若きクリエイターが日本のミュージカル界に一石を投じる『(愛おしき)ボクの時代』稽古場レポート

2019.11.8
レポート
舞台

画像を全て表示(11件)


非常に実験的な日本発のミュージカル『(愛おしき)ボクの時代』が、2019年11月〜12月に東京・DDD青山クロスシアターで上演される。“実験的”としたのは、本公演の前に2度のプレビュー公演を行い、作品を段階的に修正していくことを前提としたトライアウト公演であること。そして、日本では稀なスウィング制度(一人が複数の役に代われるよう常にスタンバイする代役制度)を導入することにある。

そんな前代未聞の公演に挑むのは、未来の日本のミュージカル界を担うであろう若きクリエイター陣だ。脚本・演出は俳優としても活躍中の西川大貴、音楽はジャズピアニストの桑原あい、振り付けは加賀谷一肇。さらに、彼らをバックアップし世界に通用する作品にするべく、日本でも『ミス・サイゴン』や『ゴースト』の演出を手掛けてきたダレン・ヤップがスーパーバイジング・ディレクターとして参画する。

開幕まで残り約2週間という追い込みのタイミングで、熱の込もった創作現場を覗かせてもらった。

稽古場には総勢30名程だろうか、キャストとスタッフが所狭しと動き回っていた。これから始まる稽古に備えてストレッチをする者、発声練習をする者、タップダンスを踏む者、台本を読み返す者、小道具をセットする者、共演者と話し込む者……いずれも和気あいあいとした空気が感じられる。

西川大貴

いざ稽古開始時間になると、直前まで別室でインタビューを受けていた脚本・演出の西川が駆け込むように登場。「おはようございます!」と明るい声を上げると、一斉に稽古場内の全視線が西川へと向けられた。西川は当日の稽古の流れを伝えたあと、1ヶ月公演を乗り切るための喉のケアや声の出し方等のアドバイスを続けた。ミュージカルは声が命。季節柄、喉を守るためにマスク姿の人が目立った。

この日は立ち稽古が始まって間もない時期。まずは劇中の1シーンを通して確認する作業が行われた。ピアノの伴奏をきっかけに、とある家族のやり取りが始まる。


1シーンが終わると、「素晴らしいと思います!」と西川が一言。緊張の糸が切れたようにキャストの表情が少し緩んだ。ホッとしたのも束の間、西川と加賀谷がキャストたちに身振り手振りを混じえてアドバイスをする。皆、真剣な表情で意見を聞き、その場で動きを確認し合う様子が伺えた。


加賀谷一肇(左)と西川大貴(右)

物語の舞台は令和元年の日本。満員電車に揺られるサラリーマンの戸越が、出張で伊豆へと向かう。不思議な少年に誘われ、たどり着いた場所は奇妙なパラレルワールドだった。周りに流されるままに、戸越はあれよあれよと旅に出ることになる。今の日本のリアルとファンタジー世界が織り交ぜられたストーリーだ。

稽古中には、武士、天狗、サル、なまはげ、カピバラさん、きび団子ガールズといった一風変わった役名が飛び交っていた。きっとパラレルワールドの登場人物なのだろう。

続く立ち稽古では西川が中心となり、10名程のキャストの動きを付ける作業が続いた。正直、稽古場を一番動き回っていたのはキャストではなく、演出の西川だったのではないだろうか。台本の束を手に握りしめ、思考を止めずにひたすら動きをつけていく。

舞台上での立ち位置、上手下手の出入りのタイミング、照明や音のイメージなど、西川の頭の中で構築されたものが一つひとつ口頭でキャストに伝えられていく。実際に動いてみることで問題が見つかることもある。その場で動線を再考する。1秒たりとも稽古が止まることはない。キャストもスタッフも、ものすごい集中力だ。

西川からキャストに意見を求めることもあれば、キャスト自らが意見を出すこともあった。一連のやり取りを見ていると、キャスト同士、そしてキャストとスタッフ、カンパニー全員が互いにフラットな関係なのだということが見て取れる。皆が対等に、ただひたすら”良い作品を作る”という目標に向かっていた。

熱の入った一連の稽古の様子を、後方席から静かに、そしてどこか楽しげに見つめる人がいた。スーパーバイジング・ディレクターのダレン・ヤップだ。稽古の途中、ダレンからカンパニー全員に向けて話す貴重な時間が設けられた。そのときのコメントを一部抜粋して紹介する。

ダレンはまず、今回のトライアウト公演はあくまでもプロセスであるということを念押しした。
「トライアウトは完成度の高い美しい舞台を作るためではなく、より良い作品を作るための公演だ。作品は常に変化していかなければならない。たとえプレビュー公演の幕が開いても、それは完成ではない。作品の変化についていける柔軟性のある人たちに、こうして集まってもらっている。オリジナルキャストとして胸を張ってほしい」

ダレン・ヤップ(右)

ミュージカルを知り尽くしているダレンならではのアドバイスもあった。
「(桑原)あいが作った曲はすごく良い。だからこそ、観客に“良い曲だな”と思われてスイッチを切られてしまう危険が潜んでいる。ミュージカルは音楽だけでなく、ストーリーを伝える必要があるんだ。キャッチーでポップで心地いい曲だからこそ、歌う役者はその曲に頼ってはいけない」

その場にいた誰しもが、ダレンの言葉を一言一句受け止め、自分の中に落とし込んでいく。

「本当はこのまま明日まで語り続けたいくらいだけど、大貴が演出したいだろうから……」というダレンの本音に、西川が思わず苦笑する場面も見られた。


最後に、ダレンは日々試行錯誤を続けるカンパニーを勇気づける言葉を残した。
「変化の結果、良い作品が生まれるということを僕は知っている。例えば『ミス・サイゴン』や『レ・ミゼラブル』の名曲の中には、最後のプレビュー公演から追加された曲もある。作品作りの過程で何度もいろんなことを試すのは、決してダメだからではない。試したものの中で一番良いものを探しているだけなんだ。良い作品ができてきているのだから、自信を持って。何より、大貴という素晴らしいリーダーがいるのだから安心してほしい」

1stプレビュー公演は11月15日(金)〜11月18日(月)、2ndプレビュー公演は11月23日(土・祝)~11月26日(火)、本公演は11月30日(土)~12月15日(日)に上演される予定だ。座席数180という密な空間のDDD青山クロスシアターで、未来へ向けた一大プロジェクトを見守ってほしい。

取材・文・撮影 = 松村蘭(らんねえ)

公演情報

ミュージカル『(愛おしき)ボクの時代』
 
脚本・演出:西川大貴
音楽:桑原あい
振付:加賀谷一肇
スーパーバイジング・ディレクター:ダレン・ヤップ
 
出演 : 天羽尚吾/猪俣三四郎/上田亜希子/梅田彩佳/岡村さやか/奥村優希/
風間由次郎/加藤梨里香/塩口量平/四宮吏桜/関根麻帆/寺町有美子/
橋本彩花/深瀬友梨/溝口悟光/宮島朋宏/吉田要士 (※五十音順)
※スウィング制度により出演者変更の可能性があります。詳しくは公式HPをご覧ください。
 
会場:DDD青山クロスシアター(渋谷区渋谷1-3-3ヒューリック青山第2ビル B1F)
日程:
2019年11月15日(金)~18日(月) 1stプレビュー公演
​2019年11月23日(土・祝)~26日(火) 2ndプレビュー公演
​2019年11月30日(土)~12月15日(日) 本公演
 
料金:1stプレビュー公演 3,500円 2ndプレビュー公演 4,500円
本公演:6,000円(全席指定・税込・未就学児入場不可)
 
・サポーターズシート(11/30~12/15の本公演のみ取扱い) 10,000円
本プロジェクトを支援して下さる方へ向けた料金設定です。
通常料金との差額は、本プロジェクトの活動資金とさせていただきます。
サポーターとなって頂ける方へは、お座席の優待ほか、特典をご用意しております。※詳細は公式HPをご覧ください。
・プレビュー・本公演W(1st or 2ndプレビューいずれか1公演+本公演1公演) 9,000円
・U28(28歳以下対象、11/30~12/15の本公演のみ取扱い) 4,500円
 
WEBサイト https://www.bokunojidai.com/
 
公式ツイッター @musical_aiboku ハッシュタグ#愛ボク
お問合せ スペース:03-3234-9999
企画・主催:シーエイティプロデュース
  • イープラス
  • かららん
  • 若きクリエイターが日本のミュージカル界に一石を投じる『(愛おしき)ボクの時代』稽古場レポート