MUCC、レコーディングスタジオからの配信ライヴ『FROM THE MOTHERSHIP』ライヴレポートが到着
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(C)渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)
2020年11月21日(土)に行われた、MUCC無観客配信ライヴ『FROM THE MOTHERSHIP』のレポートが到着した。
6月から無観客配信ライヴをスタートさせたMUCCが、11月21日に<FROM THE MOTHRSHIP>と銘打った配信ライヴを行った。
3回目を迎える今回はこれまでのライヴ会場から配信するパターンとは異なり、レコーディング・スタジオを使用したスタイルで開催。その話を聞いて、“そうなると、聴かせることに特化したライヴになるのかな?”とか“もしかすると演奏に専念するために、ミヤとYUKKEはイスに腰かけてプレイするかもしれない”といったことが頭をよぎった。ミュージシャンシップの高いバンドだけにそういうパターンも考えられるが、彼らが一筋縄ではないかないことは周知の事実。
MUCCはレコーディング・スタジオで、どんなライヴを見せてくれるだろうとワクワクしながら開演を待った。
ライヴはヘヴィ・チューンの「惡-JUSTICE-」からスタート。始まると同時に、SATOちのドラムセットに向かってミヤとYUKKEが円を描くように立ち、逹瑯と生ピアノを弾くサポート・キーボードの吉田トオルは別ブースに入るというフォーメイションに“おっ?”と思った。
さらに、ギターとベースのキャビネット(スピーカー・ボックス)も独立したブースに入れて、マイクを立てたようだ。この形ならドラムの遮音などをせずに生ピアノを鳴らせるし、ギター/ベースの音量も自由に上げられる。つまり、今まで以上にこだわった音作りができるというわけだ。また、逹瑯はより良い状態で歌声を聴かせるためにレコーディング用のコンデンサ・マイクを使うことにして、別ブースに入ることにしたらしい。MUCCの配信ライヴは音の良さも大きな魅力になっているが、今回は今までのクオリティーのさらに上をいっていて、1曲目から“やるな!”と思わずにいられなかった。
その後は陰影に富んだ展開を活かした「アメリア」やヘヴィネスと抒情性を融合させた「遮断」、パワフル&エモーショナルな「路地裏 僕と君へ」などが相次いで演奏された。
感情を露わにして強く心に響く歌声を聴かせる逹瑯。激しいアクションとシュアなギタープレイのマッチングが光るミヤ。ミステリアスなオーラを発しつつ重厚にうねるグルーブを紡いでいくYUKKE。全身を使ってスケールのデカいドラミングを展開するSATOち。
逹瑯 (C)渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)
ミヤ (C)渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)
YUKKE (C)渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)
SATOち (C)渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)
吉田トオル (C)渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)
メンバー全員がフィジカルに演奏していながらサウンドがタイトなのはさすがの一言。秀でた演奏力とクリア&ラウドなサウンド、逹瑯だけ別の場所にいるため背景が変わる映像などが相まって、ライヴでいながらMVを観ているような不思議な感覚を味わうことができた。
映像といえば、今回のライヴはカメラワークも絶妙だった。逹瑯の歌い出しやミヤのギター・ソロなどはもとより、ミヤが足元のエフェクターを切り替える瞬間やSATOちがフィルを叩くポイントなどもしっかり押さえる辺りは実に見事。
良質なサウンドといい、秀逸なカメラワークといい、スタジオを数日間ロックアウトしてかなり綿密なリハーサルをしたのかなと思ったが、スタッフによるとMUCCがスタジオ入りしたのはライヴの前日だったそうだ。前日に音作りやモニター・バランスの調整などを行って、映像班は当日入りだったと聞いて驚いた。
1回の通しリハだけでメンバーが希望するカメラワークを実現すべく、映像班は演奏する全曲の譜面を起こして、後何小節で歌が入る、ギター・ソロが入るといったことをリアルタイムで確認しながらカメラのスイッチングを行ったという。音と映像に強くこだわるMUCCもさることながら、時間がない中でそれに応えるスタッフもさすがの一言に尽きる。プロフェッショナルが揃った現場ならではのハイレベルな仕上がりが光っていた。
ミヤがピアノを弾くスロー・チューンの「積想」を皮切りにライヴ中盤ではファンクが香る「例えば僕が居なかったら」と「秘密」、ジャジーな導入部から力強さと幻想的な味わいを併せ持った世界へと移行する「ゲーム」、翳りを帯びたレゲェ・テイストを活かした「メディアの銃声」などをプレイ。こういったアダルトな雰囲気の楽曲を並べたセットリストと秋の夜の相性の良さは抜群といえる。1曲ごとに深みを増していく流れが決まって、時間が経つのを忘れてMUCCの世界に強く惹き込まれた。
さらに、今回のライヴは“ピン!”と糸が張ったような緊張感がずっと漂っていることも印象的だった。MUCCのライヴは普段から“ビシッ”としているが、今日はよりシリアスな雰囲気で、メンバー全員が高い意識でライヴに臨んだことがうかがえる。とはいえ、決してピリピリした空気感ではなく、緊張感が心地よさにつながっているのが実に良かった。
バンドの懐の深さを見せた中盤を経て、逹瑯の温かみに溢れたボーカルやミヤが弾くロマンチックな味わいのギター・ソロなどをフィーチュアした「ブリリアント ワールド」からライヴは後半へ。
逹瑯がブースから楽器陣のいるスタジオに移動したフォーマットで「DEAD or ALIVE」や「茫然自失」「蘭鋳」といったハイエナジーなナンバーが畳みかけるように演奏された。ついさっきまで洗練された音楽をじっくりと聴かせていたのと同じバンドとは思えない“アグレッシブなMUCC”も本当にカッコいいし、ここでも緊迫感を保っているのは見事。ライヴで演奏し慣れたハード・チューンを並べた終盤に入ってリラックスした雰囲気は微塵もなく、メンバー達は鋭い眼光を放ちながらプレイ。彼らのメンタル面のずば抜けた持久力にも、あらためて圧倒させられた。
その後は本編のラストソングとして、激しさと美しさを併せ持った「フリージア」を披露。ストリングスを配したサウンドやメロディアスなサビ・パートのボーカルなどを聴いていると、心が強く駆り立てられる。こういう流れで終わる辺りもさすがだなと思わせて、MUCCは本編を締め括った。
さらに、アンコールでは、新曲の「明星」を聴かせてくれた。「明星」は煌びやかなサウンドと“悲しみを超えて謡え、笑え”というメッセージを活かしたナンバー。胸を打つ1曲で、視聴者は良質な希望の歌がまた新たに生まれたことを感じたに違いない。MUCCは今回もライヴを通して様々な感情に揺さぶりをかけてきて、最後に心地いいカタルシスを与えてくれた。
レコーディング・スタジオを使った配信ライヴという新たな試みで、観応えのあるライヴを披露してみせたMUCC。今回のライヴは徹底して計算されたカメラワークやカット割りなどはあったものの、凝った演出や映像面のギミック、ゲストの登場などはなく、さらにスタート時間が遅れたためMCも最小限という、驚くほどピュアなライヴだった。
そういうアプローチで物足りなさを感じさせなかったのは「さすが!」の一言に尽きる。音楽を最重視したライヴでいながら、メンバーそれぞれが演奏する姿や丁寧なカメラワークなどで視覚面でも楽しませてくれたことも見逃せない。物足りないどころか、頭の芯が“ジン”と痺れるような感覚を随所で味わせてくれた。
もうひとつ、ライヴを視聴した人はわかっていると思うが、今回のライヴはミヤのギターの弦が切れる、フェンダー・ローズ(エレピ)の電源が落ちる、逹瑯のマイクの調子が悪くなるなど、機材面のトラブルが多かった(開演が遅れたのも機材関連のアクシデントだったらしい)。生配信ライヴでトラブルが起こるのはかなりの痛手といえるが、MUCCのメンバー達は全く動じることはなかった。こういったところにも彼らの強靭さは表れている。メンバーが動揺しないためザラついた空気になることはなく、視聴していた人も逆に普段はあまり見ることできないメンバー達の姿を楽しめたと思う。
ライヴのあり方や音楽性の幅広さ、高度な表現力、そしてメンタルの強さなど、様々な面を通してMUUCというバンドのポテンシャルの高さをあらためて感じさせる良質なライヴだった。そんな彼らだけに、今後の動きにも大いに注目していきたい。(ライター・村上孝之)
(C)渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)
MUCC無観客配信ライヴ『FROM THE MOTHERSHIP』
2020年11月21日(土)SET LIST
1.惡-JUSTICE-
2.アメリア
3.遮断
4.路地裏 僕と君へ
5.アイリス
6.room
7.積想
8.語り部の詩
9.例えば僕が居なかったら
10.秘密
11.ゲーム
12.メディアの銃声
13.堕落
14.25時の憂鬱
15.ブリリアント ワールド
16.最終列車
17.DEAD or ALIVE
18.茫然自失
19.蘭鋳
20.フリージア
en1. 明星(新曲)