前川知大インタビュー 亀梨和也主演、舞台『迷子の時間 -語る室2020-』で届けたい“物語の力”
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前川知大
前川知大作・演出の舞台『迷子の時間 -語る室2020-』が、2020年11月にPARCO劇場オープニング・シリーズの一作として上演される。本作は、前川が自身の劇団「イキウメ」で2015年に上演した『語る室』をベースに、2020年版として新たにクリエイトする一作となる。
主演を務めるのは、2015年に上演された蜷川幸雄演出の音楽劇『靑い種子は太陽のなかにある』以来、5年ぶりの舞台出演となる亀梨和也。今回が自身初のストレートプレイへの挑戦となる亀梨が、前川の描くSFミステリーの世界でどのような演技を見せるのか期待が集まる。
PARCO劇場への登場は10年ぶりとなり、この10年の間に数々の演劇賞を受賞したり、『太陽』や『散歩する侵略者』などの作品が映画化されるなど、多岐にわたり目覚ましい活躍を見せてきた前川に、今作への思いを聞いた。
田舎町、ある秋の日の夕方。
人気のない山道で、一人の園児と幼稚園送迎バスの運転手が姿を消した。
バスはエンジンがかかったままで、争った跡はなかった。
手掛かりはほとんどなく、五年経った今も二人の行方は分からないままだ。
消えた子供の母、その弟で最初に現場に駆けつけた警察官、消えたバス運転手の兄。
それぞれが思いを抱えながら迎えた五年目のある日、三人が出会った人たち……
奇跡を信じて嘘をつき続ける霊媒師、
帰ることのできない未来人、
父の死を知り実家を目指すヒッチハイカー、
遺品から亡き父の秘密に迫ろうとする娘。
彼らを通じて、奇妙な事件の全貌が見えてくる。
作品の舞台となる“金輪町”は創作のたびにイメージが膨らんでいく
ーーPARCOには『抜け穴の会議室』以来10年ぶりの登場となりますが、新生PARCO劇場で公演を行うことへの思いを教えてください。
新しくなった劇場を見せてもらったのですが、舞台から客席を見た感じとか、席数が増えたわりにキュッとしてる感じとか、前のPARCO劇場らしい雰囲気はちゃんとあって、全然別の劇場になってしまわなかったのが嬉しかったです。舞台面が客席に比べるとちょっと広すぎるくらい広いんで、すごい贅沢だなと思いつつ、この作品は人数も少なく大きな立ち回りもないから、この空間をどう埋めようかという不安もあります。でもやっぱり初めての劇場をどう使って行くのか、というのはすごい楽しみです。
前川知大
ーー今作のベースになる『語る室』の舞台は、前川作品に度々登場している金輪町(こんりんちょう)という田舎町でした。今作もやはり金輪町が舞台になりますか。
僕が書いている作品の舞台は全部、金輪町なんです(笑)。
ーーそれは前川さんにとって、舞台を金輪町にするからこそ描き出せるものがあるということなのでしょうか。
実在しない町なんですけど、規模感とかイメージはものすごく僕の中にあります。首都圏からちょっと離れた人口3万人くらいの田舎町で、住んでいる人のほとんどは近くのもうちょっと栄えた場所に仕事に行ってるから日中はしんとしてる、みたいな感じですね。僕は新潟の出身なんですけど、多分僕が子どものときに育った場所に近い感じがするし、今はもう東京に住んでいる方が長いんですけど、東京の人口密度とか賑わいとかパワーとかのイメージではないんです。もうちょっと人間関係は狭いけど、人間同士の距離はあって、自然が多くて近くにあって、ちょっと暗闇が多くて……なんとなくそんな場所、というのをトータルで金輪町と呼んでいます。だから内陸のときもあれば港町のときもあるんです。僕が描いている舞台となる概念上の町みたいな感じで、作品を作るたびにどんどん金輪町のイメージが膨らんでいくんです。
亀梨くんにこの役をやってもらうことの面白さ
ーー今作の主演が亀梨和也さんです。『語る室』ではイキウメの劇団員・安井順平さんが演じた警察官・譲の役を亀梨さんが演じることになりますが、役者が変わることによってこの部分は変わってくるだろう、あるいはここは変えずに行こうと思っていることなど何かありますか。
全体の枠組みとストーリーは変えるつもりはないですが、亀梨くんの役に関しては、『語る室』のときは安井のキャラクターもあって狂言回し的な役柄だったし、譲自身の葛藤とかはそんなに描かなかったので、今回そこは描きたいなと思っています。あと亀梨くんに役を合わせる必要がないというか、逆にこの役を亀梨くんにやってもらうことの面白さの方に興味があります。亀梨くんは何をやってもかっこいいから、多少語尾を変えたりという直しはしますけど、あえてこのままやってもらった方が絶対面白いな、それを見てみたいな、という思いがすごくあります。
亀梨くんと初めて会って話をしたとき、メディアとか映画とかで求められて、ある種演じている亀梨和也ではない面というのがやっぱりありましたし、いい意味で普通の面もちゃんと持っている人なんだな、と思いました。そういう普通の感じの部分も出るといいなと思ってるので、“田舎の冴えない警察官”をそのまま冴えない感じでやってもらおうかなと。それでもやっぱり彼の魅力っていう物は絶対出てくると思うので。
前川知大
ーー前川さんはご自身の劇団「イキウメ」の活動を軸にしながら、外部の作品も数々手掛けていらっしゃいますが、やはり劇団外の方々とお仕事をするということは、刺激を受けたり得るものが大きいのでしょうか。
もちろん得るものは大きいです。ただ、ここ最近は劇団公演と外部のプロデュース公演がかなり近いものになってきていて、ある意味劇団が外部公演と拮抗できるくらいにはなってきていると感じています。劇団がそういうところまで行けた分、今回のキャストには劇団員は一人も入っていないんです。全員初めて一緒にやる俳優さんなので、いい意味で緊張感があります。劇団員とか何度もやってる人とは共通言語ができてるからついつい「ちょっとそこ、アレして」で通じちゃうんですけど(笑)、今回のキャストにはちゃんと言葉を伝えていかなきゃいけないっていうところは、多分いい挑戦になるんじゃないかなと思います。
ーー前川さん演出の作品にイキウメの劇団員が一人も出ないのは、ものすごく久しぶりですよね。
それこそ10年前にPARCO劇場でやった『抜け穴の会議室』が、あれは二人芝居でしたけど、それ以来だと思います。
ーー前川さんが初めての俳優さんばかりの座組でどんな作品を作られるのか、というのは観る側としても一つ大きな楽しみです。
僕自身もそこは楽しみにしています。初めてやる人たちとのクリエイションは全員でイメージを作り上げていくから、『語る室』のときとは自ずと行き先が変わってくると思うので、僕はなるべく『語る室』と同じ行き先に行かないように意識していこうかなと思ってます。
前川がフィクションを通じて届けたいメッセージとは?
ーー今後公演に向けてお稽古も始まって行きますが、前川さんにとって稽古場というのはどういう場所なのでしょうか。
上演に向けての稽古というのは久しぶりになりますが、今年5月上演予定だった劇団公演『外の道』の中止が決まった後でワーク・イン・プログレス(以下、WIP)を行いました。それまでは稽古をやるのがどこか当たり前のような感覚になっていたんですけど、自粛期間や公演中止決定後にみんなで集まれたときは、やっぱり嬉しかったです。結局、集まって話し合わないと何にも進まないんですよ。集まる前まではオンライン会議とかやってましたけど、会えばもう半分の時間で済んじゃうんです。画面から受け取るものと生身で受け取るものとは明らかに情報量が違うし、演劇はやっぱり本来そういうものですから、そこは替えがたいなと思いました。
前川知大
ーー『外の道』WIPの特設ページで「“今”に関連するふたつのフィクション」として『太陽』と『獣の柱』を全編公開されています。コロナ禍において、まさにこの2つの作品を思い出した方は多かったと思いますが、なぜこの作品を一般公開されようと思ったのでしょうか。
こういう状況になって、いろんなアーティストとか作家とかは何かしら自分の立場というか意見表明みたいな発信をしなきゃいけないな、という気持ちになるんです。でも、そういうことをあまり直接言いたくないから作品を作っているようなところがあるので、コロナ禍において人間関係がギスギスしたりとか、格差が広がっていったりとか、ある種の憎悪とか人間の不寛容さみたいなものが可視化されちゃったりとかそういう状況になって、いろいろ言いたいことはあるんだけど、でも結局のところまずは『太陽』を見てくれ、っていう方がイキウメっぽいかなっていう感じがすごくしたんです。あとフィクションを通じて、想像力がどれだけ大事か、というのはひとつのメッセージだと思います。こういう状況を想像して、そこで人間がどういうふうになって、どういう醜さや美しさが現れるのかということは、僕らはフィクションで知ることができるから、それは現実で自分自身がそういう状況に置かれた時のヒントにもなるし。そうした物語の力の方がよっぽど処方箋になるといいますか、そういう意味で「こういうのあるよ」という2作品でしたね。
ーー震災のときもそうでしたけど、フィクションの力が今すごく必要だなと。
必要だと思いますよ。必要ないっぽくすぐ言われますけど、こういうときは。でも全然そんなことはないと思うし、特に日本って心のケアみたいなところを後回しにする癖が割とあるから、そこで物語って結構いい仕事すると思うんです。
ーー今作は、人と人との関係性が深いところで描かれている作品ですし、どこかギスギスした空気がある今だからこそ、観客の皆さんが物語の力を感じて楽しんでくださるといいですよね。
これはまさにそういう作品だと思います。全ての人が全くの他人じゃなくて、全宇宙の人類は同じ根っこで繋がってるんだよ、ということはすごくささやかな癒しになる、っていう話だと思っていますから。そこがなんとなく伝わればいいですね。
前川知大
取材・文=久田絢子 撮影=寺坂ジョニー