“劇場が宇宙になる瞬間”を体感してほしい──『モマの火星探検記』座談会〜ユーリ(諸星翔希・赤澤燈・毛利亘宏)篇
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(左から)赤澤燈、毛利亘宏、諸星翔希
劇団少年社中『モマの火星探検記』、モマサイドの座談会に続いては、ユーリサイドの登場! 「一生かけて伝えたい作品」と本作に深く思いを寄せている演出の毛利亘宏と、“初社中”の諸星翔希、“準劇団員”希望の赤澤燈が、それぞれに抱く本番への意気込みを語り合ってくれた。
ーー今回新たに本作へ参加されるお二人。まずは2017年の再演をご覧になった感想からお願いします。
赤澤:僕は少年社中さんの『トゥーランドット~廃墟に眠る少年の夢~』(2019年1月上演)に出演させていただいて、その稽古場に社中作品のDVDがあったんです。たまたま何作か家に持って帰って観たうちのひとつが『モマ』でした。『モマ』は僕……すごい好き。「これいいな」と思ってたので、今回出られるんだって決まったときも、すごく嬉しかったです。
ーーどのあたりが「好き」ポイントに?
赤澤:『トゥーランドット』でご一緒していた生駒(里奈)ちゃんがユーリ役で出ていたという親近感もありましたが、彼女のふつふつと溢れ出るエネルギーがとっても素敵で。そして、モマ役には(矢崎)広くんがいて……僕、広くんとまだ共演したことなかったんですけど、以前から好きな役者さんの一人で、広くんにも心を惹かれたし、全体的にシンプルにスッと世界に入って観ることができて……感動しました。男の子ってやっぱり宇宙の神秘とか、「見えないモノ」に対して夢を持つじゃないですか。そういう思いがたくさん詰まっているところにもワクワクしました。
赤澤燈
諸星:僕は観ていて一番感じたのが、「純粋な心」。ここに出てくるみんなが夢に対して真っ直ぐなんです。子どもはもちろん、大人になっても子どもの頃からの夢に対して抱く純粋な気持ちというのはやっぱり変わらないんだよなぁって。そんな人々の姿を見るうちに、自分の中の少年の心を思い出してくるというか、なんか得体の知れない力があるじゃないですか、夢に対しての力って。そういうのを思い出させてくれるような作品で、とても心が躍りました。
ーーまずは自分自身が刺激を受けた。
諸星:はい! 今回参加させていただくということは、自分もいろんなことを感じ、どんどん心に磨きもかかって、新しい夢も明確に出てくるんじゃないかなぁって。役者としての自分のチャレンジも含めて、いろんな発見がたくさんありそう! 本番に向け、僕もすでに夢見る子どもの心でワクワクしてます(笑)。
ーーでは毛利さんにはおふたりの印象からおうかがいします。赤澤さんとはすでに何度かご一緒していますね。
毛利:初めは『Messiah メサイア』シリーズで脚本家として携わって、それはわりと長い期間続いていました。演出としては『トゥーランドット』が初めてです。そのときは「赤澤くんはこんなにスッと劇団に馴染んでいくんだ。というか、始めからこの劇団にいた人みたいになってる」って感じて(笑)、それにすごい感動を覚えたんです。彼自身のセンスでうちのカラーにドンピシャで合わせてくれたんだと思ったし、多分、お互いにもともとのやりたいことの性質が似てるんだよ……ね?
赤澤:そうだなぁと、僕も現場に居ながら思ってました。僕のやりたい方向のお芝居というか、「好きだな」って思うポイントがたぶんみなさんと一緒だったんだって。劇団員の方たちにも「浸透率」がいいって言っていただきましたし。
ーーそれは、気持ちの向き方とかですか?
赤澤:向き方とか、発し方とか……。僕、あんまり普段は演劇でそういう自我は出さないタイプなんですけど、自然とフィットしていたからでしょうね、最初からすごい楽しくて。あと、一緒に出演していた馬場良馬くんも役者の先輩として、社中さんにどんどん切り込んでいってて。
(左から)赤澤燈、毛利亘宏、諸星翔希
毛利:うん、あれはすごかったね。
赤澤:はい。その姿を見たら僕もついていかなきゃなと熱が増して。やっぱりすごく楽しかったです。
毛利:そうだよね。だから今回もまた出てもらえて、僕も嬉しいです。
ーー矢崎さんを筆頭に、社中さんに客演される役者さんの多くが“準劇団員”に名乗りをあげていますが。
赤澤:それはもう、僕もぜひ(笑)。
毛利:(笑)。
ーー諸星さんとは初タッグですね。
毛利:きっかけは2019年3月、諸星くんが所属しているグループ、7ORDERprojectの萩谷慧悟くんと舞台『仮面ライダー斬月』-鎧武外伝-をやったことです。とても良い舞台になりまして。萩谷くんはもちろん、グループに対する信頼度は僕の中で非常に高くなってるんです。それもあってお声かけしました。
ーー「ぜひグループ全員と舞台を創っていきたい」、と。
毛利:そうそう(笑)。才能ある新しい方との出会いは大事にしたいですからね。ご一緒にできてワクワクしています。
諸星:僕は萩谷が出てた『斬月』を観に行かせていただいてて、『斬月』も本当に少年心が掻き立てられる作品でした。幼い頃に憧れてた「仮面ライダー」への思いをすごい如実に表現していて。なので僕の勝手な印象なんですけど、毛利さんご本人がもうすごい「少年」なんだろうなぁって感じています。
ーー“少年社中”ですから。
毛利:ハハハッ(笑)。劇団最年少が30歳だし、俺ももう中年だけどね(笑)。でもいつまで「少年」をずっと名乗り続けるぞっていう覚悟は持っています。
(左から)赤澤燈、毛利亘宏、諸星翔希
ーーそこに共鳴を?
諸星:そうですね。僕の憧れの大人像が「ずっと少年の心を持ってる大人」で、自分も常に楽しいことに純粋に、まっすぐに突き進みたい。そういう人間になりたいなって強く思っています。だから、毛利さんのようにずっと思いを貫いて創作活動を続けている方は、すごいかっこいいなと思います。
ーー赤澤さんと諸星さんは初共演ですね。
赤澤:はい。でも僕も萩谷くんつながりなんです。先日、萩谷くんと共演した舞台(DisGOONie Presents Vol.7 舞台『PSY・S』)を諸星くんが観てくれて、そこであいさつだけはしていました。というか、毛利さんもおっしゃってましたけど、慧悟がすげえいいやつ! それだけでもうほんと、グループの印象というか信頼度は僕も高いので、そのメンバーである諸星くんとご一緒できるのはすごい嬉しい。仲良くなれそうです。
諸星:ありがとうございます。僕はごあいさつしたとき、「あ、ルパンの人だ」と思いました。
赤澤:僕、ルパン役だったんです。今日も朝会って「ルパン、ルパン」って言われて(笑)。
諸星:ルパンの立ち回りがすごい綺麗で「かっこいいな」と思って観ていたら、その人が次に共演する赤澤さんだった。嬉しいですねぇ。稽古場でもルパンって呼んじゃったらどうしよう。
赤澤・毛利:(笑)。
ーーモマたち宇宙飛行士の物語パートと、ユーリたち子どもたちの物語パート、二つのストーリーが絡み合う本作。毛利さんは子どもチームにはどんな思いを託されているのでしょうか。
毛利:この舞台のキーワードである「夢」「憧れ」の象徴といいますか、これはもう単純に僕の話になってしまいますが、小学生のときに毛利衛さんがスペースシャトルに乗って宇宙に行った。自分も憧れを抱くあの宇宙に、なんと同じ苗字の日本人が! って、子ども心にすごいワクワクしたわけです。そして大人になり、自分が演劇の世界で生き続けている中で、芝居を通じてその毛利衛さんに会うことができた。やっぱり夢は叶うし、夢を追い求めることはすごく美しいことなんだって……。
ーー実感できた。
毛利:できました。だからこそそういう気持ちをずっと持ち続けているほうが楽しいですし、なんか幸せな人生を送れるんじゃないかなっていう気がします。だから、それを純粋に世の中にぶつける、思いとして表現するのはやっぱりこのユーリたち子どもチームの役割だろう、と。今回も生駒ちゃんを中心に、ユーリサイド、盤石の布陣が組めたんじゃないだろうかと思っております。
ーー赤澤さんが演じるのはハカセ。ロケットのエンジンを設計する頭脳派です。
赤澤:『モマ』を観たとき、宇宙飛行士たちにも憧れたんですけど、でも役者としての自分の良さや持ち味を発揮できるのはもしかしたら中学生の子どもたちのほうかもしれないとも思ってたんです。実際に子どもチームでまた生駒ちゃんと一緒にお芝居ができることになったのも嬉しいし、その中でもハカセ役は今まであまりやったことがないような雰囲気の役になるかもしれないなって思っていて。前回演じられてた(少年社中の山川)ありそさんが、結構曲者な感じで演じられていたので、それを今回自分が演じるとなると、同じアプローチじゃなく違う方向で……。自分の武器を出しつつ、決して違う役ではない、ちゃんと新たなハカセ像を作っていけたらいいなと考えています。ありそさんのハカセと重ねつつ、バトンを受け取っていけたら、と。
ーー諸星さんはチキンを演じます。厳しいお母さんの影響で一見消極的にも見えるけれど、強い気持ちを持った男の子。
諸星:自分の中にも臆病なところや周りの大人の意見に逆らえない気持ちっていうのはすごくあるので、チキンのメンタリティも理解できるところが多いな、と感じてます。まずはそういうところを純粋に表現できたら、また新しいチキン像が生まれるのかもしれない。みんなとのお稽古の中から“僕自身のチキン”ができたらすごい嬉しいなって思ってます。
諸星翔希
ーーチキン、オカルト、ハカセ、ホイップと、それぞれ違う個性を持った4人が、ユーリのリーダーシップのもと違いを思いやり、支え合いながら自分たちのロケット作りに熱中していく。素敵な仲間ですよね。
赤澤:いいですよねぇ。一体感というか、カラーがしっかりあって。前回もオカルトを演じている(加藤)良子さんと『モマ』について少しお話しさせてもらって印象的だったのが、ちゃんとは忘れちゃったんですけど……、「終わらない夏」「夏休み」みたいなテーマをみんなで決めてやってた、とおっしゃっていて。
ーー子どもたちのスローガン?
赤澤:そうそう。そういうふうに旗を立ててチームとして演劇をやるっていうのは、すごい楽しいと思う。続投組の生駒ちゃんや良子さんと共に、今回の僕らのチーム感をぜひ作っていきたいです。
諸星:そうですね。僕は「ここでみんなと青春できたらいいな」と思いました。まだ中学生の子どもたちが、それぞれ微力ながらもちょっとした知識を持ち寄って、協力しながらひとつのロケットを作る──みんなで足りないところを補い合いながら積み重ねていく姿はとても素敵だと思う。大人になったら、なかなかそういう機会ってないと思うので。
ーー毛利さんは毛利衛さんとお話をする機会もあるんですよね?
毛利:はい。毛利衛さんには『モマ』を上演するたびにお会いしているんですが、あんなに視野が広い人というか、やっぱり地球を俯瞰した人は違うなって。もう、考え方がね、やっぱり常人では絶対考えないようなことをずっと考えていらっしゃるので。いろんな世の中の問題を地球サイズで考えることができるんです。また、毛利さん自身の中でも宇宙に対する考え方は日々変容し続けている。そこにも非常に刺激をもらっています。もちろん僕がお聞きしたことはなにかしらの形で作品に反映させるようにしたいですし、今回もお会いした時のお話を作品に盛り込めたら……と思っています。
ーー2年ぶりの再会。
毛利:毛利さんはそもそもの眼差しというか「人間に対する愛」というのがすごい深い方なので、今回もしっかりそれを受け取って、気持ちも新たなに臨みたいなと思っています。挑み甲斐のあるテーマですから、宇宙は。
ーーちなみにお二人にとって、宇宙とは?
赤澤:宇宙は……怖いです。どこまでも果てがなくて、得体が知れないじゃないですか! 自分は性格的に几帳面なタイプで、なにかをするときには筋道を立てて「今日はここまでをやろう」とかって進めたいので。宇宙、興味はそそられますが、没頭するのはちょっと「怖いな」と思っちゃう。でも、その怖さも含めてが、人類が宇宙に魅了される理由なんだとも思います。
諸星:宇宙、すごい興味があります。憧れます! 劇中の「超新星爆発が起こって、炭素で人間が構成されてて……」みたいなセリフを聞いて、「え、そうなの!? それってめっちゃ宇宙じゃん!」と興奮しちゃったし(笑)、僕ら自身も宇宙の一部なんだって知ったら、追求したくなるし、どんどんハマっちゃう……ゴールがないぞってくらい。多分これ以上ハマッたら急に「宇宙飛行士になる!」とかいい出しかねないくらい(笑)、宇宙は人を魅了してしまう世界だって実感してます。毛利さんの原作にもある「顕微鏡で見た景色と宇宙から地球を眺めた景色が一緒だった」っていうのにも、すごく感銘を受けまして。最近はドキドキしながら星を眺めることが増えました。
毛利:そして、演劇だったら想像力だけでお客様も一緒に宇宙に行けちゃう。劇場空間が僕らの力で一瞬にして宇宙になる。プラネタリウムを見に行くよりもずっと身近に、宇宙を体験できる場所になるんです。
(左から)赤澤燈、毛利亘宏、諸星翔希
ーー少年社中2020年一発目の舞台、『モマの火星探検記』。本番が待ち遠しいですね。
諸星:毛利さんもおっしゃっていたように、舞台の魅力はやっぱりお客さんが自由に想像しながら観てもらえるところなのかな。想像力は無限じゃないですか。だから僕たちはこの世界を演じることで、どうその想像力を引き出せるかというところで勝負していく。そこが僕はすごく楽しくて! 顔合わせも稽古もまだこれからですけど、夢が詰まった舞台だっていうことはしっかり感じているので、ぜひみんなで一緒に夢を見れたらいいなと思います。少年社中さんで、精一杯、チキンをやらせていただきますので、よろしくお願いします。
赤澤:2020年、東京でオリンピックもありますし、日本にとっては新たな出発の年になりそうですよね。そんな年の初めに世界規模、宇宙規模の作品をやるのだからどうせならより注目してもらえるように、ド派手に行きたいな、と。僕にとって社中さんは“活力をもらえる場所”なんです。だから大いに活力をもらって1年のスタートを切りたいし、観ていただいた方にもそうなってもらえるような舞台にしたいです。「もしかしたら人生が変わるかもしれない」って思えるくらいのモノをお届けできたらいいですね。
毛利:うん。前回、生駒ちゃんも「この作品に背中を押された」って言ってたしね。一歩、なにか踏み出す勇気がもらえる作品になるんじゃないかな。
ーー毛利さんは今回モマサイド、ユーリサイド、ふたつの座談会にご参加いただきました。その総括も含め、最後に改めて本番への意気込みをお聞かせください。
毛利:『モマ』はずっとやっていきたいと思う作品だし、やるたびにやっぱり新しい発見があるんです。宇宙を舞台にしてはいるけれど、なにかものすごく派手な演出をするわけではなくて……つまるところ、“人間”を描き続けるのが演劇なんです。だから僕はこれを人と人とのコミュニケーションの中でちゃんと「宇宙」を感じてもらえる舞台にしていきたいし──こればっかりは観に来ていただかないと伝わらないと思うんですが──本当に劇場が宇宙になる瞬間というのを……そういう奇跡をたぶん体感してもらえるんじゃないかな、というふうに思っています。そして、観てくださった方の“明日の活力”にしていただければなによりです。『モマの火星探検記』、一生かけてたくさんの人に観てもらえる舞台にしていきたい。もはやこれは僕のライフワークですね。
(左から)赤澤燈、毛利亘宏、諸星翔希
ヘアメイク=林美由紀
諸星翔希・赤澤燈スタイリング=小田優士
衣装協力=赤澤燈着用アイテム Connecter Tokyo(03-6447-2894)、以外全てスタイリスト私物
取材・文=横澤 由香 撮影=山本 れお
公演情報
■脚色・演出 毛利亘宏(少年社中)
東京:2020年1月7日(火)~1月20日(月)サンシャイン劇場
愛知:2020年2月1日(土)・2日(日) 岡崎市民会館 あおいホール
大阪:2020年2月7日(金)~2月11日(火・祝) サンケイホールブリーゼ
福岡:2020年2月15日(土)・16日(日) 福岡市民会館
■出 演
井俣太良 大竹えり 田邉幸太郎 堀池直毅 廿浦裕介 加藤良子
長谷川太郎 杉山未央 内山智絵 竹内尚文 川本裕之
矢崎広 / 生駒里奈
諸星翔希 松村龍之介 山崎大輝 伊藤昌弘 田村颯大/永島叶和(Wキャスト)
鎌苅健太 赤澤燈 鈴木勝吾 / 小須田康人
■製作 少年社中・東映
■協力 講談社
■製作協力 第一通信社
■公演特設HP http://www.shachu.com/moma2020/