Rin音、各種配信ランキングを席巻している21歳の新世代ラッパーーー 敵はいらない。味方だけがほしいし、ずっと誰かを肯定だけしていたい

2020.8.17
インタビュー
音楽

Rin音 撮影=日吉“JP”純平

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Spotify、iTunes/AppleMusic、LINE、AWAなど、各種配信ランキングを席巻している21歳の新世代ラッパー、Rin音。数々のMCバトルで勝ち抜いてきた強者ラッパーでありながら、メロウネスなMCと浮遊感あふれるトラックで同世代から絶大な支持を得ている彼が、Ankerのオーディオブランド「Soundcore」とのコラボ曲「夜明乃唄」をリリース。『ミュージックステーション』への初出演や、大阪城ホールで開催された大規模ライブイベント『THE BONDS 2020』への出演も話題の中、コロナ禍の”今”を未来へ託す新曲について、髪を紫に染めたばかりだという彼に聞いた。

ーー今も福岡を拠点に活動されてるんですよね。トラックメイカーさんやコラボ相手ともネットでやり取りしてる感じですか?

そうですね。トラックメイカーさんとはデータを送ってもらったものを聴いて進めています。コラボも、一緒にスタジオに入ることもありますが、基本的にはデータのやり取りですね。特に会う必要もそんなにないかなぁと思いながら(笑)。

ーーお話していると、直のコミュニケーションがすごく苦手なタイプという感じでもなさそうなんですけど。

音楽を作る時は集中したいので、他の人と話したり、他の人がいる状況があんまり得意じゃないんです。音楽を作る以外の場では、お互いのアイディアを出し合って意見を交換することはよくやるし、それで刺激されることもあるので、そういうコミュニケーションは支障がない感じですね。

ーーもし届いたトラックを聴いて、「違うな」と思った場合はどうするんですか?

運がいいのかもしれないんですけど、僕がお願いしてるトラックメイカーさんは相性がいい方ばかりなんです。自分が書いたリリックに即した効果音じゃないですけど、そういうのが入ったりするんですよ。「おっしゃれやなぁ!」と思いながら(笑)。だから毎回(アレンジとミックス後の音源が)返ってくるのが楽しみなんです。でも前に、今回の「夜明乃唄」のトラックメイカーのmaeshimaさんから「swipe sheep」のトラックを送ってもらった時は最初、「俺の感じなくない?」と思ったんです。だけど作ってみたらめちゃくちゃばっちりハマって。自分が今(トラック制作は)出来ないことなので、そこに口を出すのはナンセンスかなと思うし、自分が全部やっちゃうと、その時自分が好きなもの一色になってしまう気がするんです。トラックメイカーさんにお願いすればその方の色や気分も入るし、それによって気づかされたりインスピレーションをもらうこともあるし、少しづつテイストが変わっていくことがすごく楽しいし、そういう刺激はありますね。

ーーそこは柔軟なんですね。もともとRin音さんがラップに興味を持ち始めたのと、音楽を深く追求したいと思い始めたのは同時進行だったのですか?

ラップを始めたのは単純にフリースタイルをやりたかったからで。ラップバトルが好き、バトルで勝ちたいっていうのが始まりでした。曲を作り始めたのもバトルで負けたくなかっただけなんですよ。ライブしないとディスられちゃうんで、曲作らなきゃなっていうのがキッカケなんです(笑)。

ーー楽曲制作はラップで闘うための武器だったんですね。

弱点を作りたくなかったので、弱点を補うための補完じゃないですけど、そんなイメージだったんです、最初は。

Rin音

ーー新曲「夜明乃唄」もそうですけど、Rin音=声も世界観も穏やかで柔らかな印象が強くて。そんなRin音さんが楽曲を作り始めたきっかけが、「バトルで勝ち進みたい」だったのはやっぱり意外というか(笑)。

よく言われます(笑)。ラップにハマったのは高校生になったばかりの頃なんですけど、当時はバトルをただただ見るのがシンプルに好きだったんです。その頃は動画サイトぐらいしか僕がラップバトルに触れられる場所がなくて。UMB(※アルティメット・エムシー・バトルの略。フリースタイルのラップで頂点を競うMCバトルの大会)のR-指定さん(Creepy Nuts)と晋平太さんのバトル動画や、T-Pablowさんが出てる『高校生RAP選手権』を偶然見て、「かっこいい」と思ってからですね。

ーー当時どんな高校生だったんですか?

めっちゃ普通ですね。僕、サッカー部だったんですよ。中学からやってたんですけど、やってくうちに団体戦向いてないなと思ってきて。人のせいにしちゃうし。でも辞める機会を失って、そのまま高校3年間はずるずるサッカーを続けて卒業しましたね。

ーー自分でラップし始めたきっかけは?

ずっと何回も聴くから覚えるんですよ。見様見真似というか、その人のバースをそっくりそのまま覚えるみたいな(笑)。そういうことをやってると言葉選びがだんだん身についてくるというか。どう小節を埋めたらいいのかがわかってきて、それをだんだん自分のものに変えていって。知識を増やしたら今度はもっと韻が踏めるようになったりして。その進歩が直に感じられたんでめっちゃ楽しかったんですよ。自分が練習した分だけ全部自分に返ってくるじゃないですか。団体戦はどれだけ頑張っても、一人だけだと点が入らない。ラップだと、僕が上手くなったら点が入る、みたいな感じだったんで、それが楽しかったですね。気づいたらずっとやってました。

ーーそこから勝ち進む面白さに目覚めた?

最初はバトルに出るのが怖くて出てなかったんですよ。でもどこかで自信があって、高校3年の最後のチャンスに『高校生ラップ選手権』のオーディションを大阪まで受けに来たんです。すぐ落ちてそのまま福岡帰ったんですけど(笑)。そこからサイファー(※複数でサークルを作りリレー形式で行なうフリースタイルラップ)もちゃんとやるようになって。で、福岡であった『2018 天神U20MC battle Round1』という大会に出て、2度目で優勝しました。

ーー負けてからの飛躍がすごいですね。

ラップは好きだし、負けたくなかった。で、優勝したらいろんなライブに結構出してもらえたし、みんなも仲良くしてくれて。そこで優勝してなかったらここまでになってなかったですね。

ーーそのアグレッシヴなモードから、今の柔らかな世界観へはどう移行していったんでしょうか?

作る曲自体はバトル時代から全然変わってないんです。というのも、僕自身、壮絶な人生を歩んできたわけでもないし、なのにカッコつけてリリックを書いても意味ないなと思ったんで、実生活から出てくるリリックだけで曲を書くしかない。フロウもいろいろやってみたんですけど、何か違うなと思いながら最初に作った曲が、既にこんな感じだったんです。自分でやるとなるとこういう音の方が合うというか。直感じゃないですけど、「こっち系がいい!」と。だからフリートラックを使う時もそういう感じのものを探してましたね。

Rin音

ーー新曲「夜明乃唄」のリリックも実生活から生まれたものなのですか?

そうです。コロナ禍で、夫婦やカップルについてのニュースを見て思ったことというか。緊急事態宣言が終わった直後の自分の感情だったので、今がいちばん暗い時期だとしたら、もう一度夜が明けて陽が当たるまで頑張ろう、みたいな。

ーートラックメイカーのmaeshimaさんにはどんなふうにオーダーしたんですか?

今回Ankerさんのタイアップの話をいただいてから作ったんです。いろんなキーワードをいただいたんですけど、それを自分の言葉で表現して……。かなり僕の言いたいことも書かせてもらった感じですね。でも、「今こういうことを表現して欲しいです」というオーダーをいただいたこと自体が初めてだったし、誰かの想いとかも兼ねた上で何かを言うということが面白かったですね。色んなことが起こってる今のこの状況は変わらない事実だし、だったら最終的に過去として、出来るだけ美化して残せたらいいのかなと思うんです。要素が多すぎると雑になってしまうので、ストーリーとしては男女の話としてまとめてますけど、その人それぞれで良いと思うところを見つけてもらえれば嬉しいですね。

ーー個人的には、<夜の街灯はピサの斜塔>という一節がロマンティックで綺麗でグッときました。情景描写もうまいなぁと。

普段何気なく見てる景色も、自粛が明けて久々に外に出て見ると「この景色懐かしい」とか。そんなふうに普段の景色が新鮮に思えるぐらいのことが起こったんだし、当たり前のことって大切なことなんだよということがが伝わればいいなと思って書きました。もし言いたいことが最初は伝わらなくても、最終的にわかってもらえればいいかなと思います。

ーー「夜明乃唄」もそうですけど、Rin音さんのリリックはラブソングの視点で書かれてることが多い印象があって。曲にもよると思いますが、それはテクニックとしての手段なのか、切なさや甘い感情の方が表現しやすいからなのでしょうか?

ラブソング寄りの方が表現しやすいというか。伝わりやすいと思うんですよ。自分の言葉で自分の考えを発信したいんで、それをラブソングを介して出来るだけ綺麗に伝えたいというか。

ーー自分の言葉で自分の考えを発信することがまず中心にある。

そうですね。めちゃくちゃ自分の考えを主張するわけじゃないですけど、曲を通して考えを伝えることで、聴いてくれた人も自分自身と向き合うキッカケにしてほしいというのがありますね。

Rin音

ーーRin音さんには、ラップや音楽で自分の想いを表現する場や手段があるわけですよね。でもそういう場がない人にとって今はSNSが考えを発信する場になっています。「SNSを愛してる」(アルバム『swipe sheep』収録)という曲もあるように、そういう状況に対する考えも持っているんだろうなと思います。

ありますね。SNSでわざわざ嫌いなことを主張しなくていいし、好きなものだけ発信すればいいと思うんです。嫌いなことを主張しないこともそうだけど、僕は逆に好きなものを広めることも大切だと感じています。あまりにも気軽に手元だけで言葉が打てちゃうし、そこに責任感がないように感じるから、みんな簡単に嫌なことを発信できる「SNSを愛してる」。僕も愛してるけど、感じ方が違うという皮肉があの曲には入ってます(笑)。

ーーセンチメンタルで美しい皮肉(笑)。

SNSで語る人、多いじゃないですか。でも伝わらないと思うんですよ。誰でも出来る手段ではあるし、もちろん世界に発信するには便利なツールではあると思うんです。でもそこに本当に大切なことを書いても味が薄れちゃうというか。もっと凝った手段というか、どれだけ自分が本気なのかを表す証拠として、例えば記事にするとか、もっと文章を濃くしてブログにするとかいろいろ手段があると思うんです。でも、一番手軽で、伝わりにくい場所でそれを言っちゃうんで、もったいないと感じてしまいます。

ーーもったいない。

言ってること自体は間違ってないって人の方が多いと思うんです。けど、SNSに軽々しく書くから軽々しく返信する人もいて。それで変なふうに考えちゃってまた別の悩みが出来ちゃう。SNSで発信すれば誰でも見れるし、広まっちゃうじゃないですか。それをあんまり自覚してないというか。自覚してても軽視してると思いますね。でも直接「SNSについて考えろよ」と主張しても、そこには考える余地がない。だから僕の音楽を通すことで、少しでも考える機会になればいいなと思うし、自分と向き合う時間としても使ってほしい。僕が想像してる景色があるとして、それが100パーセント伝わらなくてもいいんです。その景色が何なのか、何が言いたい歌詞なのかを読み解いてもらえるのが嬉しくて。そういうことを考えた上で感想をくれたりするとめちゃ嬉しいです(笑)。

ーーそれが的外れなものだとしても?

自分の手から離れたらもう僕のものじゃないというか。いろんな解釈が生まれるべきですし、それが発信するということだと思うんで。僕が考えてたシチュエーションと違ってても、そうやって自分に置き換えて聴いてもらえるのは嬉しいし、それが理想の形だと思ってるので、ありがたいです。もちろん、その上でも、悪い方に転ばないように言葉選びをしたいなと思っていますね。

ーーラップバトルは、まさに直接相手にめがけて言葉を放つ競技だから、そこで勝ち抜いた人がそんなふうに音楽を発信してるとは。

バトルだとそうですね(笑)。どちらの場合でも、言葉がどう伝わるかというのは、やっぱり大事だと思うんです。同じ言葉でも言うタイミングとか関係値とか、相手の考え方によっても全然違ってくると思うから、それを理解した上でいちばん適切な言葉はどれなのか、考えた方がいいのかなと思うし、そこは大事にしたいですね。

ーー常に柔らかに一石を投じてる感じ?

ただ、人にアドバイス出来るほど僕がしっかりしてないんで(笑)。自分のダメなところを自分に言い聞かせてる……のを見て、人の振り見て我が振り直せのような感じです。受け取る側もロボットじゃなく自分と同じ人間だし、そういうのが伝わればいいと思うんです。あと、人を癒す音楽になっても嬉しいなとも思っています。聴いてくれる人の味方にもなりたい。否定はせずに、ずっと誰かを肯定だけしていたいですね。

Rin音

取材・文=早川加奈子 撮影=日吉“JP”純平

リリース情報

Rin音「夜明乃唄」
配信中
作詞:Rin音 作曲:Rin音 / maeshima soshi
  • イープラス
  • Rin音
  • Rin音、各種配信ランキングを席巻している21歳の新世代ラッパーーー 敵はいらない。味方だけがほしいし、ずっと誰かを肯定だけしていたい