東京バレエ団×金森穣による新作『かぐや姫』世界初演が決定、2021年秋を彩る超話題作に注目
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(左から)金森穣 斎藤友佳理 (C)Yuji Namba
東京バレエ団が2021年11月6日(土)、7日(日)東京文化会館において、東京バレエ団×金森穣 新作『かぐや姫』世界初演を含むミックスプログラムを上演する。日本を代表する名門バレエ団と大物演出振付家が組む破格のプロジェクトだ。3月8日(月)、金森穣(振付家)、斎藤友佳理(東京バレエ団芸術監督)が出席した記者会見が行われた。
■日本人の才能豊かな振付家によるオリジナル作品を!
冒頭、斎藤が金森に新作を委嘱した経緯や公演の企画意図を説明した。
斎藤は2015年に芸術監督就任後、ロシア仕込みの確かな指導力により古典作品に注力すると同時に創設者の佐々木忠次がモーリス・ベジャール、ジョン・ノイマイヤー、イリ・キリアンという「時代のトップの振付家」にオリジナル作品を委嘱した歴史を思い返し、「佐々木さんの思いをどうやって継いでいけるのかを常に考えていた」という。また海外公演時に「なぜ日本人の作品がないのか?」と問われる機会が多かったと話す。そこで日本人の才能豊かな振付家に依頼しようと考え、2019年の勅使川原三郎(『雲のなごり』)に次いで金森に作品委嘱した。
金森穣 (C)Yuji Namba
金森は演出振付家、舞踊家。りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館舞踊部門芸術監督、Noism Company Niigata(Noism)芸術監督。17歳で単身渡欧しベジャールなどに師事した。ベジャールが創設したルードラ・ベジャール・ローザンヌ在学中から創作を始め、10年間にわたり欧州の著名舞踊団で舞踊家、演出振付家として活躍。2002年に帰国し、2004年には日本初となる公共劇場専属舞踊団Noismを立ち上げ、新潟市を拠点に国内外で精力的に活動する。
斎藤が金森を意識したのはNoism設立時。新潟で公共劇場専属のプロのダンスカンパニーができたことに大きな勇気をもらったという。また、行政に舞踊団の活動を理解してもらえることについて「凄い才能の方なんだという気持ちで遠くから見ていました」と話す。
新作の題材は話し合いを重ね『かぐや姫』に決定。東京バレエ団は1978年にアレクセイ・ワルラーモフの振付で同名の全3幕のオリジナル作品を創り、ボリショイ劇場でも上演した。ワルラーモフは、ソ連から東京バレエ団の前身である東京バレエ学校に派遣された名教師で、斎藤は幼い頃彼にバレエを始めるように勧められたという。ワルラーモフが遺した『かぐや姫』と、今回の『かぐや姫』に「もの凄く大きなつながりを感じた」と語る。
斎藤友佳理 (C)Yuji Namba
■「縁のある東京バレエ団での振付は、夢見心地」(金森)
続いて、金森が東京バレエ団に対し抱いていた印象と『かぐや姫』の構想を話した。
金森は東京バレエ団についてルードラに進む前から知っており、在籍時にベジャールが東京バレエ団のために創った『M』の初演(1993年)を日本で観ていた。また東京バレエ団がスイスを訪れた際、ベジャールが彼らを歓待するために自宅で催したパーティーにまだ学生だったが招かれたという。「ベジャールのところで学んでいる日本人として、東京バレエ団は近い心理的な距離にある舞踊団でした」と振り返るが、帰国後はさほど間を置かずNoismを創立したこともあって「私自身に振付の委嘱があるとはあまり想定はしていなかった」と明かす。
金森穣 (C)Yuji Namba
金森はNoismを立ち上げて以降、長らく外部の舞踊団に振付をしていない。委嘱があっても時間が取れなかったという。「17年経って初めてNoism外で振付をする舞踊団が東京バレエ団であることに縁を感じていますし、凄く楽しみにしていました。今日(リハーサルの)初日を迎えて夢見心地というか、ようやくここにたどり着いたなという感じがしました」と感慨深そうだ。
『かぐや姫』については、日本最古の物語として良く知られていること、師の一人であるキリアンが『輝夜姫』(1988年)を創っていることに触れながら、「私の方は物語に則ったNoismでいうところの劇的舞踊、全幕もののストーリー・バレエ」と明かす。さらに「女性のポワント(トウシューズ)の群舞あるいは男性のダイナミックな群舞といった東京バレエ団ならではのものを生かせる物語を探しました。台本がありますが、実際にどのように形になるのか私自身も楽しみにしています」と意欲を示す。
音楽は全編フランス印象派のクロード・ドビュッシー。「ドビュッシーって、光なんですよね。ヴィジュアルなイメージを喚起する音楽が多いし、実際に彼自身もそういうタイトルを付けた曲を発表している。「月の光」もそうですが、その他にも多くの光や映像あるいは水面のような、光のメタファーとしてのタイトルが付く音楽をたくさん創作していて、それらを聴けば聴くほど『かぐや姫』のあらゆるシーンにはまっていきました」と話す。管弦楽からピアノ曲までを用い、「海」や「亜麻色の髪の乙女」などバラエティに富んだ音楽構成になるという。
(左から)金森穣 斎藤友佳理 (C)Yuji Namba
■「歴史の中に残る作品を創りたい」(金森)
台本は金森が「竹取物語」を読み込んだ上で書いたオリジナル。「皆さんが知らない登場人物も登場し、その関係性もありますが、分かりやすいと思います。残る作品を創りたい。歴史の中に」と決意を語る。リハーサル初日には早速オーデイションを行った。「物語ものなので、自分の書いた台本、想定しているキャラクターの部分が大事。それを持ちつつ技術的にも優れている子たちをどう選ぶかという感じでした」と手ごたえを話す。
「和」のテイストのあるストーリー・バレエ、そこにドビュッシーを使うということで、どのような感じになるのかと聞かれると、金森は「和的なものに感受性的に惹かれるものがあり、そのことと『かぐや姫』を思い立ったのは無関係ではないですが」と断りつつ、「私にとっては初チャレンジ」と断言。「Noismが始まってから他のバレエ団に振付していないのもありますが、やっぱり東京「バレエ団」、「バレエ」なんですよ。バレエに対する最大限のリスペクトをもって作品を構成しています。もちろん自らの芸術性で挑むのですが、今までの作品の中で一番バレエ的かもしれない」「クラシック・バレエの系譜として、今、そしてこれから必ず残っていってほしいものとして創りたい」と重ねて述べた。
「和」なのか、SF的なのかと問われると、「SF的じゃないといったら嘘になりますよね。お話がSFですから」と話し、今回は全3幕の構想のうち第1幕を上演することを明かした上でこう語る。「私の全幕の『かぐや姫』は、かぐや姫という未知の世界から来た女の子の成長を通して、その周りに翁をはじめ童子という幼なじみ的な役がいるんですけれど、帝とか、右大臣とか、彼女に関わるすべての男性たちが、彼女によっていかに変わり、そのことによって彼女がいかに傷つき、この世を去るのかーー。そういった感じなんです。彼女の物語なのですが、彼女が来たこと、彼女と生きたことによって、関わる人たちが「この世の中とは?」とか、「私とは誰か?」とか、そういうことに気付いていく」。
かぐや姫像については「やんちゃ。でも凄く繊細。もの凄く美しくて、儚くて、凄く芯が強い。矛盾するあらゆる要素を一身に含んでいるような女性ですね。その魅力満載の、あらゆる要素を持っている女性に翻弄される男たち……男って、哀れなものですけれど」と話した。
金森穣 (C)Yuji Namba
■「共通の言語を持ち、直ぐに打ち解けた雰囲気を感じる」(斎藤)
斎藤が金森作品を初めて観たのは「NHKバレエの饗宴2012」での『solo for 2』(2012年)。その後、劇的舞踊『ラ・バヤデール―幻の国』(2016年)や『Liebestod-愛の死』(2017年)、『中国の不思議な役人』(2012年)、『FratresⅠ』(2019年)などNoismでの作品に接し、金森を「振付家でもあるけれど、いろいろなカラーを持つ魅力的な演出家」と評する。
いっぽうで、「今日のリハーサルで彼が見せてくれる踊りにカウントが付いていたからホッとしたといったのですが、共通の言語を持っていると感じました。クラシック・バレエが基にある。直ぐに打ち解けたような雰囲気を感じました」。そして「初めて話したのは随分前なんですけれど、自分が正直でいられる、思ったことをなんでも彼に伝えられる。それは凄く大切だと思うんです。全く形になっていない、ゼロからの作品を創るときには、信頼関係しか頼れるものはないと思うので、そこに凄く魅力を感じました」と話し、全幅の信頼を置いている様子。なお、金森のアシスタントとして、Noism副芸術監督の井関佐和子が就くことも明かされた。
斎藤は『かぐや姫』を「日本だけでなく、ヨーロッパに持っていったときに評価され、愛される作品になってほしい」と願う。金森は「普遍性が大事。もちろんヴィジュアルなどの世界観が「和」だったりはある程度すると思うんですけれど、ただ、そこで語られることや届けられるメッセージは普遍的にしたい。普遍性といったときに、女性と男性とか、親と子供とか、あるいは嫉妬とか死とか、そういう人間としてどこの国のどの民族、文化に属していても普遍的に抱えるであろう問いとか苦悩みたいなものを作品化したい。それが実現されれば、この作品は世界中どこに持っていっても人の心に訴えかけることができると信じています。もっというと現代社会の問題も盛り込みます。環境問題とか」と熱く語る。
斎藤友佳理 (C)Yuji Namba
■「一丸となり、バレエ界を盛り上げたい」(斎藤) 「今開いている可能性を満喫したい」(金森)
難しいのはスケジュール調整。斎藤は「何年も前からこの時期にやることが決まっていました。穣さんの新しい作品を衣裳や照明も含めて日本人スタッフでできるのは、本当にいいタイミングだと思ってます」と喜ぶ。そして「ここで一丸となって、バレエ界を盛り上げていけたら大きな意味があるんじゃないかな。図ったことではないんですよ。でも、今、(コロナ禍で)現実として海外から振付指導者も教師も来られない中で、新しく画期的です」と力が入る。
新潟発のNoismは創設15年を経て、新たな歩みを始めている。金森は「これからのNoismとして外部の振付家にもっと委嘱をしたり、地域のローカルな活動にもっと力を入れたり、過去の15年とは少し違う方向に舵を切ろうとしているときに、私自身も芸術監督であると同時に一人の芸術家として、自らの芸術的可能性を追求していきたい。そのことがNoismにとってもプラスになるような未来がとれなければ苦しくなるというか、厳しくなる」と覚悟を語る。とはいえ「今こうして東京バレエ団に振付を始めたことが何よりもうれしいし、今開いている可能性を満喫したい。そこに飛び込みたい」とやる気十分だ。
斎藤は11月公演の先の展開も見据える。「次を早く観たくて仕方ない状態で終わるんです。第2幕と第3幕をお見せするのに間が空くと、お客さんがかわいそう」「コロナのことで、いろいろスケジュール的に変わってきています。だから導かれるように任せていきましょうと。一つの方向性、夢が全3幕(の上演)なんです。凄く楽しみにしています」。
金森は初日のオーディション時から早速ダンサーたちに動いてもらい一部振付も行ったという。滑り出しは快調、先々も楽しみだが、まずは2021年11月の公演を首を長くして待ちたい。
(左から)金森穣 斎藤友佳理 (C)Yuji Namba
取材・文=高橋森彦
公演情報
■会場:東京文化会館
作品名:『かぐや姫』
音楽:クロード・ドビュッシー
※他振付家の作品を含む、ミックスプロとして上演