青木涼子(能アーティスト) “謡”を新しい“音楽”にするチャレンジ
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青木涼子 ©Hiroaki Seo
日本の能を現代音楽の分野で展開するアーティスト、青木涼子。能と音楽のコラボレーションというと、能の「舞」の要素が着目されがちだが、能は舞と謡(うたい)が一体になった歌舞劇。青木は「謡」をクローズアップして、新しい芸術を模索しつづけてきた。
「演劇界では、鈴木忠志さんやピーター・ブルックといった演出家たちが、能にインスパイアされた新しい舞台を創っています。でも音楽では、音に舞を合わせるようなものばかり。謡の部分を新しい音楽にしていかなければと考えました。邦楽器のための現代音楽はたくさんあるのに、能のために書かれた作品はほとんどない。音楽構造が違いすぎるんです。私たちはピッチ(音程)も要求されないし、リズムも、西洋音楽の基準で計ってしまうとアバウトに見えてしまう」
直接のきっかけは2007年に湯浅譲二の《雪は降る》(1972)という、謡と室内楽の作品の復活上演に参加したことだった。
「初演では、謡の部分が録音だったそうなので、本当の意味でのアンサンブルとは言えなかったと思いますが、謡を音楽として扱った作品はおそらく初めてで、『この方向で突き詰めていけば』というヒントになりました」
作曲家・細川俊夫の協力を得て、世界の作曲家に新作を委嘱した。今年、文化庁から「文化交流使」に任命され、ヨーロッパで現代作曲家のための「公開プレゼン」も実施している。そんな取り組みの中から、「能の新作」ではなく、青木の声を素材にした新しい音楽が生まれている。
12月のHakuju Hallでの公演では、前半にイタリア、ギリシャ、キプロスの3人の作曲家の作品を演奏する。そして今回の目玉が、馬場法子作曲の能オペラ《葵上》。『源氏物語』によるモノオペラだ。気鋭のファッション・デザイナー山縣良和が衣裳を手がける。
「来春パリで世界初演を予定している1時間弱の作品から20分ほどを抜粋して演奏します。馬場さんとは2作目で、前作でも私が扇を開く所作などまで楽譜に指示があったのですが、今回はさらに、衣裳に音が鳴る仕掛けを仕込んで、それを鳴らす動作も含めてスコアに書かれています。たとえば袖を擦ると“シャッ”と音が出るとか。山縣さんはとてもオープンな方で、楽しんでいろんな案を出してくれました」
謡だけでなく所作も伴うことで、青木の目指す「能と音楽の融合」がまた一歩進んだ形で実現することになりそうだ。パフォーミング・アートの面白さは、百聞は一見に如かず。五感の刺激に身をゆだねたい人は必修。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年11月号から)
第3回 アート×アート×アート 能×現代音楽×ファッション 《Nopera AOI 葵上》
12/14(月)19:00
Hakuju Hall
問合せ:Hakuju Hall
https://www.hakujuhall.jp