東京二期会、ベートーヴェン生誕250周年記念オペラ『フィデリオ』を深作健太演出で上演 指揮はダン・エッティンガー
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(左から)深作健太、ダン・エッティンガー
東京二期会は、2020-2021シーズンの開幕として、2020年9月3日(木)~6日(日)、新国立劇場オペラパレスにて、ベートーヴェン作曲オペラ『フィデリオ』を上演することを発表した。
2020年は、音楽史上最も重要な作曲家の一人であり、「楽聖」と称されるベートーヴェンの生誕250周年にあたる。これを記念して、東京二期会は、ベートーヴェンが遺した唯一のオペラである『フィデリオ』を上演する。
東京二期会は、2020年はクラシック音楽界にとって最大級のメモリアル・イヤーですが、その意味は今や大きく変わりました。現在、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、世界中の人々が感染症の苦しみまたはその不安に直面し、自由を制限された生活を余儀なくされています。
この時代の状況で、私たちのオペラ『フィデリオ』公演が、皆様に希望を提供するものになることを願っています、とメッセージをよせた。
オペラ『フィデリオ』について
オペラ『フィデリオ』は、不当な政治罪で牢獄に囚われた夫フロレスタンのため、妻のレオノーレが男性に変装し「フィデリオ」と名乗って刑務所に潜り込み、夫を救い出すという物語。フランス革命の興奮冷めやらぬ1805年のウィーンで初演され、その後も9年にわたり改訂を重ねたベートーヴェン渾身の作品。「自由」「勝利」「博愛」「復活」「歓喜」のシンボルとして、第二次世界大戦後に再建されたウィーン国立歌劇場のこけら落し公演など、特別な機会に上演されることも多く、世界中の人々に尊敬の念とともに親しまれてきている。
今回、演出を務めるのは、映画監督で演出家の深作健太。オペラにも造詣が深く、東京二期会でR.シュトラウス『ダナエの愛』(2015)、ワーグナー『ローエングリン』(2018)に続いて、今回が3作目の演出となる。作曲家の意図や思考を深く探求しながら、現代的なテーマを浮かび上がらせるのが深作演出の特徴のひとつ。今回の演出にあたっては、『フィデリオ』を「〈自由〉をめぐる人類と、牢獄=〈壁〉の闘いのオペラ」といい、グローバルな時代だからこそ重みを増しているベートーヴェンからのメッセージを現代に投げかける。
指揮は、シュトゥットガルト・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、イスラエル歌劇場音楽監督のダン・エッティンガー。メトロポリタン歌劇場、ウィーン国立歌劇場、パリ・オペラ座、ロイヤル・オペラ・ハウスはじめ世界一流の歌劇場を席巻するマエストロが東京二期会公演に初登場する。桂冠指揮者を務める東京フィルハーモニー交響楽団とのタッグにも期待しよう。
ダン・エッティンガー
キャストには、フロレスタン福井敬、レオノーレ木下美穂子、ドン・フェルナンド黒田博はじめ、年末の「第九演奏会」のソリストとしてもおなじみのベートーヴェンのエキスパートが集結する。この特別な公演を担う東京二期会のキャストにも注目したい。
演出 深作健太 コメント
深作健太
ーー深作さんにとっての、ベートーヴェンの「原体験」を教えてください。
1989年、 僕が高校一年生の時、ベルリンの壁が壊れました。その時、バーンスタイン指揮の記念コンサートの映像で「第九」を聴いたのが、最初のベートーヴェン体験です。それはもう衝撃的でした。歌詞のFreude (歓喜) を、あえてFreiheit (自由) に変えて歌っていて。冷戦が終わり、これからヨーロッパがひとつになる新しい時代が来るんだ、という実感と共に、二百年も前の時代にベートーヴェンさんが音楽に籠めた、壮大な〈自由〉への祈りに、全身が震えました。
ーー『フィデリオ』の演出を決められたときの心境を教えてください。
とても嬉しかったです! 『フィデリオ』はベートーヴェンが遺した唯一のオペラ。それを生誕250周年の記念の年に、演出させていただけるなんて。だけど演出家としては、ものすごく難しい作品なんですよね。台本の構成がシンプルすぎて、そのまま演出したのでは、ベートーヴェンさんが当時、訴えたかったはずの、激しいまでの〈自由〉への渇望が、現代の観客には伝わらなくなってしまう。フランス革命当時の、女性が男性に化けて夫を救うという設定の、ジェンダーの問題しかり。国家権力と闘って、政治犯として監獄に囚われる事の意味も、現代とはかなり違う訳で……。 そのあたりをどう演出するか、大きな挑戦が必要だと思います。
ーー最初にオペラ演出をされた『ダナエの愛』のときに、楽譜をとおして、作曲家リヒャルト・シュトラウスと、対話するということおっしゃっていました。 『ローエングリン』のときは、ワーグナーが深作さんの夢枕に立たれたとか…今、『フィデリオ』からは作曲家のどのような言葉が聞こえてきているのでしょうか。
ベートーヴェンさんの時代に比べて、今の僕達は、平和で豊かですよね。だからこそ、聴こえてこない〈音〉ってあると思うんです。楽譜を読んでると、 「おい。君達は今、本当に自由なのか?〈自由〉って何だ?」って、ベートーヴェンさんに問いただされている気がして(笑)。ひょっとしたら、まだあまり〈自由〉になれてないんじゃないかって思うんですよ。今年は 戦後75年の節目の年でもあるんですが、世界中で何千万人の死という大きな犠牲を経て、親達から受け継いだはずの〈自由〉の根底が今、大きく崩れ始めています。格差は開く一方だし、不安だから、 弱い僕達はまた、せっかく壊したはずの〈壁〉を、国境にも、自分達の心にも、あちこちに建て始めている。それはとても後ろ向きで、哀しい事です。芸術は常に、他者を拒む〈壁〉ではなく、他者を繋ぐ〈橋〉にならなくてはなりません。ベートーヴェンさんの音楽に響く情熱を、いかに〈国境〉を越えて次の世代に伝えるか。とても大切な責任だと思っています。
ーー今回の『フィデリオ』は、 どのような公演にされたいですか。 お客様にむけたメッセージをお願いいたします。
今は危険なウイルスが蔓延して、
これは戦後75年に及ぶ、〈自由〉をめぐる人類と〈壁〉の闘いのオペラです。「希望よ、 来たれ!」とは、劇中でレオノーレが歌う大切なアリアですが、今こそ、それが歌われるのに、 最もふさわしい時だと思います。
〈復興〉への願いと、 祈りを込めて――