「勘三郎を超えることが恩返し」獅童、勘九郎、七之助が赤坂大歌舞伎『怪談 牡丹燈籠』にかける思いとは
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(左から)中村七之助、中村獅童、中村勘九郎
2020年5月5日(火・祝)~24日(日)に、TBS赤坂ACTシアターで、六回目となる「赤坂大歌舞伎」が上演される。演目は『怪談 牡丹燈籠』。出演は、中村獅童、中村勘九郎、中村七之助。演出は、テレビドラマ『令和元年版 怪談牡丹燈籠 Beauty&Fear』(2019年放送)でメガホンをとった源孝志。
今回上演される『怪談 牡丹燈籠』は、近代落語の祖といわれる、三遊亭圓朝が原作の怪談話だ。明治25年(1892)、三世河竹新七の脚色で歌舞伎で人気の演目となった。昭和49年(1974)年になると、劇作家の大西信行が文学座のために書き下ろした現代版の『怪談 牡丹燈籠』が、歌舞伎でも採用され、現在に至る。しかし今回上演されるのは、河竹新七版でもなく大西信行版でもない、源孝志版の新作歌舞伎だ。配役は、伴蔵と宮辺源次郎の2役に獅童、黒川孝助と萩原新三郎の2役に勘九郎、そしてお露、伴蔵の女房であるお峰、お国の3役に七之助。
キャストたちが口をそろえて「気心知れるメンバー」と語る座組みで、どのような『怪談 牡丹燈籠』を目指すのか。開幕に先駆けて獅童、勘九郎、七之助が、合同取材で思いを語った。
(左から)中村七之助、中村獅童、中村勘九郎
■魂で演じること
ーー現時点で、役作りについて何かイメージはありますか?
勘九郎:源監督が演出してくださり、気心知れているメンバーでできます。皆から出る意見を取り入れて、柔軟に作っていけたらと思います。
七之助:脚本ができてから考えますが、心得としては、魂で演じること。あとは現場で生まれるエネルギーを良いものにして、お客様にみていただきたいです。
獅童:僕は歌舞伎の『牡丹燈籠』に出演したことがありませんので、今の時点で、特にこれというイメージはありません。稽古場に立ち、3人が交わった時にどんな化学反応が起こるかを楽しみに、決めつけすぎずに挑みたいです。勘九郎さん、七之助さんと、気心知れている仲間であり、なんでも言える間柄です。どんなふうになるか、今から稽古場が楽しみです。
ーー「決めつけすぎない」というのは、新作だからこその考えでしょうか?
獅童:新作でも古典でも必要なことです。今年1月は、新橋演舞場で『金閣寺』の松永大膳という国崩し(お家のっとりを目論む大悪人)の役をやらせていただきました。12年前、初役の時に團十郎のおじさまから教えていただいた役です。その時は「国崩しだから立派にやらなくては」という気持ちばかりが先走っていました。
でも昨年12月、玉三郎のお兄さんとお話をさせていただく機会があったんです。「国崩しだからとか、古典物だから、という(捉え方)だけでやってはいけない。そこにドラマが見えてこなくては」と。たとえば大膳が雪姫に対し、どういう思いをもっているのか。古典の型でやるのは、もちろんそうだけれど「決まりはないんだ」と聞いて、気持ちがすごく楽になったんです。
思えばコクーン歌舞伎『東海道四谷怪談』で伊右衛門を演じた際も、演出家に「伊右衛門は色悪。でも一回それを外して、少し頼りない感じでやってみて」と言われました。役者として、いつだってそれができなくてはいけませんよね。決めつけすぎてしまうと、そこから出られなくなってしまいます。
古典の役を色々やらせていただいてきたから今だからこそ、力を抜けるというのもありますが、新作に限らず古典でも、決めつけすぎずに1回外して、再構築することは重要だと思います。
(左から)中村七之助、中村獅童、中村勘九郎
ーー『怪談牡丹燈籠』のどのようなポイントが、2020年を生きる人の心に響くと思われますか?
勘九郎:『牡丹燈籠』の世界の人たちは、生きること、生活することへのパワーがあります。現代社会に生きている人間って、パワーがなくなりがちではないですか? 生きていることに一生懸命かと聞かれると、どこか怠けている部分がある。『牡丹燈籠』の人たちからは、時代が許さなかったというのもありますが、やはり生きるために必死になるというパワーを感じていただけるのではないでしょうか。
獅童:「焦がれ死ぬ」という展開は、昔のストーリーだから成り立ちます。恋愛も別れも、スマホで簡単にできてしまう時代だからこそ、アナログがもつ人間模様に、歌舞伎の魅力があると思うんです。定式幕さえ、いまだに人の力で開け閉めしているんですからね。勘三郎のお兄さんも、よくおっしゃっていました。「世の中がデジタルであっても、役者の心はアナログじゃなきゃいけない」と。遠くにいる大好きな人の声を聞きたくて、両替をして10円玉をいっぱい用意して、公衆電話を探してなんとか声だけでも……みたいな気持ちは、分からないといけない。デジタルの時代だからこそ、アナログの人間模様を感じていただけるのではないでしょうか。
七之助:今回は、観終わった時に「こういう牡丹燈籠もあったんだ」と、僕自身思うものになるでしょうね。大西先生の『牡丹燈籠』は、焦点が役者にあてられ、役者でみせる部分が大きいんです。今回の源監督の脚本では、きっと、ドロっとした人間臭さ、自由がない時代に一生懸命生きる人間の選択ミス、今の時代なら平穏にいったんじゃないのかな……みたいな物語が見えてくるのではないでしょうか。
ーーテレビドラマ版にはない、歌舞伎だからこその魅力とは?
勘九郎:「生」ってことでしょう。怪談話といえば、昔、歌舞伎座で早替りのために、役者が花道の下の奈落を走ると、その足音が響いてお客様はびっくりされたそうです。そんなアナログの怖さを、今でも感じていただけると思います。七之助は、三役の早替りもしますしね。あとは男同士だからこその、なまめかしさも楽しんでいただけるはずです。
七之助:そうですね。やはり「生」ということでしょうね。映像では味わえない怖さ。たとえばお峰が、あれだけお世話になってきた人の命にかかわることを、「100両くれればぜんぶやる」と言い出す。伴蔵が止めようとすると「じゃあ、あんた稼げるのかい?」って返して、客席はワッと笑う。でも、よくよく冷静に考えるととっても怖いことですよね。客席で「なに言ってんだよ」って笑いながら、ふと、背筋がすーっと寒くなるような恐ろしさを感じていただけるのではないでしょうか。
(左から)中村七之助、中村獅童、中村勘九郎
■のこされた僕らがどこまで行けるか
赤坂大歌舞伎は、2008年にスタートしたシリーズで、十八世中村勘三郎の声掛けではじまった。2013年からは、中村勘九郎、中村七之助兄弟が亡き父の遺志を継ぎ、公演を続けてきた。
ーー赤坂大歌舞伎にかける、思いをお聞かせください。
勘九郎:赤坂大歌舞伎という空間そのものに、力を感じます。あまり歌舞伎をご覧にならない方にとって、常に歌舞伎を上演している歌舞伎座などでの公演には、高尚で難しいイメージをもたれるように思います。実際、歌舞伎座は神聖な場所だと思いますし、造りも重厚です。するとお客様は「歌舞伎座だ」というだけで、思考が止まってしまうんですよね。それが赤坂大歌舞伎になると、同じ演目、同じ演出であっても、お客さんは「ああ、こんなに分かりやすくしてくれているんだ」と受け止めてくれるんです。赤坂大歌舞伎という空間がもつ力のおかげだと思います。
七之助:父(勘三郎)への思いが、まずあります。2013年3月に第三回公演が決まっていたなか、2012年12月、父が急に逝ってしまいました。第三回は中止になるだろうと思ったら、『怪談乳房榎』を、獅童さん、兄、そして私でやらせていただくことができました。これがとても良く、2014年の平成中村座NY公演に繋がるものになりました。さらに2015年の第四回では『お染の七役』をやらせていただきました。次は新作をやりたいといったら第五回で、蓬莱竜太さん演出『夢幻恋双紙』をやらせていただいた。稽古場から本当に楽しかった。
そして昨年、TVドラマ『令和元年版 怪談牡丹燈籠 Beauty&Fear』で源監督とご一緒させていただき、このスピードで今年の新作歌舞伎『怪談 牡丹燈籠』です。赤坂大歌舞伎は、とんとん拍子で良いものができる。父が遺し僕らが始めたものが、一番融合しているところではないでしょうか。父のためにも自分たちのためにも、来てくださるお客様のためにも、大事にしていかなければならない公演だと思っています。
(左から)中村七之助、中村獅童、中村勘九郎
獅童:今の若い世代の子たちには、歌舞伎をみなくても楽しいことがいくらでもあります。そんな人たちに振り向いてもらおうというのは、生半可なことではありません。でも若い観客も育ってくれないと、20年後、30年後、歌舞伎は滅びてしまうわけです。だから一回一回が戦いだと思って演じています。勘三郎のお兄さんも、最後まで戦いぬいた方。尊敬するお兄さんのそばで勉強させていただいたということが全てですし、(勘九郎、七之助とは)一緒に怒られ泣いて、という思い出もあります。今、のこされた僕らが、どこまでいけるか。勘三郎のお兄さんのやってきたことを超えることが、恩返しだと思っています。赤坂大歌舞伎では、そういった一つの気持ちと、前を見据える力をもった2人と、一緒に芝居ができるんです。今は、楽しみしかありません。
ーー歌舞伎に馴染みのない方に、今公演の楽しみ方を、アドバイスいただけますか?
勘九郎:『牡丹燈籠』には、3組のカップルが登場します。夫婦関係、恋人同士、恋人になれない同士、と、それぞれの関係性が描かれています。結婚されている方は、お峰・伴蔵夫婦をみて、「お互いを大切にしないといけないな」「お金はこわいな」など感じていただくとか。恋愛のお話は、自分の身に置き換えて共感いただけるところもあると思います。観劇後、一緒に行った人と、感想を話しやすい話だとも思います。
獅童:歌舞伎を観にいくこと自体を、イベントとして楽しんでいただくのもいいかもしれません。今、浴衣を着るのは花火の時くらいですよね。歌舞伎座に浴衣は、ちょっと気が引けるかもしれませんが、TBS赤坂ACTシアターなら浴衣でもいいかもしれない。お洒落して芝居を観て、観終わった後には美味しいもの食べておしゃべりして。イベントとして楽しんでいただけると思います。
七之助:歌舞伎の面白さは、一度観にきてくれないと、こればっかりは……、ねえ?(笑)。ビジュアル的にも素晴らしい。脚本も分かりやすく、普遍的な物語です。肩の力を抜いて楽しんでいただければと思います。
(左から)中村七之助、中村獅童、中村勘九郎
赤坂大歌舞伎 『怪談 牡丹燈籠』は、TBS赤坂ACTシアターで、2020年5月5日(火・祝)~5月24日(日)の上演。
中村獅童
HM:masato at B.I.G.S. (marr)
STY:長瀬哲朗(UM
中村勘九郎、中村七之助
HM:宮藤誠(Feliz Hair)
STY:寺田邦子
衣裳クレジット
【中村勘九郎】ジャケット 5万3千円/パンツ 2万3千円/タイ 1万3千円/シャツ、チーフ共に参考商品
【中村七之助】スーツ 7万9千円/タイ 9千円/チーフ、シャツ共に参考商品。
全てNEWYORKER(ダイドーフォワード)
TEL:0120-17-0599
公演情報
会場:TBS 赤坂ACTシアター
中村獅童、中村勘九郎、中村七之助 ほか
原作:三遊亭圓朝
脚本・演出:源孝志
音楽:阿部海太郎
衣裳:前田文子
料金:S席 13,500円 A席 8,000円 B席 4,000円 (全席指定・税込)
※未就学児の入場不可
主催:TBS/松竹株式会社/BS-TBS /TBS ラジオ 企画協力:ファーンウッド/ファーンウッド21
製作:松竹株式会社
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/act/event/ookabuki2020/