SOIL&“PIMP”SESIONSはいかにしてディープな音楽好きを奮い立たせる刺激的な作品を作り上げたのか?
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それは、時空と次元を飛び越えて旅をする、未来から来た詩人の物語――。SOIL&“PIMP”SESIONSの最新作『MAN STEALS THE STARS』は、空想SF物語の架空のサウンドトラックをテーマに、メンバー5人が想像力の羽を思い切り伸ばして作り上げた壮大な音楽絵巻。サウンドには90年代アシッドジャズから現代UKジャズに至る様々な意匠が散りばめられ、ポエトリーを含む世界観には謎の陰謀論さえも盛り込んだ、極めてアーティスティックな世界基準のジャズインスト作品に着地している。彼らはいかにしてディープな音楽好きの心を奮い立たせる、この刺激的な作品を作り上げたのか? タブゾンビ(Tp)と社長(Agitator)の本音丸出しトークを聞こう。
このアルバムは、あんまりお茶の間に届けようとは思ってないんです。ちゃんと刺さる人に刺さってほしい。
――今日はアルバムの話をじっくり伺うのがメインで、最後にちょっと、タブさん主催の『THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL』の話も聞きたいなと思ってます。
タブゾンビ:ですよね。イープラスと言えば。
――そうなんです。SPICEの母体であるイープラス全力プッシュのフェスの、今後についてもちょっと聞ければと。
タブゾンビ:わかりました。新作の話とサツマニアンの話と、2:8で行きましょう。
――いいんですかそれで(笑)。では早速アルバムの話を。1年半前の『DAPPER』とはまた全然趣の違う作品で。あちらは豪華絢爛ゲストが山盛りでしたけど、今回はシンプルにストイックに、かっこいいビートと演奏が山盛りで。すごく落ち着くというか、スッと肌に馴染みました。言い方悪いですけど。
社長:全然悪くないですよ。
タブゾンビ:このアルバムは、あんまりお茶の間に届けようとは思ってないんです。お茶の間の音楽も好きなんですけど、お茶の間じゃないマイノリティの、多くの人に聴いてもらいたいという思いがあります。そういうアルバムです。
社長:積極的に間口を狭めていく。
タブゾンビ:あのー、間口を広くというのは、みんなそういう感じじゃないですか。お店でも何でも、お客さんの層を絞っていくということは……お茶の間にある音楽を非難してるわけじゃなくて、そういう音楽もやっていきたいし、でも今回は、ちゃんと刺さる人に刺さってほしい。
社長:感度の高い人に。
タブゾンビ:いや、そっちが感度が低いというわけじゃないんですよ。
社長:そうか。高い低いじゃない。
タブゾンビ:そうそう。だから、向こうも選ぶし、こっちも選ぶぞ、ということです。
――かっこいい。金言です。
タブゾンビ:何でも、間口を広くやればいいってもんじゃないでしょ。
社長:そうだね。狭いところを狙っていくのも、大変クリエイティブなことだと思います。
――無理に広げると、味が落ちてサービスが落ちて、逆につぶれちゃったりしますからね。
社長:そう、ラーメン屋で言うところの。
タブゾンビ:ラーメン屋でチャーハンも餃子も出して、味噌も塩も豚骨もあるの?というところよりは。
――油そば一筋みたいな。
社長:確かに、そういう店のほうが行きますね。スープはこれだね、と。
タブゾンビ:ということです。
社長:以上です。
――終わった(笑)。でも大事なこと言ってると思います。
タブゾンビ:今回は、出汁をしっかりとった中華そばですよ。無化調です。初期の頃は二郎でしたけど。
社長:ギトギトで(笑)。その頃と比べたら、だいぶスープが透き通ってます。
タブゾンビ:二郎も好きですよ、もちろん。何が悪いとかじゃなくて、そういうことです。
――この例えわかりやすいなあ。社長の見解はどうですか。そもそもどんなアルバムを作ろうとして、どうなったのか。
社長:作り始める時はけっこうフラットに、みんながいろんなアイディアを考え始める中で、タブくんと丈青がデモをたくさん作ってくれて。タブくんが持ってきた曲を聴いた丈青が、「『ブレードランナー』ぽくない?」と言った一言から、なんとなく軸が定まっていった。宇宙とか、時空とか、そういう世界観ですね。そこからタイトルトラックの「Man Steals The Stars」で、F.I.B JOURNALの山崎円城さんをフィーチャーすることになり、その方が書いてくれた詞の中にこの一節があって、「これがタイトルだよ」と。さらにその中に「Last of the Poets」という言葉が出て来る、詩人の物語を書いてくださったということで、この詩人を主人公にして、時空を超えてタイムスリップしてきて、次元も自在に行き来できるという、詩人の旅の物語の、架空のサウンドトラックにしたらいいんじゃない? ということで、全体がまとまって、この作品に帰結しているということですね。
タブゾンビ:円城さんの詞の最後の一節は、“これが最後の詩人”で終わってるんですけど、13曲目の「Utopia Traces」では“最初の詩人がまた生まれる”という。面白いです。
――面白いです。7曲目「Lost Memories」にも詩人が出て来るし。
社長:「Who is the Poets?」ですね。詩人が時間軸を超えて行き来してるんですよ。
タブゾンビ:丈青さんのひとことで、バーッとストーリーが出てきた。時間軸もありますし、パラレルワールドでもあって、そこにはいい側面と悪い側面もある。今の世の中を表現しました。
社長:おっ。
タブゾンビ:今、けっこう、瀬戸際な感じじゃないですか? ミュージシャンの作品を見ていると、今出ている人って、宇宙を題材にしてる人がけっこう多いんですよ。そういう人がけっこういて、意識が瀬戸際なんだろうな、と。世の中が、どっちに行くかということも含めて。
――4曲目の「Reptilian’s Dance」とかも、時空を飛び越える感じですかね。爬虫類の時代、みたいな。
タブゾンビ:これは、蛇のダンスみたいな感じです。この曲は、実は陰謀論者の……陰謀論を出すとね、頭悪い人だと思われちゃうけど。陰謀論とか、スピリチュアルが好きな人って、IQ低いんだって。俺、すごい陰謀論者なので、あー、IQ低いのかって。レプティリアンというのは、これはあんまり書かなくていいですけど、BBCの元キャスターのデービッド・アイクという人が、「レプティリアン(爬虫類人)が世界を支配している」とずっと言っていて、それはなぜかというと……(以下5分間熱弁)。
――なるほど。惹かれますねえ。
タブゾンビ:でもこういうこと言うと、IQ低いと思われるんで、書かないでください(笑)。
社長:ちゃんと話せば、そんなアホな感じもしないけど。
――そういうテーマがアルバムの中に散りばめられてる。もしかして8曲目「Lyra’s Attack」もそうですか。読み方はライラ?
タブゾンビ:「リラズ・アタック」ですね。
――琴座、ですよね。
タブゾンビ:そうです。琴座には元々、武闘派の種族がいて。火星がかつて地球に近い環境の星だった時に、火星に住んでいる人類がリラ人に攻められて……(以下5分間熱弁)。
――この凶暴なギターのフレーズが、リラ人の攻撃を表してるのか。なるほど。
タブゾンビ:うちはギターがいないからどうする?ってなって、「社長弾いて」と。9時間ぐらい練習して、そのままレコーディングしました。
社長:弾けないところがあったんで、そこは長岡(亮介)くんに「弾き方教えてくれ」と言って、お手本を見せてもらって。「それ録っていい?」って(笑)。
タブゾンビ:気心知れた友達なんで。
――社長のギターRECって初ですか。
社長:初ですよ。
タブゾンビ:そもそもギターを弾いたのを見たことない。
社長:高一(高校一年)以来です。
――必聴です。あと、4曲目の栗原健(サックス/SOILのライブ・サポート)さんの曲(「Galaxy Lady」)がすごくいい味出してます。
タブゾンビ:そうですね。『スターウォーズ』に出てくる、銀河の酒場があるじゃないですか。栗原さんは、あれを想像しましたと言ってくれました。
社長:アルバムの中でも、肝の曲ですね。最後の最後、何か1曲足りないなという時に、これを提案していただいたんで。ふざけてますよね。
――いやいや。ファニーなテクノポップみたいな、味付けとしてすごく面白いなと。社長の自作も2曲ありますね。「Lost Memories」と「Space Drifter」。
社長:前作でいっぱいやらせてもらったので、今回はサポートに回ろうと思って、あんまり曲を書いてないんですけど。そのうちの2曲を採用していただきました。どうなんでしょう。イケてる?
タブゾンビ:イケてるんじゃないですか。僕らが、U.F.O.とか、ああいうものを聴いて育ってきた青春時代の音楽プラス、という感じだよね。オマージュと、新しさと。
社長:90年代のアシッドジャズとか、ドラムンベースの、派生のブレイクビーツとか、そのへんの音作りのオマージュの意味が実はあって。要はジャズのビートと、ヒップホップというか、ロービートが一緒に鳴ってる。そこから作った曲です。
タブゾンビ:「Monad」も、90年代のエリック・トラファズとかから影響を受けて、ビートを新しくすることによって今の感じが出るんじゃないか?ということで、石若駿くんという、今最も勢いのあるドラマーに参加してもらいました。ボトムはそういう、U.F.Oとか、MONDO GROSSOとか、アシッドジャズで、それを現代解釈で出すとどうなるか。
社長:「Space Drifter」はもう少し後の、2000年代に入ってからのブロークンビーツになるのかな。そのへんを聴いて育った若い子が、UKジャズの面白いことをやっていて、ヘンリー・ウーとか、世界中で引っ張りだこになってる。その世界観から影響を受けてる曲ですね。
タブゾンビ:「Reptilian’s Dance」「Chill 16」「Go Ahead」には、FUYUくんが入ってるんですけど。丈青さんがよく一緒にやってるドラマーで、最高のドラマーなんで、昔ながらの一発録りです。「Reptilian’s Dance」はミックスすらしてない。録った音をそのまんま。このへんはビートが斬新で、グルーヴもすごく良かったので、一発録りで行きました。
社長:丈青が音楽監督になって、“この音が世界に届くためには”ということで、世界基準のビート、リズム、グルーヴに持って行くために、緻密にディレクションしてくれた。
タブゾンビ:「Bach」も一発録り。リハもせずに、一回だけ録ったやつをそのままパッケージ。
社長:作り込んだものと、直感というか、我々が元々持っているソースも、ちゃんと落とし込めたという感じがします。
――聴けば聴くほど、じわじわ来ますね。すごくいいアルバム。
タブゾンビ:音楽としてはジャンルレスだけど、いわゆる音楽好きに聴いてほしいです。音楽好きって、今はもう少ないですからね。お茶の間のことを合わせると、広いかもしれないけど、本当にディグってる人はすごく少ない。
――この音、ライブではどんなふうに表現しましょうか。
タブゾンビ:音楽の在り方を、最近よく考えるんですよ。エネルギーをぶつけるライブも、すごくいいと思うんですけど。
社長:お客さんを、非日常空間で、音を楽しんで、何らかの形で気分を高揚させたい。その基本姿勢は変わらないけど、いわゆる、ウワー! ドーン! ドカーン! というものよりも、もうちょっと時間をかけて、高揚感が長く続くようなものにしたいんですよ。ライブが終わったあとに。家の風呂でもあったまるけど、源泉かけ流しの温泉であったまると、温浴効果がずーっと続くじゃないですか。
――ですね。
社長:じわじわと、確実に気持ちを上げて、非日常に誘って、トランシーなところまで行ってもらえたら、宇宙と繋がれたりすると思うんで。いい音楽を聴いた時の、パカーン!と頭が解放される感じ。あれって、短時間のドーン! ドカーン! だと、温浴効果が続かないんですよ。だから僕はできるだけ、源泉かけ流しの温泉を選んで行くようにしてます。温泉の話じゃないか(笑)。
タブゾンビ:盛り上げようと思えば、簡単にできるんですよ。ノウハウも相当あるし、アジテーターもいるし、やり方はわかってますけど、それってイージーなんですよ。その手段を取らずに、なるべくやっていきたいなと思います。
――ツアーは1月17日スタート。楽しみにしてます。
社長:頑張ります。
タブゾンビ:さあ、サツマニアンの話をしましょうか。
――お願いします(笑)。タブさんの地元・鹿児島の桜島が会場で、2年続けて大成功で。2020年は3回目を開催するんですよね?
タブゾンビ:もちろんやりたいと思っているんですけど、まだ正式決定してないので、“やるとしたら”の話で構想はすでにあります。
――出演者に、ほかのフェスにはない特色がありますよね。あれはタブさんが?
タブゾンビ:私が好きな、出てほしいアーティストとか、知り合いとか、鹿児島のリスナーに見てほしい人ばかりです。
――1年目は牧歌的と言うか、ファミリーで楽しめる印象があったのが、2年目のほうが攻撃的なアーティストが増えたせいか、観客の世代も若くなっていて、ファミリーも、フェスキッズも楽しめるようになったんじゃないかと。3年目の開催も期待しています。
タブゾンビ:3年目もできたらすごいことになります。まずSOILが出ない。嘘です(笑)。
社長:そういう年があってもいいと思うけどね。
タブゾンビ:いや、出てくださいよ(笑)。
――楽しみにしてます。
タブゾンビ:頑張ります。社長のフェスについては、聞かなくていいんですか。
社長:それはいいよ。もう、全然比べ物にならないぐらいちっちゃいんで。僕のはいいです。
――いやいや。せっかくなので紹介したいです。
社長:僕、福井出身なんですけど、福井駅から徒歩5分の中央公園を会場にして、2日間で1万人来ていただいて。今年が第1回目でした。1日目のヘッドライナーがCorneriusで、2日目が我々で、DJの子もいっぱい呼んで、ダンスミュージックを軸にやってるフェスです。『ONE PARK FESTIVAL』という名前なので、良かったら検索していただけると。
タブゾンビ:まあまあ。記事にしなくていいですよ(笑)。
社長:一行だけ。「社長もやっているようだ」と、伝聞で書いていただければ(笑)。
タブゾンビ:我々は、日本初の、バンドで二つフェスをやってるバンドなので。どっちも続けていけたらいいなと思ってます。
取材・文=宮本英夫
リリース情報
2019年12月4日発売
・通常盤(CD) VICL-65274 ¥2,900+tax
01. Man Steals The Stars
02. Monad
03. In The Twilight
04. Reptilian's Dance
05. Galaxy Lady
06. Tell A Vision
07. Lost Memories
08. Lyra’s Attack
09. Chill 16
10. Space Drifter
11. Go Ahead
12. Bach
13. Utopia Traces
Tabu Zombie (Trumpet)
Josei (Piano)
Akita Goldman (Bass)
Midorin (Drums)
Shacho (Agitator & Programming)
+ Takeshi Kurihara (Saxophones & Flute)
Drums : Shun Ishiwaka (Track 2), FUYU (Track 4, 9 & 11)
Electric Guitar : Ryosuke Nagaoka (Track 5 & 8)
SOIL&”PIMP” SESSIONS in London 〜Live at Ronnie Scott’s 20191019〜
◆配信情報
ストリーミングサービスおよびiTunes Store、レコチョク、moraなど主要ダウンロードサービスにて12月4日より配信スタート
ライブ情報
1/17(金) 浜松 Live House窓枠 OPEN 18:15 / START 19:00
1/18(土) 福井CHOP OPEN 18:15 / START 19:00
1/26(日) 仙台 Darwin OPEN 17:30 / START 18:00
2/01(土) 札幌 cube garden OPEN 17:30 / START 18:00
2/08(土) 大阪 味園ユニバース OPEN 17:00 / START 18:00
2/09(日) 京都 磔磔 OPEN 17:30 / START 18:00
2/11(火・祝) 名古屋 ボトムライン OPEN 17:15 / START 18:00
2/21(金) 広島 CLUB QUATTRO OPEN 18:15 / START 19:00
2/23(日) 鹿児島 CAPARVO HALL OPEN 17:15 / START 18:00
2/24(月・祝) 福岡 DRUM Be-1 OPEN 17:15 / START 18:00
3/04(水) マイナビBLITZ赤坂 OPEN 18:00 / START 19:00
ワンマン情報
「L'ULTIMO BACIO Anno 19
YEAR END JAZZ PARTY 2019 “Do the JAZZ Thing"」
12/23(月)恵比寿The Garden Hall
OPEN 18:00 / START 19:00
前売料金(税込)
指定席:¥6,000(ドリンク代別)
プレミアムシート(限定27席):¥9,000(1ドリンク&1タパス付)
※プレミアムシートは