androp × Creepy Nutsの異色コラボから約3年、満を持して行われた2マンライブ配信を観た
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androp / Creepy Nuts
SOS! 2020 2020.6.25
6月25日、andropとCreepy Nutsが配信ライブ『SOS! 2020』を開催した。2017年8月にリリースされたコラボ曲「SOS! feat. Creepy Nuts」以来、互いのライブにゲスト出演したりと、交友が続いていたという2組。とはいえ、がっぷりツーマンをやるのがこれが初めてだ。また、中止・延期となったフェスがオンライン開催に踏み切るなど、複数組のアーティストが出演する配信ライブもあるが、ツーマンでの配信ライブは珍しい。スタジオに入ってくるメンバーは緊張した面持ちだった。
「画面のみなさん、俺と一緒に指を掲げてください!」。ギターのリフをバックにR-指定がそう呼びかけると、ライブが始まった。1曲目はCreepy Nutsの「数え唄」。フェスの転換時間中、お客さんとコミュニケーションを取るために披露されることの多い曲だ。画面の向こうの観客との距離をグッと縮めたい。そんな意図からの選曲だと推測できる。スタジオのなかは、andropやCreepy Nutsのメンバーが円になり、全員が中央を向くようなフォーメーション(DJ 松永、これを「King Gnu“Flush!!!”のMVと同じ」と表現)。今は、カメラに向かってパフォーマンスするR-指定がぽっかり空いたセンターに躍り出てきている。松永の手元がアップになると、その華麗な手さばきにandropメンバーが盛り上がる。続いてはandropが「SOS! Billboard ver.」を演奏。ハイテンションな原曲とは違い、洒脱なアレンジ。ハッとするほどの衣替えだ。リリックは今だからこその内容に変更されていたのだが、<手を伸ばして待つ長い暗闇>と“まつなが”を入れる遊び心も覗かせる辺りがさすが内澤崇仁(Vo/Gt)。今度はCreepy Nuts側から「フゥ!」と歓声が上がった。
Creepy Nuts
このように、2組が交互に演奏。ミュージシャン同士のセッションにカメラが潜入、それを我々が覗き見させてもらっている、という雰囲気だったこの日。通常の対バンライブだと、“1組目の演奏→舞台転換→2組目の演奏”という形式が主なため、こういった対バンライブは新鮮だ。無観客の配信ライブの場合、同じ場所に観客がいない分、アーティスト側がステージに立つ必要がなくなる。広い場所で演奏できるから、2組分同時にセッティングすることも可能になる。この状況を逆手にとった妙作といえるだろう。また、“ライブ”というより“セッション”色が強く、ジャンルは違うが互いにリスペクトしあう温度感がよく伝わってきたのも嬉しかった。因みに、交互に演奏するアイデアを出したのは、andropの前田恭介(Ba)。“対決”ではなく“一緒に作る”という温度感を出したかったため、このような構成を提案したのだそうだ。
最初のMCでは、バンドでライブをやるのは5ヶ月ぶりという内澤が「久しぶりに生音聴いて、生ってこんなにいいんだなって感じた」と率直な感想を語り、松永もそれに「こんな豊かなロー、自宅で食らえないじゃないですか」と応じた。「自粛期間中、何していた?」と話をしたり、タブレットを取り出した佐藤拓也(Gt/Key)が観客(視聴者)のコメントを拾ったりと、リラックスした空気感でトークしていく。まるでラジオ番組のようだ。
androp・内澤崇仁
Creepy Nuts「よふかしのうた」から演奏を再開。androp「Yeah! Yeah! Yeah!」演奏時には、スタジオの照明が青系統に変わり、曲の持つ爽快感を後押しした。次々と演奏されるなかで意外に思ったのは、内澤とR-指定、ボーカリストとして近しいものも持っているのでは? ということ。声質は全然違うが、地声と裏声をひらひらと行き来する箇所における声の裏返し方が似ている。
2015年リリースのアルバム収録曲ながら、伊藤彬彦(Dr)のもたったビートを筆頭に、バンドの最新モードがアンサンブルに表れていた「Paranoid」を終えて、2度目のMC。1度目と同じく温かな雰囲気でのトークとなり、内澤がCreepy Nutsがパーソナリティを務めるラジオ番組のヘビーリスナーであること、サウナ―の前田がサウナに行けない代わりに1日5回風呂に入っていた(!)ことが明らかになる。しまいには「食生活も乱れがちやしな~。……どうやって曲行く?」と松永。
androp・佐藤拓也 / 前田恭介
松永のボールをR-指定が上手いこと拾い、曲紹介MCから「阿婆擦れ」へ。ジャジーなトラックが鳴るや否や、先ほどまでの空気が一変する。andropによる「Hikari」の演奏後は、R-指定によるMC。ライブがなくなって塞ぎ込むこともあった、こういう非常事態にこそ時間差で自分たちの曲が刺さってくることもある、という話のあとに披露されたのは「朝焼け」だった。周りからは諦めろと言われるし、自分が何者にもなれないことは分かっているが、それでも夢が諦められない、夢は自分を解放してくれやしない。ライブハウスやクラブでの日々が遠ざかってしまった今、それでもあそこにあった輝きを諦められない我々がいる。ここでCreepy Nutsが2曲連続で演奏。「オトナ」のあと、andropにバトンタッチし、andropは新曲を初披露した。ゆったりと、浮遊感のある曲で、縦に飛びたくなるというよりかは、横に揺れたくなるような感じ。なお、この曲では前田がシンセベースを弾いていた。
androp・伊藤彬彦
「Voice」で一気にラストスパートへ。普段は観客も歌声を重ねる部分で、笑顔で口パクする内澤。画面の前のオーディエンスも、きっと同じように口ずさんでいたのではないだろうか。そして「OK、最後はもちろんCreepy Nutsとandropでこの曲いきましょう!」(R-指定)と、2組による「SOS! feat. Creepy Nuts」で締めだ。アウトドア派で明るい性格をした夏が好きな人。インドア派で捻くれた性格をした夏が嫌いな人。両者がバトルの果て、最終的には手に取り合うこの曲は、リリース当時、それまでのandropではありえなかったはっちゃけ具合にリスナーがちょっとざわついた。きっと当時は誰も思っていなかっただろう。BBQも海も肝試しも当たり前にできることではなくなった夏を迎えるなか、この曲に強く励まされることになるなんて。およそ3年越しにこの曲の圧倒的な強度を実感させられた瞬間だった。
今この状況を逆手に取って、粋に遊ぶ6人の姿に勇気をもらった気がする。画面が真っ暗になってから実感したのは、孤独感ではなく爽快感だった。
取材・文=蜂須賀ちなみ