森山未來と一緒に、アートに出会う『MEET YOUR ART』【ネット DE アート 第18館】
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ネット DE アート 第18館:MEET YOUR ART
インターネットで楽しめるアートのコンテンツを紹介するこのコラム。今回紹介するYouTubeチャンネル『MEET YOUR ART』は、美術館やギャラリーのコンテンツではありません。アーティストの想いを引き出し、アートファンの背中を押してくれる。アートについて学ぶことができ、これまで知らなかった現代アートに出会えるチャンネルです。
番組の推進力となるのはMCの森山未來さん。愛ある教養番組としても楽しめる『MEET YOUR ART』は、アートに興味がある方なら、ちょっとイイ時間を過ごせること間違いなしのコンテンツではないでしょうか。
MCを務める森山未來(オフィシャル提供)
センスの塊のようなMC
『MEET YOUR ART』は「森山未來×スペシャル対談」「世界一わかりやすいアート講座」「今週のPICK UPアーティスト」の3つの軸で成り立っています。それらを組み合わせることで、アートとユーザーとの橋渡しになるメディアを目指しているのだそう。
アート専門番組【MEET YOUR ART】とは?
MCの森山未來さんは、俳優だけでなくダンサーとしても多岐にわたって活躍するアーティスト。彫刻家の名和晃平氏とベルギーの振付家ダミアン・ジャレ氏との協働によるパフォーマンス作品『VESSEL』に出演して国内外を巡るなど、アートの現場に近いところにいる表現者です。
【今週のPICK UP アーティスト】工藤麻紀子 × 森山未來(YouTubeより) 自分自身の感想をしっかり伝える勇敢なMCが心地いい
“やらされてる感”が全く無く、毎回キレのいい質問でアーティストの話を掘り下げていく森山未來さん。本当にアートが好きで、出会いを自身の糧にしようとしているのだと見て取れます。隣では小池藍さん(アート・投資の専門家)がナビゲーターとしてアシスタントを務め、番組に華を添えます。
アート脳が活性化する濃厚トーク
3つの軸のうちのひとつ「森山未來×スペシャル対談」は、その名の通りMCがゲストアーティストと対談し、作品や世界観について深めていく番組です。記念すべき第一回目はゲストに彫刻家・名和晃平氏(ガラスビーズで覆われた鹿の彫刻でおなじみ!)を迎えた、約45分のロングインタビュー。正直言って、このインパクトにはびっくり! まるで美術館での大規模個展の映像コーナーで流れるような濃い内容で、作品テーマや技法、制作当時の背景を細やかに知ることができます。
【スペシャル対談】森山未來 × 彫刻家『名和晃平』#1
【スペシャル対談】森山未來 × 彫刻家『名和晃平』#2(YouTubeより)
名和氏と森山MCが旧知の仲ということもあり、和やかかつテンポよく展開する対談。ぜひ時間のあるときに#1〜#5まとめて鑑賞したいコンテンツです。ほか、現代芸術家・宮島達男氏をゲストに迎えて森美術館ロケを行なっている回も見逃せません。
【スペシャル対談】森山未來 × 現代美術家『宮島達男』
森山MCのアートに関する知識や鑑賞経験が豊富なので、アーティストとの話が弾むとふいに専門的になったり、形而上学的発想に飛んでいったりと、動画を見ていてハッとすることも。またそれがカッコつけているわけではなく、そのとき心から出てきた単語や表現だとなんとなく分かるので嫌味がなく、見ている方も素直に(どういう意味だろう……ググろう!)と引っ張り上げられてしまいます。
アートの守護者、かく語りき
ふたつめは、「世界一わかりやすいアート講座」。この軸で注目すべきは、第一線で活躍しているキュレーターやギャラリストをゲストに迎え、アートの守護者によるトークが聞ける“神回”がある! という点です。
【アート講座】南條史生氏インタビュー
森美術館特別顧問の南條史生氏へのインタビューでは、「そもそもキュレーターって何ですか?」「キュレーターの人ってどうやったら会えるんですか?」と痒い所に手が届く質問を連発するMC陣。ユーモアを交えながら真摯に答える南條氏も素敵です。話題はやがて、近年の展覧会の撮影OK・SNS解禁についてどう考えるか、という点に及びます(アート好きなら気になる方が多いのでは!)。現実に即して変容してきている美学、そしてこれからの新しい流れとは一体……? そんな見通しまで具体的に聞けるインタビューは必見です。
【アート講座】南條史生氏インタビュー(YouTubeより) 「最近のなんでもアートって言う風潮については?」「えー……やりすぎだな(笑)」
ギャラリスト・小山登美夫氏の登場回もまた、目からウロコがぽろぽろ落ちる“神回”です。小山氏の語るギャラリーの役割のひとつは「アートに価値をつけること」だと言います。社会的に交換可能な価値(金額)をつけることで、アートを作家個人のものから社会のものに変える。作品が購入されればそれが実績となり、購入した人とそのアーティストは、お互いの価値を保証し合う存在になる……そうか、ものを“買う”とはこういうことだったのか! と改めて腑に落ちる瞬間です。
【アート講座】小山登美夫氏インタビュー(YouTubeより) 「買ってくれた人が、そのアーティストの味方になってくれる」味方という表現に愛を感じる
小山氏のような、作り手の近くにいて、受け手との間に立つ存在がいるからこそ、私たちはアートをもっと好きになることができるんですね。作品販売者は、アートと社会をつなぐため必要不可欠な架け橋とも言えるわけです。
【アート講座】小山登美夫氏インタビュー(YouTubeより) 「買うかもしれないお客さんに対しては、作品についてスタッフから出てくる情報量が違う!」
ギャラリーでは気になる作品の価格を積極的に尋ねるべし、と力説する小山氏。ざっくばらんで、アート初心者にも親身なトークは聞き応え抜群です。
アーティストさんいらっしゃい!
3つめの軸は「今週のPICK UPアーティスト」、若手現代アーティストの紹介コーナーです。ここで取り上げられたアーティストの作品は特設Eコマースサイトで実際に購入できるので、いわばこの部分がショッピングパート。そして同時に、気鋭のアーティストについて「へー、こんな作家さんがいるのか」と気軽に知ることができる約10分でもあります。
【今週のPICK UP アーティスト】東慎也 × 森山未來(YouTubeより)
アーティストステートメントの読み上げ〜いくつかの作品の紹介〜そしてMCとの対談という流れで番組は進行します。週ごとに登場する彼ら・彼女らは、意外と親しみやすい野望を抱いていたり、個人的な思い出に拠っていたり、えらくテンションが低かったり、高かったり、そのキャラクターはじつに様々。緩急剛柔を使い分けた質問で、えいやっ! とその魅力に分け入っていくMCのパフォーマンスもお見事です。
【今週のPICK UP アーティスト】許寧(シュ・ニン) × 森山未來(YouTubeより)
ともすれば、何か発表するなら宣伝動画を発信するのが当たり前になりつつあるこの頃。作家自身がアートを魅力的に解説してくれるのを、受け手はついつい期待してしまいます。よく考えたら、言葉にはできないものを表現するために作品を生み出している面もあるでしょうに、なかなか作家にとっては苦労の多い時代(?)と言えるかもしれません。けれど、アーティストが自分の言葉をなんとか紡ぎだそうとしている姿は、とても誠実でグッと引き込まれてしまいます。
【今週のPICK UP アーティスト】長井朋子 × 森山未來(YouTubeより) 切実ゆえに率直な作家のコメント
何人かのアーティストが語っているように、画面越しに作品を鑑賞することはできても、魅力を伝えきることは難しいかもしれません。それでも、アーティストひとりひとりの創作への向き合いかた、見えている世界の一部は、動画でも意外と伝わってくるものです。はじめの取っ掛かりとして、なんだか気になる・もっと知りたい・応援したい! そう思える作家と出会うこともまた、『MEET YOUR ART』なのではないでしょうか。そしてその先に購入への扉を開けておいてもらえるのは、とても親切です。
手に入れたいアートに出会える、新しい取り組み
アート専門番組【MEET YOUR ART】とは?(YouTubeより)
コンセプトは「アートと出会う」。その言葉にぴったりの、アート発見番組『MEET YOUR ART』を紹介しました。なかなか敷居が高く感じてしまうアート購入ですが、この番組を見ているとアリかも! と実感させてくれるから不思議です。現代アートをもっと知って、好きになって、豊かな土壌(市場)の一部になれたら。前向きなエネルギーに満ちた提案が、ここにはあります。
文=小杉美香 画像=ホームページ引用、オフィシャル提供(一部)
サイト情報
【ネット DE アート】コラム連載中
「インターネットで体験できるアートプログラム」を紹介する【ネット DE アート】。
これまでの記事はこちらからご覧いただけます。
https://spice.eplus.jp/featured/0000143501/articles