カルトの狂宴を目撃せよ 不条理ギャグ漫画『ギャラクシー銀座』をいかに具現化するか、劇団子供鉅人・益山貴司にインタビュー
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現在は東京に拠点を移し、来年2021年に結成15周年を迎える劇団子供鉅人が、長尾謙一郎の『ギャラクシー銀座』(小学館「ビッグコミックススペシャル」刊)を舞台化。下北沢・駅前劇場で2020年11月27日(金)から公演を行う。「家族とは?」「宇宙とは?」といった普遍的な問題をはらみながらも、シュールかつアヴァンギャルドなエピソードの数々は、ギャグ漫画という枠組みをはみ出し、読む者をカオティックな酩酊へと誘う。このカオスな世界観を演劇で表現することは可能なのか。劇団主宰で脚本・演出を手掛ける益山貴司に語ってもらった。
■具現化する方がヤバい
ギャラクシー出演者ビジュアル 主演
――長尾謙一郎先生と劇団子供鉅人の皆さんは、もともと交流があったとか。
そうです。もともと私、長尾先生の漫画が好きで、もうなくなってしまった原宿VACANTでの劇団イベントでVJをしてもらったんです。それがもう素晴らしく面白くて。その後も先生が作ったテンテンコちゃんのPV(『放課後シンパシー』)に劇団で出演させていただいたりと、ポツポツと交流がありましたね。
――『ギャラクシー銀座』は数年、温めてきた企画だったそうですが、前々から舞台化したいというお気持ちがあったんですね。
主人公の竹之進が劇団員で弟の益山寛司にそっくりで! もう一人のメインキャラクターのマミーもうちの億なつきにそっくり! センター2人がこれだけ似ているなら舞台化しかないなと。それで数年前に長尾先生にラブコールを送って、「舞台化したいと思っているんです」「ぜひやってくださいよ」というやりとりがあったんです。
なにせ私はこの作品世界をなるべく壊したくないので、これはもう忠実に舞台化します。
――忠実ですか! 正直、毎回スタイルが変わる捉えどころのない劇団というイメージがあるので少し意外です。
そうですか(笑)。でも『ギャラクシー銀座』の世界観を忠実に舞台化する方がぶっ飛んでいると思うんです。
――たしかに、どうやって舞台化するんだという疑問はありますね。
長尾先生にも「どうするの」と言われていて。「まじで忠実にやります」と。『ギャラクシー銀座』は完成された作品だと思ってんで、原作をもとにオリジナルのストーリーを作ろうとか、そんな気は最初からなかった。ひたすら具現化したいという気持ちがあって、逆にそれが一番ヤバいなと思って。
『ギャラクシー銀座』を初めて読んだ時の衝撃は、デヴィッド・リンチを見た時の衝撃に似ていて、たとえば『ブルーベルベット』を見ていると、意味の分からない瞬間に襲われることがあるんですね。「え、これはどういう意味だろう」って。で、分からないまま物語は進んでいって、結局、見終わっても分からない。それでもう一度見直すと、だんだん分かってくる、というか分からされる。デヴィッド・リンチも長尾先生の漫画も、分かろうとする気さえあれば、意味を掴めるところに行き当たるというか。
(アートにも)『解剖台の上でミシンとこうもり傘が偶然出会ったように美しい』とかシュルレアリスムでありますよね。違う要素をわざとぶつけ合うと、そこから別の意味が表れてくるような。
『ギャラクシー銀座』にもそういう衝撃があって、「これはどういう意味なのか」と考えさせられる。で、それはもしかしたら意味なんてないのかもしれないという、もてあそばれるような快感もあって。そういったところがたまらなく面白いですね。
■長尾先生の言葉を舞台で生かすための策とは
――そんな『ギャラクシー銀座』を舞台化するにあたってのアイデアは何か、教えてください。
今回劇団としては映像を初めて本格的に使います。演劇には役者が生身で演じる醍醐味が絶対にありますし、舞台はアナログが一番面白いと思っているので、これまでうちは舞台上で映像を使うことを避けてきたのですが、今回はいかに忠実に再現するか、世界観を作り出すかということに重きを置いているので映像、字幕、役者の演技などをミックスしていこうと考えています。
たとえば、「イタズラ電話」と書いて「パンクロック」と読む、みたいに長尾先生は言葉づかいが面白い。でも人がセリフとして発すると面白さが伝わりにくいので積極的に映像を使い、原作にあるモノローグのようなものは漫画のコマ割りのように字幕にして出そうと思っています。
セリフや字幕以外にも映像を使って表現していくシーンがありまして、これからたくさんロケをします。たとえばマミーがセンター街に覚醒剤を買いに行くシーンや、浜辺で若い男女が戯れるシーンは浜辺に撮りに行ったり。ちょっとした映画並みの撮影をしています(笑)。
■稽古場での評価の基準は「似ているか、似ていないか」
ギャラクシー出演者ビジュアル全員
――他にも具現化する醍醐味を感じられることってありますか?
今まで劇団としては役者に対して、あてがきすることが多かったんです。今回センターの2人がメインキャラクターに似ていたので、あてがきっぽくなってはいるのですが、久々に私以外の人が書いたキャラクターを劇団員がやる。つまり役者がキャラクターに寄せていくのは、劇団の中では久しぶりです。役者たちは新鮮だと思いますね。役者の醍醐味である自分ではないものになるということを強制されている状態で、いつもと違うクリエーション体験なので。シェイクスピアもやりましたけど、あそこまで(時代が)古いと、ある程度自由にキャラクターを造形できますが、今回はキャラクターの見た目や所作のお手本が全て存在している状態ですから。
――普段、益山さんが一からキャラクター造形をした台本を劇団員さんが演じるとき、自由度はかなり高いんですか?
そうですね、けっこう任せてしまうので。その人の持っている特性で書いていく部分が強くて、そういう意味ではあまり無理をせずとも、役者たちができてしまうところはあると思います。でも今度は完璧なお手本があって、言ってしまえばファンの皆さんの目の手前もあるので。
そういった意味で、今回は稽古場での役者同士の評価のポイントが非常に明白です。「それ、似ている」とか、「今やった感じ、そのキャラクターはやらないと思う」とか、「似ているか、似ていないか」が基準になりますね。
――物語の解釈の仕方も、人によってばらつきが出てきてしまう作品だとも思いますが、劇団員の皆さんはそこのところをどう調整されていますか?
長尾先生がどこまで具体的な意味を持って描かれているのかは分からないですが、読み解く余地を残してくれている作品だと思うので、我々も少しずつ読み解きながら稽古をしているという感じです。ただ多分、本番が終わっても誰も全てを読み解けていないんじゃないですか(笑)。
でも、みんなが自分のストーリーを一生懸命を演じていれば、他のストーリーと共鳴して、大きな不思議なストーリーが立ち上がってくると思います。ちょっと乱暴な言い方ですけど、それで観た人が何かを感じてくれればいい。
言ってしまえば今回は、「観る」というより「体験する」公演にしたいですね。原作がカオティックなストーリーなので、舞台ではお客さんに話の筋道を見せつつ、(世界観を)体験してもらうことに主眼を置いています。
■物語として腑に落ちやすい部分はあるかもしれない
とはいえ、しっかり読み解けばきちんと物語のある作品ですので、主人公の竹之進が不思議なシチュエーションに巻き込まれていくというストーリーラインは忠実に追っています。読めば読むほど、「あのシーンはこういう意味なんじゃないか」という考察ができてしまう漫画なので、舞台でもお客様が考察できる余地があるように、ストーリーがシンプルになりすぎないようには気を付けています。
――考察の余地とは、抽象的な表現を入れるということですか?
単純に登場人物や要素がものすごく多いということです。そこのところはできるだけ整理しないでおこうかと。
――忠実に舞台化するということは、原作の物語を変更することもあまりなさそうですか?
いえ、どうしても再現できないものは諦めました。1話読み切りの漫画なら分けて読んでも面白いんですけど、舞台では物語を通して観るので、演劇体験として時間が気持ちよく流れていくような足し引きを意識的にやっています。脚本には書いたけれども、実際に役者で読んでみたら、気持ち良い流れを阻害していたエピソードなんかは削ったりしました。演劇は時間芸術なので、物語に乗っかった劇時間はしっかり作っているつもりです。
原作を一読するだけでは、結構(理解が)追いつけないところが多いと思うんですけど、生身の人間がアクションする演劇に仕立て直すと、物語としては漫画よりも腑に落ちやすい部分があるかもしれません。
■原作ファンにも、どう舞台化したのか観て欲しい
オシリペンペンズ
今回劇団が初めて挑戦することは映像の他にもうひとつ、オンライン配信があります。コロナへの対策で客席数自体が減りますし、劇場へ行くことに抵抗があるお客様もいらっしゃるので。あとは『ギャラクシー銀座』の世界観を、日本全国のファンに見て欲しいという。
――益山さん自身が相当なファンなわけですよね。
私はこの作品を伝道するつもりで作っているので。私は演劇の人間なので、小説や漫画を「これをもし舞台化したらどうするんだろう」と想像しながら読んだりするわけなんですが、やっぱり『ギャラクシー銀座』はどこに行っても、「え、なんで舞台化するんですか」「どうやってやるんですか」と聞かれるんですね。その答えは作品にあるので、ぜひ観て欲しい。劇場で直接体験していただきたい作品ではありますが、全国に届けるためにはオンライン配信は有効かなと。
――最後に、演劇以外の分野の方とのコラボレーションについて、お考えを伺えますか。
音楽は関西アンダーグラウンド界の帝王オシリペンペンズです。もともと関西にいたときから交流があって、ギターの中林キララくんにはよく音楽で参加してもらっていたので、今回はオリジナルの曲を作ってもらいます。映像部分にちょっと出演もしてもらったり。長尾謙一郎、オシリペンペンズ、子供鉅人と、これ以上ないカルト的な組み合わせを狙ったのは確かですね。面白いものができるんじゃないですか。
取材・文=石水典子