ダンサー・振付家の北村明子による最新作『梁塵の歌』は、アジアでのリサーチと創作を重ねた「Cross Transit project」の4年間のたわわなる実り
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「梁塵の歌」稽古より 撮影:大洞博靖
振付家・ダンサーの北村明子がアジアを旅して伝統舞踊、音楽、儀礼、武術などをリサーチし創作を行う「Cross Transit プロジェクト」が最終章を迎える。
「Cross Transit プロジェクト」は、北村明子が2016年に始動。表現形式や文化、国籍、言語の違いを超え、土地ごとの音楽や身体の所作に受け継(トランジット)がれている「種」を融合(クロス)させ、「未来のアジア」として開花させるというシリーズだ。
2018年10月「土の脈」公演より 撮影:大洞博靖
2018年10月「土の脈」公演より 撮影:大洞博靖
2014年11月に北村がカンボジア、ミャンマーに滞在したのをきっかけに、いくつかの国をめぐり、そこで出会ったアーティストや文化からインスピレーションを受け、「記憶」「廃墟」「身体」をキーワードに、『Cross Transit』(2016)、Cross Transit『vox soil』(2018)、Cross Transit『土の脈』(2018)と、歴史の流れや場所を横断する作品を生み出してきた。迎えたシリーズ最新作は『梁塵の歌(りょうじんのうた)』(10月25日〜27日、シアタートラムにて)。
「梁塵」とは、素晴らしい歌声が梁(はり)の上の塵(ちり)をも動かしたという中国の故事に由来する言葉。漢代に虞公(ぐこう)という歌の名人が歌うと、梁の上の塵まで動いたという歌のうまいことをほめるたとえとして使われる。
今作『梁塵の歌』では、前作『土の脈』に続きインド北東部マニプール州より作曲家・音楽家のマヤンランバム・マンガンサナをドラマトゥルクに招へい。そしてインドネシアのダンサーのルルク・アリ、シリーズを支え続けてきた日本のダンサー、クリエイターチームと一丸となって、Cross Transit 東南〜南アジア編の4年にわたるシリーズの総括となる作品となる。
「梁塵の歌」稽古より 撮影:大洞博靖
撮影:大洞博靖 「梁塵の歌」稽古より
北村明子のコメントを紹介する。
2016年にこのプロジェクトが始動してから、あっという間の4年間。昨年の公演から1年間離れ離れだった面々とも、SNSやFacebookといった現代のコミュニケーションツールのおかげで、毎日どんなふうに過ごしていたかを互いになんとなく知っています。久しぶりに会うのに、旅に出ていた同朋が帰ってきたような気持ちで再会し、最終仕上げの稽古が始まりました。まるでちょっとした共同体のようです。
この段階の稽古では、いつも魔法のような化学反応が起こります。あれこれ悩んだ産みの苦しみも、生身の身体がぶつかり合い、ライブで歌声を聴きながら笑いの絶えない時間を共有する中で、挑むべく課題へと変化していきます。異なる考え方から共に分かち合う喜びを、毎日実感しています。
今回の作品は4年間のプロジェクトの集大成となります。
クリエーションメンバーたちと、どこの国ともつかない荒野で再会し、ひとつひとつ対話をはじめ、記憶や体験、アイデアを混ぜ合わせて凝縮していく。そんな創作プロセスを重ねています。
忘れがたく残る歴史の傷跡。
踏むという行為に込めた祈りの念。
体内から発せられる声の震えとエネルギーは、言語を超えて身体をめぐるバイブレーションへと変容し、それぞれの土地と身体の記憶に捧げる哀悼、そして祝祭へと私たちを導いていきます。
4年の時をかけて歩んできた「Cross Transit project」東南~南アジア編の集大成。異文化、言語を超えた身体同士の対話=グルーヴィーなダンスと音楽の時空間、『梁塵の歌』をぜひ体験しに来てください!
「梁塵の歌」稽古より 撮影:大洞博靖
文・構成:いまいこういち
公演情報