「だかいち」の劇中劇が新たな局面を迎える 舞台『紅葉鬼』~童子奇譚~ゲネプロレポート
©DO1 PROJECT/舞台「紅葉鬼」製作委員会
原作コミックスはシリーズ累計発行部数350万部を突破。2018年に放送されたTVアニメも好評を博した「抱かれたい男 1 位に脅されています。」(月刊マガジンビーボーイ連載/リブレ刊)。
2019年には、劇中劇の『紅葉鬼』が舞台化され、運命に翻弄される人間と鬼の儚くも美しい物語と、迫力あふれる演出が話題を呼んだ。その続編となる「舞台『紅葉鬼』~童子奇譚~」が、2021年1月8日(金)より日本青年館ホールにて開幕した。開幕に先駆けて行われたゲネプロの様子をお届けしよう。
人里離れた地で、先の戦いで亡くなった人と鬼の弔いを続ける経若(陳内将)。
世捨て人同然に暮らす彼のもとへ熊武(髙木俊)が訪ねてくる。
都を襲う茨木童子(梅津瑞樹)という鬼を止めるため力を貸して欲しい、とのことだがその頼みを断る経若。
ある日、そんな彼の前に小鬼が現れる。
父も母も亡くしたという小鬼におまんの面影を見てしまった経若は彼の面倒をみることに。
一方、京では大江山より茨木童子の襲撃が激しさを増していき、帝はその対策として摂津の国より渡辺綱(小坂涼太郎)を招き入れる。
朝廷や鬼たちの思惑がうごめく中、経若は再び戦禍に飲まれていく――
劇中劇ではあるものの、「だかいち」ファンはもちろん原作を知らない人も楽しめる作品となっている。また、前作の続きが描かれているが、世界観や話の流れは丁寧に説明されるため、本作から観ようとしている方もご安心を。
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見どころの一つである迫力ある殺陣は今回も健在。セットや演出の工夫により、ソーシャルディスタンスをうまく保ちつつ、勢いと熱さを損なうことなく魅せてくれる。
映像を駆使した陰陽道や風景の描写も美しく、『紅葉鬼』の世界観にあっという間に引き込まれるはずだ。
上手・下手ではドラムセットや鳴り物、ヴァイオリンの演奏も行われ、作品を大きく盛り上げている。
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冒頭では、どこかぎこちなさを残しつつ協力し合う人間と鬼の姿にホッとする一方、山奥で一人過ごす経若の物悲しい顔に胸が痛む。
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過去を振り返っている時の儚い佇まい、身寄りのない小鬼・いぶきに懐かれ、振り回されつつも楽しそうにする様子、再び戦いの渦に身を投じてからの凛々しく勇ましい姿と、経若の様々な表情を見られるのもポイントだろう。
全編を通してシリアスな雰囲気だが、経若といぶきの交流、陰陽師の保名とその弟子・行成のやりとりなど、和やかなシーンや思わず笑ってしまうシーンもあり、緩急が心地よい。
©DO1 PROJECT/舞台「紅葉鬼」製作委員会
本作においても、登場する人間や鬼一人ひとりに言い分や強い想いがあり、誰が正しく何が間違っているとは言い切れない複雑な人間模様が描かれている。その中で大きな存在感を放っているのが、圧倒的な強さで殺戮を行う茨木童子と、それに引けを取らない強さを持ちながら鬼を殺そうとしない渡辺綱の二人だ。
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両親を人間に殺された故の復讐心と、自分を拾い重用してくれた酒呑童子への忠誠心から大勢の人間を殺してきた茨木童子。
妻子を鬼に殺されながら、憎しみと悲しみの連鎖を断ち切るために殺さずの剣を貫き、対立する茨木童子のことをも救おうとする渡辺綱。
似た境遇にありながら真逆の道を歩む二人の存在は、今作のみならず『紅葉鬼』という作品全体のテーマに通じると言えるのではないだろうか。
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伝説で語られる彼らの物語を軸に独自の設定と解釈を加え、人間と鬼という二つの種族の共存や、人生への向き合い方について深く考えさせるストーリーに仕上げているのも心憎い。
前作から引き続き描かれる親子の愛と絆、平和への想いに胸を打たれると共に、因縁を断ち切り因習を変えることの難しさを改めて突きつけられたような気持ちになった。
人間でありながら鬼に与して暗躍する陰陽師・イクシマも、本作と今後の展開におけるキーパーソンの一人だろう。
立場や考えに違いはありながらも自分を貫くキャラクターたちの中で、一人腹の中を見せず、怪しい言動を繰り返すイクシマ。異彩を放つ彼の目的はなんなのか。
帝に支え、都を守る陰陽師・保名との因縁も含めて目が離せない。
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また、魅力的なキャラクターたちの背景や想いが明かされ、熱量たっぷりで迎えたクライマックスではある事実が明らかになる。本作を見終えた後は、早くも次回公演が待ち遠しくなることだろう。
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鬼と人が共に生きられる世界。
かつて帝と呉葉が望んだ世は、経若と繁貞の活躍により実現に向けて動き出した。
理想を叶えるまでの道のりは険しいが、物語が幸せな結末を迎えられることを祈るばかりだ。
本公演は1月8日(金)より1月14日(木)まで、日本青年館ホールにて行われる。
取材・文・撮影=吉田沙奈
公演情報
2021年1月8日(金)~14日(木)
日本青年館ホール