情熱のフラミンゴ『オー・プラネテス〜汝はどこにいる〜』島村和秀×飯田芳×Coffインタビュー
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撮影/玉井美世子
2019年11月21日(木)より東京・五反田のアトリエヘリコプターにて、情熱のフラミンゴの『オー・プラネテス〜汝はどこにいる〜』が上演される。1年半ぶりの新作の舞台となるのは、美容整形シュミレーションアプリを開発した会社の船上パーティー。古代ギリシアの詩人・ホメーロスの長編叙事詩『オデュッセイア』を原案に、今の時代にフォーカスした独自の視点で、1人の男の1日とその巡礼を描く。去る9月にはワークインプログレス公演と銘打ち、本公演に向けるクリエーションの過程が発表され、話題を呼んだ。脚本・演出を手掛ける主宰の島村和秀と主演の飯田芳、さらに、本作のために劇中歌を書きおろす音楽・演奏のCoffを交え、本作について話を聞いた。インタビュー後には、稽古場にも潜入。キャスト陣の意気込みもレポートする。
左からCoff、飯田芳、島村和秀 撮影/玉井美世子
—— 飯田さんと島村さんの出会いは大学だとか。過去には一緒の作品に出演されたりもあったんですよね? 今回の出演の経緯は?
島村 僕が浪人して入学して、飯田さんが先輩という立ち位置だったんですけど、飯田さんが留年して、同期になったんです(笑)。仲が深まったのは、森岡龍監督の『ニュータウンの青春』という映画で共演してからかな。
飯田 そうだね。懐かしい。
—— 飯田さんは、多くの映像作品でキャリアを積んでこられましたよね。演劇というジャンルに新たに挑戦したいという気持ちはずっとあったのですか?
飯田 いや、演劇とか映画とかは関係なく、その時の気持ちで。演技を始めたのが大学の時だったから、その初心というか、楽しかった気持ちを思い出したり、もう一度新しい気持ちで向かいたいなという想いが今は強いですね。内容うんぬんじゃなく、島村の演劇というだけで、理由には十分だった。
島村 作品はどうですか? オデュセイア感とかつかめてきましたか?
飯田 オデュッセイア感は、現状ではまだ掴みきれてはないかな。主人公の青木が色んな人に出会ったり、その中を漂う感じはなんとなくリンクしているんだけど。これから理解を深めて、最後にはキレッキレにしたい。
島村 飯田さんって、なんというか、常に裏切りがある人。何をしでかすかわからない未知の面白さを秘めていて…。「一発芸どうぞ!」って振られた時って、だいたい変な緊張感出ちゃうんですけど、飯田さんはその“何かをやるまでの苦悩”にも見応えがある人。
飯田 そう思ってたんだ(笑)
島村 今回演じてもらう青木という役は、右に行くか左に行くか、“苦渋の決断をしないまま苦渋だけしてるような男”なんです。どんな青木を演じてくれるか楽しみですね。
—— 本格的な音楽の挿入も情熱のフラミングでは初の試みですよね。Coffさんへのお声掛けはどういう流れだったんでしょうか?
Coff 交流はあったんですよね。僕が前にいた「どついたるねん」というバンドと一緒に演劇をやったり、イベントに呼んでくれたり…。
島村 僕が、純粋にCoffのファンなんですよ。僕はアメリカ文学が好きなんですけど、彼の音楽のルーツにもアメリカがあって。前に打ち合わせの時に「Coffの音楽ってどんな音楽?」ってきいたら、「スウィートでグルーヴィーな音楽」って。かっこいいー!それやってほしい!って。そんな流れです。
撮影/玉井美世子
—— 劇中歌の作曲はどうですか? いろいろ制作過程も違うのかなと思うのですが。
Coff 一緒に演劇をやった時は、バンドマンではあるけど俳優という立場だったから、今回は演劇を客観的にみて、そこに効果的な音をはめるっていう全く違う演劇への視点が必要だなと。
島村 そうだよね。
Coff 曲の作り方においても、今までにはなかった楽しさや、やりがいを見出しはじめていて、すごく面白いです。初対面の人もいるから現場ではドキドキしてますが。
島村 僕も結構シャイなんだけど、Coffはもっとシャイだよね。シャイ同士集まっちゃって、最初はコミュニケーションが難しかったね(笑)。今はすごくいい感じ。
—— 何か、仲が深まるきっかけがあったんでしょうか?
島村 やっぱり、ワークインプログレス公演っていう一つのハードルをクリアしたこと。全体にも言えることだけど。あれを経たことで、Coffの音楽のいいところをどうやったら劇に出せるかもわかった気がします。
Coff そうですね。最初はしまむーが台本をくれて、その要所要所に、<こんな感じの曲作ってみて>って注釈が入っていて、それに合わせて曲を作ってたんです。でも。ワークインを経てコミュニケーションが取れるようになってから、僕の音楽についてもすごくよくわかってくれて。引き出そうとしてくれてるなっていうのは感じますね。
島村 そこまで行くのにワークインがすごく必要だった。
Coff シャイはシャイでも、「打ち解ければなんでもできる」っていう類のシャイなんです。それもわかりました(笑)。
飯田 Coffの音楽、めちゃくちゃかっこいい。ラップも歌うしね。今はまだどこにどんな曲が入るかわからないけど、これからの稽古が楽しみですね。
ワークインプログレス公演で演奏するCoff
—— 島村さんは、人を巻き込むのが上手というイメージがあります。「浮ク基地」というターミナルを拠点に、音楽やお笑いも交えたイベントを展開したり、幅広い活動が印象的です。
島村 そうですね。演劇の人だけで集まらないようにしようっていうのは心がけています。
Coff 何かを作っていくことにおいて、巻き込む力ってすごく大事ですよね。なかなかできないことだから。あれ、飯田さんが突然いなくなった…。
(飯田さん、背後で撮影準備をしているカメラマンの前で着替え出し、突如ポーズを決めだす)
島村 ああいうところです! ああいう風に、何しでかすか分からないキテレツさがあるんです。
<一同爆笑>
—— 制作過程を見られることってあまりないから、ワークインプログレス公演は、観る側にとってもすごくいい機会でした。ワークインを経て気づいたことや変化させたことは?
島村 僕は、宮城聡さんの「SPAC」がすごく好きで影響を受けてるんです。音楽つけようって思ったのもその影響。それを自分たちらしくできないかなって。あと、母親が人形劇やっていたこともあって、ムーバーとスピーカーに分かれるっていう手法にもずっと興味があったり…。
—— なるほど。新たな試みの実践の場という感じだったのですね。
島村 そういうものに挑戦してみたいという気持ちで、ワークインプログレスではソリッドな人形劇っぽい感じにしました。でも、自分の良さがそこにはないってことに気づいたんです。そのソリッドさよりも、むしろ会話劇や物語性に自分の特性があるんじゃないかって気づいたというか。そういう意味でもやってよかった。
飯田 ワークインから、演出もぐっと変わったもんね。
Coff 曲の印象も、それに応じて変わると思います。
島村 そうだね。ワークインをやって、変化が生まれたことと、1つのグルーヴ感が出来たのが何より良かった。全然違うものにはなると思うけど、新しい試みも要素として残してはいます。動きのノイズを少なくしたり、体だけ動かす人とセリフだけ当てる人と分かれている役が1人だけいたり…。宮城さんにも観に来てもらえたら嬉しいなあ…。ヘナチョコですけど(笑)。
撮影/玉井美世子
—— 今回は劇中の詩や文学の引用も見どころの一つになりそうですね。
島村 すごく意識して挿入しています。世の中の動きがすごく早くて、毎日のニュースが劇的で。物語に強度を感じなくなっていて。そういう世相も踏まえて、詩や文学をオマージュしたり、その力を借りることで文学的な逃避というか、自分らしい居心地良さを作品に出せないかと考えました。
飯田 挿入されている詩とかは、「カズカズ(島村)がいいって思ったものなんだな」ってくらいで、まだそこまでまだ共有できてない。でも、その引用すべてを同じ尺度で共有できなくてもいいんじゃないかなって。『オー・プラネテス〜汝はどこにいる〜』という作品の大切な部分を理解できれば、自ずとついてくるかなって。
島村 お話自体は、すごくシンプルなんですよ。船に乗って家に帰るっていう。主人公も、原案のオデュッセイアの主人公とは真逆。ただ、原案のメタファーにしている人物はたくさんいて、家に帰るという構図も一緒。「そもそも家ってなんだろう」っていうのが、今回の主題になるかな。
飯田 物語は、あるショッキングな出来事から始まります。青木は、そのことがあって、常に錯乱状態にいる男。その錯乱感をとにかく追求して出せたらと思っています。どうやるかって理屈じゃないというか、絶対理屈にしたくない部分があって。
島村 なるほどね。
飯田 僕、演劇って怖くて。いろんな人が見にくるし、いろんな人があれはこう、あれはあれだって理屈付けるから。でも、僕は今回ほぼ1発目だから、そういうものから逃れて、思いっきりキレッキレの存在でいたい。
島村 原案の主人公は英雄なんです。青木自体は、ポンコツな人間なんだけど、どこかカリスマ性があるというか。飯田さんの持つ、人がついて行きたくなるような不思議な力というか、そういう本人の度量みたいなものがリンクするんじゃないかな
—— 他のキャスト陣の様子や、全体を通した手応えとしてはどうでしたか?
飯田 みなさん、それぞれ魅力的です。中でも、兵藤公美さんや望月志津子さんは、いい意味で演技のあり方を教えてくれている感じがあります。「ああ、こうやって読むんだ」「こんな柔らかく言葉と付き合えるんだ」って。縛られていなくて、すごく勉強になります。
島村 半分ちょっと通してみたら、すごくよかった。飯田さんを中心に、みんながどこにいっていいかわからなくて彷徨っている。そういう世界が見事にできていて。その中に、嘘みたいに詩があって、Coffの音楽が響いていて。
Coff 作品が稽古の度に変化するように、僕がイメージする曲もこれから本番までに変わって、アレンジされていくのかなって思いますね。
島村 そうだね。Coffの音楽のあり方がやっとわかった気がしてる。彼の音楽は、1つのループするトラックを、楽器を増やしたり減らしたりしてどうやって展開を見せるかなんです。AメロBメロみたいな分かりやすい展開はしないけど。
—— 演劇的ですね。
島村 そうなんです。メインになる楽曲を作ってもらって、そっから生演奏入れたり、逆にビートだけしか入れなかったり…。抜き差しして劇にハマるようなものを作っていこうかって。
Coff それがついこの間決まったんです。少し時間はかかったけど、スッキリしました。ワークインの時は、そこまで至らなくて、とにかくいろんな音楽を入れたので。
撮影/玉井美世子
—— 今から少し稽古も見せていただけるそうですが、今日はどういう部分をメインに行うのでしょうか?
島村 僕、
飯田 カズカズは、厳しくは言わないし、優しいよね。でも、役者に対して「考えてみてください」っていうスタイルは常に強く持ってる。
島村 結局舞台にいるのは俳優だし、俳優が自立していないと強度がなくなっちゃう。なので、俳優に委ねながら、僕はその意図が成立してるかしてないかを判断するっていう立ち位置かなと思っています。
飯田 今回は出ないもんね。
島村 出ないです。なんか、悪目立ちしちゃうんで。でかくて…。
飯田 ああ、でかいよね。
Coff うん。
島村 なんだよ、その締め方!
◼︎情熱のフラミンゴ『オー・プラネテス〜汝はどこにいる〜』稽古場レポート
稽古では、主に2つのシーンが重点的に行われた。島村流ウォームアップの後、何度もセリフの足し引きや、入念な演出を加えながら、限られた時間目一杯に同シーンが繰り返された。その様子をレポートする。
会話に走る緊張と、そこに生まれる距離感を追って
1つは、男女が過去の出来事とある人物について会話を交わすシーンだ。2人の間柄は謎に包まれているが、男が女にどこか詰問されているようにも見える。
兵藤公美(青年団)
立て続けに質問を投げかける中で、その問いかけ方や男との距離感、答えを待つ間の表情を絶妙に変容させていく。時に誘導するように、また時に何かを願うようでもある。
小出水賢一郎
肩をすくめたり、視線を上下させたりと、女の様子に綿密に呼応した動きを見せるのは、男・中谷を演じる小出水賢一郎。質問と答えというシンプルな構造だからこそ、互いの細かいリアクションやそこに生まれる間がそのまま人間関係と紐付き、シーンそのものの印象を作っている。
「“緊張”の状態をもう少し考えたい」島村の演出がすかさず入る。座ってみたり、立ってみたり。食い気味のするか、引き気味にするか。
「去っていくときに、もう少し音を立てましょうか」「もうちょっと、顔を近づけたり離れたりするのがわかりやすくてもいいかも」
リアクションにおける緩急を追求する様子に会話劇の核を見る。
「顔を近づけた時に、あからさまに嫌な顔をするっていうのはやりすぎですかね?」
「そういう生理現象が見え隠れするのは、良い気がしますね」
俳優の疑問や提案を積極的に取り入れながら、何度も変化をさせる。
「いいですね!」「そのくらいオーバーな感じ、面白いです」
「動きにスピード感も足してやってみましょう」
変化の好感触を伝えながらも、足してみたい演出にも挑戦する。その後別のシーンにうつっても、俳優間の個別稽古が続いた。最もしっくり来る、会話の緊張感と人間の距離感を探る作業だ。
「ゆくゆくは“近づく”と“離れる”みたいなことに、遊びのような面白みを足していけたらいいね」
俳優間での話し合いでは、ポジティブな展望が垣間見られ、稽古の実りを感じさせられる一幕だった。稽古はもう一つのシーンに移る。
「リアル」な瞬間を追求して
左からMIKI the FLOPPY、秋場清之、飯田芳
このシーンは、「夕焼けがきれいですね」という一言から始まる。島村曰く「作品全体において重要な役割を担う場面」だという。沈む陽を前に、3人の男女が何気なく、それでいながら意味深な言葉を交わす詩的なシーンだ。
「明日着く島が誰にも知られないピカピカの新しい島だったらいいと思わない?」自分の人生観を織り交ぜながら、女に話しかける男・中尾を演じるのは情熱のフラミンゴの秋場清之。ラッパーとしても活動する秋場ならではの韻の操り方も興味深い。
同じく情熱のフラミンゴのMIKI the FLOPPY。ダンスで突き詰められた独特の身体性とどこか浮遊感のあるオルタナな存在感は、どの作品に出演しても光る。2人の存在は、「俳優」に拘らず、多様に表現と向き合うメンバーから成る情熱のフラミンゴだからこその大きな魅力だろう。
宝保里実(コンプソンズ)
3人の会話のはずだが、時折どこからともなく“声”が舞い降りてくる。その主は、客演として出演する宝保里実(コンプソンズ)。漂うように抑えた話し方でありながらも、確かにその場所の時空を変える声色。島村が今回試みるという「1人2役」の分別の意味を考えさせられる一面だった。
そして、主演の飯田芳。情熱のフラミンゴへの出演は今回が初。舞台出演も久しぶりだという。会話を交わしながら、過去と今を往来する男・青木。
数々の映像作品に出演をしてきた実力はさることながら、生で見れば見るほど、次にどんな顔をするのかがまるで読めず、その場の空気を真新しく入れ替える。演劇というライブで彼の姿が見られるのは、大きな見どころだろう。
いつしか場面は、男女2人に切り替わる。何かしらのシリアスな出来事をはらんだ、重要な局面だということが肌で伝わるシーンだ。船上でありながら、海中にいるように揺らめくMIKI the FLOPPYの身体もまた印象に残る。
「これって、お客さんにどこまで伝わる? 理解できるかな。このままじゃ、俺はわからないと思う」要所要所で客観的に作品を観る、役者陣の熱心な姿も印象的だった。
新見綜一郎 (山山山)
この日は不在だったが、他に、望月志津子(五反田団)と新見綜一郎 (山山山)が出演する。望月は前回公演に引き続き、今回も母親役として出演。新たな母親像が見られるのが楽しみだ。新見は物語の核となる会社の代表という役どころ。野外で行われたワークインプログレス公演には2人ともが出演し、それぞれが独特の印象を放っていた。
稽古も終盤。島村の演出にも熱が入る。実際に動きながら、1つの言葉や行動に対して、身体が示すリアルな反応を探っているようだ。島村の綴った制作日誌がふとよぎる。
左からMIKI the FLOPPY、望月志津子(五反田団)、Coff
“生きていて「リアルだなあ」と感じることは、数回程度しかない。”から始まるその文章は、島村のリアルを感じら実体験が綴られており、最後はこう締めくくられる。
「そのことがいまだに忘れられない。そんなリアルな記憶は、作品作りにおいて、やはり多分に根幹となしたりする」
個性豊かなキャスティングに新たな演出の試みも詰め込まれる、情熱のフラミンゴの第7回公演『オー・プラネテス〜汝はどこにいる〜』。生々しい舞台体験をもって、「そして、“汝はどこにいる?”」とたずねらるのは、私たち観客かもしれない。
profile
情熱のフラミンゴ
島村和秀(演劇作家)、服部未来/MIKI the FLOPPY(ダンサー)、秋場清之(俳優・ラッパー)を中心に活動するアートカンパニー。西遊記のような暗黙の人間関係で作品ごとに編成を変えて制作するのが特徴。2015年より西調布一番街つくるまちプロジェクトに参加。西調布一番街にアトリエ『浮ク基地』を構え、公演や市民向けワークショップ等を行う。社会の見えづらい存在や変化していく場所に光を投射し、喜劇的な批評性で独自のブラックユーモアを展開する。2016年、舞台『きれいなひかり』で第7回せんがわ演劇コンクール グランプリ他3冠を獲得。過去作品に『ハリー☆ポッタァーと曖昧なアーチの向こう』、『LOVE BUTTLE FIELD』などがある。
インタビュー撮影/玉井美世子
取材・文・稽古場撮影/丘田ミイ子
公演情報
◼︎脚本・演出:島村和秀
◼︎出演:秋場清之、MIKI the FLOPPY(以上、情熱のフラミンゴ)、飯田芳、小出水賢一郎、新見綜一郎 (山山山)、兵藤公美 (青年団)、宝保里実 (コンプソンズ)、望月志津子 (五反田団)
◼︎音楽・演奏:Coff
◼︎会場:アトリエヘリコプター