フレデリック、オーラルらMASH A&R勢が熱演連発 『MASHROOM 2019』オフィシャルレポ到着
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『MASHROOM 2019』 撮影=ハタサトシ
2015年から行われている、MASH A&R所属のアーティストが一堂に会する年に1度のライブイベント『MASHROOM』が、今年も新木場Studio Coastで開催された。THE ORAL CIGARETTESやフレデリックを筆頭に、総勢7バンドによるタテヨコに築かれた信頼関係とライバル意識が目に見えるような白熱のアクトが繰り広げられた。以下ではFRONT STAGEとLEFT STAGEの2ステージに分かれて行われたライブの模様をレポートする。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=ハタサトシ
FRONT STAGEのトップバッターは、今年の3月に『Kisses and Kills TOUR』国内ファイナルの横浜アリーナ公演を成功させ、5月にはアジアツアー編として上海、北京、台北の3ヵ所で初のワンマンライブを行ったTHE ORAL CIGARETTES。その自信に裏打ちされるようにこの日は「接触」からスタートし、オーディエンスが生み出すモッシュに共振して雪崩のように「STARGET」、「嫌い」を次々とドロップしていく。これまでの自分達のロックバンドのメソッドから様々なジャンルの音楽を咀嚼して可能性を広げたアルバム『Kisses and Kills』を経たことで、続いた「DIP-BAP」「カンタンナコト」など、バンドサウンドがより強靭かつ柔軟にビルドアップされているのが伝わってくる。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=ハタサトシ
途中でMCを挟まないライブ進行でフロアのボルテージが常にMAXに保たれているためか、新たな必殺アンセム「BLACK MEMORY」を投下するまでが本当に一瞬のように感じた。山中拓也(Vo&G)は楽しそうにニヤリと笑みを浮かべながら、8月末にリリースされるベストアルバム『Before It’s Too Late』をも思わせるような過去から現在までを幅広く縦断したセットリストでStudio Coastをガンガンに揺らす。ラストの「PSYCHOPATH」ではまだまだ食い足りないといった様子で、底が見えない圧巻のパフォーマンスを後に続く後輩達に見せつけ、颯爽とステージを去っていった。
ユレニワ 撮影=Masanori Fujikawa
LEFT STAGEの一番手を務めたのは、昨年の12月に行われたMASH A&Rによるオーディション『MASH FIGHT! Vol.7』でグランプリを受賞したユレニワ。シロ ナカムラ(Vo&G)は初っ端から「やっと時代が俺らに追いついてきたと思うんですよ。今からやるのはユレニワの音楽であり、日本の音楽の幕開けです」と言い放ち、先輩達に臆することなく気概を見せた。その上でまずは喉の奥から絞り出したような声と切れ味の鋭いサウンドで「重罪」を、そして心の奥底に渦巻いた感情を音に乗せて解き放つように「HelloGlow」をフロアに満遍なく響き渡らせていく。
ユレニワ 撮影=Masanori Fujikawa
その後に繰り出された「缶詰」や「アパート」に顕著なように、彼らの音楽には生き急ぐような焦りをそのまま鳴らしているかのようなヒリヒリとした切迫感と、そんな日々さえも愛おしく抱きしめるような温かな優しさが違和感なく同居する。特に「バージン輿論」のAメロでの静謐なリフとサビで爆発する4人の音の温度感はそのままシームレスに繋がっていたし、先輩達への敬意も語りつつ「いい曲書いたら上にいけるか?」と獰猛に叫ぶ姿からは、ひたすらに情熱に突き動かされるロックバンドのロマンティシズムを感じられた。最後の「PLAY」が終わった頃には、このまま行けと言わんばかりにオーディエンスから拳が上げられていたのが印象的だった。
LAMP IN TERREN 撮影=ハタサトシ
続いては先日、日比谷野外音楽堂でのワンマンライブも成功させたLAMP IN TERRENが登場。昨年のMASHROOMの際は松本大(Vo&G)の声がほとんど出ない状況で、ステージをやり切るものの悔しい想いをしており(本人がMCでも語っていた通り、あのステージがひとつのきっかけとなり、その後のポリープ摘出手術につながった)、いわばこの日はリベンジライブでもあった。彼らは昨年末にリリースしたアルバム『The Naked Blues』への過程も含め、明確にそれまでの自分達自身を脱ぎ捨てて生まれ変わるべく邁進してきたが、この日のライブも「innocence」から開始後、すぐさまダークでエッジーな雰囲気の漂う新曲を放り込んできた。松本のブルージーなシャウトや完全にその場を掌握するようなステージングも含め、フロアの空気が一変し、彼らの音楽へと惹きつけられていく。
LAMP IN TERREN 撮影=ハタサトシ
さらに「凡人ダグ」から野音に向けて制作された「ホワイトライクミー」へと繋げ、バンドの最新モードを見せつけたLAMP IN TERREN。終盤の「地球儀」では密かな願望だったという松本がステージからフロアへと“人生初”ダイブを果たし、クラウドサーフを行う局面も。自分が進むべき道、歌い鳴らすべき音楽への照準が定まったことでライブの強度が明らかに増し、新たな季節の訪れを告げる幸福な光景が一面に広がっていた。ラストはMASHの仲間達に向けているであろう内容に歌詞を改変した「BABY STEP」をしっとりと歌い上げ、幕を下ろした。
YAJICO GIRL 撮影=Masanori Fujikawa
次は“Indoor Newtown Collective”を掲げるYAJICO GIRL。8月初頭にリリースされたばかりの『インドア』はそれまでのギターロック然とした作風から一転、R&Bやエレクトロをはじめ海外の現行シーンへの同時代を意識したサウンドプロダクションを獲得することによって、今後彼らが進んで行く方角が定められたかのような意欲作だった。この日のセットリストはそんな気概が表れたかのように「いえろう」以外はすべて『インドア』の収録曲で構成されていたし、バンドとして明確に次のモードに進んで行く意志を示すものであったと言えるだろう。さらに言えば「いえろう」に関しても明確に『インドア』以降のモードでリアレンジが果たされていて、その変貌ぶりが端的に彼らの進化と成長を示していたと思う。
YAJICO GIRL 撮影=Masanori Fujikawa
ブルーのライトに照らされながら四方颯人の紡ぐリリックが暗闇の静けさに溶けていくようにループしていく「NIGHTS」や、アンサンブルが徐々に壮大さを帯びていく「汽水域」然り、うだつの上がらない日々を歌いながらそこから逃避行を望むYAJICOのライブはとにかく自由だ。途中で機材トラブルに見舞われることもあったが、最後は「新生YAJICO GIRLをよろしくお願いします」という宣誓から「ニュータウン」をプレイし、大歓声で終えたステージにはハッキリと光の道筋が見えた。
Saucy Dog 撮影=ハタサトシ
BREAK TIMEを挟んで登場したのは先輩3バンドを招いて東名阪を回ったツアー『One-Step Tour』を終え、その名の通り次のステージへのスタートダッシュを切ったSaucy Dog。石原慎也(Vo&G)はツアーファイナルのZepp DiverCity公演で、たとえ自信がなくても自分を信じ曝け出すことの大切さを自分自身に言い聞かせるように語っていたが、この日のライブは実に自信に満ち溢れたアクトを熱演していた。
Saucy Dog 撮影=ハタサトシ
特に10月にリリースされるミニアルバム『ブルーピリオド』に収録予定の新曲「雀ノ欠伸」は、リズム隊のふたりに支えられた上で石原の歌唱がいつも以上に伸びやかに飛翔。続く「コンタクトケース」と「いつか」も、ゆるやかなミディアムバラードでありながらサビにかけて光が広がるように鳴らされる3ピースのアンサンブルには、彼らが手に入れた確かな自信が宿っていたように思う。初めてのMASHROOMでオープニングを務めた時の思い出も交えてMCで語られたのは、初心に帰ることができる場所としてのMASHROOMヘの想いと、ここに集まった音楽ファンに対する大きな感謝だった。その上でまだまだ自分達の殻を破っていくべく鳴らされた「グッバ」からは、彼らの果敢な挑戦心が伝わってきた。
パノラマパナマタウン 撮影=Masanori Fujikawa
LEFT STAGEを締めくくるのは、リハーサルでいきなりエアロスミスの「Walk This Way」を披露し歓声をさらったパノラマパナマタウン。岩渕想太(Vo&G)の「調子はどうだい?」という掛け声で火蓋を切ると、序盤から「ずっとマイペース」や「世界最後になる歌は」など、岩渕の放つリズミカルなラップと高速ギターリフの合わせ技を鮮やかに決め、そのままトップスピードで新曲の「HEAT ADDICTION~灼熱中毒~」へ突入する。さらに打ち込みが絶妙に効いた「月の裏側」でオーディエンスを圧倒したかと思えば、MCではMASH A&Rにかけて好きなきのこランキングを発表(ちなみに1位はなめこ。マッシュルームではないのか)、そこからフリースタイルへと移行し、「マジカルケミカル」に繋いでハンズクラップやコール&レスポンスを誘発するなど、まさにやりたい放題でユーモア溢れる彼ららしいパフォーマンスを披露した。
パノラマパナマタウン 撮影=Masanori Fujikawa
後半に入ってもペースを崩すことなく、「フカンショウ」でStudio Coastをディスコさながらのダンスフロアに変え、独壇場となったステージの真ん中で最後に歌い鳴らされたのは「めちゃめちゃ生きてる」。言葉の連打と豪快な音で爪痕を残し、ラストに控える先輩のフレデリックにバトンを託した。
フレデリック 撮影=ハタサトシ
総勢7バンドによる大集会『MASHROOM』のトリを務めたのは、来年2月に控える横浜アリーナでのワンマンライブに向けてロングツアーを敢行中のフレデリック。初っ端から「飄々とエモーション」でスケール感のあるシンガロングをフロア全体に響かせると、エレクトロポップを前面に押し出した軽快なビートの上で三原健司(Vo&G)のハイトーンがリズミカルに跳ねる「シンセンス」へ。音、歌、パフォーマンスのどれを取っても頼もしさに満ちており、彼らの10年が30分に凝縮されたような濃いライブが展開されていく。
フレデリック 撮影=ハタサトシ
フレデリックは『MASH FIGHT!』の中で唯一グランプリではなく特別賞を受賞した稀有なバンドだが、そんな彼らだからこそMASH A&Rに対する想いは大きい。「NEW ROCK NEW STANDARDがいろんな形で叶ってる、最高の事務所です」と健司が述べるとフロアからは拍手が送られた。もちろん自らもNEW STANDARDを示すべく、中盤では新曲「イマジネーション」を、さらに「トリをやる日が来たら挑戦してみたかった」と本編最終曲を新曲で締める形で「VISION」を初披露。どちらの曲もそれぞれにフレデリックの新たな引き出しを開けた楽曲で、ライブを重ねるごとにビルドアップされていく演奏含め、現在進行形で進化する自分達の音楽をきっちりと提示していた。
フレデリック 撮影=ハタサトシ
そんな圧倒的なライブをかました後、アンコールではアコースティックセットが組まれ、フレデリックをホストにこの日限りのスペシャルなセッションへ。Saucy Dog石原、パノラマパナマタウン岩渕、LAMP IN TERREN松本が呼び込まれ、それぞれ三者三様のヴォ―カリゼーションでフレデリックの曲を歌い鳴らした。最後には「オドループ」をMASH A&Rの全ヴォーカリストがマイクパスしながらオーディエンスと共に歌い踊り、全メンバーが出てきて最高のフィナーレへ。MASH A&Rに対するアーティストとファンの愛が新木場Studio Coastを包み込み、その愛の大きさに何度も感動させられるような1日だった。
『MASHROOM 2019』 撮影=Masanori Fujikawa
なお、MASH A&Rはこの7月から、新たな形態でのオーディション企画『MASH HUNT』を展開中。これまでの1年に1度の頂上決定戦型から新たな形式にモデルチェンジし、さらに多くの才能を発掘すべく、エントリーを受け付けている。毎月選出される「MASH PUSH!」もMASH HUNT公式サイトで紹介中なので、ぜひそちらもチェックしてほしい。
文=栢下 錬