児玉麻里(ピアノ)ベートーヴェンは「演奏するたび新しい気づき」 『東芝グランドコンサート2020』でスウェーデン名門オケと共演
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(C)sho kato
海外の著名オーケストラと指揮者、豪華ソリストらの共演で毎年、話題を集める東芝グランドコンサート。39回目となる2020年はスウェーデンの名門エーテボリ交響楽団と同楽団の首席指揮者を務める北欧の若き俊英、サントゥ=マティアス・ロウヴァリが登場。ソリストに難関の「ハノーファー国際コンクール」で2009年に史上最年少で優勝を果たした三浦文彰(ヴァイオリン)と欧州を拠点に世界中で演奏活動を展開する児玉麻里(ピアノ)を迎えた2種類のプログラムで、全国の主要ホールを縦断する。
児玉麻里はプログラムBに出演しベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番を演奏予定。これまでにピアノ・ソナタとピアノ協奏曲の全曲録音を完遂し、ベートーヴェンのスペシャリストとしても名高い彼女にお話を伺った。
ーーエーテボリ交響楽団は、かつてご主人のケント・ナガノさんが首席客演指揮者兼芸術顧問を務められていた(2013~2017年)ことでも知られています。児玉さんも共演経験がありますね。
3年前にスウェーデンの作曲家で、20世紀初頭に同交響楽団の音楽監督も務めていたらしいヴィルヘルム・ステンハンマルの書いたピアノ協奏曲を主人の指揮で一緒に演奏した時に、とても素晴らしいオーケストラだと感じました。そもそもエーテボリの街自体がとても素敵でしたね。北海に面した港町で気候も温暖、欧州に対して文化的にオープンで開放的な雰囲気。私が好きなコペンハーゲンやハンブルクとも共通する明るさと活気に溢れていましたし、人々は皆、物静かだけれど内に情熱を秘めているようなタイプが多い印象。それらがみんなオーケストラにもそっくりそのまま当てはまるのです。とても和気あいあいとして、アットホーム。気の合う仲間たちで集まったアンサンブル、といった感じでした。
(C)sho kato
ーーロウヴァリさんは1985年生まれながら、既にベルリン・フィルを始めとする世界のトップ・オーケストラの数々と共演を果たしている若手の最注目株。2021年にはエサ=ペッカ・サロネンさんの後任としてフィルハーモニア管弦楽団の首席指揮者に就任することも決まっています。
まだ共演したことがないのですが、本当に良い噂しか聞きません(笑)。録音を聴いたことがありますが、かなり魅力的な演奏でした。来年2月の日本公演を前に、エーテボリとは違う街で同じプログラムを演奏することになっていて、それを今からとても待ち遠しく思っています。
ーー今回の「東芝グランドコンサート」で児玉さんが演奏されるのはベートーヴェンの有名な5つの協奏曲のうち、最初に書き上げられたとされている第2番ですね。
第2番はなぜか日本では演奏される機会が少ないようですが、私にとってはとても想い入れのある作品です。5つの協奏曲はそれぞれキャラクターが違うことが魅力だと思うのですが、特に第2番は若くて理想に溢れた青年ベートーヴェンらしい、元気いっぱいで、夢もいっぱい、そしてとても男性的で力強い協奏曲だと思います。皆さんが一般的にイメージされる、険しい表情でご機嫌斜めのベートーヴェンとはまた違って、爽やさもある。しかも最初に完成させた協奏曲なのに未熟さが微塵もなく、完璧な作品に仕上がっているところもさすがベートーヴェンといったかんじで大好きなのです。
ーー第2番を演奏する上でのポイントを教えて下さい。
やはりタイミングをぴったり合わせることが大切ですね。オーケストラと少しでもズレてしまうとすべてが台無しになる。そのあたりを理解されている指揮者の方がご一緒だと、まるで室内楽のような親密な空気が生まれて、お互いのやりとりも凄く楽しくなります。
(C)sho kato
ーーこれまでベートーヴェンのピアノ・ソナタとピアノ協奏曲の全曲録音を完遂し、その作品を知り尽くされている児玉さんですが、今でも新しい発見がありますか?
はい、もちろんです! 演奏するたびに新しいことに気づかされます。あらためてピアノ・ソナタ32曲それぞれに違う個性があり、ひとつも駄作がないところに驚かされます。そしてピアノ協奏曲に関して、以前は重厚でどことなくとっつきにくいイメージを抱いていたのですが、師であるアルフレッド・ブレンデルのところに主人と一緒に伺って1番から5番までレクチャーを受けた結果、視点が変わってその姿がはっきりと見えるようになったと思います。ブレンデルには21歳の頃にも師事していて、その時は演奏家としての心と身体のバランス感覚から、演奏を空間的に把握してホールの隅々まで音を伝えるコツ、時間をコントロールする術などを学びました。それらは今でも私にとって大事な財産になっています。そしてベートーヴェンの協奏曲が持つユーモラスな側面について教えてくれたのも彼でした。ブレンデル自身もウディ・アレンの映画を愛する、ユーモアのある人柄ですが、彼の話を聞いてからベートーヴェンのことが随分と身近に感じられるようになりました。
ーーでは最後に今回の「東芝グランドコンサート2020」を楽しむコツを教えて下さい。
難しく考える必要なんてないんです。とにかくクラシックを聴き慣れた方も初めての方も、皆さんが楽しめる公演です。エーテボリ交響楽団がスウェーデン文化の素敵な香りを日本に届けて下さるはず…ご期待下さい!
取材・文=東端哲也