笑いと涙の名作喜劇が揃いぶみ!『松竹新喜劇 新秋公演』製作発表レポート

レポート
舞台
2015.7.14
藤山扇治郎、渋谷天外、水谷八重子、久本雅美 (撮影:内河 文)

藤山扇治郎、渋谷天外、水谷八重子、久本雅美 (撮影:内河 文)

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大反響を受けて、松竹新喜劇が今年も新橋演舞場にやってくる!

上方喜劇の伝統を受け継ぎつつ、新しい時代にも呼応しながら発展してきた松竹新喜劇。その16年ぶりの東京公演が実現したのが、昨年夏のこと。その成功を受けて、今年は『松竹新喜劇 新秋公演』として、9月13日から27日まで、2年連続で新橋演舞場での公演が決定した。昼の部は、父親の扱いについて考え方の違う兄弟が喧嘩になる『先づ健康』。エリート兄弟と馬が合わず、のけ者にされている三郎の兄弟愛に家族が救われる『一姫二太郎三かぼちゃ』。お祭りの寄付金が入った財布をめぐり大騒動となる『お祭り提灯』の三作品。夜の部は、女房の尻に敷かれている左官が考えた作り話で思わぬ展開になる『色気噺お伊勢帰り』。仲の悪い魚屋の兄弟が、娘の縁談をめぐり、周囲の人々を巻き込んで喧嘩をエスカレートさせていく『愚兄愚弟』の2作品。笑いあり、涙あり、ドタバタあり…松竹新喜劇のエッセンスが凝縮された選りすぐりの名作喜劇がずらりと並ぶ。

キャストは、劇団代表の渋谷天外、ベテラン高田次郎、小島慶四郎、喜劇王・藤山寛美の孫で、劇団のホープ藤山扇治郎をはじめとする松竹新喜劇のメンバーに加え、昨年に続いての出演となる久本雅美、劇団新派を代表する女優・水谷八重子という強力なゲストを迎え、いつもの松竹新喜劇とはまたひと味違った舞台が楽しめそうだ。

7月6日、都内でその製作発表会が行われた。キャストの渋谷天外、藤山扇治郎、水谷八重子、久本雅美に加えて、安孫子正松竹株式会社取締役副社長が出席、それぞれからの挨拶の後、質疑応答が行われた。

【挨拶】

渋谷天外 (撮影:内河 文)

渋谷天外 (撮影:内河 文)

渋谷天外 2年続けて同じ芝居をするということは、松竹新喜劇が始まって以来ないことです。リクエストにお応えして『お祭り提灯』をさせていただきますが、何年か前に芸術祭賞もいただいたし、役はどんどん変わっていきますが、芯のお芝居が面白いもので、やる人によってテイストが変わってくる。去年は(坂東)彌十郎さんにやっていただいた金貸しを、久本さんが(笑)。どんな底意地の悪いババアになるか本当に楽しみです。各狂言、すべて仕掛けがあります。私は去年還暦で(今年)61になりました。『お祭り提灯』で「走れ」と言われてますが、だんだんとパワーがなくなってくる。しかし、そんなこと言うてられませんので、精一杯頑張っていきたいと思います。最高年齢の高田次郎さん、小島慶四郎さん、すごいパワーです、この二人は。この人たちに、我々松竹新喜劇の役者は負けないように頑張りたいと思います。あと、若手がどんどん育ってきてます。若手に私たちの今の芝居を観ていただいて、5年後10年後に彼らがまた僕らの芝居をするというバトンタッチをスムーズに行っていきたい。父(二代目渋谷天外)から藤山寛美、渋谷天外が倒れます。藤山寛美から私、藤山先生が亡くなられます。私は生きてる間にバトンタッチしたいなと思っとりますんで、若手の奮闘を祈っております。ゆっくりと観てやっていただければありがたいと思います。

 

藤山扇治郎 (撮影:内河 文)

藤山扇治郎 (撮影:内河 文)

藤山扇治郎 昨年に引き続き、東京の新橋演舞場で松竹新喜劇の公演がさせていただけるのは本当にありがたいこと。また、今回初めて水谷八重子さんと共演させていただくというのは、本当に身の引き締まる思いです。祖父である藤山寛美の父親は元関西新派で、藤山秋美という名前で役者をしておりました。その縁の深い、新派の代表の八重子さんと新喜劇で共演できるというのが、一番楽しみです。また去年に引き続き、パワフルな久本雅美さんに出ていただいて、『お祭り提灯』で共演させていただきます。先ほど天外さんからお話がございましたように、還暦ですがまだまだ僕らよりパワフルで「倒れるぞ!」って言ってはるお兄さんが一番元気なんです。ずっと元気でいてほしいですけど、僕も年とりますし、天外さんも年とってしまいます(笑)。(渋谷「やかまし!」久本「何回言う(笑)」とツッコミ)少しでもお客様に喜んでいただけるよう、また先輩方のお芝居をしっかり繋いでいけるように頑張らせていただきます。

 

久本雅美 (撮影:内河 文)

久本雅美 (撮影:内河 文)

久本雅美 去年、小さい時から大好きな松竹新喜劇さんにお世話になりまして、たくさん学ばせていただいたと同時に、劇団の皆様も素晴らしいお人柄の方で、楽しくさせていただきました。今回もお呼びいただき、本当にありがとうございます。いただいた使命をしっかり果たしていきたいなと思います。水谷八重子大先輩ともやらせていただくということで、若干チビっておりますが…ここ笑うとこです(笑)。またお胸を借りて頑張らせていただきます。『お祭り提灯』にも参加させていただき、前回(演じたの)は彌十郎さんで、大好きでいつも毎回お芝居が終わってから必ず観て帰っておりました。大役をいただき、どう演じていいのか緊張しておりますが、楽しみながら、お客様に喜んでいただけるように頑張ります。

 

水谷八重子 (撮影:内河 文)

水谷八重子 (撮影:内河 文)

水谷八重子 なんだか責任が重いようなことを言われてしまいまして(笑)。「劇団っていいな」ってつくづく思います。松竹は歌舞伎ですが、大阪には新喜劇があって東京には新派がございます。抱える悩みも一緒。ね?(渋谷「はい」) 新派から招いていただけるというのは本当に光栄で、できれば5本全部出たいですが、その中で私は新しい星、扇治郎さんのお母さんとして、じっくりお芝居をするところがあると思います。どんな親子になれますか。少しでも劇団のお役に立てる新派の八重子でありたいと思っております。そしていつかは2つの劇団が合同でやれたらいいなと、思っておるのは私だけでございましょうか?(渋谷「御意」) 藤山先生にはお世話になりました。高野山の常喜院で、新派の藤村(秀夫)先生の番頭さんが一人でコツコツ新派の物故者を過去帳に書いてお祀りしていたら、ある時、藤山先生がそれをご覧になって「新喜劇も一緒に入れてくれないか」と仰って、同じ常喜院に新喜劇の過去帳が入ることになりまして、先生のお力で、新喜劇と(新派で)一対の碑を建ててくださいました。もしおでかけになるチャンスがございましたら、ぜひご覧いただきたいと思います。そうやって並んでいる以上、お力にならないといけないぞと藤山先生が仰っているように思います。

(撮影:内河 文)

(撮影:内河 文)


【質疑応答】

──去年初参加されて学んだことは? また今回の意気込みを。

久本 私の大好きな「笑かして泣かす、泣かして笑かす」という真骨頂を見せていただいて。本当に力のいる芝居だと思って、袖幕で毎日ずっと観てたんです。本当に細かいお芝居も、間の使い方も、また笑かしていきながらぐーっと惹きつけて泣かしていくという素晴らしい先輩のお芝居を観せていただきました。また天外さんはじめ、皆さんすごく心の大きな方で、私が毎日アドリブをやっても受け止めていただいて、ダメなこと以外は本当に自由にやらせていただきました。今回も大きなお胸を借りて、自分が面白いと思うことはどんどんぶつかっていきながら、ご指導いただいて、学んだことをまた活かせていければと思っております。

(撮影:内河 文)

(撮影:内河 文)


──『お祭り提灯』はリクエストですが、その他の演目選びは?

渋谷 実は松竹新喜劇には1400本の台本があって、その中から選ぶというのは非常に困難を伴います。現代ではできない台本を排除して、その中から選んでいくという方法論をとっとります。『先づ健康』はお風呂屋さんのお芝居で、健康ということに皆さんが留意なさっている時代に、老人を働かせるのがいいのか大事にして置物にするのがいいのかという両極端なお芝居を、問題提起じゃないですが、健康に関しての考え方を新喜劇流に、今風にやっていくつもりです。『一姫二太郎三かぼちゃ』は、藤山寛美先生の十八番もの。これを扇治郎君が、扇治郎君の味付けでやっております。ただちょっと、スタート遅いんです。初日の前日くらいにギャアギャア言うて、幕開くとコロッと変わってしまうんで、ひょっとしたら稽古せんでそのままぶつけたほうがええんちゃうかと(笑)。今回、水谷八重子さんの胸に飛び込んで、お母さんと呼べたらいいねということです。『お祭り提灯』は、久本さんと私とやらせていただきます。『色気噺お伊勢帰り』も、久本さんが重要な役を。新しい三枚目というか、お鹿という女郎の役をどう料理しはるか楽しみです。『愚兄愚弟』は、大阪で一月稽古してきました、お客さんを前に。だから東京では完全なものができるんじゃないかと(笑)。そのぐらい練り倒してきました。無茶苦茶、喧嘩してる兄弟が何故に仲良くなっていくかを観ていただければ。

──新派と新喜劇の共通の悩みとは? また、共演することでどのような効果が?

渋谷 新派は女性が中心のお芝居が多いです。うちの松竹新喜劇は男性が中心のお芝居が多いです。ですからどうしても、うちでしたら女性陣、新派でしたら男性陣が弱いというか。八重子さんが合同すればと気軽に仰ってますが、実はそういうところもあるんですね。(新派の)喜劇まつりに私たちが何人か行って、合同公演みたいな形でやりましたが、本当にアンサンブルが利きました。「これなんだな」と。あとは、もっとお客さんに来てほしいなという、そこが問題です(笑)。

水谷 お客様に来ていただけたら、絶対に楽しんでお帰りいただける自信が、両劇団とももっていると思います。でも「足を運んでいただく」というのが一番大きな共通の悩みではないでしょうか。それから、新喜劇には新しいスターが育っています。新派ももっと若い人にどんどん押し倒されていきたい。(波乃)久里子と先月もそんな話をしていました。「でもなかなか出てきてくれないから、お姉ちゃまと二人で全部のヒロインやるっきゃないかもね」と申しておりましたが、新しい人がどんどん育ってくれていない、悩みです。私たち女優なんで、子どもを産んでる暇がなかったんで、新派はよそからの血が寄り集まってできた劇団ですから、ぜひ新派をやりたいという人も集まってほしい。今度は新しいスターのお相手ができるということで、ずっしり責任を感じております。新喜劇の方にご迷惑がかからないように、「良かった」と後で言っていただけるように務めを果たしたいと思っております。そんなところでしょうか。

渋谷 御意。

(撮影:内河 文)

(撮影:内河 文)

──昨年、久本さんを迎えられてどういう刺激があったか? また今回、八重子さんを迎えられるにあたり、どういうことを期待しているか?

渋谷 久本さんが来ていただいたことで、若手中堅がすごく刺激されました。WAHAHA本舗とは本質的なお芝居が違うんで、でもそのテイストがガンガン出てきたんで「こんな芝居の仕方もあるんだな」というのは、我々にとっても新鮮でした。八重子さんとは前からやってますんで、息もわかってます。尊敬できるお芝居をなさってる方なんで、何事に対しても「御意」ということでございます。

藤山 久本さんと去年一緒に出させていただいて、稽古場の雰囲気だったり、本番でもすごく気を遣われたと思いますが、自分以上に周りのことに目を配られて、和気藹々と劇団の公演に出ていただいたので、逆にこっちが励まされたり、しやすいように自然と考えてくださる方なので、役者さんとしても人間としても尊敬のできる女優さんだと思いました。また八重子さんは大先輩ですし、よく藤山直美のおばさんやお祖父さんも言ってたみたいですが、「歌舞伎と新派はよく見て勉強しておかないといけない」と。歌舞伎のパロディもありますし、新派のリアルなお芝居、品は学ぶところが多いので、今回の公演で一つでも多く勉強して、八重子さんのお姉さんの良い所を吸収できればいいなと思います。

(撮影:内河 文)

(撮影:内河 文)


──後継指名されていると感じるが(劇団の)居心地は? また、土壇場だと言われていた劇団の状況をどう思うか? 最後に、将来リーダーになるようなことがあれば、どのようにしていきたいか?

藤山 1年目はすごく緊張しました。子どもの時から天外さんや新喜劇の役者さんは、子役としては共演して、お話させていただいたことはありましたが、大人になって劇団に入るのは初めてでしたので、緊張もしましたが、すごく教えてくださることが多い。外の現場や他の舞台に出ると、いろいろなところからいろいろな役者さんが出られますが、新喜劇の場合は祖父からずっと一緒に共演されていた大先輩が多いので、直接教えていただける、また厳しい指導もあるという点では、素晴らしいところだと思います。また劇団の状況は、お祖父さんが亡くなって来年で23年になりますが、ずっと天外さんが引っ張ってくださって、また自分が入らしていただくきっかけも、天外さんがワークショップを大阪でなさった。今まで新喜劇でワークショップってなかったと思いますが、若い方がたくさん来られてたんです。自分が新喜劇のお芝居をした時に、若い方がいきいきしてるなと。新喜劇はミカンとアメ持ったおばちゃんで、年いった方が観るイメージでしたが、最近若い方が来てくださる中で、昔の新喜劇より今の新喜劇のほうが観やすくなったのではないかなと。これからの新喜劇、作品もいっぱいありますし、時代劇から現代劇まで。僕の一番目標とするところは、お祖父さんがやってきた、抜けたところでありトボけたところだったりしますが、オリジナルの作品も大事だと思います。自分が本が書けましたら一番ですが、今回、外部から出ていただくのもすごいことですし、自分が本が書けたらこれ以上やりがいのあることはないので、書いてみたいと思います。お祖父さんのやっていた役をもっと継承していくことと、新作を作っていくことと、天外さんに70まで頑張っていただくことが、これからの目標になると思います。

渋谷 65でええでしょ(笑)。

 【取材・文・撮影/内河 文】

 

公演情報
『松竹新喜劇 新秋公演』

【昼の部】
一、先づ健康
二、一姫二太郎三かぼちゃ
三、熱きリクエストにお応えして お祭り提灯
【夜の部】
一、色気噺お伊勢帰り
二、愚兄愚弟
出演◇渋谷天外、藤山扇治郎、水谷八重子、久本雅美 ほか
●9/13~27◎新橋演舞場
〈料金〉桟敷席12,000円 1等席11,000円 2等席8,500円 3階A席4,500円 3階B席3,000円(税込)
 前売り開始/7月25日 10:00~ 0570-000-489
〈お問い合わせ〉新橋演舞場 03-3541-2600
 http://www.shochiku.co.jp/play/enbujyo/schedule/2015/9/post_235.php
 
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