『FM802弾き語り部-リベンジ編♪-』テレン松本大、9mm菅原卓郎、TOSHI-LOWによる名演再び、激動の1年の最後に見出した音楽の力
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『FM802弾き語り部-リベンジ編♪-』
『FM802弾き語り部-リベンジ編♪-』2020.11.24(TUE)心斎橋BIGCAT
アコースティックライブイベント『FM802弾き語り部-リベンジ編♪-』が、11月24日に心斎橋BIGCATにて開催された。
2020年のFM802弾き語り部は、コロナ禍の打開策として始まった配信ライブシリーズ『#オンラインライブハウス_仮』とのコラボレーションを重ね、7月には有観客での観覧と配信による視聴のハイブリッド公演がついに実現。そして、第5回目にして2020年を締めくくったこの日は、6月の『FM802弾き語り部 リモート編♪vol.3』にて共演した松本大(LAMP IN TERREN)、菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)、TOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)が再集結。あの日の終演間際にTOSHI-LOWが、「今年中にこの企画やらない? このメンツで。今日、日程を決めよう!」と投げ掛けた言葉が見事に具現化した1日となった。
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舞台へと現れた司会のFM802DJ樋口大喜も、観客からの大きな拍手に迎えられ心底うれしそうな表情で、続いてFM802弾き語り部・部長の松本がステージへ。「今日は笑い多めで」という先輩方からの地獄のミッションを授かった松本だったが、「今日は年功序列です(笑)、よろしくお願いします」とリラックスした表情で歌い出すや、一気に楽曲の世界に引きずり込まれる。コロナ禍に制作された最新アルバム『FRAGILE』で大躍進を遂げたLAMP IN TERRENは、つい2日前に同会場でリリースツアーの大阪ワンマンを行っており、そこでは4人の力強いバンドサウンドで鳴らされた「ワーカホリック」が、その吐息までもが表現であるかのような優しい静寂の中に沁み渡っていく。
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当日は配信とのハイブリッド公演ということでステージ前にはカメラも設置され、至近距離からそのパフォーマンスを画面の向こうにも届けていく。ピアノの前へと移動し、まるで彼の自室で歌っているかのような穏やかさで始まったのは「花と詩人」。連日のリリースツアーの合間を縫ったハードスケジュールでの出演となった松本だったが、時にかすれるその歌声が逆に楽曲にドラマと説得力を持たせるようなプラス効果を醸し出していたのは、いやはやケガの功名というか、松本のステージマンとしてのタフさを感じさせる。続く「ベランダ」も『FRAGILE』からの楽曲で、コロナ禍で今までのように盛り上がるライブができないことを想定して書かれた楽曲群だけに、アコースティック公演ではまさに効果てきめん。胸にするりと忍び込んでくる言葉の数々と、松本の切ない歌声に包み込まれるような感覚は、一夜限りの思わぬスペシャルだったかもしれない。
「LAMP IN TERRENが大阪で一番ライブをやっているのって多分BIGCATなんですよ。完全にホームみたいな気持ちになってきて、すごくありがたいしうれしいです。FM802弾き語り部はもう3年ぐらいやっていて、TOSHI-LOWさんと(菅原)卓郎さんに関しては、良き先輩に恵まれたなと思ってすごく信頼しているというか……今日は別に部長という感じじゃなくて、ただ後輩として楽しみにしていました。今日の出順は、肩の荷を早く下ろしたいので僕が決めたんですけど(笑)。あと、僕は大阪で弾き語りをすることがめっちゃ多いので、今日限りでこのギターをFM802に贈呈することにしました(笑)」
部長の松本から思いがけないサプライズもありながら、引き続き想いを語っていく。
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「ライブ会場に足を運んだりするのって、すごく大変な時期だと思うんです。だけど僕らは歌うのが仕事で、それで生活をしているので、止まっていたら生きてはいけない。ミュージシャンでい続けることって難しいなって最近は思うんです。衣食住が成立していないと音楽は成し得ないと思うので、もしかしたら必要ないことなのかな、なんて思ったりもして。自分たちがやっていることに価値を見出せるのは何だろうと考えたとき、僕はこの世界で音楽を選んだだけのちっぽけな人間ですけど、自分の生活とか日々のことを音楽にして届けていけば……多分、音楽って人がやっていることに価値があると思うんです。だから、自分はその価値を守っていきたいなと強く思いました。そのような気持ちを込めて最後に歌わせてもらいます」
人の心を動かす、これだという曲が生涯に1曲でも書けたなら――もしかしたらその人生で音楽を選んだ意味があるのかもしれない。松本が最後に歌い上げた「いつものこと」は、紛れもなくそんなアーカイブに名を連ねる名曲。大きなステージの真ん中でちょこんと椅子に腰をかけ、ただ一身に降り注ぐ光を浴びて想いをメロディに乗せていく彼の姿は、音楽が不要不急のものではないことを如実に物語っていた。
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ライブを終えたばかりの松本の元へ樋口が合流し、「ここからはもう大波乱です、ヒヤヒヤしています(笑)」とバトンをつないだのは、二番手の9mm Parabellum Bulletの菅原卓郎。真紅の照明に照らされゆっくりとギターをかき鳴らせば、自ずとクラップが沸き立つ1曲目は「ハートに火をつけて」。文句のつけようがない余裕と貫禄の漂うパフォーマンスで、ステージ上のランプに灯った光が頬を照らした「The World」でも、アーティストの部屋をのぞき見しているようなFM802弾き語り部ならではのアットホームさと、ギター1本でもビンビン伝わってくるすごみと経験値に酔いしれる。ただ、樋口の懸念通り、そうは問屋が卸さなかった!?(笑)
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その言葉通りの頼もしいクラップに支えられたアンセム「Black Market Blues」を歌っていると、ステージ脇から満を持して鬼=TOSHI-LOWが登場!(笑) 前回の共演時さながら菅原の背中に歌詞を貼りつけ、とんでもない存在感でユニゾンするTOSHI-LOW。菅原と目を合わせようとすると歌詞が見えなくなるジレンマにも会場は大いに沸き、「途中から1人で歌っている気がしないなと思ったら、歌詞を完全に暗記してくれてありがとうございます(笑)」と語った菅原との茶番も最高に楽しい。
「一番最初にFM802弾き語り部に出たときは中島みゆきさんの「糸」を歌ったんだけど、そのときも本当に何の打ち合わせもしていなかったのに、<縦の糸はあなた>と歌っていたら、「あなた~」と(TOSHI-LOWがハモる)声が聴こえてきて(笑)。じゃあこの勢いでもう1曲、9mmが15年かかって応援歌を作ったんで聴いてください」
コロナ禍でより真に迫るメッセージをはらんだ楽曲となった「名もなきヒーロー」にくぎ付けになるオーディエンス。これには演奏後に大きな拍手が巻き起こる。
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「(松本)大がさっき、この状況で音楽をやる理由を話していましたけど、音楽ってキャッチしてくれる人たちにとって特別なものじゃなかったら、やっている方は何も意味はないから。けど、意味はないけど素晴らしいものだと俺は思います。特別な意味がなくていいものというか。世の中、意味だらけになっちゃって、お金だとか美しさの価値とかいろいろありますけど……逆に音楽がそういう意味から解放される場所かもしれない。今はライブをあんまりできないけど、音楽の力はちゃんと強まっていると思っているので。みんなもそう思って自分の好きなアーティストを応援してもらえたらいいなと思います。音楽が好きな我々は気長にいきましょう。次の曲で最後なんですけど、自粛期間中に歌詞を書いていて、何を書いたらいいんだよ、どんな前向きなことを歌えばいいんだよと思っていましたけど……そのままの気持ちを書こうと思って。9mmでは珍しく素直なんだけどね」
その唯一無二のしなやかな歌声で何度も<君に会いに行くよ>と繰り返した最後の「白夜の日々」まで、その音楽家としての魅力と覚悟を存分に感じさせてくれた菅原のライブだった。
樋口と松本によるアフタートークでは、「(菅原に)自分のステージに触れてもらって幸せです」と松本。2人が伝説の先輩の出番を前に戦々恐々とつないでいると、「進行がグダグダだよね、FM802の精いっぱいってそういうこと?」と、いきなりトップギアで場の空気を掌握するTOSHI-LOW(笑)。さらには、「お前もギターを弾いて歌うならやるよ。部長の腕の見せどころだよ」と松本にすさまじいむちゃ振りをする鬼。「一緒にやったことはある曲だからやれるとは思うよ? 大がスベッたら=俺もスベッたみたいになるから頼むよ? 何か……緊張してきちゃった(笑)。部長を信じてやるか」と、この文章の何倍も長い前説を経て(笑)ついにライブがスタート。
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まずはBRAHMANの「今夜」を、松本がギターとハモリ、TOSHI-LOWが歌とハーモニカという豪華共演でお届け。極めてミニマムな編成ながら、その感動はマキシマム。2人でそっと言葉を重ね合わせていくさまにしょっぱなから胸が熱くなる。「何だろうね、めっちゃ素敵な曲になっちゃった」とTOSHI-LOWが言うのも納得の出来で、ここでは書けない内容のMCをたくさん話しつつ(笑)、「もちろん大もよかったけど、思い出しちゃう人がいて」と、盟友・the HIATUSの「西門の昧爽」のカバーでは、夕景のようなオレンジの照明に照らされ、ひときわエモーショナルに歌い上げる。
「大も卓郎も饒舌にしゃべるタイプじゃないけど、自分の言葉でコロナ禍でライブをやること、音楽をやること、そんな中でも見に来てくれる人に感謝することとか……ああやって一生懸命伝えているのを見るとグッときちゃうわけよ。生きていく中で例えば、昔は昔でコロナがなくても戦争があったり、生きる時代は選べないし、どの時代に生きていても大変なんだよね。でも、大変なときに何をするのか、何を大事に生きていくのか、それを選ぶのが自分たちにできることだから。そういうことって先人たちが曲に答えをちゃんと入れてくれているんだなぁと、コロナになってから余計にグッとくる曲があって。元々この曲はフランスで作られて、日本では金子由香利というシャンソン歌手が歌うようになったんだけど、本当にコロナにおける答えが全部詰まっていると思います」
昭和の名カバーとも言うべき「時は過ぎてゆく」を、ステージにポツンと佇み、ただ歌う。それだけで伝わる音楽の力と、TOSHI-LOWのさすがの選曲=メッセージには毎回唸らざるを得ない。
ここで、「弾き語りをやるようになって、フットワークが軽くなったんですよ。舐められたくないとか、バンドの看板を背負っている気持ちじゃなくて、どうせ一緒にいるなら一緒に歌おうよという気持ちが生まれたのは、弾き語りをやったからだと思う」と菅原を呼び込み、家族のことから他愛ない話までを和気あいあいと語る光景は、本当に良い先輩と後輩という佇まいで、「卓郎の優しい声で一緒に歌ってほしいなと思って。OAUというバンドで、子どもたちを見送るような気持ちというか、そんな風景を歌っている曲です」と奏でたのは「帰り道」。2本のギターと歌声だけで、なぜこんなにも胸を打つのか。その大きくもあたたかい歌声が響き合う何とも贅沢な景色は、照明の色彩も相まって本当に夕暮れどきのそれを彷彿とさせる。「何か俺より声質が合っている気がする。良い部員に囲まれております」ともはや裏部長のようなTOSHI-LOW(笑)。そして、話題はもう10年も前になる東日本大震災の話へ。そこにあった現実から目をそらさず、き
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ちんとオーディエンスに伝えていく。
「ああ俺、この街にもう1回来たいな。この街が立ち直って、また家が建って、今までみたいになったら、ギター1本持って、歌いに来たい。多分それが、一番初めに弾き語りをやってみようと思った原動力になった、俺の心の原風景です。そして、この歌から、自分の弾き語り人生は始まっていきます。阪神大震災から受け継いだ大事な曲だと思うし、この歌が俺に弾き語りをやれと教えたんだと思う。コロナの中、生きていればまだまだいろんな大変なことが起きると思う。でも、そのときは俺たちがギターを持って歌いに行きますんで、どうぞ頑張って耐え抜いてください」
上っ面をなでるような優しさではなく、痛みを知った上でそれでも優しくいられるか。ミュージシャンとしてはもとより、人としての姿勢に凛とする。TOSHI-LOWが事あるごとに歌い継いできた名曲「満月の夕」が胸を揺さぶる。時にマイクを離れ、生声で歌を届けるTOSHI-LOW。BIGCATに集った人々、それぞれの生活の中で画面の前から見つめる人々。全ての人に深い感動とぬくもりをもたらしたラストシーンとなった。
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セッションタイムでは、クリスマス風の扮装をした3人が「赤鼻のトナカイ」を不安げにやり遂げ(笑)、「一応、アンコールでやる曲のリクエストを募ったんですけど、リベンジ編ということもあって、この前と同じ曲をやろうかなと」(松本)、「この曲は皆さん知っているけど、歌うと難しいよね。改めて坂本九ってすごかったんだなって」(TOSHI-LOW)と、最後は昭和の名曲「見上げてごらん夜の星を」を全員で披露。松本のピアノにいざなわれ、異なる魅力の三声が寄り添い溶け合っていく極上のセッションは、コロナ禍にリモート編として開催されてきた2020年のFM802弾き語り部が、少しずつ現場を取り戻したのと同様、見る者の心に希望を灯した素晴らしいエンディングとなった。
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取材・文=奥“ボウイ”昌史 撮影=FM802提供(渡邉一生)
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