」と言ったその彼の言葉はバンド全員の思いなのだと思う。この日、随所随所でMCを挟んだが、そのすべてが重要なメッセージだった。
Nothing’s Carved In Stone 撮影=アミタマリ
Nothing’s Carved In Stone 撮影=西槇太一
中盤、このライブが即完だったことを、うれしそうに報告した村松は、その感謝を述べる一方で、「でも、おまえらマイノリティだぞ(笑)」と現在のNCISの認知度に満足していないことを語ると、「新体制で新しい一歩を踏み出したからには、何があっても自分たちの力で掴みとってやろと思う。NCISとぱっと言って、いいじゃんとなるように、2年ぐらい突っ走って掴みとってやる!」と宣言。
Nothing’s Carved In Stone 撮影=TAKAHIRO TAKINAMI
Nothing’s Carved In Stone 撮影=西槇太一
そして、終盤では、「やりたいことをやって、贅沢だと思われてるけど、葛藤も立ち止まりそうになったこともあった」というちょっとびっくりの告白も! 誰よりも志の高いミュージシャンシップで結びついている4人が自らの創作欲求に忠実にキャリアを追求してきた(ように見える)NCISに、いつそんな葛藤があったんだろうか。ふとそんな興味も湧いたが、この日、重要だったのは、そこじゃない。重要なのは、「でも、みんなのお陰でこうして続けられてます。11年目に新たな一歩を、1年目のつもりで踏み出してやってます」と改めて伝えることだった。
Nothing’s Carved In Stone 撮影=西槇太一
Nothing’s Carved In Stone 撮影=西槇太一
音楽そのものでストイックに勝負できる彼らがそこまで現在の心情を言葉にしたことが、結成11年目の新たなスタートにかける思いの強さを想像させた。彼らが16年5月に行ったNCISにとって初めての日比谷野外大音楽堂公演は、自分たちがライブで伝えたいものが明確になったという意味でターニングポイントになったそうだが、ならば、「オレらの音楽が(みんなが)ひとりになったとき、寄り添える、そして背中を押せるものであってほしいと思ってます」と結成11年目にして、改めて大勢のファンの前で言えたこの日のライブは、さらなるバンドの覚醒になったんじゃないか。少なくともツアーのスタートであると同時にバンドの新たなスタートを高らかに宣言したこのライブを、観客のシンガロングとともに最高の景色にできたことは、バンドにとって大きな糧になることだろう。
Nothing’s Carved In Stone 撮影=西槇太一
Nothing’s Carved In Stone 撮影=アミタマリ
「最高の夜をありがとう!」と言った村松をはじめ、生形、日向、大喜多それぞれにライブの手応えを言葉にすると、バンドは9月25日に新しいアルバムをリリースして、10月から計21本のツアーを行うことを発表した。そして、1曲だけの予定だったアンコールに「始まりの歌をやって終わりにしたいと思います」(村松)と「November 15th」を追加。「撮影ありなんてどうですか? SNSに流して下さい」(村松)というバンドの粋な計らいに、ほとんどの観客がスマホで撮影を始めたが、最後列で見ていた筆者には、その無数のスマホの画面の明かりが、バンドとファンの交歓を象徴するものとして、とても美しく見えたのだった。
取材・文=山口智男 撮影=アミタマリ、TAKAHIRO TAKINAMI、西槇太一
Nothing’s Carved In Stone 撮影=西槇太一