J 4年ぶり11枚目のオリジナルアルバム『Limitless』に漲るキャッチーさ、そこに込めたメッセージとは?
-
ポスト -
シェア - 送る
J 撮影=岩間辰徳
Jの4年ぶり、11枚目のオリジナルアルバム『Limitless』が完成した。今回は、アルバム発売前に全国ツアー『J LIVE TOUR 2019-THE BEGINNING-』を開幕させ、初日から次々とニューアルバム『Limitless』収録曲を放出。まだ発売前だというのに、新曲たちはすぐさまオーディエンスのハートを突き動かし、フロアを高揚させていった。『Limitless』が持つこのキャッチーさにはいったいJのどんなメッセージが込められているのか? そして本ツアーをなぜ岡山から始めたのか? そこでの桃太郎をネタにしたMCなども含め、じっくりと訊いた。
――アルバムの話を聞く前に、まずはJさんの新しい“相棒”となったフェンダーのPrecision Bassについてなんですが。年末に、いままでずっと一緒にサウンドを作り上げてきたESPを離れるというアナウンスをしたあと、春にフェンダーとエンドース契約をしたという発表をされましたが。なぜこのタイミングでニューベースにトライしようと思ったんですか?
自分自身が追い求めてきたベーススタイル、サウンドについて、さらにその先にある“何か”を追い求めていきたいと思ったのがきっかけです。ソロ20周年を記念してESPでマリア柄をプリントしたもの(「ESP/J-TVB-B-Maria-」として期間限定発売)があるんだけど、そのMariaベースを作ったときに、一つのことを感じて。“ああ、もうこれ以上このベースにやれることはないな”と思ったの。それはネガティブな意味ではなくて、これで俺は“Jモデル”という、ESPと一緒に追い求めてきた自分の理想形が一つ作れたんだなと。
――そんな達成感があったんですね。
と同時に、“次にいかなきゃ”と思ったんです。
――ああー。そこを安住の地にするのではなく、再び勇気を持って新しい冒険、挑戦に挑むところがJさんらいしですね。それで、ここかさらに先を求めようとしたとき、フェンダーがあったと。
自分がガキの頃から聴いてきた音楽に、いつも存在していたのがフェンダーというブランドの楽器だったので。そのサウンドをいままで自分がやってきた経験と感覚を連れて、乗りこなしてみたい、新しいスタイル、サウンドをメイクしてみたいという思いになったんだよね。
――まさにニューアルバム『Limitless』の1曲目「the Beginning」じゃないですか!
そう。実際、ここ数年は自分を取り巻く状況のなかで、節目を迎えることがすごく多くて。ソロで20周年、アルバムが10枚目、LUNA SEAが30周年、すべてのタイミングで自分自身がこれまでやってきたことと、これからやろうとすることを突きつけられて。それを明確にしない限り、自分は前には進めないような気もして。
――すべてが、次のステージへと冒険するタイミングだったと。
そう。実際に足を踏み出してみると、ベースに関しては、これだけやってきたのにまだ驚きがある。それに、ソングライティングやサウンドメイクに関しても、LUNA SEAでは、自分を音楽に引きずり込んだアルバムを作った人間、スティーヴ・リリーホワイト(U2、ザ・ローリングストーンズなどを手がけた世界的音楽プロデューサー)とアルバムを作るというとんでもないことが進んでいて。自分自身、いまだに学びや発見に出会えている。そういったなかでの今回のアルバム作りだったので、本当に新しい、でも“真新しいものではない”スタートという感じがすごくしてるんだよね。
――『Limitless』に流れていてる新しさ、スタート感はまさにそういうものでした。その新しさを感じさせるように、今回はアルバム発売前にツアー『J LIVE TOUR 2019-THE BEGINNING-』を開幕させましたよね? それを岡山からスタートさせた理由をMCで聴いたときはグッときました。地元出身者としては。
ありがとうございます。ちょうど1年前、ツアーが予定されていたときに西日本豪雨があって延期になったという経緯があって(今年振替公演を開催)。あのときに抱えていた行きたかった思いも連れて初日をやらせてもらったんだけど。最近は災害が本当に多いじゃないですか? そういうものがあるたびに、この瞬間は当たり前じゃないんだというのに気づかされる。だからこそ、いまを大切にし、熱く無我夢中で楽しもうというのは伝えたいと思ってました。
J 撮影=岩間辰徳
いつも探してるのは“キラッと輝く瞬間”なんです。聴いたら忘れられないような音。そういうもので埋め尽くしたアルバムというのが今作の目標だった。
――ライブではニューアルバムからの楽曲も披露されてて「こんなに新曲を続けてやるのは初めてだよね」とステージでおっしゃってましたけれども。発売前のアルバムをライブで届けてみていかがでしたか?
新しい曲を連続してやることに不安はなかった。考えてみると幸せなことだな、と。こんなにバンド冥利に尽きるとはないなと思いました。なんの先入観もなく曲を聴いてもらえるんだから。お客さんの期待や不安、初めてのリアクション、いろんなものが渦巻いた中での演奏なので、こんな瞬間はなかなかないなと思いながらプレイしてました。
――今作はキャッチーな曲が多いので、ライブの馴染みも非常によかったように見受けられました。
そうだね。“キャッチーさ”というのは曲を作ってるときから念頭には置いてました。歌のメロディ、ギターのリフ、ドラムのフレーズにしても。僕はリズムも含めて全部がメロディだと思ってる人間なんだけど。それらのメロディのキャッチーさは無くしたくないと。なぜかというと、今回のアルバムはとにかくシンプルなの。楽曲の構成、使ってる楽器の本数から何から。だからこそ、一つひとつの楽器が持つキャッチーさを最大限に発揮しなければ曲自体が成り立たない。そうすることによって、僕自身が求めてる次のステージ、いままで自分がやり続けてきたスタイルの次のステージにいけるんだというのを、前作(2015年9月発売10thアルバム『eternal flames』)を作ったときに感じてたので。
――キャッチーさだけでどこまでいけるのかと。
そこにこだわりを置いてみようと。
――それで、一聴しただけでリスナーをつかめる、キャッチできるような作品に仕上がったんですね。
僕自身、リスナーとして占めてるのはそういう部分だからね。速い曲、ヘヴィな曲、どんな曲を聴いたとしても、いつも探してるのは“キラッと輝く瞬間”なんですよ。聴いたら忘れられないような音。それって、僕の言葉に替えると“キャッチーさ”なんだ。そういったもので埋め尽くしたアルバムを作りたいというのが今作の目標だった。
――なるほど。そんなアルバムの幕開けを飾るにふさわしい「the Beginning」は、どんな思いで作った曲だったんでしょうか。
この曲は11作目の始まりにふさわしい曲を求めて作っていった曲だったので、仮タイトルも「オープニング」だったんだよ。
――まんまじゃないですか!
そう(笑)。アルバムの物語の始まりとして、スケールもデカくいきたいなと思って作った。
――そのスケール感というところの表現も、音を詰め込んで作り上げるものではなくて。
その逆で、シンプルな音の空間、そういったものを味方につけて、どこまでスケールを出せるのか。そこに挑戦した曲でもある。
J 撮影=岩間辰徳
――ライブのなかでは、初披露にも関わらずオーディエンスをすぐにキャッチしていたのが「Can't Get Enough」。アルバムのなかでもキャッチーさはダントツでした。
自分のなかに脈々と流れているメロディアスな部分を落とし込んで、聴いてるだけで楽しくなっていく、元気になっていくような曲を作りたいなと思って作った曲だね。そのきっかけが、ここ数年また自分のなかで昔、自分が聴いてた音楽を聴く機会があって。例えばパンクロックの最初のほう、ラモーンズとかピストルズとか。
――クラッシュとか。
いまはジェネレーションXを聴いてるんだけど。
――うわっ! 懐かしい。
あの時代にあっていまないものって、張り裂けんばかりのポップ感かなと思って。そのすべてがカッコいいんだよ、出し惜しみなくストレートだから。それでいてロック。“ポップでなにがいけないの?”みたいな感じで。
――あ! そういうのを聴いてたから「Don't Let Me Down」も生まれたんじゃないですか?
かもね。この曲はスピード感も含めて、いままで自分たちのなかに眠ってたものを蘇らせた感じで、作ってるときは楽しかったね。
――そしてアルバムでもライブでも「Fever」はいままでとは違う世界観を感じる曲でした。
原曲はmasa(Jバンドのギター/masasucks)が書いてくれて。彼自身のプレイヤーとしての成長をすごく感じていたので、前々作でも曲を書いてもらったんだけど、今回もお願いして。音源を作ってるときは、彼がリーダーシップをとってやっていったんだよね。
――頼もしいバンドメンバーですね。
近くで見てると、メンバーたちの成長を肌で感じるんだよね。彼ら自身の成長を纏ってステージに立ってるから、俺は。そういった意味では、胸を借りる感覚でいつもライブには挑んでるし、レコーディングでも一緒に作り上げる感覚で作ってます。
なんで人は夢見たり願ったり思ったり祈ったりするのか? それは人間の本能なのかなって。そういうことの尊さを曲にできたらと思ったんですよね。
――では、次に「Love Song」についてなんですが。アルバムのリード曲としてはダントツにキャッチーな「Can't Get Enough」でもよかったのに、こちらを選んだのはLUNA SEAの「LOVE SONG」があったからですかね。
ああー。意識はまったくしてなかったんだけど、このタイトル付けたあとに“ああー、これは何かかいわれるんだろうな”とは思った(笑)。自分自身に対して、いつも聴いてくれるみんなに対して放つメッセージとして、俺なりのラブソングを必要としてたのかな、これは。それをしない限りは次に進めないなと思って書いたんだけど。でも歌詞を読んでもらうと分かるんだけど、MAYBE、たぶん、なんだよね。それが受け手にとってどう映るかは、ここから先、俺たちとみんなが生きていく上で感じることなのかなと。
――<探していた/愛の歌は>と綴った「at Midnight」とこの曲は関連してるんですか?
作ったタイミングは違うんだけど、自然とリンクしたんだと思う。でも明確な何かがそこにはある訳ではないんだ。漠然としてるんだよ。でも、漠然としてていいんです。聴いてくれた人たちの何かがそこにはまってくれればこのパズルが完成するんだろうなって思うから。僕自身、まだ渦中なんで。いろんなことを求めて自分自身も、バンドもまだ突き進んでる最中だからね。そういう意味ではみんなと同じく、まだ何かを求め続けている人間なんだよ。まだ全然満たされないし、まだまだ届かないし、それは誰しもが抱えていることで特別なことではない。そういったものも「Love Song」のなかには入っていると思う。
――ここからまだ先にある何かを求める姿、それをもっともシンプルな言葉で歌ったのがラストの「Fly Again」でした。
このアルバムを作り終え、そのライブでみんなと新しい物語を作っていくという期待感のなかで作っていった曲だね。いまはその期待感のなかに自分がいて、これから先、「Fly Again」では<光の先>といってるけど、それが先なのか後なのか、前なのか後ろなのか右なのか左なのかは伝えてなくて。そこを、みんなに委ねたかった。
――このアルバムを聴き終えたあと、どこに向かいたいと思ったのかがその人の答えになっていけばいいということ?
そうです。前でも後ろでも、どちらでもいいから“次”へとつないでいくものにしたかった。このアルバムのエンディングは。だからこの曲の仮タイトルは「エンディング」だったんだけどね(笑)。
――そうやって各々の次へとつないでくれるアルバムのなかで、「Falling Star」というバラードがありますけど。これは、Jさんのなかでどんな位置付けだったんですか?
タイトルのまんまなんですけど、存在として、いろんなことを聞かれることが多いんですよ。悩みをもったバンドマンやファンに。自分が伝えられることがあるとすれば何だろうな?と思いながら作った曲がこれで。今回のアルバムは、実は“解放”が僕のなかのテーマで。イメージすることに限界はないということでのアルバムタイトル『Limitless』で。
――だけど、アルバム制作の期限は「Limitlessではないよ」とレコード会社にいわれたとライブのMCでおっしゃってましたよね?
そうそう。締め切りはLimitがありました(笑)。そういうテーマのなかで“繋がる”“祈る”“想いを馳せる”というのが出てきて。なんで人は夢見たり願ったり思ったり祈ったりするのかな?って思ったら、もしかしたらそれって人間の本能なのかなと思って。それは流れ星に向かってとかじゃなくてもいいんだ。誰かのことを考えて、とかでもいい。そういうことの尊さを曲にできたらいいなと思ったんですよね。ドリーミーな曲のムードも手伝って、そういうものが形になればいいなと。そうやって夢見ること、何かに思いを馳せること自体が、実はエネルギーだし。そこで限界のない想像力をイメージしてくれたらいいなと。そして、もっというと、その夢を見ているのは君自身なんだ、何かに思いを馳せる行為自体が次へのエネルギーなんだよというのに気づいてもらえたら嬉しいな。
J 撮影=岩間辰徳
――それをパワフルな曲でメッセージするんじゃなく、リスナーを見守って包み込んでいくような楽曲でメッセージしているといころが、大人ないまのJさんという気がします。ところで、これは前々から聞いてみたいかったことなんですが。Jさんのなかで、例えばLUNA SEAのアルバムの作風、テーマが今回はこうだからその反動で自分のソロはこうなった、という相互の関係性ってあるものなんですか?
LUNA SEAに関してはソングライティングしているメンバーがたくさんいて、その重なり合うところでアルバムのイメージが出来上がっていくと思うから。曲単体で見たらそれぞれあるんだろうけど、アルバムの世界観という意味ではソロとは違うかな。
――なるほど。アルバム発売後は、ツアーでもアルバム曲はどんどん増えていく予定ですか?
そうだね。もうリハーサルの段階でこのアルバムの曲たちすべて準備は完了しているので、ライブのメニューは曲順も含め、これからその日その日の感覚で決めていくことになると思う。
――地方で見るJさんは、岡山では「お前ら、そんなノリだと桃太郎に斬られるぞ」とか(笑)、MCもキャッチーで驚きました。
いやいや。あれは前々回やったときからの流れもあってだから、あれは特別(笑)。
(※Jが「岡山って何が有名?」とライブで観客に尋ねたら「桃太郎」といわれ、「じゃあ桃が流れてきた川はどこ?」と聞くと誰も答えられず、次回のライブまでの宿題となった)。
――地方ではそんなJさんの姿も観られるかもしれない今回のツアーのことも含め、最後にSPICE読者にJさんから一言お願いします。
4年ぶりのアルバムが7月24日にリリースされます。『Limitless』というタイトルで、ものすごい熱い、最高のロックアルバムができました。ぜひこれを聴いて熱くなってもらいたいなと。そして、ライブにも遊びに来てください!
取材・文=東條祥恵 撮影=岩間辰徳
リリース情報
●CD+スマプラミュージック CTCR-14969 ¥3,000+税