今だからこそ「バカ騒ぎ」もいいじゃない 『パラホス』が照らすエンターテイメント不遇のこの時代

2020.9.19
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<音楽><ダンス><ボイスドラマ>で楽しむ新感覚エンターテイメント『パラホス』。

SPICEでも大注目のこのコンテンツは「パラパラ」と「ホスト」の合体が基礎としてあるが、その2つをがっちりと繋いでいるのが「ユーロビート」の存在である。改めてこの『パラホス』とはなんなのか?そして「ユーロビート」と「アニソン」の関係性とは?音楽評論家の冨田明宏氏に改めて『パラホス』について語ってもらった、書き下ろしコラムとしてお届けする。


全世界がコロナ禍に見舞われてからすでに十ヶ月近い月日が流れた。世界中のエンターテイメント業界は停滞を余儀なくされながらも、その中で何とか歩みを止めずに、できる限り前向きなアクションを起こそうとポジティブな胎動を見せていく中で、今年一番の衝撃とも言うべき“ぶっ飛んだ”設定の〈音楽×動画×ボイスドラマ〉コンテンツが始動した。

その名も『パラホス』。周知のとおり、今や歓楽街の夜を代表するサービス業の一つであるホスト・クラブも、コロナの大打撃を受けているエンタメの一つ。『パラホス』はそんな「コロナ禍における二次元ホスト・クラブみたいなコンテンツ……?」という認識もあながち間違いではないのだが、実際のところはかなり違うようだ。この作品においてホスト・クラブという設定は、個性豊かで魅力的なイケメン・キャラクターたちが日夜躍動する理由付けのようなもので、主題はとにかく〈懐かしくて楽しいユーロビートアレンジの音楽とパラパラでバカ騒ぎを提供したい!〉という、ものすごくシンプルなもののようなのだ。

公式サイトを開けば、国籍もさまざまな超イケメン・キャラクターたちがお出迎え!そして飛び込んでくる作品のイントロダクションはこうだ。

「それは今より少し先の未来、ある日のこと――
ホストたちが遊びで撮影したパラパラ動画を何気なくネットにアップしたことで、
ホストのパラダイムは、世界のエンターテインメントの景色は一変した」


さらにこう続く。

「インターネットを通じて爆発的な人気を博したパラパラダンスは
「パラホス」という名称で競技化され
出演者はホスピタリティ・アーティスト、通称ホストとして生まれ変わった
「パラホス」は今や世界中が注目するモンスターコンテンツと化し
名声と富を得るため、世界中の才能が業界に参入する結果になっていた」


……などなど。どうだ。もう「どうかしている」とかそういう“ツッコミ待ち”レベルの生易しいものではなく、「何か問題でも?」とでも言わんばかりの大真面目なテンションと勢いにただただ気圧(けお)されることだろう。しかし今、口を開けば「自粛自粛、縮小縮小……」と言われる中で、二次元コンテンツであることの強味を最大限に生かしながら、無条件に楽しくてワクワクするようなエンタメを提供したいというその気概には感動すら覚える。音楽と動画があれば、心満たされ幸せになれるのが日本におけるコンテンツ大好きユーザーの輝かしい美徳とも言えるのだから。

そして本作最大のポイントは、やはりパラパラだ。パラパラと聞いて思い浮かぶ光景も、実は年代によってさまざまである。その発祥は非常に古く、愛され続けている期間も非常に長い。1980年代初頭にはディスコ・ブームに沸いていた伝説のディスコ「ツバキ・ハウス」でパラパラを踊る大学生たちが話題となったこともあったそうだが、一説によると1984年ごろからはじまった度重なる風営法の改正により、夜に遊べなくなった学生たちが日中営業にシフトした新宿のディスコで広めたとも言われている。

当時は“ダンスに対する規制”が徐々に厳しくなり、バンプと言った足の動きの激しいダンスが踊れなくなったため、苦肉の策から広まったのが腕の動きと掛け声などで成立するパラパラだったとも言うのだ。パラパラはその後バブル期に六本木や麻布を中心に大ブレイク。一気に一般的な知名度を得た。その独特な様式美を伴うアクションと、盆踊りとも比較される上半身の運動を基調としたダンスは、基本動作からアレンジまでマネしやすく覚えやすい。若者を中心に瞬く間に広まり、その後はいわゆる“ジュリ扇”を振って踊るハードコア・テクノ系のジュリアナ・ブームに圧倒されるが、1990年代には東京ドームでイベントを開催するほどにブームを盛り返す。

その後何度もブーム再燃を繰り返しているが、有名なところでは90年代後半の渋谷を中心としたギャル文化におけるパラパラの需要だろう。駅構内などで女子高生たちがパラパラの練習をする風景が見られたのも今では懐かしい。

それではアニソンの文脈におけるパラパラは? と問われれば、第三次パラパラ・ブームが巻き起こっていた2000年にリリースされた『名探偵コナン』の愛内里菜が歌うOPテーマ「恋はスリル、ショック、サスペンス」が印象としては大きいのではないだろうか。

ユーロビート系のアニソンは主にm.o.v.eが主題歌を手掛けた人気シリーズ『頭文字D』をはじめ、90年代中~後期から数多くリリースはされていたが、「恋はスリル~」は主人公である江戸川コナンがOPムービーで(真顔で)パラパラを踊るという、アニメ/アニソンの歴史において前代未聞の主題歌となった。あれから20年近い年月を経て、今年1月からオンエアされた第5期WANDSによる主題歌「真っ赤なLip」に合わせて、2000年「恋はスリル~」で披露したパラパラをリスペクトするようなアクションを取り入れたダンス・シーンが登場。往年のファンが大興奮していたのも記憶に新しい。

『パラホス』と言えば日本語による「NIGHT OF FIRE」やL’Arc~en~Cielの「READY STEADY GO」などのカバー・ナンバーに合わせたパラパラも話題を呼んでいるが、パラパラを踊る際に使用されるユーロービートは、日本において独自のカバー文化を形成してきた音楽ジャンルでもある。2000年代から登場したコンピレーションCD『アニパラ』シリーズは、当初江戸川コナンを演じる声優・高山みなみがメンバーとして活躍したTWO∞MIXが制作に関与。「キューティーハニー」「魔訶不思議アドベンチャー!」「ラムのラブソング」「マジンガーZ」「宇宙戦艦ヤマト」などなど、アニソンの定番曲をユーロビートでアレンジするという手法で人気を博す。その後、数々のレコード・メーカーが同様のアニソン×ユーロビートによるコンピレーションCDを次々とリリースし、“アニパラ”はアニソン・カバーにおける一大ジャンルとして2000年代を席捲していった。

『パラホス』は、昨今隆盛を極める女性向けコンテンツ・シーンに向けたニュー・モデルでありながら、日本独自のダンス・カルチャーであるパラパラと、アニソンにおける一大カバー・ジャンルにだった“アニパラ”に対して、2020年代的解釈を与えた〈伝統と革新〉を併せ持つ最新コンテンツとも言える。谷山紀章、森久保祥太郎をはじめとする超人気声優から、保住有哉、清家光亮、住谷哲栄、小林聡といった新進気鋭の若手まで取りそろえたキャスティングもまた絶妙で、若手が中心となって鎬を削る展開は男でも胸が熱くなる。

<音楽><ダンス><ボイスドラマ>で無限の可能性を提供する『パラホス』は、ひょっとするとコロナによってもたらされたエンターテイメント不遇の時代に差し込む、光明となりえるかもしれない。

文:冨田明宏

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