糸あやつり人形一糸座が木下順二の『おんにょろ盛衰記』を上演~人形と人間たちが繰り広げる越境的な民話大活劇
糸あやつり人形一糸座が木下順二の『おんにょろ盛衰記』を、2020年2月5日(水)から2月9日(日)まで、東京の座・高円寺1で上演する。俳優の丸山厚人がタイトルロール“おんにょろ”として、結城一糸らの操る人形たちと共演する。演出は、演劇実験場ドナルカ・パッカーン主宰の川口典成が手掛ける。
糸あやつり人形一糸座 過去公演『ゴーレム』より(中央・丸山厚人)
一糸座は、結城座より独立した三代目結城一糸と田中純(元十一代結城孫三郎)らが2005年に「江戸糸あやつり人形座」として設立し、2015年に糸あやつり人形一糸座と改名した、日本の伝統的糸あやつり人形の劇団である。だが、新作において領域を超えた人達とのコラボレーションを積極的に行い、実験的な演劇を次々と生み出してきた。
糸あやつり人形一糸座 過去公演『カスパー』より
今回上演する『おんにょろ盛衰記』は、木下順二の戯曲(1957年発表)である。虎狼と大蛇という二つの災難に見舞われていた村に、ある日のこと長らく姿を消していた“おんにょろ”(仁王の方言的呼び方)が現れた。乱暴者で村の厄介者だった“おんにょろ”の帰還は、村人たちにとって第三の厄災。そこに、自分が死んだと思い込んでいる老婆も絡まりあいながら、乱暴で愚鈍な“おんにょろ”と、生き延びるために策を弄する村人たちと、妄念の世界にさまよう老婆による、三つ巴の騒動が繰り広げられる。
糸あやつり人形一糸座 過去公演『ゴーレム』より
初演は1957年、木下が山本安英らと設立した劇団『ぶどうの会』によって行われた。以後、数多のカンパニーが本戯曲を取り上げてきたが、1974年には結城一糸が生まれ育った結城座が“おんにょろ”役に緒方拳を招いて上演したこともあった。『夕鶴』や『彦市ばなし』を書いた木下ならではの民話劇でありつつも、中国の京劇「除三害」をベースに書かれた戯曲ゆえの、ユーモアあふれる活劇調の展開が、現代の観客には非常に親しみやすいものとなっている。
前述とおり、今回の上演では主人公“おんにょろ”役を、かつて劇団唐組の紅テントで活躍したアングラ俳優・丸山厚人が演じ、他の老婆と村人たちは一糸座の人形たちが演じる。かと思えば、虎狼などの化け物を、なんと京劇俳優が演じ、さらに女義太夫や歌舞伎囃子の人々も参戦して盛り上げる。このジャンル越境的な混沌ぶりこそ、一糸座ならではの醍醐味にほかならない。それはまさに戯曲の本質に沿った作劇戦略の実践ともいえるだろう。それゆえに、人形劇ファンも、そうでない人も、大いに注目すべき舞台である。
糸あやつり人形一糸座 過去公演『ゴーレム』より(中央・丸山厚人)
なお、糸あやつり人形一糸座は『おんにょろ盛衰記』の後、2020年5月には唐十郎『少女仮面』を天野天街演出で上演する。
糸あやつり人形一糸座 過去公演『カスパー』より
上映情報
■会場:座・高円寺1
■演出:川口典成(ドナルカ・パッカーン)
■出演:
<人形>
老婆:結城一糸
村長:田村泰二郎(アルファ・エージェンシー)
村人達:結城民子 結城敬太 根岸まりな 眞野トウヨウ 土屋渚紗 永野和宏 織田圭祐 篠崎旗江
<俳優>
おんにょろ:丸山厚人(ジェイ・クリップ)
京劇俳優:石山雄太 茶谷力輝
義太夫:竹本綾之助 竹本越孝
三味線:鶴澤三寿々 鶴澤津賀榮(一般社団法人義太夫協会)
鳴り物:望月太意三郎
■義太夫作曲:鶴澤三寿々
■舞台美術 :伊藤雅子
■衣装 :稲村朋子
■舞台監督 :大山慎一/ 秋成絵美
■京劇振付 :張春祥
■照明 :榊美香
■音響 :幸田和真
■人形製作 :糸あやつり人形一糸座
■企画 :結城一糸
■制作 :結城民子 田中めぐみ