期間限定無料配信、劇団TipTapオリジナルミュージカル『Play a Life』を「おうちで観劇」してみた

演出家・上田一豪が主宰する劇団TipTapが、2020年4月10日（金）12時から4月17日（金）12時の期間限定で、オリジナルミュージカル『Play a Life』2015年初演版をYouTubeで無料配信した。さっそくこの動画を「おうちで観劇」（SPICEでは“テレシアター”と命名）してみた。

本作品は、俳優を志していたものの、現在は高校で非常勤講師として世界史を教える夫と、小学校の元教師だった妻、そして夫が指導をする教育実習生の女性3人が登場し、夫婦の自宅と高校の教室を舞台に物語が描かれていく。初演は、小林遼介、池谷祐子、平川めぐみが出演する黒猫チーム、丹宗立峰、木村花代、田中里佳が出演する白猫チームで上演された。
 

■ロビン・ウィリアムズの映画でつながる一組の夫婦と教育実習生の物語

物語は、2人の教師に出会ったことをきっかけに教師を志した教育実習生の語りから始まる。一人は教育実習で指導をしてくれた教師、そしてもう一人は小学校時代の担任教師で、偶然にもその二人は夫婦なのだ。

教育実習生に大きな影響を与えることになる夫婦は、1匹の猫と平凡に暮らしていた。しかし妻は教師を辞め、なんとなく覇気がない。そんな妻にとまどいを見せながらも愛情深く接していく夫。二人は映画好きでロビン・ウィリアムズの大ファン。彼の代表作『いまを生きる』をきっかけに知り合い、結婚した。

一方、教育実習生は、実習初日に指導教員が非常勤講師であることを嘆くのだが、指導教員の好きな映画が自分と同じ『いまを生きる』と知り、少しずつ心を開いていく。教育実習生の登場で、夫婦二人の生活に大きな変化が訪れるのだが、彼らを待ち受けている結末は…？
 

■フレッシュな黒猫チームと大人っぽい白猫チーム

伴奏はピアノのみ。ほとんどのせりふを歌にのせて物語が展開していく。夫が授業をする場面や、教育実習生が初日に嘆くシーンで披露される歌はアップテンポで、なおかつ早口言葉のような歌詞を歌いこなしており、圧倒される。そうかと思えば、夫婦二人の会話で歌われる曲はしっとりと切ないメロディーが多く、胸にジーンとくる。一度聴いたら耳に残る曲が多いのもこの作品の魅力だ。

そして黒猫チームと白猫チーム、それぞれ持ち味の違いが際立った舞台でもあった。黒猫チームの3人はフレッシュさが前面に出ており、特に小林は新米教師のようで教育実習生の平川が「指導教員が非常勤…」と落ち込むことに説得力がある。また、彼女が実習生ゆえの緊張からアタフタするところも可笑しく、思わず「大丈夫かー？」と声を掛けたくなった。そして池谷は、夫にイラッとしたとき、ストレートに感情を見せることも。

一方、白猫チームの3人は落ち着いた大人っぽさを感じた。丹宗は少しヤンチャな雰囲気はあるものの「こういう先生、いたよなあ」と感じてしまうほどの教師ぶり。田中の演じる教育実習生は、やはりアタフタしながらも、どことなくしっかり者で落ち着いた雰囲気があった。なんといっても妻役の木村が、母のような眼差しで夫を見ているところが大人っぽさを感じる一番の理由のような気がする。

物語は中盤から、なぜ妻が教師を辞めたのか、そして冒頭からなんとなく感じる夫婦の微妙にずれた感覚の謎が解き明かされていく。そういうことだったのか…と納得しながら、夫の取った行動や妻の気持ち、そして教育実習生に対する思いは、それぞれ感じ方が違うだろう。ただほとんどの人は観終わったあとに、この作品のキーワードでもあるロビン・ウィリアムズの『いまを生きる』を観たくなるのではないだろうか。
 

■思いのほか「おうちで観劇」をエンジョイできた理由とは？

今回はYouTubeでの配信ということで、黒猫チームと白猫チームの舞台を、あえて連続で観てみた。Wキャストであれば必ず両方の舞台を観るという人は多いと思うが、時間を置くことなく連続して観るというのは、なかなか味わえない経験だった。実際に黒猫チームの舞台を観終わり、その印象が残ったまま白猫チームを観たことによって、それぞれの持ち味が思った以上にくっきりと見え、役者が違うと、こんなにも表現の仕方が違うのかと感じたことは面白い体験だった。また、お酒を飲みながら観劇できたのも普段はできない経験で、ほろ酔い気分になってくると、物語の内容がより深く心にしみ込んできた。しかし飲みすぎは禁物で、あくまでもほろ酔いで観劇することをおすすめする。

そして何よりも自宅観劇の良いところは、物語から置いてけぼりにならないのがいい。本作のようにほとんどのせりふを歌にのせていく作品は、時として「あれ？　さっきのはどういう意味だっけ？」となることも少なくない。しかしその時はストップして巻き戻すことができるのは、とてもありがたい。

本作品は、2020年4月17日（金）12時から24日（金）12時の期間限定で、2016年の再演版を配信する。再演版は、黒猫チームの上野聖太　麻尋えりか　吉田萌美、青猫チームの廣瀬友祐　塩月綾香　嘉悦恵都、白猫チームの原慎一郎　木村花代　田中里佳、3チームに分かれている。3チーム連続で観るもよし、日にちを開けて観るもよし、それぞれ好きな楽しみ方で、おうちで観劇「テレシアター」をエンジョイしてみよう。

文＝秋乃麻桔​