アイビーカラー4thミニアルバム『WHITE』それぞれのハードルを越えて出来たアルバム【メンバー全員インタビュー】
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アイビーカラー
四季のうつろいを背景に、感情豊かで切ない恋愛ストーリー、懐かしさ漂うメロディ、ピアノとギターを活かしたみずみずしいハーモニー。2月のシングル「春風/L」、6月のシングル「夏空」を経て、最新曲「冬のあとがき」へ、一作ごとに知名度と、ミュージックビデオ再生数を伸ばし続けるアイビーカラーの4thミニアルバム『WHITE』が完成した。初の東京レコーディング、初の外部アレンジャー起用、それは慣れ親しんだアイビーサウンドの殻を破る、大きな挑戦を詰め込んだ自信作。コロナ禍の向こうに明るい未来を見据え、たくましく一歩を踏み出した、4人の本音を聞いてみた。
――今年は色々難しい時期だったと思いますけれども。制作期間はどのくらいかかりましたか。
佐竹惇(Vo&G):コロナになった直後ぐらいからですね。「こういう事態だから配信曲を」ということで「夏空」という曲を作り出して。そこからアルバム曲をどんどん作っていった感じです。
酒田吉博(Dr):新しいことに挑戦したアルバムになりましたね。アレンジャーさんと一緒に編曲をしたり、初めて東京でレコーディングした曲が入ったり。
――それはどの曲?
酒田:「東京、消えた月」「冬のあとがき」です。今までのレコーディングはメンバーとエンジニアさんだけで、毎日(午後)10時ぐらいに終わってたんですけど、東京で録った時はディレクターさんやマネージャーさんや、いろんな人がいっぱいいて。「100%以上突き詰めようぜ」という気持ちで親身になってくれる方ばかりだったので、終わったのが2時とかやったよな? 朝10時入りして、毎日夜中の2時まで。
佐竹:マネージャーさんも毎日残業してくれてました(笑)。
酒田:ドラムのレコーディングだけでも倍以上の時間をかけてやったので。今までは「これでいいや」という感じだったのが、「まだいける」みたいな、ハードル3つぐらい越えた感じがします。
佐竹:今までがそうしてないというわけじゃないんですけど。全員が全員ストイックに突き詰めて、せっかくアレンジャーさんも初めて付いていただいているので、自分たちも一皮むけたい気持ちは大きかったです。
――アレンジャーがついた曲は…。
酒田:今言った2曲です。それもあって東京でレコーディングしたので。あとは「夏空」もそうです。
――ああなるほど。確かにその3曲はアレンジの緻密さや完成度がすごく高い。
川口彩恵(Key):アレンジャーさんに入ってもらってない曲もいろんな人からアドバイスをもらって、固めてから作る感じだったので。今までみたいに自由にやるだけじゃなく、みんなで目指したところへ持っていくのが私的には難しくて、めちゃ苦労はしたんですけど。でも確実に自分たちだけではできないことだし、幅が広がったなと実感してます。
――今までは川口さんが、アレンジの最終仕上げみたいな役割だったわけでしょう。そこで苦労があったのはわかる気がします。
川口:今まで私のわがままをめちゃ聞いてもらったんで(笑)。ただ今回は「こうしなさい」というだけじゃなく、周りの人が私たちの想いを聞いた上でアドバイスをくれたので、ほんまにいい経験になったと思います。
碩奈緒(B):今回、いい意味でアイビーカラーらしい曲が1曲もなくて。アレンジャーさんに入ってもらったこともあるんですけど、それ以外の曲もアイビーカラーの曲をジャンルに分けていったら、どの曲とも被らない曲ばっかりやなと思ってます。今までの曲ももちろん好きなんですけど、今回のアルバムを作って、「自分はこういう曲が好きなんやな」ということに気づきました。ちょっとダークな曲やったり、大人っぽい曲もあって、ハッピーすぎる曲よりはそういう曲のほうが好きなんかな?って、アルバムができて思いました。
今は良くも悪くもまだインディーズなので、いろんなことができる期間やと思ってます
アイビーカラー
――佐竹くんも「今までのアイビーカラーにはなかったような曲を作ろう」という意識はあった?
佐竹:そうですね。僕らは「青春で、爽やかで、キラキラしてる」とか、明るめの、陽のイメージをよく言っていただくことが多かったんですよ。ファンの方からも、メディアの方からも。ただ自分が歌詞を書く上で、の面だけでは絶対ないし、陰の部分もあるし「L」みたいなドギツイのも好きなので。「いろんな面を見せたい」という想いはアルバムを作っていくにつれて、どんどん強まっていった感じはあります。
酒田:もともと、「春風/L」というシングルを出した時から、今までと違う路線の曲を作ってみようという気持ちがあったので。今回の『WHITE』はさらにいろんな幅を見せれて、どれもアイビーカラーに必要な曲だったのかなと思います。
――その変化はどこから来たんだろう。単純に、自分たちが音楽的にもっと進化したいと思ったのか、それとももっとたくさんの人にアイビーカラーを知ってもらうために、外側に向けて変化を選択したのか。内側と外側とどっちの意識が強いですか。
佐竹:どっちかというと、僕は内側かな。アイビーカラーのイメージを、いい意味でぶち壊したかったというか「こういうのも行けるねんで」みたいな…あ、でもそういう意味では知ってもらいたいことになるのか。「L」もそうだし、「カフェ」みたいに音が軽めの曲も今までなかったので。もうアルバム3枚、シングルも1枚出してるんでそういう意識に行った感じですね。
――そろそろ次のステージに行こう、と。
佐竹:そうですね。今は良くも悪くもまだインディーズなので、いろんなことができる期間やと思ってます。たくさん引き出しはあったほうがいいだろう、という思いはありました。
――明らかにもう一つ上のステージを意識したチャレンジだと思います。東京で録った曲について聞きますけども「東京、消えた月」はタイトルからして東京だし、この歌詞は東京で書いたもの?
佐竹:書いたのは、大阪の実家です(笑)。TONIGHT RECORDSの社長の長尾さんが、「タイトルに東京がつく曲は名曲になるよ」という、アホみたいな意見なんですけど。
酒田:「東京は売れる」と(笑)。
佐竹:よくそう言うんですよ(笑)。でも確かに、同じ事務所に所属しているバンドも、他のバンドも「東京」とつく曲は多くて、それがMVになったり、お客さんの間に根付いていることが多くて。東京というワードはすごくキャッチ―なのかな?と思って、一応メモに残してたんですよ。歌詞を書こうと思った時に、そのメモを見つけて、じゃあこれで書いてみようかなという感じですね。だから実体験というよりは、東京を舞台にした歌詞を、自分なりのやり方で書かせてもらいました。曲の雰囲気はこうだろうなとか、こういうピアノの付け方がいいなとか、一番イメージは湧きやすかったです。アルバムの中で。
――何かキーワードがあったほうが書きやすいのかもしれない。
佐竹:そうですね。メロディもそうなんですけど、歌詞にもキャッチ―さというものがあると思っていて、「東京」を入れたことは正解やったなと思ってます。
――もう1曲、最新のミュージックビデオにもなった「冬のあとがき」については?
佐竹:これは一番苦労しました。AメロBメロを2パターン作って、どっちでもええなという感じやったんですよ。それでアレンジャーさんに投げる前に…。
碩:メンバー、マネージャーさん、ディレクターさん、いろんな人に多数決を取って「どれがいい?」みたいな。
佐竹:サビも8パターンぐらい作りました。それを自分では判断してはいけないと思って、初見の人のインスピレーションを絶対大事にするために、みんなに聞いて一番多かったものにさせてもらったんですけど。メロディに関しては意見をいただけるのはほんまにありがたかったです。どうしても主観ばかりになってしまうので。今思い返してもこのメロディで良かったなと思います。
言われてうっとうしいな、と思う人もいるかもしれないですけど
アイビーカラー
――碩さん。アルバムの中で私の一推し曲、どれですか。
碩:えー、なんやろ? ムズイ。でも「冬のあとがき」かな。
――それはどういうところが?
碩:アレンジャーさんに入ってもらって出来上がったものがめちゃ好みだったのと。ベースとコーラスに関して「もっとこうやって弾いてみたら?」とか、「こんなふうに歌ってみて」とか、細かく言っていただいたので。
酒田:コーラス、めちゃめちゃ言われたな。
碩:言われてうっとうしいな、と思う人もいるかもしれないですけど、私はありがたいなと思ったし自分やったら絶対こうせえへんなと思うことを言っていただいたので、その分自分の引き出しも増えたし。そういうこともあって「冬のあとがき」が一番好きです。
――なるほど。川口さんは一番思い入れがある曲というと?
川口:思いはそれぞれあるんですけど、個人的推し曲で言うと「カフェ」ですかね。最初に歌ができて、コードが来て、「どうしたらいいねん」って思ったんですよ。
佐竹:ごめんな、なんか(笑)。そんな風に思ってたんや。
川口:「これ、鍵盤要る?」みたいに思ってて、イメージができなかったので。避け続けて、レコーディングの2週間前ぐらいまで手をつけられなくて。これはほんまにやらないとヤバイと思って、やりだしたら、一気にスイッチが入って、そこからは楽しく作れました。あんまりアイビーっぽくない曲じゃないですか。
――そうですね。
川口:思ったのは、アイビーって体に良さそうな感じの音やなと自分では思ってるんですけど、「カフェ」は体に悪そうな音にしたいなというイメージがあったので。
――体に悪そうな音…。
酒田:彩恵ちゃんは、感性が変なんです(笑)。
川口:何て言ったらいいんだろう? 今までの「ザ・爽やか」とは違うかな?と思っていて、こういうアイビーカラーを知ってほしいなと思いました。
佐竹:「体に悪そうな音」はマジで意味わからんけど(笑)。でも何か、裏切ってほしいなとは思っていたのですごい良かったです。
でも歌詞よく考えたらおもろいよな。「もう二度と話してこないでね」とか
アイビーカラー
――「カフェ」って歌詞が短編小説みたいで、片思いの主人公がいて時間の経過があるじゃないですか。で、最後のフレーズでストーリーにオチがついて、苦みの効いた結末になるところで鍵盤のコード進行が急にメジャーからマイナーになる(笑)。あそこ、すごい好きです。
川口:ああ(笑)。あそこはヨシくんからの要望やったんです。
酒田:そうそう。音源やけど、ライブっぽい感じがやりたかったんです。スタジオでパッと言って、弾いたやつがすごい良くて、「じゃあこれで」って。僕ら、あんまりセッション形式で曲を作ることがないんですよ。でもこの曲の最後のところだけはセッションで終わりました。僕らにはないやり方だったと思います。
――他の曲で、そういうところあります? その場の思いつきでこうなったとかは。
酒田:これ以外にあったかな…。
――あそこは?「GIRLFRIEND」の最後にざわざわっていう人の声のノイズで終わるところは?あそこ、余韻があってすごく面白い。
酒田:あれはエンジニアさんがやってくれました。僕らはただのフェイドアウトで終わるつもりだったんですけど、レコーディングとミックスのエンジニアさんが別の人で、データを送った時に何も言うのを忘れてたんですよ。返って来たらこういう感じになってました。曲を客観的に聞いて「学校の音を入れたらいいかと思った」って。
――ああそうか。あれは、放課後のざわめきみたいなイメージ。
酒田:そうですそうです。「GIRLFRIEND」は、楽曲的に、いろんな年代の人に刺さる曲かなと僕は思っていて、最初はラジオっぽい感じ、カセットテープっぽい音で始まって年代が上めの人にも刺さるかな?というのもありつつ、最後のほうは放課後にイヤホンをして聴いてて、だんだん教室の音が聴こえてくるみたいな。僕はこれを聴いて懐かしく思ったんですよ。僕ぐらいの年齢の人にも刺さるだろうし、もっと若い人にも刺さるだろうし、そういう曲になったかなと思います。「GIRLFRIEND」は、惇君がめちゃめちゃ気に入ってるもんな。
佐竹:僕の個人的推し曲で言うたら「GIRLFRIEND」が好きです。
――これはすごくいい曲。ポップでメロディアスで、切なくて。
川口:でも歌詞よく考えたらおもろいよな。「もう二度と話してこないでね」とか。
佐竹:そう。無茶苦茶やねん、主人公が。
――女々しさとわがままが全開の、極私的な恋愛ソングとでも言いますか。
佐竹:付き合うべき男ではないですね(笑)。でも、なんか好き放題書いたらそうなりました。
――そこがリアルでいいなあと思うんですね。だって恋愛って、理性じゃ測れないし、すごくわがままなものじゃないですか。
佐竹:確かに。「冬のあとがき」もそうなんですけど、Aメロは「まあ、そんなこともあったね。寂しかったけど、でも今はもう平気だよ」って、ちょっと微笑んでる感じなんですけど、大サビでは「戻ってきてくれー」って大暴れしてる(笑)。「冬のあとがき」は、男性目線の曲なんですけど、歌詞を追っていくと、情緒が無茶苦茶で。でも大サビの、感情が暴れているところはメロディも演奏も一番強いものがバン!と出るところで、歌詞と演奏の雰囲気が合っていて、めっちゃいいなあと思います。
――理屈じゃないエモさが、「冬のあとがき」や「GIRLFRIEND」には強く出ている。
佐竹:そうなんです。起承転結とか、あんまり考えずに行った感じです。
4人とも多分ちょっとひねくれてるんやと思う。
アイビーカラー
――こういう曲の主人公って自分なんですか。それともフィクション?
佐竹:うーん、実体験を書いた歌詞ではないんですけど、でも俺が書いてるし俺が思ってる部分も絶対にあるんやと思います。歌詞を書いてから「俺、こんなこと思うんや」と気づくこともあるし、だから面白いですね。
川口:私は惇くんの歌詞の主人公は、惇くんとはあんまり思ってなくて。勝手にいつも想像してます。
酒田:結構別人やと思いますね。
――作家なんでしょうね。物語を作る人。日記じゃなくて。
佐竹:どっちかというとそっちの人です。
――しかも、ハッピーエンドが全然ない作家。だいたい悲恋で終わる。
佐竹:ああー。「夏空」ぐらいですかね、ちょっとハッピーなのは。
酒田:確かにそう考えると、そうやな。
碩:やから(私は)好きなんだと思う。
佐竹:4人とも多分ちょっとひねくれてるんやと思う。
酒田:映画とかでも、人が死んでなんぼ、みたいな。
――そういう話?(笑)
碩:たとえばアイビーカラーの曲やったら「short hair」とかハッピーでしかない曲もあって、そういう曲調は好きなんですけど、ハッピーエンドじゃない曲のほうが感情移入しやすい。
――なるほど。そういう音楽が好きな方にはぜひアイビーカラーをお勧めしたい。
佐竹:ぜひとも聴いてほしいですね。
――そしてアルバムタイトルが、『WHITE』になりました。これは?
佐竹:今回のアルバムは、「冬のあとがき」を軸に制作を進めていったので。♪真っ白になった降り積もる雪のようだ、という歌詞があるのでそこから取りました。
――いろんな想像が乗せられますよね。真っ白だから、聴いた人がどんな感情も乗せられる。色が付く前かもしれないし、全部を白く塗りつぶしたあとかもしれない。
佐竹:そうですね。
――これはアイビーカラーが次のステップに向かうための、大切な大きな意味を持つアルバムになると思います。
佐竹:本当に、関わってくれた人の人数も多いし、しっかり跳ねさせるというか、このアルバムで結果を出したいと思います。毎年それは言うてるんですけど、今年はコロナもあったんで、特に。ここが踏ん張り時というか、ここで絶対にもうワンステップ上に行かないといけないなと思うので。チーム一同、そういう認識があって、これだけ力を入れてくれたと思うのでしっかり期待に応えたいですね。
――期待してます。ありがとうございました。
酒田:僕だけ推し曲聞かれてないですね。
――しまった(笑)。じゃあ最後にヨシくん、どうぞ。
酒田:みんなにかぶせないで言うと「L」なんですけど。でも、推し曲ではないんです。一番苦戦したのが「東京、消えた月」でした。
佐竹:速い、言うてたな。でもそうでもないぞ(笑)。バンドとしては。
酒田:そうなんだけど(笑)。何て言ったらいいんやろ?
川口:アイビーっぽいドラムじゃないから。
酒田:そうなんですよ。僕、前に所属してたバンドを抜けてアイビーカラーに入った時にめちゃめちゃ苦戦したんですけど。
佐竹:前のバンドの曲は速かったんですよ。ラウド寄りの。
酒田:今回、昔を思い出す感じがありました。アイビーカラーの曲ってめっちゃ繊細なんですよ。曲のところどころでタッチを変えて緩急をつける、みたいな。でも「東京、消えた月」はずっと100%という感じなので、体力的とかじゃなくて思考回路的に苦戦しました。「L」も速いですけど、僕の中ではまた違うんですよ。「東京、消えた月」は歌も聴かせつつ、メロディをきれいに聴かせつつ、ロック調で、気持ちは100%で行くみたいな。ニュアンスを作り出すのが難しくてという感じです。
――それぞれが、それぞれのハードルを越えて出来たアルバム。まとめるとそういうことですかね。
酒田:そうですね。これでみんな推し曲バラバラで言えたな(笑)。
取材・文=宮本英夫 Photo by 菊池貴裕