元「劇団日本維新派」のメンバーが主体となり、“再生”を掲げ表現活動を始動! 「RIP」の第3回公演がまもなく名古屋で

2019.10.16
インタビュー
舞台

会場となる特設地下劇場にて。『W2X(World War X)』の出演者。左から・俳優&美術の永澤こうじ、RIP代表&仮設工事の山下義彦、俳優のフルカワタカシ、俳優の篠田ヱイジ

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1970年に松本雄吉が「劇団日本維新派」として旗揚げし(’87年「維新派」と改称)、松本の他界により2017年に惜しまれつつ解散するまで、風景をも巻き添えにした美しくダイナミックな野外劇で多くの観客を魅了してきた「維新派」。その初期、1980年代に所属していた山下義彦ら、アラ還世代の元メンバーが中心となって結成された「RIP/Re-incarnation Project」の名古屋公演『W2X(World War X)』が、まもなく2019年10月19日(土)の1日限りで名古屋・伏見の「特設地下劇場 GARAGE HALL」にて上演される。

表現形態に応じ、1名から30名超のメンバーで構成される「RIP」は、2017年10月にSNS上で起動。以降、駅前広場や歩道橋、ガード下連絡通路といった路上に於いて、即興で繰り広げる、演劇でも舞踏でもダンスでもない特異な身体表現によるリハーサルを重ね、2018年5月に東京・青山にて第1回公演『CUTーUP/分断ー接合』を、同年10月には大阪・阿倍野にて第2回公演『MishーMash/集結ー混合』を上演した。

前回公演より  撮影:秋久秀雄

東京、大阪に続き、今回名古屋で行われる第3回公演では、昨年の大阪公演から加入したフルカワタカシ(1990年代に「維新派」に所属)も出演。長きに渡って閉ざされてきた地下空間を舞台に、「RIP」の座付きオーケストラであるダブバンド「VEXATION SOUL」の爆音と、フィジカルパフォーマンス、インスタレーションが交錯するスペクタクルなライブを展開するという。

「劇団日本維新派」を退団後、実に40年以上も表現活動から離れていたという山下が、なぜ「RIP」を立ち上げることになり、どのような思いのもと活動を行うのか、また来年には神戸の「横尾忠則現代美術館」での公演も控えているという「RIP」の今後の活動についても、山下とフルカワの両者に話を伺った。

『W2X(World War X)』チラシ表

── 「RIP」は2017年に結成され、昨年には東京と大阪で公演を行ったということですが、そもそもどういった経緯で立ち上げられたのでしょうか。

山下 自分でもよくわからない話で、維新派を辞めてから東京に行ってサラリーマンをしていて、40年ぐらい何もやっていなかったんですよ。2016年に松本(雄吉)さんが亡くなりましたけど、その前に共通の友人が亡くなって、「一周忌をやるんでそろそろ顔を出さないか」と周りから言われまして、久しぶりに松本さんにお会いしたんです。それから数年経って亡くなられた時、周りで「追悼の芝居みたいなことをやりたい」と企画する人がいたんです。ところがそれが頓挫したので、「じゃあ俺がやるよ」と調子に乗って言ったんですね。松本さんへの追善の思いや、その頃、ちょうど娘が勤めを辞めてニューヨークに行くことになったのでエールの気持ちもあったし、還暦を迎えた年であったり、個人的にはいろいろな思いがあって。

とりあえず同じ時期に維新派に所属していた大阪の仲間を呼んで、「やるか」と。それで友達がやっているライブハウスを借りて、せっかくだから東京にいる高校時代の同級生とか、全く芝居をやったことのない奴にも声を掛けて。狭い店でステージがあるわけでもないですしグチャグチャだったけど、出た人が喜んでくれたんですね。見に来た人はだいたい、「なんだかわからない、クレイジーだ」と。ただまぁ、喜んではくれていたんでしょう。それで、何十年も芝居をやっていなかった仲間たちが、「面白かった! じゃあ次は大阪でやろうか」と。それで大阪でも上演したんですが、元々の本拠地なんで、松本さんと同世代で一緒に維新派を始めたという大先輩が見に来られて。僕はすごく怖かったんですよ、何を言われるかなと。ところがね、喜んだんです。「でかした」というような言葉をいただいて。それで当たらずとも遠からずというか、エエカッコした奴の精神性というのか矜持というか、僕らの考えている志は共有できたかな、という思いはありました。

── 元・維新派の方は、山下さんと同じ1980年代に在籍されていた方が中心なんですね。

山下 そうですね。松本さんは一世代上なので、当時僕らは二十歳前後で、いま舞踏をやっている荒木菫さんとか、その当時はまだ所属していなかった若浦(宗八)君とか。彼はそれから維新派の中心的なメンバーになっていくんですけど、そういう相前後した人たちです。

── フルカワさんは、最初の公演の時点でお声掛けしたんですか?

山下 いや、まだ知らなかったよね。

フルカワ 歳が10歳違うので全然交流はなくて。

──フルカワさんは同じ時期に在籍されていたわけではないんですね。

フルカワ 維新派には1989年に入って90年代後半に辞めてるんで。古い世代の方も結構知ってはいるんですけど、全然会うことはなくて。

山下 僕は東京に行ってから、全くみんなと交流していなかったんだよ。ただ、こそーっと『少年街』(1991年に東京・汐留で上演)とか『青空』(1995年に東京・法政大学で上演)とかは観ていて、印象的だったのは『少年街』とかのポスター。維新派がビジュアル的にすごくポップになっていった時期で、役者たちが美少年と言われていた。その中心だったのがフルカワみたいで、「あの頃いたのがフルカワだよ」と聞いたことはありましたけど、維新派の舞台を観ていて誰が誰かなんて、よっぽど親しくなければわからないですから(笑)。

── では、フルカワさんは何がきっかけでRIPに参加することに?

フルカワ 東京公演のあと、6月に松本さんの3回忌の集まりが大阪であって、東京公演に出たメンバーの人から「大阪出えへんか?」と言われて。もう芝居とかする生活を全然考えていなかったんですけど、「当日パッと来て、適当にやって終わってくれたらいいから」という軽い誘われ方だったので、復活というのも考えていなかったんですよ。たまたま「松本さんを偲ぶ会」で誘われたので、これも松本さんに遊ばれてるのかな、とOKして。それで舞台に立って、やっぱりブランクあるからあかんな、と思ったり気持ち悪いことがあったら辞めたらいいし、楽しかったら続けたらいいや、という軽い気持ちで。

── 稽古はなかったんですか?

フルカワ ないんです。歩道橋とかそういうところではやったんですけど。

山下 ちょうどその頃、みんな久しぶりに会うもんですからどんなもんかなぁと思って、大阪の京橋の駅前広場で演習みたいなことをやったんですね。ビニールを使ってみたり、ひっくり返ったり、そんなことを繰り返す中で、フルカワはやっぱり長いこと舞台に立っていた人なので、まぁサマになるわけですよ、悔しいけどね。簡単にやりやがって、みたいな(笑)。

フルカワ その時は何も言ってくれないんですよ(笑)。

路上演習の様子  撮影:秋久秀雄

── フルカワさんもパフォーマンスを行うのは久々だったんですか?

フルカワ そうですね。22年ぶりだったんですよね。

山下 彼らの頃はかなり緻密なリハをやっていたと思うんですけど、僕らがやっていたことは劇場を作るのが精一杯で、本当にね、ぶっつけです。即興で何かをやるというより、舞台で立っているだけで。それでもやっぱり見れるんですよね。そのことにはある意味自信があって、大丈夫だという感覚はあるんです。ただ、どうせやるんだったら、もっと激しかったり、もっと透明だったりするものを見せたいなと思いますね。

フルカワ 山下さんたちの世代の頃は自分の身体さえあれば成立するような作り方で、そういう世界を垣間見てみたいな、というのもあって誘いに乗った感じもあります。

山下 大阪公演は参加して面白かった?

フルカワ 面白かったですね。振り返ってみて何をやったかというのは覚えていないんですよ、ほとんど。客観的にどう見えたか、というところまでは冷静になれていないんですけど気持ち良かった。上の世代の人にも僕ら世代の人にも下の世代でも、面白いという反応はありましたね。実際、密に会って「次はどうしよう」というのは、この大阪公演が終わってからでしたよね。

山下 芝居に限らず、互いに興味を持っていることをいろいろ話すと、ある程度同じようなセンスというか共鳴するようなところがある。それは他のメンバーもそれぞれあると思うんです。僕自身は、自分がやりたくないことは見たくないとか、見たいことをやりたい、というのがあって、お芝居やダンスを見てると眠たくなる性癖があるもんですから、そうじゃないことを探している、というのはあると思います。実際できるかどうかは別の話として、同年代の人も亡くなったり、あまり時間もないので、恥ずかしがり屋なもんですから今までなかなか手が出せなかったことをやっていこうかなと。

── そういった、同じ志を持った方が集まったんですね。

山下 いや、みんなあんまり考えてないです(笑)。ただ、「山下とかフルカワがどこか場所を作ったら、乗ってやるか」という大らかさはあると思います。

フルカワ 言葉は通じやすいですよね。

山下 そうね、説明する必要はないっていう。「RIP」という名前を付けたのは、昔「化身塾」というのを維新派がやっていたんです。堺に小さな稽古場を作って、そこで連続公演を毎月やっていたんですけど(1982~83年。第7回公演は後に、『阿呆船 さかしまの巡礼』のタイトルでドキュメンタリー映画化された)、化身は英語でincanationですね。Reはもう一回。Re-incarnation自体は輪廻転生みたいな意味で、とりあえず何か集団の名前を付けなきゃいけないので仮称のつもりでいたんだけど(笑)。その略称でRIP(リップ)と付けたんですが、本当はアール・アイ・ピーの方が好きなんです。どこかの反政府集団みたいな感じで(笑)。あと、RIPってあの意味もあるでしょ?

フルカワ 「rest in peace(安らかに眠れ)」。

山下 あれもなんか嫌だなぁと思いつつ、ところがそれもまたハマってきたようなところがある。毎回、路上の稽古を見に来てくれていた人や維新派の元メンバーが亡くなったりということもあるので、それはそれでいいのかな。それで再生みたいなことを考えていて、自分自身も辞めていた表現をもう1回やることや、仲間うちの関係性みたいなものとか、演劇の再生といったらたいそうだけど、少なくともまた違ったことをやっていこうかなと。まさに今回のメンバーなんか、年寄りばっかりで廃棄物みたいなもんだから、まぁ人間再生ですね。

前回公演より  撮影:秋久秀雄

── 作品としては、長谷剛史さんが原作を手掛けられている。

山下 言い出しっぺが長谷君なんですよ。実は松本さんが亡くなった時に、玉置(稔)さんとか落ち込んでいたので、「元気づけるために芝居をやろう」というのが発端なんです。それで長谷はイメージを書いていったんですけど、僕はポエムは芝居にならないと思っていて、叙情よりも叙事かなと。ホメロスみたいな世界をね(笑)。

── 今作『『W2X(World War X)』は、どんな作品なんでしょうか。

山下 本当は第三次世界大戦で話をしていたんですけど、あまりにも生々しいので〈未来の戦争〉がテーマです。叙情の話じゃないですけど、芝居とか表現というのは、どこかからフワーッと湧いてくるようなものだと思っていたんですよ。ところが今思うのは、自分がいる環境に感化されて反映していくものというか。そうすると一番生々しく感じているのは、第三次世界大戦の戦前が始まっているんだろうな、と。あんまり声高に言うと面倒くさい奴だと思われるけど(笑)。ただ、それはみんな感じていることだろうと思うし、なんとなく伝わればいいなと思う。

── 全体の演出や統括については、山下さんがされるわけですね。

山下 はい。僕しかやる人がいないので。片付けも僕がやります(笑)。

── 会場選びから。

山下 会場選びは今回、大変でしたね。大阪でも「劇場じゃない場所でやりたい」というんで大阪のメンバーに相当いろいろ回ってもらったんですよ。廃園になった「奈良ドリームランド」は使えないかとか、廃墟みたいなビルとかあたってもらったんですけど、現実的にはなかななか難しい。

フルカワ キャバレーっていうのもありましたね。碁会所とか。

山下 碁会所もいいところまでいったんだけど、そこがもう商売替えされるということで。5階建てぐらいのレジャービルなんですよ。碁会所と将棋を指すところ、ビリヤード場と、1階がタバコ屋の面白いビルで、「じゃあそこに上から下までお客さんを入れて、移動しながら芝居をして、始発から終電までやろう」と企画が決まったんだけど、「貸せなくなりました」と言われて、紆余曲折を経て、いわゆる貸しホールでやりましたね。

── では今回の地下劇場は、理想的な空間ですか?

山下 はい。初めて来た時に「ここでやりたい」と思いました。元はゴミの山みたいな感じのところだったんですよ。埃がいっぱい溜まっていて。それで一週間ぐらいかけて物を分別して、水を使いたいなと思って水道管を繋いだり。廃傘みたいなものをみんなで振るシーンがあるんですが、水を流して雨のような中でそれをやろうと思って。

── その辺りはオーナーさんからもOKが?

山下 はい、「自由にやってください」と。オーナーさんにしてみたら、ここがまた使えて人が集まれるような機会になればいいな、というお考えがあるでしょうし、僕らとしても大きな劇場で大掛かりな排水設備とか作らない限り、なかなか普通はこんなこと出来ない。

前回公演より  撮影:秋久秀雄

── 来年は「横尾忠則現代美術館」でも上演を予定されているとか。

フルカワ 『FURUKAWA FOR SALE』(1995年・96年にフルカワ主演、天野天街演出により大阪・名古屋で上演)に関わっていた子が、たまたま「横尾忠則現代美術館」にスタッフで入っているんですよ。それで今作っている「RIP」の写真資料を、その子経由で「横尾さんに一回見てもらわれへんかな」というのを思った時に、いや、美術館でやりたいなと。天井も高いし、「RIP」のメンバーもみんな現代美術が好きだったりするので。

山下 現代美術も好きだし、横尾さんというのは僕らの世代だとスターですよね。憧れの人だしこれをきっかけに会いたい、というのは個人的な話ですけど、世の中で演劇を観に行く人はものすごく限られているので、演劇を観る人ではない人に会いたいな、と思うんですよ。面白がってくれる人というかね。

フルカワ それで美術館のスタッフの方に例の資料を見てもらったら、「面白いね」という話になって。まだきちんとしたプレゼンはやっていないんですけど、実現の方向に向けては進んでいます。

── それは楽しみですね。美術館公演以降も、継続的に活動を続けていくご予定ですか?

山下 初めはね、やめようと思ったんです。金銭的には結構大変で、始めた頃はちょうど退職した頃でちょっとだけ退職金が出たのでやれたんですけど、さすがにその後も同じ様にはできないなと思って。路上でもなんでもいいから、お客さんからの投げ銭とかでやろう、というのが始まりだったのでその原点に帰ろうと思っていたんですが、どうもいろいろ面白くなりそうなんで、来年は東京、大阪、神戸、名古屋と4大都市公演をやろうと。さぁみんな、どこまでついて来られるかな(笑)。来年はほんと、ライブハウスでもやろうと。バンドみたいな感じで。

── 音楽も構成要素の大きなポイントになっているんですよね。

山下 「VEXATION SOUL」というバンドに参加してもらっています。世界的なミュージシャンの山塚アイが「ハナタラシ」というハードコア・パンクバンドをやっていて、そこに参加していた竹谷郁夫さんと僕が、維新派に入る前にバンドをやっていたんですね。彼はずっと絵描きでもあって、維新派の劇場で絵を描いたり膨大な作品も残っているんですけど、2年ぐらい前に亡くなったんです。そういう付き合いがあって、竹谷さんがリーダーを務めていた「VERMILION SANDS」というハードコアダブオーケストラのメンバーが結成したのが「VEXATION SOUL」です。前回は、それぞれシーンに「渚のスキャット」とか「スパイダーブルース」とか適当にタイトルを書いたのに、その曲を全部作ってくれたんだよね。「RIPのテーマ」というのもあるもんですから、今回もそれで始まって、それで終わるという。どうよ!って(笑)。

取材・文=望月勝美

公演情報

RIP/Re-incarnation Project『W2X(World War X)』

■原作:長谷剛史(元「臥龍社)
■脚本・演出・出演:玉置稔(「北浜座」 元「劇団日本維新派」「臥龍社」他)
■演出・出演:山下義彦(仮設工事 元「極東少年団」「劇団日本維新派」)
■出演:荒木菫(舞踏家「スミレ座」 元「劇団日本維新派」)、フルカワタカシ(俳優 元「維新派」)、若浦宗八(パンク歌手・俳優 「もはや慈悲なし」「回る犬」 元「劇団日本維新派」「幻実劇場」他)、茨木童子(俳優 元「未知座小劇場」「空中庭園」)、山下明彦(歌手「ガラバンチ」「ZAZA」 元「ダンステリア」)、森岡陸雄(設備工事 元「未知座小劇場」「劇団日本維新派」)、津曲純浩(俳優 元「劇団日本維新派」)、永澤こうじ(俳優・美術 元「劇団日本維新派」「少年王者舘」、喜多不二男(シェフ・デザイン)、栃下亮(俳優 元「維新派」)、運天政明(僧侶 「TARIKI ECHO」)、アラスカミツ(歌手) 名古屋ゲスト/いちじくじゅん(俳優「てんぷくプロ」)、玉川裕士(俳優「幻想美術館」主宰 「パズル星団」)、渡部剛己(演出家「体現帝国」主宰 元「演劇実験室◉万有引力」)、篠田ヱイジ(俳優「少年王者舘」)

 
■日時:2019年10月19日(土)17:00
■会場:特設地下劇場 GARAGE HALL(名古屋市中区栄1-23-30 G/pit 地下2階)
■料金:前売3,000円 当日3,500円
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「伏見」駅下車、⑦番出口から南へ徒歩6分
■問い合わせ:infoonrip@gmail.com 永澤 090-2773-3729
■公式Twitter:https://twitter.com/incarnationrip
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