岸田國士戯曲賞最終選考ノミネート作をアップデートした悪い芝居の新作『ミー・アット・ザ・ズー』~山崎彬「今、感じているものしか作れない」

2019.11.27
インタビュー
舞台

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世田谷パブリックシアターが若い才能の発掘・育成のために行う シアタートラム ネクスト・ジェネレーション の第12回に、山崎彬率いる悪い芝居が選出された。シアタートラムで発表される作品は、『駄々の塊です』にセルフインスパイアされた『ミー・アット・ザ・ズー』。『駄々〜』は、第56回岸田國士戯曲賞の最終選考にノミネートされた、2011年に上演された作品だ。動物がいなくなった動物園の物語がリバイバルされる。

関西から東京に活動拠点を移した悪い芝居が、旗揚げ15周年に発表する同作は、YouTubeの創始者の一人ジョード・カリムが一番初めに投稿した18秒の映像『Me at the zoo』から着想を得ている。作中にはユーチューバーが登場するほか、バンドの生演奏も行われる。

完全な新作だが、『駄々〜』を観た人にとっては、パラレルワールドかと錯覚するような仕掛けも設定に組み込まれている。「人間の原点である獣に立ち返る」という“人面獣心再生劇“を描いた同作で、初のシアタートラムに挑む主宰・山崎彬にインタビューを行った。

「今やりたいことをちゃんとやる」

――『ミー・アット・ザ・ズー』の稽古は順調ですか?

山崎:僕の中では順調です。いつも役者さんの才能や体をお借りする形で色々と試させていただくのですが、自分の中にあるイメージを紆余曲折しながら形にしていくので、やっている役者さんたちは「これどうなんねやろ」と不安に感じているかもしれません。

山崎彬

――山崎さんは今、客演したり台本を提供したりと、主宰する劇団以外の活動もされています。ホームというか、劇団公演はやりやすいですか?

山崎:好きなことを好きなように、好きなペースでやらせてもらえるという点でのやりやすさはあります。ただ絶対に失敗したくないとか、絶対に面白くしたいという思いが強すぎて、逆にいえば外の方がのびのびと自由にできているかもしれません。

僕自身が作品を発表したい気持ちもありますが、やはり劇団を成長させていくために前回の作品はこうだったから次回作はこうで、その次の作品はこう、と流れを汲んで劇団を見せていきたいと思っています。ですから前作の面白さや期待値を超えよう、違うものをやろうというプレッシャーが常にあります。

『ミー・アット・ザ・ズー』稽古場の様子

――悪い芝居は作風が毎回ガラッと変わるところが特徴的だと思いますが、毎回アップデートしながら流れも意識しているんですね。

山崎:1つ作品をやるとその表現にはある程度満足してしまうので、新作を発表するごとに新しい作風になるのは僕的には自然なことです。「今、やりたいことをちゃんとやる」ことを大切にしていますね。たとえば1年前に決まった企画で、1年過ごす間にやりたいことが変わったとしたら、その時点でやりたいことを作品に取り込めるのが演劇のいいところだとも思っているので。

『ミー・アット・ザ・ズー』稽古場の様子

「人間が獣に立ち戻る」とは何か

――新作『ミー・アット・ザ・ズー』は、『駄々の塊です』にセルフインスパイアされて作ったそうですが、どういったインスパイアのされ方だったんですか?

山崎:『駄々の塊です』を発表した年は東日本大震災が起きた年で、劇団としても多くの新メンバーを入れ、年間で公演をたくさん打つことが決まっていた年でした。家の中でやる芝居を4月にやり、夏にはバンドだけでライブをしたり、無声劇もやって、その後に本公演を発表するという流れがあって、劇団としてはお祭り的なことをやりながらモヤモヤして1年過ごしました。その年末に書いたのが『駄々の塊です』です。

シアタートラム ネクスト・ジェネレーション では、この作品を元に新作を書こうと思い企画させてもらいました。2011年から8年経つ間に色々な作品を作ってきた自分が、当時の気持ちを思い出しながら今書けるものを書こうというインスパイアのされ方ですね。

――『駄々〜』は、山崎さんが関西在住だったからこそできた作品ですよね。

山崎:東日本大震災があった当時は、被災者の痛みについて「実際は分からないんでしょう?」とか「でも、京都でしょう?」とすごい言われました。僕たちは阪神大震災を経験もしているのですが。

――……そんなことを言うんですか!

山崎:言う人がいるんです。2011年はツイッターが定着しだした頃で、色々なことを言われました。東京公演で上京した時には、「京都は特に影響なかったでしょ」とか、「あの日の帰宅難民になって帰った体験は、当事者じゃないと分からないよね」などと言われて、確かに実感としては分からないけれど、阪神大震災を経験したことで共感できることもあったわけです。

今回の作品は、震災が直接的なきっかけになって書いた作品ではないですが、物事がねじれておかしなことが起きている状況でも顔は平然としている、ということがあると思うんです。

大きな出来事の影響で歪んでおかしなことになってしまった価値観が、時間が経つと当たり前になって普通になっている。それって変な状況だと思いませんか? 僕はこの国がすごく変なことになっていると思っていて。

――11月17日に、山崎さんはツイッターで「かなしい国だから作れるかなしみとかおかしみがあって、そんなんをちゃんと載せた作品にしたい」と投稿されていました。この時もそういうことを思って呟かれていたんですね。

山崎:僕自身、普段は楽しく生活しているんですが、ニュースなどを見ると「何か変だな」と思うんです。日本人って直接的な暴力性はあまりないと思うんですが、みんなで叩くような、腹の中でこじらせた間接的な暴力性が強いというか。しかもその状況を誰もが変だと気付いていて、「変だよね」と言い合ってはいるけど、「どうしようもない」と思ってしまうような、どこか諦めをもっているような。

ひとつの価値観を全ての人に強制するような感覚が、僕はすごく気持ち悪いと感じています。

――価値観は人それぞれでも、正解だと思われているものに同調させられる感じはありますね。

山崎:今作は「人間の原点である『獣』に立ち返る」がテーマです。僕は、人の顔をして獣の心を持つことが全然悪いことだとは思っていなくて、むしろもっと獣の心を出して生きた方がいいんじゃないかと思っています。いつも作品をつくる時にはキャッチコピーを決めているのですが、今回は “人面獣心再生劇”と銘打ちました。

「動物に立ち返る」とは、殺し合うとか押さえつけて殴るとか、そういった暴力性を指したものではありません。それはむしろ動物的ではなく、人間的な行為だと思っています。

『ミー・アット・ザ・ズー』稽古場の様子

僕の言う「動物性」というのは、例えば誰かに好かれるために嘘をつく人がいても、それを否定しないような自由さです。本音をいうことが動物的だとも思いません。本音はあっても、相手への愛情があれば本音を言わないような優しさが本当の愛情だと思いますが、そういったことも許されない空気があるというか。誰かにとっての正解を常に出さなあかんような感覚がすごく嫌で。だから、「一緒にいて、ただ笑いたいんです」というようなことが肯定される場所というのが「動物たちの場所」だと思っています。

僕は京都で猫を飼っていたんですけれど、猫って可愛いと思われようと生きていないですよね。寄ってきて欲しい時には来ますし、どこで寝てんねやろと思ったらよく分からないところで寝ていたり。それぞれがそれぞれの思惑で、その思惑のままに自由に生きられている感覚が、僕が思う「人間の動物性」です。せっかく知能があって言語があるのだから、それを駆使して喋りたい人は喋り、喋りたくない人は喋らず、ほっとけ合える場所というか。楽しいことを素直に「楽しいよね」と言える場所が、それぞれの「檻の中」にあればいいと思っています。

檻の中にいる人が「出たがっている」とは限らない

――「檻の中」にですか?

山崎:この作品のもう一つのモチーフに、「檻の中と外」があります。それは動物園にいる動物の檻の中と外だったり、刑務所の中と外だったり、舞台で言えば舞台上と客席だったり、ユーチューバーなら映像内の人と再生数として表示される閲覧者だったり。

一見、檻の中にいる人は閉じ込められているようにも思えますが、檻の中で人は結構自由になれるんじゃないかと、僕は思っているんです。信用している相手と部屋で二人きりでいたらどんな姿でも見せられますよね。

――「檻の中と外」というモチーフについて、もう少し具体的にお話いただけますか。

山崎:僕がこの台本を書く時に初めに浮かんだイメージです。芝居を作る時はどんな話を書くかを考えるのではなく、目を閉じてどんな絵が浮かぶのかをイメージするんです。その時に見えたのが、「人が2人いて、その間に檻がある」という絵でした。動物園の話にするつもりだったので、どっちが外なのか、あるいは中なのかを考えたんです。その時思ったのが、どっちが外か中かを考えるのは、檻の外にいる人間なんですよね。

檻の中に動物がいたら、こっちは勝手に「逃げたいだろう」と思いますよね。でも檻を開けても逃げない動物もいるわけで。それが面白いと思いました。

もし僕の家の中に檻があって、そこに少女がいたと知ったら、僕が家を空けている隙に逃がそうとしませんか? でもその子は、「なんでそんなことをするんですか?」と言うかもしれません。もしその場に動物が来たら、女の子を逃がそうとは思わずに、「この中に楽しいことがあるのかな」と思ったり、「こいつは敵だ」と思ったり自由に考えるでしょう。でも僕らは勝手な価値観で決めつけている。そういったことを描きたいと思いました。

『ミー・アット・ザ・ズー』稽古場の様子

『ミー・アット・ザ・ズー』はみんなでつくる

――台本について伺いたいのですが、イメージが浮かぶということは、そのイメージに沿って書き進んでいく感じですか?

山崎:書き方は……、どうでしょう。言葉にしていく作業は、とても気持ち悪いんですね。

――え、そうなんですか!?

山崎:僕は俳優でもあるので、ストーリーの展開を考えながらイメージの中に登場人物を放り込んで、その人たちが喋っていることに耳を傾けながら書いていきます。もちろん自分で考えているから、自分で喋らせているんですけれど。ただ音を文字にしていく作業になるので、難しいんです。

――悪い芝居の作品はとてもリズミカルな関西弁というイメージがあるのですが、それは山崎さんの頭の中で役にしゃべらせているから、テンポの良い台詞になっている、ということもあるかもしれないですね。

山崎:音と時間を作るのが演劇だとも思うので、2時間なら2時間の時間をどう作るか。その中で聞いていて聴き心地がいい台詞を、一般的な会話の魅力や、どう役にしゃべらせるのかを考えながら書いていきます。稽古が始まってからも調整はしますが。

――『駄々の塊です』の舞台装置は非常に印象に残るものでしたが、今回はどうなりますか?

山崎:これだけは言っておきます。回りません(笑)

『ミー・アット・ザ・ズー』稽古場の様子

――最後に、演出家として今作に客演される方たちも含め、どのように演者を導いていくお考えなのかを教えてください。

山崎:今回客演するのは、演出するのが初めての方たちばかりです。とにかく悩んで欲しいし、考えて欲しいし、ちゃんと不安になって欲しい。そうでなければ面白いものができるはずがないと思っています。僕は演出家として色々と言いますが、全て正解なわけがないんです。スタッフさんだって音楽には音楽のプロがいて、照明には照明のプロがいてそれぞれ考えてくれて、その中で考えずにいる役者はいてほしくないです。

やっぱり、どれだけ作品と向き合えたかだと思います。そして散々悩み抜いた先に、登場人物と同じ悩みを持つようになっていける。そうすると、俳優の演じる角度が登場人物の葛藤する角度とぴったりと合うようになっていきます。その角度が合ってくるほど面白い作品になります。そういったことを目指して役者の演出をしていきます。

――ちなみにあて書きはされるんですか?

山崎:あて書きという言葉も範囲が広いので極論を言えば全てあて書きと言えますが……。出演者が決まれば自ずと台本を書くときに意識するので、あて書きになりますね。

――稽古を続けていくうちに、山崎さんが台本を書いていたときに想像していたものとは違うものが形作られるということはありますか?

山崎:大体そうなります。でも最終的に初日を迎えると、「タイトル通りの作品だな」といつも思います。『ミー・アット・ザ・ズー』も、初めに思い描いた「人が2人いて、間に檻がある」というイメージの芝居に近づいています。

公演情報

シアタートラム ネクスト・ジェンレーションvol.12
悪い芝居vol.25
『ミー・アット・ザ・ズー』

■日程:2019 年12 月4 日(水)〜8 日(日)
■会場:シアタートラム
 
■作・演出:山崎彬
■音楽:岡田太郎 
■出演:日比美思 藤原祐規 田中怜子 久保貫太郎 中西柚貴 潮みか 東直輝 畑中華香 植田順平 山崎彬
■バンド生演奏:マルシェⅡ世(ドラム)、金澤力哉(ベース)、岡田太郎(ギター)、ヤマモトショウコ(トロンボーン)、黒田玲兎(ピアノ/キーボード)
 
【スタッフ】
■美術:竹内良亮
■音響:谷井貞仁(ステージオフィス)、横田和也(LLC.ARTS)
■照明:加藤直子(DASH COMPANY)
■照明操作:山﨑佳代
■舞台監督:川除学
■衣装:植田昇明(kasane)
■映像:松澤延拓
■演出助手:藤嶋恵
■美術助手:佐藤かりん
■特殊小道具:進野大輔
■技術:米田優
■宣伝美術:樋口舞子
■制作:阿部りん、畑中華香
■協力:avex management、アミュレート、ビクターミュージックアーツ、ダックスープ、LLC.ARTS、kasane、ステージオフィス、DASH COMPANY、NAPPOS UNITED
 
■悪い芝居『ミー・アット・ザ・ズー』特設サイト:http://waruishibai.jp/meatthezoo/
■世田谷パブリックシアター:https://setagaya-pt.jp/performances/next12.html
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