TRI4TH 逆境の時代こそ輝く不屈のスピリット、完全燃焼の75分をレポート
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TRI4TH
TRI4TH 無観客配信ワンマンライブ『Turn On The LIVE vol.1』
2020.7.26
7月26日午後8時半、踊れるジャズバンド、TRI4THがおよそ4か月半ぶりにライブの現場に戻ってきた。Streaming+を通して無観客生配信というスタイルはバンドにとって初の試みだが、ファンにとっても未知の体験だ。音は届くか、気持ちは響くか、心は震えるか。とにかくやってみなきゃわからない、一発勝負のショーの始まりだ。
「『Turn On The LIVE vol.1』へようこそ。踊れるジャズバンド、TRI4THです。最初から最後まで一緒に踊ろうぜ!」
ライブハウスのフロアに楽器を据えた、通常はありえないセッティング。ドラムス伊藤隆郎がカメラに向かい高らかに名乗りを上げ、始まったのは「Maximum Shout」だ。“へイ、ホー、レッツゴー!”のコールが見せ場のこの曲、「画面の向こうで一緒に叫ぼうぜ!」と伊藤が煽る。2曲目「Stompin’ Boogie」では、「エブリバディ、クラップユアハンズ!」と叫ぶ。たとえ目の前には誰もいなくても、否、だからこそこの音と声を届けようという気迫がすごい。そして、ピアノ竹内大輔の猛烈速弾きピアノが炸裂すれば、負けじとサックス藤田淳之介が高速トリルで応戦し、5人の超絶ソロがリレーされる「Freeway」のかっこよさ。配信だからこそ表情や手元がクローズアップされる、生ライブにはない醍醐味も確かにある。
TRI4TH
「画面の向こう側、楽しんでますか。ここでみんなのチャットを見ています。声は届かないけど、メッセージは届いてるので、がんがんメッセージして盛り上げてくれればと思います」
メンバー紹介はいつも以上に遊び多め、藤田がカメラにどアップで迫り、トランペット織田祐亮がサングラスを取ってつぶらな瞳をアピールする。すでに汗だく、坊主頭から湯気を出している織田を「彼の湯気を浴びてご利益を感じていってほしいと思います」と紹介する、ユーモラスな伊藤のしゃべりも快調だ。
どんどん行こう。手拍子がよく似合うロックでジャズでファンクな「Hop」から、モンキーダンスがよく似合うスカでジャズでロカビリーな「Sand Castle」へ。織田と藤田が持ち場を離れて踊りまくるのを、レポーターのように追いかけるカメラ。手ブレも逆光も関係ねぇ、音の渦のど真ん中に飛び込むカメラワークがいかしてる。ライブで常に大合唱になる「ぶちかませ!」では、「おいおい全然聴こえねーよ!」と伊藤が煽る。やってることはいつものライブと変わらない、変えようがない。「チャット覗いてみましょうか。“YEAH! YEAH!”ばっか(笑)。すげぇ盛り上がってます」。歌い終えた伊藤がモニター画面を見ながら笑う。思いは確かに通じ合ってる。
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「不要不急という言葉が出てきて、俺たちの音楽もそういうふうにくくられてるのかな?と思いましたけど。今日久しぶりにライブハウスに来て、スタッフに会って、こんなにたくさんの人が命をかけてやってることが必要じゃなくて急ぎじゃねぇわけねぇだろと、勝手にくくってくれんなよと。こんな強い気持ちを持ったクルーがいて、同じように戦ってるバンドがいっぱいいる。音楽を愛する気持ちを忘れずに、応援し続けてくれたらうれしいなと思います」
いつも以上に長く熱い伊藤のMCに、結成15年目に突入したバンドの譲れないプライドがにじむ。10月7日、ニューアルバム『Tourn On The Light』のリリースもここで発表された。「混沌とした世の中に明かりを灯せる1枚」と伊藤は言った。アルバムから初披露した新曲「Sailing Day」は、推進力たっぷりのリズムにシンプルなピアノ、よく歌うトランペットとサックスのメロディ、少しの不安と大きな希望、これは船出の歌だ。
TRI4TH
TRI4THは踊れるジャズバンドだが、踊れるだけのバンドじゃない。ピアノを中心としたメロディアスな音の配置が印象派の絵画を思わせる、美しく幻想的なスローナンバー「Green Field」。これもまたTRI4THの大切な魅力。そしてドラムソロが火を噴き、ベース関谷友貴が思い切り音を歪ませ、5人の熱いバトルを経て「Dirty Bullet」へ。織田と藤田がステージ上に駆け上がって吹きまくる。ライブはいよいよ佳境に入ってきた。
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「ビールを取りに行くなら今だよ。みなさん自由に楽しんでください。まだまだ踊れるか? 叫べるか? 歌えるか?」
関谷のリズムを踏み台に藤田のサックスが勢いよく飛びあがる「Guns of saxophone」の、プリミティブなロックンロールの爽快感。伊藤が立ち上がってシンバルを引っぱたく、日本のあちこちの家家から、「YEAH! YEAH!」という叫びがたぶん今聴こえてる。そしてラストチューン「FULL DRIVE」の、マラソンの最後の100メートルを10秒で駆け抜けるようなありえないスピード感。織田の麦わら帽子のひさしから汗がしたたり落ちて光ってきれいだ。関谷がウッドベースを持ち上げて笑顔でポーズを決める。無観客って何だ? ここにちゃんと音楽があるじゃないか。
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「聴いてくれるお客さんがいることで初めて音楽になるんだなと、15年やってきて痛感してます。次こそは必ず、この局面を乗り越えて、みんなで踊って叫んで、歌えるライブにみなさんを連れて戻ってくるから、その時まで応援どうぞよろしくお願いします」
アンコール「Dance’em all」で最後の一滴までガソリンを使い切って、完全燃焼の75分。難しいモチベーションを乗り越え、普段通りの、いやそれ以上にハイテンションのライブをやってのけたバンドに、画面の向こうで歌い踊り騒いだリスナーに、そしてこのライブを作り上げたスタッフに拍手を。逆境の時代こそTRI4THの不屈のスピリットが輝く時だ。ニューアルバム『Tourn On The Light』が待ち遠しい。
取材・文=宮本英夫
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