七之助の政岡、幸四郎の仁木弾正『八月納涼歌舞伎』開幕直前会見レポート 勘太郎、長三郎が涙を誘う
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左から、中村七之助、市川猿之助、松本幸四郎、中村扇雀、坂東彌十郎、市川中車。
2019年8月9日(金)より歌舞伎座で『八月納涼歌舞伎』が開催される。開幕に先駆けて7日に、初日通り舞台稽古が公開された。歌舞伎座は、通常ならば昼夜二部制で公演を行うが、納涼歌舞伎(8月)は三部制。会見には、中村扇雀、坂東彌十郎、松本幸四郎、市川猿之助、中村七之助、市川中車が出席した。
女形の大役・政岡に七之助が挑む
公開されたのは、第一部『伽羅先代萩』。乳人政岡を、初役で演じるのは中村七之助。舞台稽古には坂東玉三郎も立ち会い、小道具の位置や勘太郎の鬘の角度などに目を配っていた。政岡の子供、一子千松役を勘太郎が、鶴千代役を長三郎が勤める。おじと甥の共演だ。前半の約1時間は、政岡、鶴千代、千松の3人だけの芝居となる。
江戸時代前期(1660年~1671年にかけて)に起きた仙台藩のお家騒動を題材に、劇中の舞台を室町時代の足利家にして創作された物語。2歳で家督を継いだ鶴千代は、お家のっとりを企む仁木弾正に命を狙われる。毒殺を恐れ、出された食事に手を付けられない鶴千代と千松は、空腹に耐える。そんな二人のために、政岡は茶道の窯で米を炊いてやる(「飯炊き(ままたき)」)のだった。
『伽羅先代萩』左から、一子千松=中村勘太郎、乳人政岡=中村七之助、鶴千代=中村長三郎 (C)松竹
「飯炊き」は、茶道の所作にのっとって行う難しさから、公演によってはカットされることもある。今回、七之助は玉三郎の指導のもと、このシーンに挑む。さらに本作では、松本幸四郎が高麗屋に縁の深い仁木弾正役と、その妹の八汐の2役を勤める。
大役への重圧をバネにしてか、見事に昇華する七之助、将来を一層楽しみにさせてくれる頼もしい演技の勘太郎と長三郎、そして八汐の怪演と仁木弾正の冷たい色気で圧倒する幸四郎。詳細は後日、初日レポートとともにお届けする。
納涼歌舞伎ならではのラインナップ
第一部『伽羅先代萩』の他、第二部、第三部にも出演する七之助。
「亡き三五郎のおじさまと父・勘三郎が立ち上げた納涼歌舞伎。当時は、私も学校があり出演できるのは8月のみでした。色々な方との思い出が詰まった大切な納涼歌舞伎を、またやらせていただけるのは本当にうれしく思います」とコメントした。
中村七之助
猿之助は、第二部『東海道中膝栗毛』(以下、弥次喜多)に出演。
「澤瀉屋は7月(が公演の月)でした。それが8月、ここ4年も出していただきながら、本当にここにいていいのかと思います。来年8月、僕は歌舞伎座にはいないので、第4弾まで続いた弥次喜多もこれで終わりになるのですかね。しっかりやり遂げたいです」
2020年夏は『スーパー歌舞伎Ⅱ ヤマトタケル』(IHIステージアラウンド東京)に出演する予定だ。※日程の詳細はまだ発表されていません。
市川猿之助
幸四郎は、第一部『伽羅先代萩』と『闇梅百物語』、そして第二部に出演する。
「『東海道中膝栗毛』を毎年やることができました。今回、すべてを使いきるつもりで、最後はお祭り騒ぎになればいいなと思います。大歌舞伎ではなく、納涼歌舞伎である8月の歌舞伎座。納涼らしさを皆さんに味わっていただければ」
松本幸四郎
中村扇雀は、第一部『伽羅先代萩』で栄御膳を演じる他、『闇梅百物語』にも出演する。
「亡くなった勘三郎のお兄さん、三津五郎のお兄さんと一緒に納涼歌舞伎を、最初から作っていた側で、皆さんよりも年は上です。歌舞伎座では月ごとに色々な景色がありますが、8月は特に若い子がどんどん育ってきているのを感じます。納涼歌舞伎では古典も新作もあり、お客様が本当に喜んでくださる内容です」
中村扇雀
坂東彌十郎は第二部『闇梅百物語』に出演する。
「納涼歌舞伎には特別な思いがあります。納涼歌舞伎が始まったのは、猿翁さんの元で勉強をしていた頃でした。楽屋で勘三郎さんがそのようなものを始めると聞き、いいなと思い、数年後から出させていただけるようになり、本当に勉強させていただきました。まだまだ勉強し、挑戦していくつもりでしがみついてまいります。皆さんに納涼を楽しんでいただきたい」
坂東彌十郎
市川中車は第二部の弥次喜多と、第三部『雪之丞変化』に出演。
「前回もここで囲みの取材をやらせていただき、ちょうど1年ぶり。今年は二部で染五郎さんとうちの息子の團子が、そろって出させていただきます。子どもたちがどれだけ大きくなったかを、皆さんにご覧いただく良い機会になっていると思います。三部では大和屋のお兄さま(玉三郎)が、非常に新しい試みに挑戦されています。見たことのない舞台になっていくと思います」
市川中車
さらに、質疑応答の一部を紹介する。
——中車さん、三部では一人5役、大変じゃないですか?
中車:大変です。限界を超えています。がんばります!
——七之助さん、勘太郎さん、長三郎さんとの共演はいかがですか?
七之助:自分自身、初役でいっぱいいっぱいなのですが、本日初めて歌舞伎座の舞台で初めてやり、御簾が開き、2人の顔が見えた時は父親のことを思い出し、ひさしぶりにグッときました。2人と一緒に舞台にたつのは、初舞台以来です。そして1時間弱、3人だけで芝居をします。政岡のことでいっぱいいっぱいではありますが、どこか嬉しくもあり、父がいたらどう思っていただろうなと思いながら、勤めました。
——「飯炊き」が大変だそうですね。
七之助:作法という部分では、玉三郎のおじさまに厳しく教えていただきました。見ている方は見ていらっしゃいます。茶道の手順が違うと、苦情のお電話もあるそうで。過去には「この時代に、あの窯はなかった」というお叱りを受け、玉三郎のおじさまは、自費で窯を買い、その時代にある窯を使っています。あまりにも高価な釜なので、僕はそれだけでも手が震えてしまうんです(笑)。素手で触らないようにというものを舞台上で。ダブルパンチですが、ありがたいです。玉三郎のおじさまは、そこまでストイックにやられているのですね。
——幸四郎さん、お子様へ受け継いでいくということについてはどう感じますか?
幸四郎:舞台に立つのが一番の勉強になると思います。ありがたいことに、何日も舞台ができますので、一つひとつ積み上げ、どんどん歌舞伎の戦力になって欲しいです。
——父親として、息子さんの成長をどうご覧になりますか?
幸四郎:身長は成長していますね(笑)。弥次喜多の初回から比べて、20センチ以上違うので。中身がどう伴っていっているかは……。彼は「美少年」と取り上げていただいていますが、僕も美少年と言われていたので、それもあわせて思い出していただきたいですね。
——体調管理はいかがでしょうか、最年長の彌十郎さん。
彌十郎:私か!(一同、笑)体調管理は、役者として基本的に当たり前のことです。皆さんやっていると思います。
扇雀:通常は25日間続きますが、今月は19日間。働き方改革の最中ですので、このくらいにしていただけるといいですね(笑)
——皆さんへのメッセージをお願いします。
幸四郎:今年も三部制で、納涼歌舞伎らしく、幅の広い、挑戦もある歌舞伎興行です。ぜひとも多くの方に涼みにきていただきたいですね。劇場は……涼しいので。
猿之助:外にいたら熱中症になりますからね。なんだろうね。まあ、観に来いよということですかね(一同、ふたたび爆笑)
『八月納涼歌舞伎』は、8月9日(金)~27日(火)千穐楽まで、歌舞伎座で毎日三部制で上演される。
※記事公開時、情報に誤りがありました。訂正しお詫び申し上げます。
公演情報
■日程:2019年8月9日(金)初日~8月27日(火)千穐楽
一、伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)御殿、床下
仁木弾正/八汐 幸四郎
一子千松 勘太郎
鶴千代 長三郎
荒獅子男之助 巳之助
栄御前 扇雀
三世河竹新七 作
狸 彌十郎
雪女郎 扇雀
『東海道中膝栗毛(とうかいどうちゅうひざくりげ)』松本幸四郎 市川猿之助 宙乗り相勤め申し候
十返舎一九 原作より、杉原邦生 構成、戸部和久 脚本、石川耕士 脚本、市川猿之助 脚本・演出
弥次郎兵衛 幸四郎
伊月梵太郎 染五郎
五代政之助 團子
『新版 雪之丞変化(しんぱん ゆきのじょうへんげ)』
三上於菟吉 原作、日下部太郎 脚本、坂東玉三郎 演出
中村菊之丞/土部三斎/孤軒老師/脇田一松斎/盗賊闇太郎 中車
秋空星三郎 七之助