ハムレットの原案となった“復讐劇”、池袋演劇祭にて上演~劇団現代古典主義『スペインの悲劇~ヒエロニモの怒り~』稽古場レポート

レポート
舞台
2019.9.8
劇団現代古典主義『スペインの悲劇』稽古風景

劇団現代古典主義『スペインの悲劇』稽古風景

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第31回池袋演劇祭に参加する劇団現代古典主義の『スペインの悲劇~ヒエロニモの怒り~』が、2019年9月14日(土)~16日(月・祝)に歌舞伎町のコフレリオ新宿シアターにて上演される。昨年の同演劇祭では優秀賞を受賞。今年は2017年に上演した人気作の再演で、大賞をめざす。

「こんな劇団があったんだ!」というのが、初めて現代古典主義を観た率直な感想だ。古典戯曲を現代にもわかりやすく脚色し、70分に再構成する。「舞台上で同時に別シーンを展開する」という手法(=“同時進響劇”)を使うことで、登場人物の気持ちがシンクロし、怒濤のクライマックスへと突入していく演出はとてもエモーショナルだ。もともとは大阪で活動していたが、2015年に東京に拠点を移した。「自分たちの作品を上演する場を持ちたい」と、都内に自分たちのアトリエを持ち活動する意欲的な劇団である。

『スペインの悲劇』稽古(劇団のアトリエにて)

『スペインの悲劇』稽古(劇団のアトリエにて)

『スペインの悲劇』は、イギリスの劇作家トマス・キッドにより1587年に初演された。この芝居の大ヒットにより“復讐劇”が大流行!シェイクスピア『ハムレット』の原案となったともいわれる。『ハムレット』に近いさまざまな要素がちりばめられている。亡霊が復讐をうながしたり、劇中劇が登場したり、剣による決闘があったり、登場人物の名前までも似ているものがあり、「ああ、そうかも!」と頷ける。

<あらすじ>
16世紀スペイン。世界最大の植民地帝国として隆盛を極めた黄金時代。ポルトガル支配の成功にファンファーレが響く中、華やかな劇中劇で幕が上がる。しかし宮廷には不穏な空気を垂れ込める……。一介の司法役人ヒエロニモが、息子ホレイショーの遺体を発見したのだ!息子が殺害された理由もわからず、ヒエロニモは哀しみと怒りに震え、宮廷内にいるはずの殺人者へ復讐心を募らせる。そしてたった一人で、暗闇を手探りするように、国家利益のために手段を選ばないスペイン王族たちに立ち向かう。原作は50人以上が登場し、3時間をこえるが、それを大胆に再構成。物語の芯は変わらず、登場人物13人が入り乱れる怒濤の70分芝居に仕上げている。
 
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本劇団は稽古を公開しているので、見学することもできる。今回はその稽古のようすを少しお届けしたい。



演出の夏目桐利は「もっとテンポよく」「そこの足取りは早く」「ポン、ポン、ポン、というリズムで」と振り付けをするように全体のリズム感を重視する。さらに、「もっと低く鋭い声を出して」など、セリフの音程を音楽のように調整していく。リズムと音が組み合わさって、まるでダンスのようだ。

そこに、俳優達が「熱」をのせていく。復讐に燃えるヒエロニモ、最愛の息子を亡くして悲嘆に暮れる母親、秘めた恋に燃え上がる恋人達、野心に燃える男……それぞれの想いが“同時進響劇”によって重なる。さらにテンポのよい演出と、情熱的な演技で、どんどん熱気が高まっていく。その勢いは、物語を『観る』というより『体感する』という感覚に近い。

とくにフェンシングのシーンは緊迫感が増す。剣を握り、汗を滴らせ、声を絞り出すヒエロニモ(大西輝卓)と、対立する王族のロレンゾ(樽谷佳典)。交わされる剣のリズムに重なるように、繰り出されるセリフ。動きと言葉の相乗効果で、2人の心の揺れや、強い想いが伝わってくる。殺陣の基礎的な動きはプロのフェンシング指導者に教わったそうで、リアリティのある闘いのシーンは凛々しく、火花が散りそうな勢いがある。その熱気に拍車をかけるように、ソデで見守るほかの出演者や、演出の夏目の真剣な視線が突き刺さる。

9月の池袋演劇祭では再演となる。しかし、前回は客席20席弱で、俳優の息づかいが耳元で聞こえるような濃厚な空間での上演だった。今回は120席以上の劇場用につくりなおしていく。

「2017年の初演ではなかった兵隊の役を増やしました。静かな劇場にカツーン…カツーン…と兵隊の足音が響くことで、息を潜めるような空気をつくりたい」(演出:夏目)そのため稽古場では時間をかけて『足音のつくり方』にこだわっている。石畳に響く靴音を表現するため、ブーツのかかとに石を挟んだり、床にベニヤ板を敷いてみたりと試行錯誤を重ねている。夏目は「吉と出るか凶と出るか。むしろ演技の稽古よりも時間をかけているのでは」と笑う。

臨場感と、加速していく演出。「古典」と聞くと尻込みしてしまう人もいるかもしれないが、劇団独自の脚色を加え、現代の人達にもっと伝わるように再構成されている。とくに今作『スペインの悲劇』は「大切な人が誰かによって奪われた」ことに焦点を当て、家族や恋人の愛という普遍的な想いが描かれている。

「今の人にはどうすれば観やすいか、と考えています。古典の面白さって「そんな無茶な!」という物語展開にもあると思うんですが、展開についていけないと馴染めないので、それをまろやかにしたいんです」(夏目)

取材・文=河野桃子

公演情報

劇団現代古典主義
The 4th floor series vol.3
『スペインの悲劇~ヒエロニモの怒り~』
THE SPANISH TRAGEDY

 

 
■原作:トマス・キッド(スペイン1558~1594)
■脚色:夏目桐利
■日程:2019年9月14日(金)~16日(日)
※5ステージ
※開場・受付は開演の30分前より
■会場:コフレリオ新宿シアター(東京都新宿区歌舞伎町2-15-3新宿KSビル1F)
■料金:前売4,000円 当日4,200円
■上演時間:70分
■公式サイト:http://www.modernclassicism.site/
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