藤井フミヤ、奥田民生、槇原敬之ら京都に集結 『chidoriya rocks 70th』が体現した“祭り”の精神
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chidoriya rocks 70th 撮影=Maria Golomidova
chidoriya rocks 70th 2019.8.27 ロームシアター京都
こんな時代だからこそ“祭り”と平和の祈りを絶やさない――。
昨年に引き続き、そんな言葉とともに始まった『chidoriya rocks 70th』は、京都の歴史と伝統を象徴する舞妓・芸妓のパフォーマンスと、同イベントの音楽プロデュースを手がける屋敷豪太によるプロジェクトが表すアバンギャルドなアート性、そして時代を超えて愛されるロックとポップスの名曲とが融合を果たしたライブイベントだ。他に類を見ない珍しい組み合わせであることは間違いないが、フェスティバル=祭りが本来五穀豊穣や平和や健康を願う催しであり、音楽が付き物であること、その地域に根ざした文化や風土を色濃く反映するものであることを考えると、このイベントは本質的な意味で正しく「音楽フェスティバル」だと言える。2019年8月27日、あいにくの空模様とはなったが、大きな熱気に包まれたライブの模様を振り返っていこう。
宮川町舞妓・芸妓 撮影=Maria Golomidova
宮川町舞妓・芸妓 撮影=Maria Golomidova
開演時刻を過ぎ、幕が上がると舞妓・芸妓によるパフォーマンスが始まった。小唄と三味線、鼓、篠笛による演奏に合わせ舞う姿は品が良く可憐で、時折舞台をトンと踏む音と、シャンシャンという涼やかな鈴の音が風流だ。よくよく観ていると、舞妓たちによる「わしが在所」は軽やかでポップ、芸妓2人による「萩桔梗」は艶やかで演技の成分が多めだったりと、演目によって曲のテイストや舞のニュアンスが結構違うのも面白い。後半、気前が良くて男前で、オツな小唄も歌えるようなお方はいないか?というような歌をきっかけに、登場したのは和装の槇原敬之。ちょっとコミカルにも映る“旦那はん”スタイルに客席は大いに沸くが、ただの演出ではなく、そのまま小唄を披露することに。小唄の先生のところまで行って練習したというその歌声は、普段より若干コブシが多めだが、もともと抜けの良い高音が持ち味の槇原だけに、お見事!という仕上がりになっていた。
宮川町舞妓・芸妓 撮影=Daisuke_Hirano
DUBFORCE 撮影=Maria Golomidova
DUBFORCE 撮影=Daisuke_Hirano
槇原が拍手に送られながらステージを去り、芸妓による次なる演奏が始まると、そこへ次第にドラムやパーカッションの音が混ざっていき、やがて背後の幕が上がる。そこにはDUBFORCEの面々がスタンバイしていた。屋敷がドラムを担当するほか、會田茂一(Gt)をはじめとする腕利き揃いのバンド・DUBFORCEの音楽性は、その名の通りレゲエから派生したダブというジャンルのそれで、ギター、ベース、ドラムのほかにホーン隊やパーカッションまで加わった大所帯によって、深いリバーブがかかったり電子音が混じったサウンドを生でミックスしながら演奏するものだ。そこへさらに即興性の非常に高い、いとうせいこうによる散文的なリーディングが乗る。……と書くと非常に難解なものに思えるが、展開にサビ感がありちゃんとギターソロなんかもあるので、存外キャッチーである。普段は歌ものの音楽中心に触れている観客も多かったはずだが、曲間はじっと食い入るように見つめながら、曲が途切れるとワァっと拍手が起こるなど、反応は上々。
DUBFORCE 撮影=Daisuke_Hirano
DUBFORCE 撮影=Daisuke_Hirano
DUBFORCE 撮影=Maria Golomidova
冒頭に田中正造の言葉<真の文明は、山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし>を引用して始まった「Dub Fire」では、途中ギターを弾きながら奥田民生が登場。歓声が起こる中で淡々と長尺のプレイを繰り出して、そのままステージから去っていくという演出に沸き、「Messeage to you Rudy」では今度は藤井フミヤがブルースハープを鳴らしながらステージに登場してこれまた大きな盛り上がりを生んだ。「Kyoto Dub」でのイベントの精神を象徴する祈りの言葉をはじめ、いとうのリーディングは曲を追うごとに熱を帯びていく。ときに椅子から立ち上がったり叫ぶように声を発する姿は、アジテーターのようでもコンダクターのようでもある。リズム楽器の一つとしても捉えられるようなグルーヴ感とともに紡がれる彼の言葉は、自然や人の生といった我々の根源的なあり方の提示と、それに逆行する時代へ一石を投じるもので、バンドの紡ぐサウンドも含め、新感覚の音楽体験とレベル・ミュージックの真髄を見せてくれた。
DUBFORCE 撮影=Maria Golomidova
DUBFORCE 撮影=Daisuke_Hirano
DUBFORCE 撮影=Daisuke_Hirano
15分ほどの休憩時間を挟むと、いよいよ豪華な3人のボーカリスト達の登場だ。第2部は、屋敷がドラマーかつバンマスを務めるハウスバンドの演奏をバックに、槇原敬之、奥田民生、藤井フミヤがそれぞれの楽曲を披露していく時間となった。今年で50歳の槇原が一番若いという、間違いなくベテラン達によるステージではあるものの、三者三様にパワフルでスリリングな歌唱やステージングは、全く年齢を感じさせない。同時に、若手には出せない余裕や円熟味まで持ち合わせているときたら、場内至る所から黄色い声が飛び交うほどの熱狂もやむなしだろう。
槇原敬之 撮影=Maria Golomidova
槇原敬之 撮影=Daisuke_Hirano
第2部冒頭、平和を願う黙祷のあとステージに現れた槇原のライブは、「太陽」から。アコギの音色とともに、軽やかに発せられるのとは裏腹に豊かな声量の美声をじっくりと堪能していると、やがてクラップとともに演奏も客席も弾み出す。続く「僕が一番欲しかったもの」でその開放感や祝祭感はさらに増し、まるでゴスペルの様相を呈していく。跳ねるピアノの音色や、槇原が巧みに投げかけるコール&レスポンスに全身を委ねていく感覚は実に楽しい。
槇原敬之 撮影=Maria Golomidova
槇原敬之 撮影=Maria Golomidova
先ほどの舞妓・芸妓たちとのコラボは「普段のツアー中にも浪曲みたいなのを歌っているから」という、屋敷からの提案だったことがMCで明かされたあと、普遍的でどこかノスタルジックなメロディをラテンパーカッションを交えたアレンジで届けたのは、名曲「遠く遠く」。DUBFORCEのホーン隊を呼び込んでの演奏となった「京都慕情」のカバーは、昭和歌謡のテイスト満載で。キメポイントで繰り出す波形の大きくハッキリしたビブラート、歌い終わりにオフマイクで「ありがとうございました」の口の動きをしながらお辞儀をする、など当時を知る者ならニヤリとするツボをノリノリで突いてくるエンターテイナー・マッキーは、ラストを誰もが知る「どんなときも。」で締めくくり、このままイベントが終わっても大満足!というほどの空気を生み出した。が、もちろんまだまだ『chidoriya rocks 70th』は続く。
槇原敬之 撮影=Maria Golomidova
槇原敬之 撮影=Daisuke_Hirano
奥田民生 撮影=Daisuke_Hirano
2人目の奥田民生は「久しぶりですけどね、この曲」と前置いてから、1曲目へ。流れ出したイントロに狂喜するオーディエンス。「愛のために」だ。もう25年も前の、民生のソロ2作目のシングル曲ではあるのだが、コシのあるロッキンサウンドは威力抜群。槇原もフミヤもそうだが、下手するとこの曲の歌詞に出てくる“おっさん”を超える年齢になってもなお、第一線に立ち続ける姿には本当に恐れ入る。「イージュー☆ライダー」は当時30歳になったことを受けて制作された(「イージュー」は「E=ドレミのミ」が3番目であることから「30」の意味がある)という話から「オクターブジュー」=「80」を目指そう、という話を屋敷と民生がしていたが、このぶんだと全然ありえそうな気がする。
奥田民生 撮影=Daisuke_Hirano
奥田民生 撮影=Maria Golomidova
奥田民生 撮影=Daisuke_Hirano
昨年の『chidoriya rocks 69th』出演時にはツェッペリンの「Rock and Roll」を本意気でカバーして盛り上げてくれた民生は、今回もカバー曲としてビートルズの「COME TOGETHER」を披露して、ロックボーカリストとしてもギタリストとしても本領を発揮。原曲どおりのビートの質感を出すべく、手ぬぐいをドラムの打面に敷いてミュートした屋敷のプレイも見事だった。ラストの「嵐の海」ではソロ中にフミヤが登場して2人でのパフォーマンスとなり、そのままライブは次の局面へと進む。
藤井フミヤ 撮影=Daisuke_Hirano
藤井フミヤ 撮影=Daisuke_Hirano
藤井フミヤは冒頭から惜しみなく代表曲「True Love」を披露。ビターな甘さを含んだ歌声が、シンプルながら奥深いメロディラインを優しくなぞり会場全体を酔わせていく。この曲を演奏するために持ち込んだという真壁陽平の12弦ギターが鳴らすクリーンな調べもいい。最新アルバムからの「ラブレター」は、3拍子のリズムに乗せじっくりと。槇原とホーン隊を呼び込んでの「着メロ」は槇原が作詞・作曲を手掛けた楽曲だが、これまでテレビで一度一緒にやったくらいで、ライブでは初のコラボとのこと。贅沢なハーモニーを存分に響かせただけでなく、間奏ではフミヤと槇原による社交ダンスの振り付けまで飛び出すなど大盛り上がりとなった。
藤井フミヤ 撮影=Daisuke_Hirano
藤井フミヤ 撮影=Daisuke_Hirano
本人曰く「昭和と平成の匂いがプンプンするオッさん3人」の中でも最年長のフミヤだが、動きのキレは随一だ。ジャズダンスやバレエのエッセンスを取り込んだ舞いを織り交ぜたり、高々と前蹴りを入れたり、マイクスタンドを自在に操ったりと、“パフォーマンス”というより文字通り“アクション”と呼ぶに相応しい。そんな攻めの姿勢が一層冴えを見せた後半戦は、ネオンのように刺激的な照明のもと届けた「女神(エロス)」、そこから繋いだジャズやファンクを飲み込んだ「NANA」と、どんどんボルテージを上げながらのド派手な展開。フミヤの醸し出す華と色気を存分に堪能することができた。
藤井フミヤ 撮影=Maria Golomidova
chidoriya rocks 70th 撮影=Daisuke_Hirano
chidoriya rocks 70th 撮影=Daisuke_Hirano
鳴り止まない手拍子とアンコールの声に応え、再び幕が上がると、舞妓・芸妓たちの姿、そして背後には金屏風が置かれており、「去年から恒例になりました」(屋敷)という舞妓遊び「とらとら」の時間が始まった。「とらとら」は、屏風で隔てた両サイドに分かれて踊った後、ジャンケンの要領で三すくみになった3種類のポーズから一つを選んで前に進み、屏風の向こうから出てきた相手と雌雄を決する、というもの。
chidoriya rocks 70th 撮影=Daisuke_Hirano
chidoriya rocks 70th 撮影=Daisuke_Hirano
chidoriya rocks 70th 撮影=Daisuke_Hirano
芸妓さんを相手に、槇原、いとうせいこう、民生が次々に挑むも、なんと全敗。罰ゲームとして一芸を披露することになった槇原が、和田アキ子「あの鐘を鳴らすのはあなた」をモノマネすると、いとうもそれに続き、民生に至ってはAメロから熱唱するというサービスぶりで、本編とは違った意味で大盛り上がりに。最後はボーカリスト3人がマイクをつなぎながらの「ありがとう」(井上陽水・奥田民生)で締め、ハッピーでピースフルな“祭り”の空気が完成したところで、名残惜しくもお開きとなった。
chidoriya rocks 70th 撮影=Maria Golomidova
chidoriya rocks 70th 撮影=Daisuke_Hirano
chidoriya rocks 70th 撮影=Daisuke_Hirano
昨年は京都ちどりやが69(ロック)周年、今回はキリよく70周年ということで2年連続の開催となった『chidoriya rocks』は、本来定期的に開催されるイベントではない。だが、この日屋敷の口から「毎年やっていきたい」という言葉も飛び出していたことだし、是非とも恒例のものとして根付いてほしいと思う。1000年以上前から日本を象徴する都市である京都とその伝統芸能。かつて“輸入”されて独自の進化を遂げてきたジャパニーズ・ロック。それらを、京都出身で長らくイギリスに住み、いまは再び京都に住む屋敷がプロデュースしたこのイベントは、やはり他に全く類を見ないものだ。グローバルとローカルをうまく融合・共存させていくことが求められる時代、カルチャー面でそれを担う象徴としても『chidoriya rocks』の存在はとても意義深い。
取材・文=風間大洋 撮影=Daisuke_Hirano、Maria Golomidova
chidoriya rocks 70th 撮影=Maria Golomidova
chidoriya rocks 70th 撮影=Daisuke_Hirano