Ivy to Fraudulent Game 平常心の中にある「チャレンジしないと変わっていけない」バンドの姿
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Ivy to Fraudulent Game 撮影=大橋祐希
新作をリリースする毎に、楽曲もバンドも深みを増していくIvy to Fraudulent Gameが1年9ヶ月ぶりとなるニューアルバム『完全が無い』をリリースした。世間からの注目度の上昇とは裏腹に、バンドはいたって平常心。「チャレンジしないとバンドは変わっていけない」というメンバーの言葉が象徴するように、普遍性の中に新機軸を描き出した『完全が無い』について、メンバー4人に話を訊いた。
余白がもどかしい時もあるけど、余白によって助かるというか。音楽はこんなにもこの世の中に溢れていて、必要とされている。
――バンドの特性なのか、発表してきた曲の濃密さ故か、とにかく1年9ヶ月ぶりと言いながらもまったく待たされた気がしない、ニューアルバム『完全が無い』がリリースされました。
福島由也(Dr):あぁ、俺らは曲作りが遅いから、ねっ?
寺口宣明(Vo,G):けど、なんとか2年経たずに出せました(ニッコリ)。
――1stシングル「Parallel」はバンドの一番大切なところ、2ndシングル「Memento Mori」ではポップネスや普遍性をテーマにしたとおっしゃっていましたが、2枚目のアルバムの役割や意味についてはどういう話をしていたのでしょう?
寺口:できてみたら“コンセプト的なものを感じる”って言ってもらうことが本当に多いんですが、コンセプトも話して決めたわけではなかったし、制作に取り掛かる前に、メンバーでどういうアルバムにしていくかっていうディスカッションはほとんどしてないですね。多くの曲のテーマとして“生きる”ということがとても強く出ているから、そう言っていただくのかなとは思いますけど。
Ivy to Fraudulent Game/寺口 宣明 (Gt&Vo) 撮影=大橋祐希
――そうなんですね(驚)。1曲目の「Carpe Diem」からラストの「賀歌」まで。内容はもちろん、流れも含めて作品感があるので、なんならコンセプトアルバム的に捉えていました。
福島:わりと作りながらっていうか。あらかじめゴールが決まっていたというよりは、とりあえず自由に曲を出していって、あとから自分の作った曲を見てテーマ性を見出していく、みたいなやり方だったかな。
――では、完成した11曲を改めて今聴くと、1年9ヶ月という時間、その間の自分のモードやバンドの変化など、どう感じていますか?
福島:あの時はああ思っていたなぁというよりも、Ivyの歌うことはあんまり変わらないな、毎回一緒だよなって感じがして。逆にそれがひとつのキーになっていきましたよね。自分が曲を書いていく上でのテーマに気づけたっていう。
――なるほど。今回は、いや、今回も挙げていったらキリがない魅惑的な曲たちなので、メンバーに投げてしまおうと企んでいます。この曲は新鮮だったとか、難しかったとか、単純に好きとか、思い入れの強い曲を教えてください。
カワイリョウタロウ(B):んー、これまでと違うIvyを見せられたっていう意味で、「Oh,My Graph」かな。僕らにとっても相当斬新な曲なので、聴く人はより強く違和感を覚えるかもしれないですけども、チャレンジしないとバンドって変わっていけないから。ずっと同じ曲調でいくのもまぁいいけどね、それだと自分が自分たちの曲に飽きちゃうと思うんですよ。音楽が好きだから、いつも新鮮でいたいし。そのための新しい挑戦として、「Oh,My Graph」はすごくいいきっかけになったなぁというふうに思いますね。
――この曲がアルバムに入ったのは、音楽を響かせ続ける覚悟だなと思いました。だから違和感が強ければ強いほど、新しい可能性になっていくというか、クセなるというか。
カワイ:いいフックですよね、この曲は。一気に明るくなるし。
――この曲を作られたのは、寺口さん。
寺口:はい「blue blue blue」と「Oh,My Graph」は、明るい曲も入れないとっていうことで、最後の最後に福島と1曲ずつ作った明るい曲なんです。
カワイ:(笑)。できた曲を並べて見たら、暗い曲ばっかだったっていう。このままじゃちょっと重いアルバムになるかもしれないねって言って。
寺口:だから明るい曲を目指して作り始めたんですけど、弾き語りの段階からもうめちゃくちゃポップになっていく感触があって。だったら逆に、バンドサウンドでガッツリ響かせたいなぁと思って、このカタチになった感じですね。
Ivy to Fraudulent Game/大島 知起(Gt) 撮影=大橋祐希
――そこで福島さんが作られたのが「blue blue blue」というのも、すごくいいですね。「blue blue blue」までのアタマ3曲で、これはいいアルバムに違いないって思いましたもん。
福島:うん。頑張った。
――大島さんの1曲はどうでしょう?
大島知起(G):僕が思い入れのある曲を挙げるなら、んー……「賀歌」かな……「賀歌」っすね。メロディがめちゃくちゃ好きだし、プレイでも新しいことに挑戦したりしてて、すごく思い入れがあります。
――私も大好きです。
大島:うん。本当にいいんです(喜)。
――というわけで、「賀歌」を作っていた時のことを教えてもらえますか?
福島:一番長く、ずっとやっていたかなぁ。J-POPとして成立させつつ、サウンドはハードで、ちょっとドロっとしているような。対照的じゃないけど、そういういびつさを自分の中で常に意識して作ってました。
――伝えたい人が鮮明に見えている曲であり、サウンドだなぁと感じて。福島さんのデモの時点でこの広がり感を放っていたのでしょうか?
カワイ:そうですね。だからフレーズを一つひとつ解釈していって、どういうタッチで弾いて、どういうプレイをすればもっと良くなるかなって、サウンドメイクの時点で自分の色を出すようにしていったんですけど。あとは逆に、どうしたらデモに近づくだろう?みたいに考えたりとか。デモ自体の良さもあるので、いろんな方向に試行錯誤した感じでしたね。
――完成形が見えているからこそ、より良くすることに集中できるんですね。
カワイ:そうそうそう、そういう感じです。
――歌はもう、“あなたに歌っていますよ”って目の前で言われているような、圧倒的な歌声でした。
寺口:(笑顔)すごくドラマチックですよね。アルバムの最後っていう役割も含めて、この曲自体に物語があるし、その雰囲気が声にも自然と乗ったのかなぁと思います。
――この曲の歌入れはどうだったんですか?
寺口:ほんとに好きなように歌わせてもらっていて。福島の曲って意外と1番と2番、まぁ最後は少し変わったりするけど、サビの歌詞が同じなことが多いから。だけども聴き進めるごとに同じ色ではなくて、聴いている人がワクワクドキドキするような、あるいはもっと心の奥まで入っていけるような歌を歌っていくことが、昔からの自分の課題だったので。この曲では今まで考えてきたものが出せたという手応えがあります。うん。今の自分で歌えてよかったと思う。後々、“いや、今歌ったほうがいいよ”って言うようになるだろうけれども(笑)。これまでは過去の自分の歌を聴いた時に、“綺麗に歌ってるな”って感じることが多かったんです。でも「賀歌」はちゃんと声に僕という人間が乗せられたから、課題がひとつクリアーできた気がしますし、思い描いた場所に辿り着けたアルバムかなっていうふうに思ってますね。
――だから曲によって歌声の響き方が違うし、振り幅も大きいんだけれども、どの曲からも同じ人が透けて見えてくるんですよね。
寺口:うんうん。結構その、曲によって表現が変わるっていうのは、武器であり、同時に危険であるとも思っていて。この人のリアルはどこにあるんだろう?ってなっちゃう怖さも内包しているから。でもそうやって言ってもらえると、ちゃんと伝わっているんだなって安心しますね。説得力があって、なおかつ、自由に表現を変えられていけたら最高ですもんね。
――曲を重ねてきて、アグレッシヴなバンドサウンドも、打ち込みを取り入れた鮮やかなサウンドも、どの曲にもIvy節が貫けるから、「Oh,My Graph」みたいな曲が入れられたと思っていたし。今の自分が歌えばIvyになるという確信があっての歌に感じていました。
寺口:自分たちがカッコいいと思えばそれでいいやっていう自分もいるんです。だからいろんなことをやっていいんだけど、それで薄っぺらくなったら意味がないというか。そこで一番大事になるのはやっぱり歌だから、そこはかなりシビアに考えてますね。
――そこを意識しているのと意識しないのでは、曲の伝わり方が違うのかもしれないですね。
寺口:そう。そう思うんですよね。
――あとはこう、寺口さんの曲が加わったというのは、前作との大きな違いだと思うんです。特に福島さんはプレイヤーに徹する曲が出てきたということですよね?
福島:プラスというか、6曲目の「無色の声帯」は、初の試みとしてノブ(寺口)と一緒に作ったので、それも楽しかったですね。
寺口:僕が作詞作曲で、アレンジを福島にお願いして。
福島:弾き語りのメロディの時点で想像が膨らむっていうのはすごいなぁと思って。間に合いそうだったら俺がやりたいって言って、やらせてもらって。
――作者から具体的なオーダーは何かあったんですか?
寺口:んー、福島のアレンジを聴かせてもらった時に、自分が思っていたカタチとは違ったんですけど、色は一緒だったので。そして自分が使ってほしいフレーズを全部汲んでもらって、なおかつ、自分の想像していたものとは違うもので持ってこられた時に、戸惑いといい違和感が同時に溢れてきて、“うわぁ、こうなる?!”っていう。あれは初めての感覚でしたね。自分の曲のアレンジを福島にやってもらうこと自体初めてだったから、すんごい面白かったです。
――また新しい制作のカタチができた感じですね。
寺口:そうですね。ただ、俺の明るい曲の場合、どうするかな?っていう。
福島:確かに、今回はたまたまはまったっていうことだからね。
――「Oh,My Graph」的な曲が出てきた時に。
寺口:そこはもうこれからの福ちゃんの試練だと思いますけど。
福島:フフフッ(笑)。はい、勉強しておきます。
――カワイさん、大島さんはどうでしょう? プレイヤーとして、福島さん曲と寺口さん曲で関わり方が変わったりするのでしょうか?
カワイ:まぁそうですね。まったく色が違うので、レコーディングの時点でタッチを変えたりとか、プレイを変えたりとか、そういうことは気をつけましたけど。なんか2人の曲の反作用っていうか、科学反応がこのアルバムにはものすごく出ているから、いいバランスだなぁと思いますよ。
大島:僕は作曲者が違っても、曲に対する向き合い方は一緒で。その曲をよりよくするために自分は何をするのかっていう、そこの正解を見つけているだけなので。その、あえて変えたりとかはないですね。うん。
――今の大島さんの言葉に納得してしまうのは、「無色の声帯」のアレンジも福島さんがされているから、サウンド的にはもちろんなんですけど、内容もその前の福島さん曲「無常と日」、「真理の火」と繋がっているように感じていて。しかも伝わってくるのは、以前「Memento Mori」発売時のインタビューで寺口さんが話していた“現状に慣れてしまうことに対するもどかしさや葛藤”みたいな、心の奥のほうの想いで。
寺口:そう言ってくださる方は結構いて。中盤のこのダークな部分を気に入ってくれる、すごく深いところに連れて行かれる感じがするっていうのは、自分たちもわかるし。だからこそ、最後の3曲でスカッとする感じもありますよね。
――そして「blue blue blue」や「賀歌」を聴いて、福島さん、ちょっとだけ外に出始めたのかしら?って思いました。
福島:そんなことあるかなぁ?
Ivy to Fraudulent Game/カワイリョウタロウ(Ba) 撮影=大橋祐希
――『回転する』(2017年12月発売)の取材のときに“自分はバンドを組むまで、そんなに人に興味がある人間でもなかった”って話をされてましたけど、今回の曲を聴いて、この2曲は特に、めっちゃ興味あるじゃん! すんごい優しいじゃんって感じたから。
福島:あぁ、なんかそれを認識し始めたのかな(照)。で、そこを描くことができるようになった。なんかこう、具体性があり過ぎると捉え方が狭まるんじゃないか、みたいな心配ばっかりしてたんだけど。その懸念が今はなくて、それがすべてに言えるなっていう感じ。
――根っこの部分は全然変わっていなくて。出し方とか、見せ方、響かせ方が増えた感じ。結果、それが外向きになっている。
福島:まさしく。このアルバムは特にそんなイメージですよね。
――「Carpe Diem」「Memento Mori」から始まることを考えると、道の先に死があることはわかっていて、その途中経過が詰まっている感じがするし。そういう一個の答えなんだけども、その答えにも余白があるっていう。
寺口:それが音楽のいいところかもしれないですね。余白がもどかしい時もあるけど、余白によって助かるというか。スポーツと違って、点を取ったやつが強いわけでもないし。だけども音楽はこんなにもこの世の中に溢れていて、必要とされていて。だから俺は音楽が大好きだし、それがなんか人間の美しいところかなと思ったりするんですよ。
福島:“途中経過が詰まっている”って言っていただいたけど、その経過のどの段階で聴いても自分のものとして聴けるようにするためには、余白が必要な気がしていて。だから経過段階の指定はしない、みたいな。
――タイトルからもう、『完全が無い』と言いきってますからね。
福島:自分にないものが欲しくなったりするから、理想に到達しても……っていうのはありますよね。もしかしたら常に移り変わるのが完全なのかもしれないし。
――完全が無いことを認めるのは、自分にも、相手にも優しいことのような気がしていて。完全を求めると、足りないものばかりに目がいってしまうし、言葉や視線もついつい鋭利になってしまう。完全が無いって、ちょっとした許しかもしれないなって。
福島:うんうんうん。確かに。ただ、その捉え方ってムズいですよね。開き直りになっちゃダメじゃないですか。
――あぁ、“どうせできないから”っていう。
福島:そう。だから割とシビアなタイトルだなとも思っていて。
寺口:『完全が無い』っていうタイトルを見ただけだと、あれ、どうした? 失敗作なの? で止まってしまう。けど逆に、なんでこんなタイトルを考えたんだろう? 完全が無いってことは伸び代があるってことなのかなぁ? とか、一度連想して考え始めると止まらない。『完全がない』ってなんか宇宙みたいなタイトルだよね(笑)。
福島:宇宙の外側とか、人間の起源についてとか、俺はよく考えるんだけども、そういうのに近いなぁと思ってて。なので毎回、説明をしようとするけど、できねーなぁっていう感じ。ハハハハ。ずーっと答えが出ない。
――宇宙の外側に近いとなると、答えは相当向こうにありますね(笑)。
福島:だから捉え方によってまるで違う意味合いを放つタイトルだなっていうのはあるよね。
――そこも余白なのかもしれない。
福島:どうなってるんだろう?って考える体験が、音楽をより自分のものにするというのは前から思っていて。そこに至るまで、その人の答えが出ないのはまずいけど、一回体験を挟めるくらいのものにしたい。それはもう、曲だけじゃなく、タイトルやジャケットに関しても。
Ivy to Fraudulent Game/福島 由也 (Dr) 撮影=大橋祐希
――アルバムをさらに肉体的に体験できる全国ツアーが発表されました。今回の曲がセットリストに加わったら、ライブに新たな広がりが生まれそうですよね。
カワイ:変わるでしょうね。それがすごく楽しみなんですよね。
――何か作戦とか、全体像は見えていたりするんですか?
カワイ:まだ何も考えてないね(笑)。
寺口:何も考えてないけど、1曲1曲に説得力があって、陰と陽、どっちの方向にも広がっていく曲たちなので、ライブではもっとどんよりしていいし、もっとハッピーになってもいいし。前回の『“Carpe Diem”ツアー』がかなりハッピーな方向に僕たちを連れて行ってくれたんですよね。だけどライブってそれだけじゃないから、グッとくる瞬間をいろんな感情で一緒に作っていけたらと思います。
取材・文=山本祥子 撮影=大橋祐希
リリース情報
発売中
ライブ情報
<出演ライブ情報>
09月16日(月) at 渋谷 13会場 TOKYO CALLING 2019
09月21日(土) at ヤマダグリーンドーム前橋 山人音楽祭2019
09月23日(月) at 高崎clubFLEEZ Ivy to Fraudulent Game Presents “揺れる 0.9″
09月28日(土) at 周南RISING HALL SHE’S UNION Tour 2019
09月29日(日) at 高松DIME SHE’S UNION Tour 2019
10月04日(金) at HEAVEN’S ROCK宇都宮VJ-2 PLAY GROUND ’19 -北関東ライブサーキット-
10月10日(木) at 梅田Shangli-La PELICAN FANCLUB 2MAN TOUR “Versus”
10月12日(土)・13(sun) at T.O.P.S Bitts HALL PIRATESHIP2019
10月21日(月) at 渋谷WWW X Ivy to Fraudulent Game Presents “揺れる1.0″
11月01日(金) at 高崎club FLEEZ PLAY GROUND ’19 -北関東ライブサーキット-