BBHF、無観客配信ライブで見せた確かな一歩 『mugifumi ONLINE』のオフィシャルレポートを公開

2020.6.24
レポート
音楽

BBHF『mugifumi ONLINE』

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BBHFが6月19日に北海道・札幌cube gardenにて有料配信ライブ『mugifumi ONLINE』をおこなった。本記事では同公演のオフィシャルレポートをお届けする。


まるで一編の映画を観ているような、特別な配信ライブだった。自作のアンビエントなインストゥルメンタル曲にのせて、カメラは会場への機材搬入から物販ブースを準備するまで、その様子を淡々と追っていく。視聴者は、誰もオーディエンスのいないライブハウスのたった一人のオーディエンスとして、主観カメラに導かれてフロアに足を踏み入れることになる。そこまで実に15分以上。そうだ、最近は忘れかけていたけど、ライブはいつもそうやって始まるんだった。ステージに上がる尾崎雄貴、佐孝仁司、尾崎和樹、サポートメンバーの岩井郁人の4人。東京からのリモート参加となったDAIKIは、ステージ上に立てられたビジョンに映し出されて、そこにまったく違和感なく音を重ねていく。1曲目の「ウクライナ」の演奏が終わると、尾崎雄貴は目の前にいる一人の相手に語りかけるように、小さな声で「ありがとう」と言った。

BBHF『mugifumi ONLINE』

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本来ならば5月27日に2枚組のニューアルバム『BBHF1 -南下する青年-』をリリースして、6月4日から6月19日にかけて福岡、岡山、愛知、大阪、東京、北海道で全国ツアー『mugifumi TOUR』をおこなう予定だったBBHF。この春から夏にかけては、『VIVA LA ROCK 2020』、『METROPOLITAN ROCK FESTIVAL 2020』、『RUSH BALL☆R』、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2020』といったフェスやイベントへの出演も決定していた。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、それらすべての予定はキャンセル。アルバムがリリースされる予定だった5月27日には、現在の状況を受けて急遽制作された新曲「かけあがって」をリリース。6月19日におこなわれた今回の有料配信ライブ『mugifumi ONLINE』は、本来ならばツアーファイナルが開催されるはずだったのと同じ日、同じ場所(北海道・札幌cube garden)でおこなわれた。

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BBHF『mugifumi ONLINE』

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同期されたビートも含め精巧に組み立てられたBBHFの楽曲の持つ繊細さを損なわずに、それをライブハウスの空間で開放感を伴って響かせるPA。ステージ上を時に温かく、時にひんやりと包み込む、ニュアンスに富んだ照明。スタッフも含め本番のライブとまったく同じ熱量が注ぎ込まれたライブはただの“疑似体験”ではなく、配信を通してその音と映像が隅々まで手に取るようにクリアに伝わってくることで、一つの“作品”に昇華されていく。特に「リテイク」(同日にアルバムから先行して配信開始された)、「Siva」、「僕らの生活」と、結局9月2日にリリース日が再設定されたアルバム『BBHF1 -南下する青年-』からの曲が続けて演奏された中盤のパートは、作品を手にする前の多くの視聴者に、同作に収録された楽曲の広がりと奥行きのポテンシャルを予感ではなく実感として知らしめる、驚きの瞬間となったはずだ。

BBHF『mugifumi ONLINE』

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配信ライブならではの趣向が存分に発揮されたのは、会場のフロアに特別に設置された別ステージで、グリーンバックを背景にして演奏された「We’ll Be OK」、「真夜中のダンス」、「かけあがって」のパートだ。引き続き東京からリモート参加したDAIKIに加えて、POP ETCのクリストファー・チュウもロサンゼルスからリモート参加。グリーンバックに映し出された2人は、楽曲によってはマルチプレイヤーとして分身(!)しながら、札幌にいる4人とステージの上で一つに溶け合っていった。

BBHF『mugifumi ONLINE』


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「まず僕らの一歩目として、このcube gardenで、無観客とはいえしっかり照明もあって、自分たちの演奏をステージに立って見せるということをやりたかった。確実に僕はいつかーー状況が戻るとは思えないんですけどーー新しいかたちで僕らが直に会って、一緒に同じ空間で音楽を楽しめる時が絶対にくると思っているので。まずその先駆け、一歩目として、この無観客ライブを今回やりました」。耳には聞こえない、オンラインの向こう“アンコール”に応えてステージに残った4人は、そんな尾崎雄貴のMCに続いて「黄金」と「なにもしらない」を熱を込めて演奏した。

BBHF『mugifumi ONLINE』

ライブが終わると、主観カメラによる映像は、物販のブースに立ち寄り、開かれたライブハウスの扉を抜けて札幌の夜の薄暗い闇へと放たれる。2月の終わりから我々が見てきた景色は、街に喧騒が少しずつ戻ってきた今も、10年後も、20年後も、きっと折に触れて人生の中で思い出されることになる景色となるだろう。もしかしたら、「あの時期を境にエンターテインメントの世界は変わった」と言われることになるかもしれない。ライブは“体験”であるだけでなく、その時代の“記憶”でもある。BBHFが2020年6月19日に残した“記憶”は、多くの人にとってきっと忘れられないものとなったことだろう。


文=宇野維正

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