東京乾電池の綾田俊樹とベンガルがホームレスに!? 演出の平山秀幸監督と共に綾ベン企画の最新作を語る
-
ポスト -
シェア - 送る
(左から)平山秀幸、ベンガル、綾田俊樹
1990年にスタートした、東京乾電池の綾田俊樹とベンガルによる“綾ベン企画”。その第14弾となる『川のほとりで3賢人』は、前作に引き続き映画監督の平山秀幸が演出を担当し、ゲストとして二人の劇団の後輩にあたる広岡由里子が参加するという、最強の顔合わせが実現する。
舞台は多摩川の河川敷。川のほとりにそれぞれ小屋を建てて隣り合わせで暮らすホームレスの男、二本松一樹と京本翼。彼らのもとに福祉課の主任だと名乗る馬場マチコという謎めいた女性が訪ねてくることで、二人の生活は徐々に乱されていく……。
まだ稽古が始まったばかりだという稽古場を訪ね、綾田とベンガル、そして演出の平山に、この企画のこと、最新作への想いを語ってもらった。
ーーまずは、この“綾ベン企画”について、そもそものお話を伺いたいのですが。今回、3年ぶりの新作になりますね。
ベンガル:そう、3年ぶりです。もともとは東京乾電池という劇団の中で、僕と綾田さんと、あともうひとり女優さんを迎えて、僕らが好きな、楽しい芝居をやりたいねと始めたのが20年くらい前の話で。
ーー第1弾が1990年ですから、今回はちょうど20周年ですね。
綾田:ああー、そうか。
ベンガル:その後も毎回女優さんをひとり呼び、基本的には三人で芝居をするというのをずっと続けてきて。3年前の前回公演『やんごとなき二人』も平山監督に演出をしていただいたんですが、今回と同じく多摩川の河原に住む人たちの話だったんですよ。今回はゲストに広岡由里子という、うちの劇団では一番強力な女優が加わるので、僕はすごく楽しみなんです。
綾田:広岡のほうから「私を出せ!」と言ってきたんですよ(笑)。だいたい僕らは「出てください」と言った覚えがあまりなくて。よく「出せ」とか「出ようか?」って言われる。
綾田俊樹
ベンガル:そうだよね。何となく、流れでいつの間にか出てもらっている気がするな。
綾田:前回は珍しく二人芝居だったんですが、脚本がとても面白かったし、僕としてはやりきったなというより、まだまだもっとやれるなと思えたんです。それで次は役を変えてみようかとか、そんな話をしているうちに広岡が「私を出せ」と言ってきたので、まあ、あそこに女性が入っても面白いなと思ったんですよね。
ーーこの企画に、平山監督が参加することになったいきさつは。
平山:僕は、映画の世界に入る前だからもう40年くらい前の話になるけど。今、乾電池は結成何年?
ベンガル:45年近いですね、44周年かな。
平山:僕、東京乾電池の舞台は旗揚げして2本目の舞台から観ているんです。乾電池の追っかけをやるくらいに大好きで、ずっと観に通っていて。その流れで自分の映画デビュー作の主役を柄本明さんにお願いし、もちろん綾田さんやベンガルさんにも出てもらっていました。要するに、東京乾電池がすごく好きなんです。
ーーファンだったんですね(笑)。
平山:本当にそうなんです。それでたまたま、映画の仕事を通じて二人と飲んだりしている間にお芝居の話になって。ただ僕は映画畑の人間なのでお芝居のことはよく分からないから、郷に入れば郷に従えということで、とにかくこの二人が楽しく、面白く芝居ができればいい、そのお手伝いとしてやりましょうかということになったのがいきさつですね。ホームレスさんの話にしようというのは、そちらから出たアイデアでしたよね。
綾田:どうでしたっけ。
ベンガル:僕らから、ですね。ホームレスさんって、他人に言えないことをたくさん持っているんです。僕らも前回の芝居をやる前には、何回か多摩川の河原で暮らしている人たちと面会もしていて。
ーー取材をされたんですか。
ベンガル:ええ、何人かから話を聞きました。だけど家族はどうしてるのとか、そういうことを聞くと彼らは一切口をつぐんでしまうんです。他のことだと、いろいろとしゃべってくれるんだけど。やっぱり闇みたいなものがあるから、そういうことも含めて笑いに変えられないかなとか、そういう生活もやってみたら楽しいんじゃないかなと思ったりしましたね。
綾田:ま、以前から興味があったんですよ。
平山:ついこの間も、実はみんなで多摩川に行ってきたところなんです。去年、台風とか大雨で河川敷は大変なことになっていたんです。だけど、あのへんをウロウロしていると僕らもホームレスも見た目的にはほとんど変わらないんですよ。お二人さんの雰囲気も、風景に溶け込んでいるようでした(笑)。しかし、それにしても広岡さんは強烈な爆弾みたいですねえ。
ベンガル:強烈です。あのキャラクターが多摩川の河原に現れると想像しただけで胸がバクバクしそう。
ベンガル
平山:もう、洪水以上ですよ(笑)。
綾田:だけど河川敷で暮らしている人たちって、街の中でベンチで寝ているような浮浪者とはちょっと違うんですよね。ちゃんと生活をしていて、全然不潔じゃないし。
ベンガル:中には臭う人もたまにいますけど、意外に少なかった。
平山:ご自分でしゃべっていいところと、しゃべりたくないところってあるじゃないですか。そのしゃべっていいところを聞いていると、どこまでがホラでどこまでがホントなのか分からない話ばかりで。自分は実は北の国のほうから来た殺し屋だとかスパイだとか。
ーーそんな話をされるんですか?
綾田:そう、それも、まことしやかに。
ベンガル:これが、また面白いんですよ。
平山:そういう意味合いでいうと、これは映画でもいいんだけど、その虚実の部分は変ではあってもドラマとかお芝居的には作りやすいというかね。これはやっちゃいけないということがなくなるので、そのあたりを楽しめればいいですし。
綾田:外国人の方もいたね。ほかの国から来て、日本でホームレスになるなんて。
平山:でも、どっこい生きているという感じがすごくした。
ベンガル:あの人、片言の日本語だったけど、たぶん本当はもっとベラベラしゃべれるのかもしれないよね。
ーー前回の『やんごとなき二人』の脚本は安倍照雄さんでしたが、今回は同じホームレスの物語でも脚本を書かれたのは、てっかんマスターさんだとか。
平山:前回の脚本の安倍さんは、十八代目中村勘三郎さんに出ていただいた『やじきた道中 てれすこ』という映画のシナリオを書いてもらっていて、この映画にはお二人も出ていただいていたので縁もあることだし、やってみないかと声をかけたんです。だけど今回は彼が忙しいというので。それで、てっかんマスターに書いてもらったんです。その正体は実を言うと、乾電池の戸辺俊介さんという方で。
綾田:そう、うちの劇団の役者で、作、演出家でもあるんです。
ベンガル:てっかんマスターなんて、わけのわからない名前だよねえ。なんでそんな名前なのか、僕らも知らないんですよ(笑)。
ーーその、てっかんマスターさんが書かれた今回の脚本のご感想はいかがでしたか。
ベンガル:面白かったですよ。僕の近しい人たちにも読んでもらったけど、すごく評判が良かった。
綾田:僕も、先入観なしに読んだらとても面白かった。今回の芝居のチラシの絵を描いているのはうちの妻で、デザインは友達がやってくれているんですけど、その二人もすごく面白いと言っていました。まあ、まだ完成ではなくて、細かいところはこれからだけど。
ベンガル:今後の稽古で、作っていくところもありますからね。
(左から)平山秀幸、ベンガル、綾田俊樹
ーーベンガルさんは二本松さん、綾田さんは京本さんという役柄を、現時点ではどう演じたいと思われていますか。
綾田:あまり妙に作り上げたキャラクターではなくて、観た方が「ああ、そうか、なるほどな」「こういう人、いるよなあ」と親近感を持てるようにしたいですね。
ーー実際にいるような人として。
綾田:うん、そうですね。
ベンガル:そのへんを歩いているオッサンたちと同じに見える人、いくらでもいますしね。だけど本当にすごいんですよ、河原で生活するということは。去年みたいに大水に見舞われることだってあるし、ほかにもどんなひどい目に遭うかわからないのに。それでもあの人たちは、結局は河原に戻ってくるんです。そうやって、ものすごく生活力があるのに社会から逃げた、なんて言うと失礼なのかもしれないけど。でもどうしようもなくなって河原に来た、それぞれに違う状況、違う理由があるんです。そういった彼らの事情も頭に入れて、演じていこうかなと思っています。そこに、謎の女の広岡由里子が。
ーー広岡さん演じる、馬場マチコが現れる。
平山:あれも、一種の水害みたいなもんですよね(笑)。
綾田:ハハハ、あれは水害か、そうかもな。
ーー広岡さんには、どんなことを期待されていますか。
ベンガル:放し飼い状態にするので、もう好きなようにやってくれればいいです。
綾田:だけど、どこかに謎を持っていてほしいですね。
ベンガル:いや、アイツはもともと見た目からしてとにかく強烈なものがありますから。普通の人は、見ただけで「あの女、一体なんなんだろうな……?」って思うはずですよ。ま、とにかく広岡が楽しくやってくれれば、あとはもう監督にお任せです。
平山:僕はやっぱり、個人的にずっと乾電池を追いかけていた人間ですからね。演出がどうとかよりもまずはファンとして「ベンガルさん、綾田さんのこういうところが見たい!」というものがあるんです。もちろん、そればかりを押し付けるだけではいけないですけど、そういう視点を活かして前回も演出しましたし。とにかく、お二人とも焼き鳥とか焼きとんが大好きなので、前回は“焼きとん講座”みたいな場面を何行か書いておいたら、それを10分くらいは平気でやれちゃいますから。ああいうところを見ているだけで、ものすごくホコッとできるんです。
平山秀幸
ーー今回は、お二人のどんなところを引き出したいと思われますか?
平山:いやいや、引き出すも何も二人はこのままでいいんですよ。今から新鮮なフルーツのようなものを引き出そうとも思いませんし。
綾田:えー、引き出してほしいなあ(笑)。
ベンガル:でももう、枯れ切っているからな(笑)。
平山:ただ変な話、ある年齢まで来ると、これは映画も同じなんですけど実年齢に合わせて年を取ってしまうようなところってあるものなんですよね。大巨匠の映画とか、みんな遺言みたいじゃないですか。だけどお二人の場合は、そうじゃないものを見たいなとは思っているんです。かといって、詰襟の高校生役をやってくれとは言いませんよ(笑)。もちろん映画の場合だと編集というものがありますけど、お芝居は板の上でナマで俳優さんが演じて初めて出て来るものですからね。この舞台は、やっぱりこの二人と広岡さんあっての作品になるだろうと思います。
ーーでは最後にお客様に向けて、見どころなど、お誘いのメッセージをいただけますか。
ベンガル:見どころは全部じゃないですかね。というか、見どころというのはお客様が決めることだからなあ。
綾田:きっと今までの最高作になる! と言っておきます。だってもう14回もやっているんだし、脚本も面白いけど、広岡との芝居も面白くなるはずだし。最高作になるはずですよ。
ベンガル:そうだね、最高作にしなきゃいけないですよ、もう僕らもいい年なんだから。
綾田:そうそう。
ベンガル:反省、反省の日々だから。もうそろそろ、ここらで結論を出しておかないとさ(笑)。
平山:とにかくこの舞台で綾田さん、ベンガルさん、広岡さんを、充分に堪能していただければと思います!
(左から)平山秀幸、ベンガル、綾田俊樹
取材・文=田中里津子 撮影=荒川 潤
公演情報
『川のほとりで3賢人』
会場:下北沢 駅前劇場
演出:平山秀幸
※2月21日19時、22日16時の回は特別料金 4,000円(全席指定・税込)
公演の内容についてのお問合せ: ニベル 070-4535-3001(12:00-19:00)
2bellepro@nibelle.co.jp