同級生役で舞台初共演の柳家喬太郎と山崎美貴にインタビュー~東京タンバリン わのわ『さとうは甘い』
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山崎美貴、柳家喬太郎 (撮影:池上夢貢)
高井浩子の劇作を本人演出のもと上演する劇団「東京タンバリン」が、2020年11月19日(木)~25日(水)に東京国立博物館・九条館にて『さとうは甘い』を上演する。今作は東京タンバリンが「和をモチーフに輪を広げていこう」と行っている企画「わのわ」の作品の一つで、実際の茶室を使って茶道教室を舞台にした演劇作品を上演する。
今回のゲスト出演者は、これまでも東京タンバリンに何度か出演している山崎美貴と谷川清美に加え、今回初参加の柳家喬太郎も名を連ねている。人気落語家の喬太郎だが、俳優としてもこれまでテレビ・映画・舞台等に出演しており、その演技力には定評がある。
なぜ喬太郎が東京タンバリンに出演することになったのか。それには山崎美貴の存在が一つ大きな理由になっているとのこと。2人が出会ったきっかけや今作への思いなどを、喬太郎と山崎に聞いた。
■「僕たちにとって山崎美貴という人は特別な存在なんです」(喬太郎)
――まずは、喬太郎さんが今公演に出演されることになった経緯を教えていただけますか。
喬太郎:僕と美貴さんは世代が一緒で、美貴さんが80年代にフジテレビの『オールナイトフジ』に「オールナイターズ」としてご出演されていたのを拝見していました。その後もふとした時に「美貴さんは今どうしているのかな」と思い出したりしていましたが、2006年に知人で劇作家の阿藤智恵さんの戯曲『セゾン・ド・メゾン~メゾン・ド・セゾン』が上演されたのを見に行ったら、その舞台に美貴さんがご出演されていたんです。
山崎:文学座の有志団体H.H.Gでの公演だったんです。阿藤さんから「喬太郎さんが見に来るよ」と聞いて、お会いしたい!って言っていたんですが、喬太郎さんは終演後にすぐ帰られてしまって、その時はお会いできなかったんです。
喬太郎:舞台を拝見して「素敵な女優さんになられたな」と嬉しく思いました。それから、僕がBS放送でトーク番組をやらせてもらっているときに、ぜひゲストで美貴さんに来ていただきたいと希望を出したらそれがかなって、ようやく初めてお会いすることができました。
山崎:私としても、ようやくお会いできた、という気持ちでした。そうしたら「ファンです」と言ってくださって、嘘でしょう?と思うくらい嬉しかったですね。
喬太郎:僕らの若い頃って、お店にはよく有線がかかっていて、リクエストすることができたんですよ。当時は日本大学の落語研究会に所属していて、水道橋の喫茶店で落研の今後のことを真面目に話し合いながら、友人と一緒に「おかわりシスターズ(※山崎がメンバーだった3人組ユニット)の『恋をアンコール』をお願いします」って有線にリクエストの電話をかけたりしていました。
――喬太郎さんの番組に山崎さんがご出演されたときのことはよく覚えています。当時、舞台中心に活躍されている方がテレビのトーク番組に出演することは珍しいので驚きましたが、喬太郎さんが山崎さんのファンと聞いて「なるほど」と思いました。
喬太郎:青春時代を送った80年代というのは、僕たちにとっては特別で大事な時代で、やはりその時代の中で山崎美貴という人は特別な存在なんですよね。そんな方とお知り合いになれて、そこから舞台を拝見するようになりましたが、僕の本業は噺家ですから、演劇は好きですけど共演したいなんておこがましいことは言えません。でも美貴さんや高井さんとのご縁があって今回のお話を頂いて、こんな嬉しいお話をお断りする理由がありませんから、私でよろしければ、ということでお受けしました。
■過去が嫌だった時期もあったが「それも含めてすべてが私」(山崎)
――山崎さんは、今回の喬太郎さんとの共演についてどのように思っていらっしゃいますか。
山崎:私の方こそ、こんな売れっ子の落語家さんが共演してくださるなんて、という思いです。実は、『オールナイトフジ』に女子大生タレントとして出演してアイドルのようなことをしていたという過去が嫌でしょうがなかった時期があって、それでもやっぱりその過去はずっと付いてくるものなんですよね。喬太郎さんみたいに、青春時代のいい思い出として今でも覚えていてくださる方がいることはやはりすごく嬉しいですし、そうしたらだんだんと過去を受け入れて「それも含めてすべてが私なんだ」と思えるようになってきました。
喬太郎:美貴さんとは思わぬところで共通の知り合いがいたり、ご縁を感じることがすごく多いんですよ。
山崎:私の親友が、まだ学生だった頃の喬太郎さんの落語を聞いたことがある、というのもすごい偶然ですよね。当時から落語がとってもお上手で面白かった、と親友の印象にずっと残っていたそうです。
――同じ時代に青春を過ごしていたからこその共通点や繋がりというのもあるかもしれませんね。
山崎:喬太郎さんとはいつか共演したいな、と思っていたのですが、何しろお忙しい方なのでスケジュールが難しいかな、と思っていた分、共演がかなって本当に幸せだし嬉しいですね。今回の高井さんの本が、またとっても良いんですよ。私と喬太郎さんが同級生の役で、最初読んだときにちょっと泣いちゃいました。
喬太郎:まさに今お話ししたような、若い頃はそれぞれにいろいろあって、それが年月を経て50代になって、さんざんいろんなことをやってきたけど、まだこれからだ、って気持ちも強くある、という本当に僕らそのままのお芝居なんですよ。今の僕たちの立ち位置とか思いというものを、過不足なく高井さんが描いてくださっています。
――50代は決して若くはないのかもしれないけれど、この年齢だからこそやれることがたくさんある世代、という印象があります。
喬太郎:若い頃に、上の世代の方々が「俺の青春はまだまだこれからだ」というようなことを言うのを聞いて「何を若者ぶってるんだ」と思う気持ちがありました。上の世代の人にはもっとどっしり構えていて欲しい、こっちは頼りにしてるんだから、と。でも、今その世代に近づいてきて、先輩方の言っていた意味がわかる気がしてきました。決して若者ぶってるわけではなくて、自然にそう思えるんですよね。
山崎:女性の場合は、やっぱり若さとか容姿とかがだんだん衰えていくことに悩んだり恐怖を感じたりすると思うんですけど、でも50代に入ってからは、年取るのも悪くないな、と思えるようになってくる人も多いんじゃないかと思います。もちろん様々な不安はありますけど、この年齢だからこそいろいろ見えるようになってきた感じはしています。
■「どうやって歳をとっていくかが芸に反映される」「芸は人なり」
――お話しをうかがっていると、今作は喬太郎さん・山崎さん世代の方が見ると特別な感情が沸き起こりそうですね。
山崎:お客様にそう思ってもらえたら嬉しいです。それと同時に、私たちより若い世代の人たちにも「歳を取るのも悪くないかもしれない」と思ってもらえたらいいですね。
喬太郎:落語界の先輩方に「喬太郎くん、いくつになった?」って聞かれて「56です」って言うと「若いな、まだ何でもできるな」って言われるんです。先輩方からはそう見えるんですよね。僕も40代半ばの後輩に対して、彼らだって年齢的には立派な中年ですけど、でも「若いな」と羨ましく思う部分もあります。だから僕は、10年後に2020年の今の僕を振り返って「あの頃なんでもできたはずだよな、何でやらなかったんだ」って思いたくないですね。そう思うと、人生は先しかないんだな、って実感できるんです。うちの師匠(柳家さん喬)は72歳ですけど、本当に若々しくて元気なんです。そういう姿を見ていると、僕も元気で長生きさえすればまだまだ楽しめるんだな、とワクワクします。
山崎:私が所属している文学座も元気な先輩がたくさんいて、「美貴ちゃんたちみたいな若い人たちにがんばってもらわないと」とか言われると、ああまだ若手なのかな、なんて思っちゃたりしますよね。若い頃に「女優として基本的な勉強をしたら、後はどうやって歳をとっていくかが芸に反映される」という言葉をいただいたことがあって、人生を積み重ねていくということも大切なんだな、と思いながらやってきました。若い感覚を残しつつも、年相応にいい味を出していければいいなと思っています。
喬太郎:僕らの世界にも「芸は人なり」という、先代の小さんの言葉があります。噺家は一役になりきらないですし、地の部分も多いですから、やっぱりその人が出るんですよね。あと、とある先輩から「噺家っていうのは噺家らしくしてなきゃだめだよ、ただし噺家ぶっちゃだめだよ」と言われたことがありました。それはすべてに通じると思います。
■喬太郎が落語でやってしまった“間違い”とは?
――喬太郎さんは落語とは違った環境の中で、どのように感じながらお稽古されていますか。
喬太郎:落語は1人でやるので人と会話をしない、下半身を使わないという芸能なので、演劇とはまったく環境が違いますね。今回で演劇の経験は8回目なのですが、これまでもとても素敵な現場ばかりで、今回も本当に楽しいです。僕の役は、美貴さんがやっている茶道教室に見学に来るという役なんですけれども、他の皆さんが茶道についてお話しされたり所作をちゃんとされているのを見ながら、本当に役柄そのままに「へぇー」とぼんやり見て聞いているばかりです (笑)。役者さんってすごいですよね。
山崎:いやいや、喬太郎さんたち落語家さんは頭の中にたくさん噺のネタが入っていて、それをすぐに披露することができるんですから、それこそすごいじゃないですか。
喬太郎:噺家は1人でやっているから、なんとかなっちゃうんですよ。間違えても気付いたところで自分なりに軌道修正できますし。一番まずいのは、間違えたことに気づかない場合ですね。「死神」という落語で、死神が病人の足元にいるか枕元にいるかによって助かるか助からないかが決まるという話なんですが、本当は枕元に座らせなきゃいけなかったのを、足元に座らせちゃったんですよ。それに気付かないまま話を終えて高座を下りて、仲間に「足元に座らせてたね」って言われてもう血の気がひいちゃった、なんてこともありました。
あと、これは間違えたわけではないのですが、「抜け雀」という噺を全日空寄席でやったことがありました。衝立に書いた雀が抜け出てしまうので「このままでは雀が落ちて死ぬぞ」という部分があるのですが、それを弟弟子が飛行機の機内で聞いて、「兄さん、飛行機の放送でよく『抜け雀』なんてやりましたね」って言うんですよ。何でそんなことを言うのかな、と思ったら「だって飛行機の中で「落ちて死ぬ」って何度も言ってる」って(笑)。本当にいろんなことがありました。だから逆に言うと、もう何があっても驚かない、というところはあるかもしれません。
――今回、喬太郎さんが出演者の皆さんと舞台上でどのような関係を築いているのか拝見するのがますます楽しみになりました。
喬太郎:お稽古場で拝見しているだけでも、お芝居の中でお互いの関係性の持ち方というのが僕ら噺家にはないので、いつも感服しています。噺家はお声がかかって少しでも興味があったら、舞台をやらせてもらった方が絶対にいいと思うんです。演出を受けるっていう経験をした方が絶対に芸にプラスになりますから。
――では最後に公演を楽しみにしている皆様へのメッセージをいただけますか。
山崎:今回は、喬太郎さんと谷川清美ちゃんと私の3人が同級生という設定で、同世代の方には本当にしみる話だし、明日からも頑張ろう、と元気が出るような舞台にしたいと思います。会場となる九条館もすごく素敵な場所なのでぜひ楽しみにいらしてください。
喬太郎:今回は座席数が少なく設定されているので、どんどんお越しくださいと言えない世の中なのが寂しいですよね。今の世の中で、僕らは当たり前の日常を欲してると思うんですよ。当たり前の日常の中にこそ、個々それぞれに大小様々な波風が立つわけですから。そんな苦いけど優しい日常を今日の日まで生きてきたけど、今日の日からまた生きていくんだということを、演じている僕らも勇気づけられるようなお芝居です。
会場の九条館は16時に退館しなければならないので、お芝居を見た後で鈴本(演芸場)の夜の部にまだ間に合いますから、私は出ませんけどそちらに行っていただくのもよろしいんじゃないでしょうか(笑)。
――確かに鈴本演芸場まで歩けない距離じゃないですよね。お芝居の前後で会場近辺を散策して楽しむというのもいいですね。
喬太郎:寄席はともかく、上野・鶯谷界隈には美味しいお店や楽しい場所もたくさんありますから。皆さんの素敵な一日の一部を、この作品が少しでも彩れたら嬉しいですね。
取材・文=久田絢子 写真撮影=池上夢貢
公演情報
■日時:2020年11月19日(木)~25日(水)
■会場:東京国立博物館 九条館
■上演時間:約1時間
■出演:柳家喬太郎、山崎美貴、谷川清美/森啓一朗、ミギタ明日香、遠藤弘章
■料金:4,000円(日時指定・全席自由)
☆着物でお越しの方は1,000円割引
■主催・問い合わせ:東京タンバリン http://tanbarin.sunnyday.jp
■配信期間:2020年11月27日(金)10:00~12月3日(木)23:59まで
■視聴料金:2,000円(税込)
■販売期間:2020年11月19日(木)10:00~12月3日(木)13:00まで
■視聴
https://eplus.jp/sf/detail/3337510001-P0030001