宮沢賢治とその弟妹を演じる、田中俊介、栗山航、鈴木絢音が語る舞台『銀河鉄道の父』の魅力とは
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鈴木絢音、田中俊介、栗山航
『銀河鉄道の夜』や『雨ニモマケズ』などで多くの人に知られる、童話作家にして詩人の宮沢賢治。彼を育てた父親はどんな人物だったのか、そして母親や妹、弟は賢治にとってどんな存在だったのか。第158回直木賞を受賞した門井慶喜の人気小説『銀河鉄道の父』がこの秋、舞台化される。脚本を担当するのは、映画『新聞記者』で第43回日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞している詩森ろば、演出を手がけるのは、歌舞伎にミュージカルに小劇場にと幅広く活躍する青木豪。賢治の父・政次郎を的場浩司、母・イチを大空ゆうひが演じるほか、賢治には田中俊介、弟・清六には栗山航、妹・トシには鈴木絢音が扮することになった。9月中旬、稽古初日の顔合わせと本読みが行われたスタジオを訪ね、稽古終了直後の田中、栗山、鈴木の三兄弟を独占インタビュー! 稽古初日の手応えや、どんな舞台になりそうかを聞いた。
――先ほど顔合わせをされて、初めての本読みもしたとのことですが、どんな雰囲気でしたか。
田中 とにかく、めちゃめちゃ楽しかったです。ひとりで準備をしている段階では、今回はセリフが方言で難しかったりして不安もあったのですが、こうしてみなさんと実際に顔を合わせてみたら、このみんなで作っていけるんだなという始まりをすごく感じられて。これが演劇の醍醐味だな、と改めて思いました。
栗山 初めて台本を読んだ時には固いお芝居だなと思っていたんですが、今日みんなで読み合わせをしたらすごく柔らかい、面白い作品になっていて。それはたぶん、既にみなさん個々のキャラクターがすごく立っているからだと思いますね。あと、一番印象的だったことは的場さん演じる政次郎さんが僕の想像していたイメージとはかなり違ったので、とてもびっくりしました。
――どう違ったんですか。
栗山 それは……内緒です(笑)。
田中 え、気になる。なんで内緒なんだよ、言っちゃえばいいのに。
鈴木 ふふふ。私も今日の本読みは、すごく楽しかったです。まだ、みなさんがどんな方なのかもわからないですし、どんなアプローチをしてきてくださる方々かもわからない中だったので、その場その場で発見がたくさんあって面白かったです。
鈴木絢音
――今回の舞台は、宮沢賢治にまつわる物語になるわけですが。宮沢賢治に思い入れはありますか。
田中 もちろん、宮沢賢治という人物のことは知っていましたけれども、でも今回は物語のメインはお父さんのほうですからね。お父さんがどんなキャラクターだったのかというところが見どころで、そのお父さんとどう絡んでいくのかというところで、賢治の人間味を表現していくわけですが。だけど正直、賢治ってこんな人だったんだと僕は驚きました。わがままで、親のすねをガジガジかじって、自分はこうなりたいああなりたいといろいろなものに興味を持って。というのも、僕はもっとしっかりした人というイメージを持っていたので。お客さんもきっと僕らと同じようにビックリするんじゃないかと思うので、みなさんのリアクションも楽しみです。
栗山 僕も、同じようなイメージを持っていました。だけどそんな賢治の内面を見られるのは、こういう作品だからこそ、ですよね。普通だったら見られない部分が描かれるので。今回の本読みでは、なんだかそういう本当の賢治の姿が見えた気がしました。物語の世界にすんなり入れたのは、賢治兄さんの雰囲気があったからだと思います。
田中 ホントに、そう思ってくれてるの?
栗山 ハハハ! だって初めての本読みだったら、普通は台本を開いて読みますよね。だけど賢治兄さんは、本を読まずにみんなの目を見て話していたんですよ。
――つまり、早くも全部セリフが入っていた?
栗山 椅子に座ったままの本読みでしたけど、台本は見ていなかった。それにもビックリしましたし、ああ、とても賢治兄さんっぽいなあと思いました。
田中 こんなにおだてられたら、何かしないと。ちょっと、僕の財布を持ってきてくれますか?(笑)
田中俊介
――仲の良い兄弟になりそうですね(笑)。鈴木さんは、宮沢賢治の印象はいかがですか。
鈴木 私は秋田出身で、賢治の故郷である岩手県のお隣ですから他の方よりは知っているつもりでいて、農業と童話のイメージは強くありましたけど。でもやっぱり、私もまさかこんな人だったとは知らなかったです。あと、妹のことをここまで大好きだったんだということも、今回初めて知りました。
田中 確かに。妹・トシに対しては、なんだかもう見ていてこっぱずかしくなるくらいの距離感で接しますからね。兄妹なのに、妹の前だと急に「どしたの、どしたの~」「そうか、そうか~」ってなっちゃう感じで。だからもう、トシと二人でやるお芝居の場面が、すごく楽しみです。兄妹愛を、お見せできたらいいなと思います。もちろん、弟の清六のことも賢治は大好きなはずですけど、どっちかといえばトシですからね。清六は適当にあしらっておくことにします(笑)。
――でも清六のほうはお兄さんのことが大好きで。
栗山 そうなんですよ。一方通行だなと思います。トシもまったく僕のことは見てくれない(笑)。あまり、絡む場面もないんです。
鈴木 全然ないですよね。
栗山 本当は、きっと清六とも仲良かっただろうと思うんですけどね。
――みなさん、実際にご兄弟はいらっしゃいますか。
田中 僕には、兄と妹がいます。妹はいるんですけど、こんなに愛でてはいなかったですね(笑)。でも自分にはそんなに記憶は残っていないですけど、母親に聞くと幼少期に僕も妹をとても可愛がっていたらしいので、僕にもちょっとは妹好きの賢治の資質があるんだろうなと思います。
栗山 僕は、お兄ちゃんが二人います。三人男兄弟の末っ子です。
栗山航
鈴木 私は、兄がいます。
田中 おっ、みんな役とリンクしていますね。お兄ちゃんはちゃんと愛でてくれてる?
鈴木 私のほうが好きだと思います。
栗山 へえー。それは、ありがてえ(笑)。
田中 ありがてえことであんすねえ(笑)。いいなあ、可愛らしい妹がいて。あっ、そんな言い方したら僕の妹に失礼か。これ、読んでいないといいけど。
栗山 アハハハ。
――お父さん役の的場さん、お母さん役の大空さんは、今日の時点ではどんな印象でしたか。
田中 いやあ、もう本当に頼もしいですよ。役としてもそうですし、お二人も初めて読まれているのに、純粋に、わあ、すごいなって思うくらいに表現力が豊かでしたし。もちろん台本自体に魅力的なセリフがたくさんあるんですが、それを見事に体現されていて。このまま、お二人についていけばいいものになるんだろうなというのを確信した……じゃ。
栗山 ハハハ。
鈴木 フフフ。
田中 ちょいちょい、ふだんの会話にもこうやってセリフの語尾の方言を使っているんですよ。
田中俊介
――復習にもなるし、言えば言うほど口が慣れますし。
田中 そう、そうでやんす。
栗山 まだ、自信のなさが出ちゃってますね(笑)。いや、僕も今日の本読みで、お二人が若い時にどういう雰囲気で付き合ってたか、みたいなものまで見えた気がします。それこそ政次郎さんが振り回すだけ振り回して、お母さんのイチさんはそれでも、うんうんわかったよって言ってついていっていたんだろうな、と。既にもう、お二人とも長年一緒に過ごした夫婦の空気でした。
鈴木 私も、素敵な夫婦だなと思って会話を聞いていました。それと同時に、その夫婦の子供が私なのに自分はまだまだだな、とも思いました。
田中 なじょしてー、そったらこと。
――本当に、今回は方言のセリフが難しそうですね(笑)。どうやって練習されているんですか。
田中 事前にいただいた音声データを、ひたすら聞いています。移動時間とか、これまで音楽を聴いていた時間は全部、このセリフの音声データを聞く時間にしています。そうそう、さっき初めて知ったんですけど、そのデータの声の主は脚本の詩森ろばさんだったんですよ。だからもう、僕は既にずっとろばさんと長い時間を過ごしていますよ。
栗山 あとはもう、慣れるしかないですからね。だけど今日、的場さんが言ってくださったんですけど、方言に引っ張られ過ぎて、それで気持ちのほうが薄くなるようだったら別に方言なんて気にしなくていいんだ、と。だから僕はあまり気にし過ぎないようにしつつ、取り組みたいなと思っています。でもこの方言があるからこそ、これだけ近い雰囲気になれるんだろうなとも思います。今日も、標準語でセリフを話すより、あっという間に家族の距離感が縮まったような気がしましたから。
栗山航
――鈴木さんは秋田ご出身ということは、少しは馴染みがありますか? やっぱり全然違いますか。
鈴木 似ているなー、くらいですね。秋田弁のスイッチを入れるとすぐに秋田弁で話すことはできるんですけど、今回は盛岡弁なので、スイッチを入れたところで盛岡弁にはならないんですよ。やっぱり違いますね。逆に、まっさらな状態のほうがかえって覚えやすかった気がします。
栗山 イントネーションが違うんですか。
鈴木 そうですね、秋田弁は平坦で、盛岡弁のほうが高く出る部分があるイメージです。
――それぞれの役を、現時点ではどういう風に演じたいと思われていますか。
田中 とにかくわがままでいようかなと思っています。当時は、家族のバランスというか関係性が今とは違っただろうから、お父さんに逆らったらしばかれる!みたいな感じもあるでしょうし。あとは今日、青木さんに言われたのが、僕はもう少しおとなしくやろうかと思っていたんですけど「もっとパワフルにやんちゃでいい」ということ。だったら、ガンガンいったろうかなーって思っています。
栗山 僕は今のところ具体的には考えていないんですけど。ただ、清六が見ているのは、お兄ちゃんとお姉ちゃん、それも特にお兄ちゃんだという気がするんですよね。だから、お兄ちゃんの一挙手一投足をずっと見ていれば、自然と清六になれるのかなと思います。
鈴木 私は、意識している点が二つあって。ひとつは、お兄ちゃんに対する愛。もうひとつは、トシは志半ばで死んでしまうので、それまでひたすら素直に一生懸命生きようと思っています。
栗山 もう僕、今日の時点でお母さんとトシとの二人のシーンを聞いていて泣きそうでしたよ。台本をひとりで読んでいる時は全然来なかったのに、二人の会話がものすごく良くて。なんとか、こらえましたけどね。
鈴木 ありがとうございます!(笑)
鈴木絢音
――これからの稽古、本番に向けての目標や、クリアしたいと思っていることは。
田中 なんだかんだいって今回は本当に稽古時間が少ないので、必死にしがみついて、稽古ではいろいろな球を投げないと、と思っています。自分としても投げたことのない球を投げてみたくて。気持ちとしては真っ直ぐな、どストレートでいいんですけどね。面白くするには、ストライクが全然入らなかったとしてもいろいろな変化球を投げて、バシコーン!とストライク三振!!みたいな気持ちいい球を投げたいです。
栗山 舞台を作り上げていく上で、クリアしたい課題とかは特に考えたことがないんですよね。でも今ちょっと思ったのは、今回は配信もあるみたいなので。もちろん、劇場にナマの芝居を観に来てくださった方にもそうなんですけど、たとえ配信でも観てくださっている方にしっかりと届くようなお芝居ができたらいいな、と思っています。
鈴木 私はお芝居の仕事の経験が少なくて、これまで自分で納得がいく出来になったことがまだないので。今回は稽古期間もそうですけど本番も含めて、最終的に自分で納得が出来るお芝居ができたら、と思います。
――では最後に、お客様へお誘いのお言葉をいただけますか。
田中 演劇ってやっぱりいいな、と思ってもらいたいですね。コロナ禍で、そこから遠ざかるしかなかった時期を経て、ずっと我慢されていた方たちにも観ていただいて「やっぱりいいなあ、すごく元気をもらえた、このためにお仕事がんばれるな」って思ってもらえたら。僕たちにしても、一方的に舞台を作っているわけではないんですよね。お芝居は、劇場や、今回は配信でも観てくださる方たちもいますから、そうやって観てくださるみなさんと共に作るものだと思うんです。だからこそ、本番でしか生まれないものが絶対にある。ぜひこの機会に、僕たちと共に作る演劇の楽しさというものを一緒に味わいましょう!
栗山 この作品は家族の物語ですからね。今、このコロナ禍で家族に会えなくて、遠くの親戚より近くの他人みたいな気持ちになってしまっている方も多いのではないかと思います。でもこの作品を観ることで、もう一度家族のことを顧みる時間を作っていただけたらいいな、と。そのきっかけの、一部になれたらうれしいです。
鈴木 この時期なのに、ではなくて。この時期だからこそ、出来るお芝居をやっていきたいなと思っています。一生懸命、がんばります!
取材・文=田中里津子
公演情報
◆日程:2020年10月15日(木)~10月22日(木) 全11公演
◆劇場:新国立劇場 小劇場
◆料金:全席指定パンフレット付 11,000円
プレイガイド:イープラス https://eplus.jp/ginga-chichi/
ファミリーマート(店内端末ファミポートにて)直接購入可能。
◆原作 門井慶喜『銀河鉄道の父』(講談社文庫)
◆脚本 詩森ろば
◆出演者:的場浩司 田中俊介 栗山航 鈴木絢音 大空ゆうひ ほか
◆公式HP: https://mmj-pro.co.jp/ginchichi/
◆公式ツイッター:@ginchichi_stage
◆主催:MMJ