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驚いてください、笑ってください、楽しんでください! 現代のスーパー見世物「月夜のからくりハウス」を東ちづるが語る

2019.11.25
インタビュー
舞台

東ちづる

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“見世物小屋”と聞くと、不思議とドキドキする。怪しくて、見てはいけないような雰囲気があるからこそ、逆に好奇心を掻き立てられる。なのに、いつのころからか見世物小屋は姿を消した。2017年12月に品川プリンスホテル クラブexに一夜限りだったが、カゲロウのように浮かび上がった現代の見世物小屋、平成まぜこぜ一座『月夜のからくりハウス』。仕掛け人は女優・タレントの東ちづる。彼女が理事長を務めている、「さまざまな創作活動および表現活動を通じて、誰もがそれぞれの個性を生かして豊かな人生を創造できる“まぜこぜの社会”の実現をめざすこと」を目的とする一般社団法人Get in touchが主催・制作した。映画『グレイテスト・ショーマン』よろしく、社会から差別されがちな個性たちが、さまざまなパフォーマンスで面白く、楽しく、美しく、毒ある時空間を紡ぎあげた。そんな「月夜のからくりハウス」が記録映画上映&パフォーマンスに形を変えて帰ってくる。

イベントのフィクサー、あるいはサーカス団の親方のような役どころで、パフォーマンスを鼓舞し、客席を挑発する東ちづるは、出演者が大集合したエンディングで「私たちの夢は(この一座)を解散すること」と叫んだ。出演者も観客も楽しそう(×∞)な笑顔を見れば一瞬、違和感を感じる言葉だった。しかしその真意は――

東ちづる

平成まぜこぜ一座「月夜のからくりハウス」。出演者は演劇ファンならおなじみのマメ山田、車いすダンサーのかんばらけいた、スローレーベルなどで活躍する森田かず代といった有名どころから、身長100センチのコラムニスト、小さなモデル&イラストレーター、自閉症のミュージシャン、全盲のシンガーソングライター、ミゼットプロレスラー、女装詩人、ドラッグクイーン、手話漫才コンビなどなど“マイノリティ”とくくられる表現者。そこに極悪レスラーのダンプ松本、落語家、糸あやつり人形芝居、アコーディオン奏者、ラッパーなどなど “健常”のメンバーが参加。彼らがまぜこぜになって、めくるめく摩訶不思議なパフォーマンスを披露していく。こんなにいろんな人たちが一堂に集まるステージなんて、寄席だって難しい。

――「一般社団法人Get in touch」を立ち上げた理由はなんだったのですか?

 私自身は27年前から社会的活動を続けているんです。日本の芸能界は社会的活動とか政治的発言がマイナスに働くことが多いし、理解されづらいから、個人で粛々と。けれど東日本大震災で、生きづらさを抱えている人たちが、社会が不安に陥ったときにより追い詰められてしまうという現実を避難所で知ってしまったんですね。見えない人、聞こえない人、車椅子の人、ダウン症の人、知的障害の人、性同一障害の人……そしてそのご家族がより困るという状況を目の当たりにした。そのときに、改めて、普段から世の中は多様性で満ちていることを実感できてないと、いざという時に助け合えない、支え合えないということを感じたんです。

――かつては、障害のある人なども普通に街にいたと思うんです。それがいつのころからか姿が見られなくなりました。

 それは社会に存在しないものとされてしまったからです。東日本大震災での経験によって、普段から可視化、見える化した方がいいという思いのもとでは、私が団体行動が苦手だからと団体なんか嫌だとは言ってられないなって。それで福祉団体、支援団体、施設をつなげ、こういう活動は経済が付いてこないと進めずらいので、いろいろな企業ともつながり、条例や制度も変わった方がいいので超党派の政治家ともつながる。そのためのハブになる団体があった方がいいなとは以前から考えていたんです。それで「Geti n touchi(=つながろうぜ!)」を立ち上げました。私が芸能界で働いていることもあって前面に出ていますが、あくまでもメンバーはフラットな関係で活動しています。

――なるほど。立ち上がらずにはいられなかったというわけですね

 東日本大震災の直後、日本は「絆」とか「寄り添う」「日本は一つ」といった言葉のもとで前進していた。それらの言葉は美しいし、力強いんだけど、実際はすごく難しい。利益関係がないのにつながれないし、絆も言うのは簡単だけどとっても煩わしい言葉。そうじゃなくて、浅く、ゆるく、広くつながる、浅く、ゆるく、広く依存し合う、この関係って居心地がいいよねということを知識や理屈ではなくて、肌で感じられることが必要じゃないかって思ったんです。エンターテインメントで人を集めて、そこで多様性ある時間と空間を企画して、新しい人間関係を紡ごうじゃないかという団体なんです。

2012年の団体立ち上げから、東は「発達障害、自閉症、LGBTという言葉も浸透してきたし、理解も深まってきている。多様性はとても大切なんだと思っている人も企業も増えている。ただ、それを否定する人もいる。生産性がないとか社会の役に立たないと切り捨てる人たちもいます。その中間層がいなくなってしまった、分断が生じている」と社会の変化を感じている。

だからこそ、平成まぜこぜ一座「月夜のからくりハウス」なのだ。

■障害ある表現者のパフォーマンスや演技が評価され、メディアに普通に登場する社会になってほしい

――なぜ「月夜のからくりハウス」をやろうと思ったのですか?

 欧米だといろんな障害のある人が、プロのタレントさんとして活躍しているんですよ。プロダクションもあって普通にテレビや映画、舞台に出ている。でも日本では逆に排除されてしまっているんですよね。彼らがもっと普通に活躍できる環境をつくらなければいけない。メディアがもっと“まぜこぜ”になればいいと思うんですよ。メディアがそうなれば、その力は大きいので、社会は多様なんだということにも気づきやすくなるはず。1年に1回のチャリティ番組も素晴らしいですけど、普段からバラエティや音楽番組やドラマ、舞台などで彼らにチャンスがあることが重要。実際に前回の「からくりハウス」の後には本を出した人もいるし、露出が増えた人もいる。けれど画期的な変化はありません。福祉番組、教育番組、チャリティ番組だけではなく、シンプルにパフォーマンス力、演技力が評価されて、表舞台で活躍できることが目標です。

――まず「月夜のからくりハウス」という名前が素敵だなって思いました

 障害者などのこういう活動って明るくて、希望をイメージさせるものが多いんです。私たちだってそういう活動もしている。けれども、光があれば必ず影もある。明も暗もあるからバランスが取れている。障害者イベントって夢とか希望に向きがちなのが、障害者をピュアな天使のように扱うのが私には非常に気持ちが悪いんです。毒のあるアンダーグラウンド的なものもある、それを表現したかった。私は子供のころから、そういうものの方が好きでしたから。パフォーマーたちにオファーをしたときも「そういうことがやりたかった」って言ってくれたんです。いつも表現に愛や希望を込めてと言われる。歌だったらメッセージソングにしてくれと言われる。「月夜のからくりハウス」ではそういうものを全部裏切ろうと。だから太陽ではなく月夜にして、スーパー見世物にしたかった。見世物がなぜダメなの? 見世物、上等じゃないですか。

――前回の手応えはいかがでしたか?

 実際に見てくださったお客様の声は、アンケートでは「素晴らしい」「また見たい」「友達にも紹介したい」とほぼ100パーセントの方が絶賛してくださいました。ただね、今までに見たことのない人たちと出会う、目にしなかった世界に飛び込むということは、すごく勇気がいることらしいんです。初回のときは、予約してくださった方が「やっぱり子供に見せられない」とキャンセルされるなんてこともありました。それが分断を生むんだよ、子供たちはそんなふうに色眼鏡では見てないよって思いましたけど。それはこのイベントをやって、むしろ私たちが学んだことです。笑っていいんですか、楽しんでいいんですかって聞かれることもあった。いえいえ、笑ってください、じゃないとスベったことになってしまうんでって。エンタメですから、障害者の人たちが頑張っているものだという思いは忘れてほしい。

実はこの2年間、再演しようと動いてはいたんですけど、助成金は全部不採択。私たちはわかりやすい支援団体ではないからなんでしょうね。誰も排除しない“まぜこぜの社会”をめざことが目標ですが、それによって何人の人が救われるというものではないですよ。でも多くの人の心を変えることができるはず。それなら前回の記録映像をパフォーマンスと合わせて上映しようというのが今回の企画です。

■マイノリティという存在に日常的に触れられる社会になるように

これ以上、中身を紹介するというのは野暮というものだろう。あとは、本番のパフォーマンスをご覧になって、驚いてほしい。何よりも、パフォーマーたちの笑顔、躍動する姿に出会ってほしい。

「私たちはイベント団体ではなく啓発団体。もしどこかのテレビ局などが代わりに企画・制作してくださるならどんなにいいか。からくりハウスを行なった後に、出演してくれたメンバーに障害の有無に関係なく、チャンスが増えることが目的。彼らという存在に日常的にごく普通に触れられる社会になることが重要。それが実現できたら、私たちは解散するんです」

 冒頭の言葉は、社会が本当の意味で多様性があふれ、日常が誰もが気軽に上がれる舞台になることを目指した宣言だ。「今回は大きな赤字になっちゃいそうだな」と苦笑いする東ちづるの声は、それでも力強く、明るい。

取材・文:いまいこういち

公演情報

平成まぜこぜ一座 「月夜のからくりハウス」記録映画上映&パフォーマンス 

■日程:2019年11月30日(土)・12月1日(日) 

■会場:EDOCCO STUDIO(神田明神文化交流館 地下1階) 

■出演者:東ちづる(予定)/かんばらけんた/佐藤ひらり/DancingLuckyBoy想真 
 ※出演者は、変更となる場合もございます。予めご了承ください。 

:前売1,300円/当日1,500円 
※幼児・小・中・高校生入場無料/一般(18歳以上)要 
※会場にて1ドリンク500円別途(ドリンク代は現金にてお支払いください) 
※障害者手帳提示で1ドリンク無料

■開演時間: 14:00/18:30 

■問合せ: 一般社団法人 Get in touch https://www.getintouch.or.jp