演者が見せる「船」でエンターテイメントの海へ旅に出よう/ホーム・シアトリカル・ホーム ~自宅カンゲキ 1-2-3[Vol.14]<エンタメショー編>
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イラスト:春原弥生
演者が見せる「船」でエンターテイメントの海へ旅に出よう
ホーム・シアトリカル・ホーム ~自宅カンゲキ 1-2-3[Vol.14]<エンタメショー編>
by Iwamoto.K
【2】マジシャン・セロ『スーパーストリートマジック セロマガジン-seasonI〜Ⅲ-』
【3】立川志の輔『志の輔らくご in PARCO 2006-2012』
これから紹介するのは、「お笑い」「マジック」「落語」の3作品で、テーマは「船」。「何事もその道の専門家に任せた方がうまくいく」ということわざ「船は船頭に任せよ」にもあるように、文字通り各ジャンルでその道を極めるプロ中のプロたちが、各々が持つ巧みな技術で、劇場を「船」に変え、観客を見たことのない世界へと導いてくれる。ある時は手漕ぎのボート、ある時は豪華客船、またある時は大型フェリーと「船」の規模も様々。今回、そんな劇場だからこその経験をもたらしてくれる方々の中から特にご紹介したい3組をピックアップ。この緊急事態宣言下ではDVDなど映像のみの体験となるが、また劇場の灯がともり、公演が再開されると決まったらぜひ足を運び、「船」に乗る感覚を楽しんでほしい。
【1】レイザーラモンRG『Live in Japan』
(C)2013 吉本興業
あるある伝道師のレイザーラモン・RG。最近は16連打で奇跡を起こす「ある橋名人」や、コレクションをしているスニーカーの森から珍しい種類を見つけ出す「スニーカーハンターある藤」といった動画を配信中。そんなレイザーラモンRGのライフワークとも言えるのがあるあるライブ。
本ライブDVDは2013年8月に行われた単独ライブの模様を収録。玉置浩二の「田園」に乗せた「国際マラソンあるある」と「帰省ラッシュあるある」やTHE ALFEEの「星空のディスタンス」に乗せた「みそ汁あるある」などが収録されており、当時のあるあるネタフルコースが味わえる。
近年のレイザーラモンRGのあるあるライブは、お客さんからお題を募り、あるあるを言うための楽曲を決め、RGさんが歌唱しながら歌の最後にひとつだけあるあるあるを披露する形を取っているのだが、お客さんが本当に素晴らしい。1つ目のあるあるから積極的に挙手されるが、決して奇異をてらったものではない。
ネタは序盤にふさわしいジャブから始まり、中盤は個人的な感情を込めながらも「わかるわかる」と皆が共感を呼ぶもの、終盤は「待ってました!」のパワーワードが続発。最終的にお客さん全員が後ろにのけぞるほどのあるあるが飛び出し、本当に爆笑で会場がひっくりかえって締めを迎える。この「どっという笑い」もぜひ体感して欲しい。笑いの底力を感じられると思う。
あるあるライブは、みんなでオールを漕ぐボートのようなもの。いつしか演者と観客の息がぴったり合わさり、緩急つけながらあるある大河を進んでいく。ゴールにたどり着いた時の達成感や、「よくぞここまで!」という労いも心地よく、明日も頑張ろうと現実に戻ることができる。
【2】マジシャン・セロ『スーパーストリートマジック セロマガジン-seasonI〜Ⅲ-』
セロは2004年にレギュラー放送されていた番組等で一斉を風靡した当時のテレビを席巻していたマジシャン。番組をご覧になっていた方も多いと思う。
本DVDは、そんなセロの特番などで放送されたマジックを再編集しパッケージ化したもの。セロのマジックを見たことがある方には、脳裏にこびりついて離れない彼のマジックが一つはあるはず。それが一度に楽しめるのがこちらのシリーズ。ストリートマジックは当時革命的で多くの視聴者の度肝を抜いたが、今改めて見ても、ポスターに描かれているハンバーガーを取り出すマジックは意味が分からない。
現在は海外に拠点を置き、インスタグラムなどでマジックを発信し続けているセロ。
筆者自身、2015年にセロが日本で1年ぶりに行った公演を観に行った事があるが、ハンバーガーのマジックも披露し、本当に食べられるハンバーガーが1枚のポスターから出てくるのを肉眼で見ると目眩がする程だった。
特に大ネタが凄い。助手の女性二人と一緒に畳1畳はあるような大きさのトランプのカードを数枚抱えて立つセロ。イリュージョンをする前にセロのお友達という日本人の青年が客席で会場のお客さんにインタビューを行い、その様子が会場のモニターで中継されるという形で始まる。
大きなトランプのカードを客席に見えるようにして抱え、上半身だけ隠し、シャッフルするように舞台をセロと助手の3人が行き交う。そして動きが止まると同時に「僕はどこでしょうか」と客席に問うセロ。足は見えていたので目で追っていれば何も難しいことはなく、「左! 左!」と会場から飛び交う声。しばらく沈黙があった後、「僕はここです!」と声が聞こえた直後、セロが会場のレポートしていた青年と入れ替わっており、舞台ではあの青年が笑いながら手を振っているのだ。その瞬間、会場からは歓声を超え、悲鳴のような声が上がり、子どもは「怖い!!」とおびえる程。会場が大パニックになった空間は、まるで心霊現象を見たような恐ろしさにも包まれた。
さすがは世界各国でショーをおこなっているセロだけあってエンターテイメント性は抜群。たとえるなら豪華客船。世界を魅了するめくるめくマジックの数々が堪能できる。マジックは驚きが全く違うのでぜひ肉眼で観て欲しい。機会があればお見逃しなく。
【3】立川志の輔『志の輔らくご in PARCO 2006-2012』
NHK『ガッテン!』でもおなじみの落語家の立川志の輔。私は志の輔さんの落語をまだ生でご覧になったことがない方に、ぜひ観てほしいと思う。
とはいえ、いつも志の輔さんがどんなお顔で落語をされているか分からない。というのも志の輔さんが落語を始めると、目の前にはすぐ映像が立ち上がるのだ。創作も古典も、志の輔さんの落語では映像が浮かぶので、どんな様子で落語をされているのか、あまり覚えていない。
まず世間話のようなマクラがあり、会話をしている感覚を楽しみながら、徐々に落語の世界へと誘ってくれるのだが、その瞬間観客の意識がギューッと高座に凝縮される感覚を覚える。その一体感がまさに一つの船に乗り、新天地に誘ってくれる感覚に似ている。会場により伸縮自在、大きな会場だと大型フェリーのように感じる。
船はマクラと落語の狭間を進みながら静かに離岸し、あれよあれよという間に大海原に出ていく。時々、トントンと肩を叩かれ「わかる? 大丈夫?」と点呼がある。それが序盤の「ガッテンタイム」。今、噺はどうなっているか説明され、「ガッテンできましたでしょうか?」というおなじみのセリフでついていけなくなった人を救ってくれる。それを繰り返すうち、いつしか船は、大海原のど真ん中へ。最初は手漕ぎのたらい舟でフェリーを追いかけていた人も一人残さず乗せてくれるので、安心して落語という海への旅ができる。船に乗ってしまえば、案内してもらえる世界でそれぞれの映像を楽しむだけ。
自分だけの映像が浮かぶという点で、中でも最も好きな演目は「中村仲蔵」。歌舞伎の大部屋役者・中村仲蔵が市川團十郎に見定められ、やがてトップに上り詰めるという噺で、途中、仲蔵がそば屋で浪人と会う場面がある。外は土砂降りの雨で、浪人は店に入るとボロボロの番傘を振って雫を落とす。その瞬間、高精細8Kカメラの解像度で、はじけ飛ぶ水しぶきがスローモーションで見える。あの瞬間が本当にたまらない。
文=Iwamoto.K