マイアミパーティが描く、一面的ではない人間のリアリティ 2ndEP「p.q.b.d」が今、リアルに響く理由

2020.5.13
インタビュー
音楽

マイアミパーティ

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1stアルバム『美しくあれ』から約1年。北海道から上京し、全国区のバンドとして各地のライブでも存在感を示してきたマイアミパーティ。残念なことに今は誰もがライブをできない状態ではあるけれど、そこでどんな新作を発信するかはバンドにとってもリスナーにとっても非常に大切なことであり、関心事だと思う。2ndEPとなる今回の「p.q.b.d」。その意味はインタビューで知ってもらうとして、現在のコロナ禍よりも、はるか以前にあったアイデアでありつつ、何かを得ても何かに怯えていたり、逆にとても些細なことが生きる原動力になるという、妙に今の状況にリンクするモチーフが心を揺さぶる。前回もバンドマンである前にまず人であるスタンスに新鮮な感動を覚えたフロントマンのさくらいたかよし(Vo/Gt)にモニター越しに話を訊いた。

――去年1stフルアルバム『美しくあれ』をリリースした後、約1年のバンドのマインドの変化を伺えますか。

今までは北海道・札幌に住んでいて、ライブをやる場所が、札幌なのもあり限られていて、対バンもいつも同じようなメンツでやってたんです。でも東京にくると、毎ライブ対バンの人も違ったり、いろんな刺激がありました。また、会場ごとにいろんなお客さんの層があり、より広いところにアプローチできてるんじゃないかな?とは思う反面、やっぱりまだまだ力不足かな、というところにもぶち当たってるところですね。着実に前に進んではいるんですが、やっぱり僕らはどっちかというと一気に大きく進むタイプとは違う気がしていて、ほんとに着実に一歩一歩、土台を固めて進んでいってるって感じですね。

――CDには去年12月の自主企画のライブ音源も入ってますけど、そこにもワンマンとは違う空気感があるなと思いました。前の2バンドからの流れをどう繋いだのか?というムードが込められていて。ライブの1曲目とラストが収録されているし、ライブが想像できる部分もありました。

嬉しいです。ライブバージョンの「シスター」って曲でも言ってるんですが。いつもライブでは日付を言うようにしているんです。それは毎回毎回、僕らは違うことをやってる、その日その日出てくる言葉や表情、意気込みが毎度違いますし、それを見逃したくないと思ってもらえるような、ライブをできるようにしたいので。例えば月に3回ライブをやって、2回きてくれた人、1回だけライブに来れなかった人も「2回見たからいいや」とかではなくて、行けなかった日はどんなことしてたんだろう?どんなことを言ってたんだろう?っていうのが気になるようなライブができれば、もっともっと、みんな逃さずきてくれるようになるのかなとは思いました。

――今日ここにきてくれてる人と対バンに対しての思いが乗っかったMCをするんだなって分かるし、しかもそれが記録物として残るから。

そうですね。もちろん音源通りにやってるバンドも僕はすごい好きなんですけど、それぞれ得意なところと魅力があって、僕らだと多分、一つ一つに向けたライブだったり、来てくれるお客さん一人一人と胸を合わせてライブをやるのがいいと思ってるんです。それも東京来てからっていう感じですかね。

例えばバンドやってる人も、真昼にバイトをたくさんしてたり、照明を浴びてない

マイアミパーティ / さくらいたかよし(Vo.Gt)

――ところで大前提の疑問なんですけど「p.q.b.d」って接続状態関数のことですか?

あ、違うんですよ!(笑)。これただ僕が言葉遊びでやってたやつなんです。例えばpっていう文字があって、それって何となく人に似てるなと思って。角度によって、例えば右から見たらqになったり、左から見たらbになったり後ろから見たらdになったり。それってライブハウスで僕らが見てるお客さんの表情と、学校に通ってる時の皆さんの表情と、全然見る角度によって全然意味合いとか変わってくるということに似てるなと。どれも正しくて、僕から見たあなたと、他の人から見たらあなたは全然違うかもしれないけど、僕は全然それでいいよ、僕から見た君が好きなんで大丈夫、って意味があったりしますね。​

――誰もその意味は読み解けないですよ(笑)。ゲーム詳しい人とか読み解けるのかな?と思ったんです。もしくはプログラミング用語。

僕のこの感じでプログラミング用語入れてたら結構ブレブレな感じなんじゃないですか?(笑)。

――いや、分からない(笑)。この歌詞はいつ頃書いてたんですか?

「p.q.b.d」っていうのを題材にしたのは2年ぐらい前にあって、ただこれをどう伝えたらいいんだろう?と思って、ずっとメモ帳の中にはあったけど、触れてなかったんです。例えば見える角度によって考え方が違うっていうのは、別の例えもあって、例えば手のひらを人の方に向けたら「さようなら」って意味になるんですけど、横にしたら握手にもなるじゃないですか。こういうふうに見る角度によって意味合いが全然違ってくるよって話をしたかったんですが、そこがなかなか難しくて。ただ「p.q.b.d」っていうのはあまりない発想なんだろうなとは思っていたので、お客さんがハッとしてくれたらいいなとは、ずっと思ってたんです。だからようやく形になったな、と思いました。​

――この曲の芯は冒頭のアカペラ始まりの一行目「愛を掴んでも僕ら人類は 臆病な僕らは何かに怯えてる」に集約されてる感じがします。さくらいさんは前から考えてたアイデアなのに、今の状況にハマりすぎてて怖いというか。

うん。ほんとそうですね。頭の歌い出しも、何パターンかあって。なんかずっと僕が歌いたかったのって、こういう頭の「愛を掴んでも僕ら人類は 何かに怯えてる」なのかなって。僕がそういう人間だったので。また角度の話になっちゃうんですけど、最初の方に「真昼によけた水たまりが夜には星を写してた」っていうのも僕は人間ぽいなと思ってて。例えばバンドやってる人も、真昼にバイトをたくさんしてたり、照明を浴びてない、ライブとは全然無関係なところでアーティストっぽくないことをしていても、夜にはライブハウスのステージで歌っていたりっていう、みんないろいろな表情を持ってるよねっていう話を、この中ではしたかったんです。

――水たまりの例えはすごくわかります。

嬉しいです。これも一番最初はMCでたまに言ってたんですよ。だけど友達のバンドマンとかに「わかりづらい」って言われてたんですよね(笑)。それをどう歌詞にするかですごく悩んでたんですが、こうして読むと、少しわかりやすくなったかなと今思いました。​

――歌詞にすることで自分の思いが一回飲み込める?

そうですね。昔、一番最初にバンドを組んだ時に・・曲が5曲しか作れなかったんです。なので5曲だけを持って1年間ライブ活動をしてたんですよ。それで、一回ステージでお客さんに謝っちゃったことがあって。「いつも同じ曲をやってすいません」っていう。その時、お客さんから「同じ曲をやってたとしても聴いてるときの私たちの状況だとか、環境っていうのは全然違うから、いつも違う曲に聴こえてる」ってことを言われてハッとするものがありました。それもあって、今自分は歌詞を見返すことができますが、音楽始めて2年目ぐらいまでは自分の歌詞を読み返すことができなかったんですよ。ラブレターを読んでるみたいで恥ずかしい気持ちになってたんですけど、最近は歌詞を本を読んでるみたいにちゃんと読み返せるようになったのは、成長したのかなとちょっと思います。​

僕らの音楽を聴いてくれる人は特に、僕らと似てるとこが少なからずあるから

マイアミパーティ

――「p.q.b.d」はマイアミパーティらしいサウンドの中にも、ストレートな面とセルジオさんたちメンバーのいろんな音楽的な背景ががハイブリッドしてきたと感じて。

ああ、嬉しいです。

――楽器隊は弾きまくってるし。曲ごとで棲み分けるんじゃなくて一つの曲の中に入ってるなと。特に2サビのあとの間奏が新しいですね。

それは何だろうな?東京に来てからなんですけど、メンバーがそれぞれ曲を作るようになったんですね。今までもさわりだけは作ったりはしてたんですが、丸々1曲作るようになりまして、そこからだんだん僕の持ってきた曲に対するアレンジが変わってきましたね。

――言葉以上に、雄弁にアレンジや構成が出てきたなと感じました。

そうですね。この間奏も入れるか入れないか、長さはどうする?とか割と話し合ったんですけど、なんかやっぱり入れたほうがいいなと思って、割と一存で入れてもらったかな。

――この間奏があることによって、見えないことに怯えてたり、掴めない感じが増すなと思いましたけど。

僕はなんでも言葉にしちゃうんですけど、言葉にならないことってたくさんありますよね。焦燥感とかやるせないこととか。そういうところはアレンジで表現できたらいいなとは思ってましたね。最初から思ってたのは、例えばみんな抱えてる不安とかは一緒なんだよ、だから安心して欲しいなっていうのは思いましたね。やっぱりライブハウスに来ていて、僕らの音楽を聴いてくれる人は特に、僕らと似てるとこが少なからずあるから聴いてくれるんだろう、というのはあるんで。​

こういう日が来た時のために写真や動画などを撮って、寂しくないようにしようとはちょっと思いましたね

マイアミパーティ

――今回端的にカラーの違う3曲が入ってるので今のマイアミパーティがわかりやすいと思うんですけど、2曲目の「未来予報」は高性能エンジンを積んだ感じがあります。

ははは。そうですね。これはほんとにスマートに言いたいことを言って、やりたいことをやってっていう感じですね。

――スマートというか、いい歌詞です。

歌詞を作るきっかけになったのが、僕のおばあちゃんとのエピソードを元に作った曲です。もともと僕は写真を撮られるのが、そんなに好きじゃなかったんです。それで、札幌ではおばあちゃんと暮らしていたんですが、かなり認知症が進行しちゃってまして、毎朝ストーブの付け方を教えても次の朝にはもう忘れてるというような状態でした。その時、おばあちゃんとおじいちゃんが写ってる写真を見て「あら、この人誰だろう」って言うんですよ。それで「これおじいちゃんだよ。ばあちゃんの旦那さんだよ」って教えてあげて、そっから「ああ、そうなのね」って言って、おじいちゃんとの事を思い出したりしてたんです。それが次の日には忘れていて、また「あれ、この人誰だっけ?」って僕に聞いてくるんですよ。それをみていて「僕らも結局いつかはこうなってしまうのかな」とちょっとだけ思ってしまって。それでサビにある「毎日1から思い出に浸れるように写真を撮って飾りましょう」みたいな歌詞があって。僕と君の写真を撮って飾ろう、それが元ネタというか、そういう風に歌いましたね。​

――これって捉え方によってはプロポーズソングみたいでいいですね。

あー。ほんとですね(笑)。

――どっちかの記憶がなくなっても一緒に生きる、ロマンチックな話になってる気がして。

うん。それこそ今、ライブができなくていろんな人に会えなくて、ライブハウスにも行けなくてっていう現状になってしまったんですが、SNSに昔のライブハウスで、楽しかった時の動画とかあげてる人がいて。この歌詞とちょっとリンクして、こういう日が来た時のために写真や動画などを撮って、寂しくないようにしようとはちょっと思いましたね。それで、曲の話に戻すと、やはり僕はこの曲は、おじいちゃんとおばあちゃんが頭から離れなかったので、プロポーズソングとかそういう感じではなかったんですよね。でも今そう言われてみると「確かに」と思いますね(笑)。それもさっき話した”見る角度”で違うという面白さかもしれませんね。

ずっと聴いてきた音楽がそういう音楽だと思うので

マイアミパーティ

――3曲目の「道」はどういう時にできた曲ですか?

これは僕がどっちかと言うとネガティブな考え方が多かった時に、自分を励まそうと思って書いた曲です。バンドの話なんだけど、たまに僕らマイアミのお客さんから、相談されること、お悩み事のコメントが来るとか。その中で、「周りが就職していく中で私は」とか、「周りと比べて自分は少しペースが遅い」的な話が結構多かったんです。それって僕らのバンド活動とちょっと似てるものがあるなと。例えば仲良くしてた後輩が売れてっちゃうことだとか、「良かったら聴いてください」って3年前にCDをくれたバンドが僕らよりどんどんどんどん上に行っちゃうってことがザラにあって。そこでいつも僕はすげえ落ち込むんですけど、僕がそうやって落ち込んでることと、周りがどんどん就職していくのに私は……って言ってる人達っていうのは遠くないっていうか、近いものがあるんですよね。なので、僕を励ますためにもそうだし、お客さんを励ますためにもこういう曲作ってみようと思って作った曲ですね。みんなやっぱ迷いながら歩いてるんだなっていう。

――さくらいさんのボーカルだけを取るとすごくフォーキーな曲ですけど、アレンジによってもうちょっと重みのある感じに仕上がってるのかなと思いました。

うん。僕、結局、フォークな方に行っちゃうんですよ。だからそれをバンドアレンジにしたときに、今は非常にメンバーに助けられてます。

――さくらいさんが日本語で歌うときに一番歌いやすいメロディなんでしょうね。

ずっと聴いてきた音楽がそういう音楽だと思うので。これは僕の中で、セカイイチっていうバンドがすごい好きで。セカイイチっぽいペースだなと思いながら歌ってますね。(岩崎)慧さんは洋楽っぽい感じなんですけど。​

マイアミパーティ

――今って誰の曲を聴いても、今の状況に照らし合わせてしまうところがちょっとあるんですけど、でもすごいしっくり来る。今の状況って過去から地続きなんだなと思えるので。

うん。突拍子もない話かもしれませんが、この現状、世の中全体で起こってることが、もしかしたらなんていうんだろ?本来、一人ひとりの心の中にある不安みたいなものがあるじゃないですか。それの世の中バージョンなのかな?と今、思いました。​

――こういう状況だと不安が表出しやすいですからね。

そうですね。本来こういう不安、この先ずっとどうしたらいいかわかんないとか、グラグラしてる椅子にずっと座ってる感じと、今、世の中全体にそうなってますけど、本当は、もともとみんなも心の中にもそういう気持ちはずっと持ってるのかなと思いました。

――それを共有した上でどういう態度に出るか?ってとこに今来てるじゃないですか。だからハードなことではあるけど、今、表現してる人の本質が見えてくる時期でもあると思います。ところで具体的なことを聞くんですが、今ライブができない状態の中、マイアミパーティとしては何かバンドとして発信していこうとしていることはありますか?

バンドとして発信していこうと思うこと……回答が違うかもしれないんですが、配信ライブとかやっていて、これからも多分やっていくんですけど、まずは応援してくれる人だとか、今まで聴いてくれてる人、身近な人が少しでも元気が出るような歌を作って、それを暗い気持ちじゃなくて、僕らが明るい気持ちで発信していく、見せていくっていうのが、みんなの希望の光になるのかなとは少し思うんですね。やっぱり曲を作って発信していくっていうのが一番なのかなと思うし、それが身の回り、お客さんだけでなくて、お世話になったライブハウス、レーベルだとか、今すごいマイナスになって行ってるじゃないですか。でもそれをプラスに変えれるのって、出演してるバンドだとか、抱えてるアーティストがより良いものを作って発信して、それがいろんな人に広まれば、回り回って、ライブハウスのマイナスをプラスに変えていくことになるのかなと思うので、僕らはそれをしないといけないなと思ってます。

 

リリース情報

マイアミパーティ
2nd e.p.「p.q.b.d」(読み:ピー.キュー.ビー.ディー)

 

■品番:329-LDKCD
■発売日:2020年5月13日(水)
■価格:1,364円+税 /1,500円(税込)
■レーベル名:living,dining&kitchen Records
■POS:4580529530340
■形態:CD(EP)
 
<収録曲>全6曲収録
1.p.q.b.d
2.未来予報
3.道
4.シスター Live ver
5.レイトショー Live ver(CD限定収録)
6.一縷 Live ver(CD限定収録)